特集ワイド:安倍首相の「後ろ向き」教育改革
毎日新聞 2013年02月12日 東京夕刊
安倍晋三首相肝煎りの「教育再生実行会議」(座長・鎌田薫早大総長)がスタートした。いじめ、体罰問題をはじめ、教育委員会制度や大学入試改革にも取り組む方針だ。「取り戻す」の安倍首相、教育でいったい何を取り戻そうとしているのか。2人の識者に話を聞いた。【小国綾子】
◇強い日本を志向した結果が戦争であり、エコノミックアニマルだった。同じ道を歩むのか。−−寺脇研・京都造形芸大教授
◇道徳名目に画一的な人物像押しつける。多様性、主体性を尊重しないと、社会の活力が生み出されない。−−本田由紀・東大教授
安倍首相は教育改革を「経済再生と並ぶ最重要課題」に挙げるほど、教育へのこだわりは強い。06年の第1次内閣時は発足1カ月後にトップダウンで教育再生会議を設置。「愛国心」条項を盛り込んだ改正教育基本法を成立させたほか、「ゆとり教育」脱却を進めた。会議では「学校週5日制」見直しや「徳育」の教科化などが話し合われたが、最終報告書提出前に首相が突然の辞任。多くの提言は実現しないままとなった。
だからだろう、安倍首相は今回復活させた会議の名称に「実行」の2文字を加えた。再チャレンジへの思いがにじむ。メンバーは作家の曽野綾子さん、八木秀次・高崎経済大教授ら保守系論客が目立つ。その初会合で、安倍首相は「強い日本を取り戻すため、教育再生は不可欠だ」とぶち上げた。
「強い日本」って何?
「『世界の一等国でありたい、それがダメでもせめてアジアで一番でいたい』ということでしょう。明治時代からの日本の願望です」。元文部科学省官僚の寺脇研・京都造形芸術大芸術学部教授はそう語る。「富国強兵時代、あるいは高度成長期の教育という印象です。けれど、世界の大国になろうとして無理をした結果が戦争であり、エコノミックアニマルだった。また同じ道を歩むのか」。「ゆとり教育」のスポークスマン、“ミスター文部省”と呼ばれた寺脇さんの目には時代錯誤と映る。
一方、東大の本田由紀教授(教育社会学)は「安倍首相が『取り戻し』たいのは、彼の思い描く『美しい国』。国民が皆、私の思うような人間になってくれればそうなるはずだ、という思い込みが、彼を教育再生へと駆り立てているように見えます」と批判する。
前回の教育再生会議は「道徳」から「徳育」への名称変更とともに、成績評価の対象とする教科化を提案したが、文科省内などに反発が強く実現しなかった。今回、安倍政権は、民主党政権の事業仕分けで予算が削られ、配布が取りやめられていた道徳の副教材「心のノート」を復活させるため、8億円を来年度予算案に盛り込んだ。