法王退位表明:カトリック界に衝撃 バチカン改革、後継に
毎日新聞 2013年02月12日 22時06分(最終更新 02月13日 02時22分)
【ローマ福島良典】世界約12億人のキリスト教カトリック信徒の頂点に立つ第265代ローマ法王ベネディクト16世(85)が11日、高齢を理由に今月28日で退位すると発表した。バチカン(ローマ法王庁)関係者によると、事実上終身制の法王が存命中に退位するのは約600年ぶり。新法王は法王選挙会議(コンクラーベ)で3月末までに選出される見通しだが、異例の退位表明はカトリック界に大きな衝撃を与えている。
異例の退位決断の背景に、バチカンの不透明な体質や閉鎖性など、容易に改善しない旧弊があるとの専門家の指摘も出始めている。法王は身を捨てて退くことでカトリック教会に「風穴」を開け、成し得なかったバチカン改革を後継法王に託した形ともいえる。
バチカンに詳しいイタリア紙コリエレ・デラ・セラのマッシモ・フランコ氏は毎日新聞の取材に、年齢という理由に加え、「取り組もうとしていた教会改革が実現できなかったことに法王の不満が募った結果」と分析する。フランコ氏は法王が目指していた改革として(1)資金面での透明性の向上(2)女性の役割の強化−−などを挙げる。
バチカンでは近年、マネーロンダリング(資金洗浄)疑惑が表面化。バチカン行政庁幹部だったカルロ・マリア・ビガノ大司教が汚職一掃を目指して調査を進めていたが、駐米大使に転出させられた。これらの経緯を記した書類などを法王の元執事がジャーナリストに渡し、バチカンを揺るがす秘密文書漏えい事件に発展した。
さらに、イタリア銀行は今年初めから、バチカンの資金洗浄対策が生ぬるいとの理由で、電子決済を請け負うドイツ銀行現地法人の業務許可を停止。バチカン博物館などで観光客がクレジットカードや現金自動受払機(ATM)が使用できない状態となっている。こうした現状を前に法王が徒労感を深めていた可能性がある。
法王の生前退位は中世以来約600年ぶり。法王の終身在位制という「タブー」を破ることで、ベネディクト16世はカトリック教会の体制に風穴を開けた。今後の法王退位の先駆けとし、神格化されがちな法王の地位を「変化が早く、信仰にとって非常に大切な問題で揺れる現代社会」(ベネディクト16世)に適した指導者像に近づけたと言える。