＜「官尊民卑」の思想がテレビをダメにした！＞
近頃、テレビを見る気がしなくなった、お笑い芸人が騒いでいるだけの番組がつまらない、という人が増えている。
金平茂紀ほか著「テレビはなぜおかしくなったのか」（高文研 １６００円）では、３人のジャーナリストと１人の政治学者が、昨今のテレビの問題を徹底分析。報道機関として衰弱したテレビの現状を明らかにしていく。
福島第１原発事故以降、脱原発を訴える抗議デモが各所で行われてきたが、この件に関するテレビ報道はあまりにも小さい。例えば昨年６月、大飯原発の再稼働決定に怒った数千人の人々が、首相官邸前に押し寄せた。しかし翌日のテレビでは、ＮＨＫや日テレ、フジが“抑え気味”、ＴＢＳとテレビ朝日は“そこそこ”程度の取り上げ方だった。仮にも数千の市民がデモという形で街頭に繰り出した事実に対し、多くのテレビが無視に近い姿勢を取ったのだ。
その背景にあるのが、テレビ人に染み込んだ「官尊民卑」の思想だ。
つまり、自分たちは選ばれた側に属する「官」であり、感情のままに自己主張する“デモに参加するような人々”＝「民」は軽んじる。その“距離”が、テレビに対する不信感につながっているのではないか。
一方で、尖閣諸島問題に端を発した領土紛争では、引き金を引いた石原慎太郎氏に対し、テレビは責任を追及する姿勢を取らなかった。大衆的人気を敵に回すことを恐れ、氏への批判的な報道を手控える代わりに、中国で発生した大規模な反日デモの様子を連日報道した。公平な報道を放棄し、日本の右傾化に加担したテレビの責任はあまりにも大きいと本書。
テレビに踊らされないためにも必読である。
（日刊ゲンダイ2013年2月4日掲載）