エネルギー政策:戦略的な脱原発と電力消費抑制を 日本の戦略、ドイツ識者に聞く

毎日新聞 2013年02月04日 東京朝刊

ドイツ連邦議会の有識者委員を務めた独ブッパタール気候環境エネルギー研究所前所長のペーター・へニッケ教授=東京都内で、奥山智己撮影
ドイツ連邦議会の有識者委員を務めた独ブッパタール気候環境エネルギー研究所前所長のペーター・へニッケ教授=東京都内で、奥山智己撮影

 ドイツは、東京電力福島第1原発事故を受けて、2022年までに国内の原発を全廃する方針だ。一方、日本は、安倍晋三首相が、民主党政権の「30年代原発ゼロ」方針について見直しを表明した。日本のエネルギー政策はどうあるべきか。ドイツ連邦議会の有識者委員を務めたブッパタール気候環境エネルギー研究所前所長のペーター・へニッケ教授に課題を聞いた。【聞き手・奥山智己】

 −−ドイツの脱原発の現状は。

 ◆30年来激しい議論を戦わせ、(福島原発事故後)ようやく、脱原発で社会的な合意が成り立ち、大きな勢いになった。日本を含む他国のモデルになると信じている。

 −−日本では脱原発は、経済成長を妨げるという指摘がある。

 ◆経済成長や競争力が低下した最大の原因は福島原発事故だ。ドイツでメルトダウン(炉心溶融)を伴う同様の過酷事故が起きれば、国内総生産(GDP)の2倍もの損害が予想される。原発維持に伴う国の財政的なリスクや負担も極めて大きい。それに比べ、再生可能エネルギーや省エネ分野の市場は拡大し続けている。計画的に原発を撤廃し、再生エネ市場での競争力を強化させれば、日本も市場で優位に立てるチャンスがある。

 −−日本で再生エネが普及するには。

 ◆まずは省エネの戦略的、包括的プログラムの策定だ。福島原発事故後、日本が年10%余りも節電し、一時期原発を一基も稼働させなかったことに、世界は驚きを持って見守った。各企業が徹底すれば電力消費と電力コストを抑えられる。

 次に、温水や冷暖房などの熱利用を発電と組み合わせた熱電併給(コージェネレーション)を産業、業務、家庭の各部門で推進させることだ。そのためには熱供給の面で法整備をして奨励する仕組みを設ける必要がある。例えば、新築住宅の建設では電力と熱利用の両面で再生エネの積極的活用を、中古の改築では省エネと再生エネ技術を組み合わせて電力消費を抑える設計を法律で義務づけることだ。

 低コストになりつつある風力発電や太陽光発電を普及させれば、海外企業とも協力できるだろう。その上で、電力市場をより多様な供給事業者に開放し、発送電を分離することが重要だ。

 −−再生エネの普及でドイツの反省点は。

 ◆太陽光発電は、大幅な低コスト化にもかかわらず、支援を手厚くしすぎた。電力会社が20年間、固定価格で買い取る仕組みにしたため、買い取り価格が欧州の電力取引市場の平均価格を上回った場合、差額分は電力を使う一般家庭や中小企業が負担することになった。日本は同じ過ちを繰り返さないことだ。

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