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MARQUEE編集長 MMMatsumotoさんインタビュー

[2011/03/25]

音楽業界を支える人にクローズアップしていくこの企画。記念すべき1回目は音楽雑誌『MARQUEE』の編集長、MMMatsumotoさんにお話を伺いました。音楽雑誌の役割とは一体なんなのか、音楽と真意に向き合う姿勢に迫る。


―― 『MARQUEE』はどんな風に始まったんですか?

「今年で31年目ですね。最初は立教大学のミニコミとして始まってるんですよ。その中の一人から引き継いで。僕は違う大学だったけど、当時の編集長と意気投合して、最初は大学のサークルだったんだけど外部の人間も関わるようになって雑誌っぽくなっていった感じですね」

―― それをなぜ商業誌に?

「単純に音楽が好きな連中が集まった同人誌みたいなものだったわけです。スピ リットはいわいるDIYだと思うんだけど、ちゃんと隔月刊にして商業誌にしたのは俺なんですよ。いわいる書店に並ぶようにするために、取次(本を流通させ てる業者)との交渉もして通すのに7年くらいかかりました。だからそういう点で言うと音楽が好きで始まってるんだけど、好きな音楽に関わるために余計なこ ともいっぱいしてきたっていうか、ずいぶん勉強しましたよ」

―― 大学のころから関わってるんですね?

「関わってましたね。正式に入ったのは1984年ですね」

―― マーキーって松本さんが編集長だから『MARQUEE』なんだと思ってました。

「いやいや。テレヴィジョンの『マーキー・ムーン』ってアルバムからですね。でも今は命名した人は残ってないんだよね(笑)」

―― 31年やってるってことは音楽シーンの移り変わりを見てきたと思うんですが『MARQUEE』って渋谷系ってイメージが強いと思うんですけど、なぜ取り上げようと思ったんですか?

「音楽的に面白かったからです。それだけ! 基本的に音楽が面白くないと動けないタイプなんで」

―― 流行ってるから、では飛びつけない?

「難しいですね。流行ってるのが面白ければ一番いいんだけど、結構ズレるんでね」

―― 松本さん自身は音楽活動をされてたりは?

「高校時代にコピーバンドやってたくらいですよ」

―― それが何で雑誌を作ろうと思ったんです?

毛皮のマリーズ インタビュー:http://www.thelivemusic.jp/interview/maries_02/
インタビューで言っている“志磨バルタン”とはこれのことです!(MARQUEE vol.81)

「雑誌をやりたいと思ってたわけではなくて、とにかく音楽に携わっていたかった んですよ。音楽がものすごい好きなんだよね。だからそれが強すぎてあるとき雑誌に向いていっただけで、いわいる出版業界とは関係ないんだよね。まぁ、のち のち本ってどうやって作るんだ?っていろんなことを学んでいくんだけど、出発点はそもそも音楽ファンだから。そのスピリットは今でも強力にあると思います けどね。その上に、デザイン、写真そういうもの全部をちゃんと紙に落とし込めるようになったけれど、そのキッカケを教えてくれたのはピチカート・ファイヴ の小西さん、Buffalo Daughterの山本さんだったりってのはあるんだけどね。そういう点でも渋谷系と呼ばれていた人達との出会いは大きかったと思います。それを更に本を 継続して出していく、信頼を得ていくのは更に後だったりするんだけど。まぁ自分が音楽ファンだから関心が薄れないですよね。ましてやこれが仕事っていうか 趣味に近い感覚だから、これをやらなきゃいけないっていうのが一切ないんですよ。毎日遊んでるような。俺、1回だけ3年間就職したことあるんですよ」

―― え!? 何やってたんですか?

「新星堂に務めてて。やっぱり音楽関係なんですけど。まぁレコード屋さんだけど ネクタイ締めて毎日出勤してて。でもそういう経験があるから仕事ってどういう感じだってわかるんだけど、それに比べると今やってることは遊びですね。でも この遊びはプロフェッショナルな意識を持ってやってます。テンパってるときとか、瞬間的にキツイときもあるけど、日々楽しいですよ。だから続いてるんだと 思います」

―― 音楽好きは音楽好きでも、ミュージシャンになるとか他にも選択肢はあると思うんですけど何で文字にしようと思ったんですか?

「生まれつき理屈っぽい人間なんで、そのへんが作用してるんだよね、きっと (笑)。でも本は苦手なんですよ。図鑑とか絵を見るのは好きだったんだけど、文字だけのはすごい苦手。マンガもどうやって読むのかわかんない。登場人物が 2人増えたらもうアウト。わけわかなんなくなる(笑)。だから文字がすべてだと思ってないんですよ。テキストってすごい大事だけど、同じくらい写真とか色 が自分の中で大事だから」

―― 『MARQUEE』を見てて、写真とレイアウトにこだわってるなって思うんですよ。従来の音楽雑誌の枠に囚われていなくて。

「これが音楽雑誌だと言いたいんですよ。世の中的にはアー写があってテキストが 載ってるっていうようなのが多いと思うんですけど、音楽雑誌ってもっと出来るって思っていて。極端な話、これぐらいが標準でいい。誌面をいかに面白くする か、それに文字っていうのがあって、それ以外も当然盛り込めるわけで。雑誌っていうからには雑なものがいろいろ束ねてある生い立ちだから、文字とアー写だ けじゃなくてもいいじゃない。自然な考え方だと思いますけどね。だから変わったことをしているつもりはないんだよね。その被写体をじーっと見てると(絵 が)浮かんでくるんですよ。かつてのピチカート・ファイヴをやったときも、野宮真貴さんがあの出で立ちで立ってるわけですから、もう絵は浮かぶじゃないで すか」


(MARQUEE vol.83 表紙)

―― アートにも関心が高いですよね。最新号のandrop特集もアートディレクターの方、サウンドプロデューサーの方のインタビューなど多方面からアーティストを紐解いていってるし。

「音楽が中心にはあるんだけど、アートワークもエンジニアリングみたいなことも含めて表現だし、andropがそういうアーティストだからなんですよ。僕はその自然に沿ってるだけなの。それをむしろ、音楽だけ、デザインだけに絞るほうが不自然な気がする」

―― 誌面を見てて思うのが音楽だけじゃなくて、その人そのものに迫ってますよね。最新号の表紙にもなっているcapsuleの中田ヤスタカさんなんて特に。

「音楽だってデザインだって元はその人から発祥していることは間違いな くて、その人の中に音楽だけって人もいると思うんですよ。でも中田君は発言通り、音楽がすべてだと思ってない。ファッション、デザイン、イベントの打ち出 し方からすべてが自分の表現だと思っているから。でも僕が複合表現の人に関心があるのは確かなんですけど。だからっていって、音楽一本な人が嫌いなわけ じゃないんで。例えば、10種類あるなかの1種類だって思ってる。だから姿勢としてはまず自分をフラットにしてその人を見て聞く、そうするとその人がざっ くりわかる。そこでまずプロットを立てて、アーティストサイドの意見も聞いてそれを複合するわけです。エゴの押し付けだけはしたくないんですよ。編集業っ てのは他人のふんどしで相撲を取るっていうかさ、まず作った人が何をやったかが問題で、それをどう料理するかって話だから。自分からこのアーティストをこ うしたい、って役割ではないっていうのはわきまえています。だから本人のやってることを冷静に見るってところから始めてますね」


(MARQUEE vol.83 裏表紙)

―― 音楽業界の中で音楽雑誌の役割って何なんでしょうね?

「何なんだろうね。昔から曖昧な立ち位置なものだと思うんですよ。ネットが普及 して発信者と受け手を繋げる役割は減ってるし、僕の考えてる自分の雑誌の役割は物の見方の提示だと思うんですよ。それが=(イコール)編集だと思ってい て。だから情報じゃないんです。情報と記事っていうのは別物だと思ってるんですよ。情報はネットでもうOKで、だから雑誌は記事を作るべきだと思うんで す。記事っていうのはちょっと作品に近いようだけど、それは自分の作品をつくるわけじゃなくて素材がもともとあるから、その作品から引っ張られた物の見方 を再提示してるのかな。それは批評行為だと思ってる。批判とは違うんだよ。その批評が作った本人に還元出来ると思ってる。音楽っていうのは目に見えない じゃない? 歌詞にすべてが盛り込めるわけじゃないし、その人の気持ちとか漠然とした曖昧なものを違った形で作ってくっていうか、そこにはこちらの解釈も入っていくと 思うし」

―― なぜ紙媒体でやろうと思ったんですか?

「世界観を示せるからです。僕はそこに価値観を置いている人間だから。僕はネットも見まくるし、活用はしてる。でもその男は雑誌を作ってるんだよ。だから使い分けてます」

―― なるほど。編集をやってて良かったことってなんですか?

「いろんな人に会えることですかね。いろんな人の考え方を参考に出来ること。そ れが一番デカいかな。編集・取材をやってなかったら、世の中と隔絶したタイプの人間だったろうから、人と接するってことも取材と共に学んできました。昔は 人前でしゃべれなかったし、対人恐怖症だったし、それがこんだけベラベラしゃべれるようになったのは編集やってたおかげですね。僕はインタビューっていう のはQ&Aではないと思うんですよ。話し合いだと思うんだよね。だから脱線しまくるんで要点がまとめづらいんだけど、そうしないと核心にいかない 気がするんですよ。アーティスト本人たちも全部言葉で話せればいいんだけど、話せないから音楽にしているわけで、どう言葉にして引き出すには会話が必要な んだよね。用意された決め文句ではなくて本音でしゃべるっていうのはラジオでは出来ないし、テレビでも出来ない。ネットでは出来るって思われるけど、ネッ トってうまくやらないとあんまり深い話だとふっとばされちゃうハコだと思うんだよね。でも雑誌は昔から語ることが許されてる場って認識が世の中の人にある んだよ」

―― そうですね。今、音楽業界は不況と言われていますけど。

「実際そうですよ。数字でも出てますし。それは隅々まで影響していっていますよね。お店自体も無くなっていってるし。でもその反面、音楽フェスの集客力は上がってるし、音楽自体は必要とされてるんだなって感じますね」

―― 産業としては?

「andymoriの小山田壮平君が良い事言っていて、“産業としてはお金儲け にならないものになりつつあるから、お金儲けだけしようとしていた人は去っていってくれて嬉しいよね。残ってるのは本当に音楽が好きな人だけだよね”っ て。やっぱり(音楽を仕事にするのは)音楽好きじゃないと出来ないよ」

―― 確かに。この前、[Champagne]のライヴに行った時にMCで「こんな大変な時代にデビューして大変だねっていろんな人に言われるけど、それは曲が良くないから売れないんだ」って言っててすごい頼もしかったんですよ。

「それも大きいかもね。でも、これだけ情報が多いと良い曲があっても埋もれちゃう可能性もあると思うんだよ。せっかく良い曲を作ったからには、これをどう人に伝えるかも今はアーティストに要求されているかもしれないね」


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