「さて、どうやってオフクロを説得するか・・・
朝帰りになっちまったし」
「お母様も分かってくれますよ。
忠夫さんが行方不明なってしまった頃からも、何度も連絡を取っていましたし。
それに、前もって事務所で一泊すると伝えていましたよね?
でしたら・・・」
「それとこれは話は別だよ、おキヌちゃん。
ただでさえエヴァちゃ達でも苦労したのに、また増えると言うんだぜ?
オフクロだけでも厳しいのに、エヴァちゃん達もどう思うか・・・」
皆さんが滞在しているホテルの前で尻込みしている忠夫さん。
お母様はともかく、エヴァさん達には話が通っているのですが・・・
今のところ、秘密にしています♪
このくらいの意地悪、いいですよね。
「皆さんはロビーで待ってくれているんですよね?
待たされた分だけ、苛立ちも大きくなるだけですよ。
いい加減、覚悟を決めてください」
「でもなー
事情を話すと半殺し・・・いや、九割九部殺されるかも」
「そ、そこまでですか」(汗
そんな悲痛な表情をしなくても・・・・
お母様と何度かお話をしましたけど、良い人でしたよ?
お父様にはナンパされちゃいましたけど(苦笑
でも、本当にいつまでもここにいても仕方ないですし・・・
ここは多少強引に行っちゃいましょう♪
「ほら、早く行きましょう♪
後のことは、お姉さんに任せてください♪」
「お、おキヌちゃん!?
お姉さんって・・・」
忠夫さんと腕を組んで、自身を身体をくっつけて引っ張っちゃいます。
周りの人からは私の方が年上ですから、リードしても問題ないですね♪
なにやら葛藤している忠夫さんを伴って自動ドアを潜ると・・・
「お帰り、忠夫。
言い訳や理由は後で聞いてあげるから、一先ずオシオキといこうかい?」
「氷室絹・・いや、おキヌよ。
そなた等の今の姿で、言わずと大体の事情は察した。
だが、私達にも詳しく教えてもらえないだろうか?」
そこには忠夫さん曰く大魔神の百合子さんと、
笑顔なんですけど決して逃がさない強い気迫を感じさせるエヴァさんが待っていました(汗
ゴメンなさい、忠夫さん・・・
お姉さんにお任せと言っていましたが、前言撤回しても良いですか?
『GS美神+ネギま!』
「人魔と歩む者達」
第八話・英雄の帰還と別れ 9
昨夜、キヌが想いの全てを語り、横島は受け入れられた。
その後、令子が祝いとして飲み明かし事務所にて一泊した横島。
前もって百合子に連絡を入れたのだが、無断よりはマシという程度。
横島は母に、キヌはエヴァ達にそれぞれ連行された。
「怖かったですよー
最初は、やっぱり私は皆さんに受け入れられてもらえないって思いました」
「それは悪かったな。
どこぞの誰かが抜け駆けをして、心どころか身までヤツと結ばれたとほざいた者がいてな。
つい、用心深くなってしまった」
「・・・ルシオラさん?」
「えへ♪」
キヌの取調べ(?)はすぐに終わり、ネギ達を含めた一同はロビーにて二人を待っていた。
元々キヌを認めていたエヴァ達だが、昨夜ルシオラが・・・
『ヨコシマとは身も心も結ばれたのよ♪』
と、ポロッと言ってしまったのだ。
その時のエヴァ達の反応は凄まじく、パーティの時のヒャクメのようにロープでグルグル巻きで逆さに吊らされるルシオラ。
これからが本番かと思いきやルシオラが体験談を聞きたくないかと問われ、吊らされたままエヴァ達・・・
明日菜とのどかも混ざって『色々』聞き入っていた。
「皆さん、一体何の相談をしていたのですか?」
「あ、アンタには関係のないことよ!」
「まーまー
兄貴もそう遠くないうちに分かるさ。
のどか嬢ちゃんか、姐さんでな」
「あうーっ!?」
「何言ってるのよ、エロオコジョ!」
「ギャー!!」
その事から、キヌも『結ばれたのか!?』と疑われていたのだ。
もちろん子供のネギにはご退場してもらい、女性だけの談話となる。
実際にそこまでは『まだ』なので正直に話し、胸を撫で下ろしたエヴァ達であった。
「忠夫はどうなっても良いが、皆をこれ以上待たせるのも忍びない。
メールでも送っておくか」
息子の行動を口には出さずとも寧ろ感心していた父・大樹は、妻に連行されるのを黙って見送った。
しかし、ただでさえ予定がズレてきており、後は百合子次第でいつでも出発できる状況なのでメールを送る。
息子を助けようという気持ちは一切ない。
送られたメールが効いたのか、すぐに百合子が姿を現す。
ボロボロの息子を引き摺って。
「待たせてしまったようね。
さあ、行きましょう」
「あ、あの、百合子さん・・・」
「話は忠夫から聞いたわ、おキヌさん。
私は前々からこうなるような気もしていたから、認めているわよ。
エヴァちゃん達と同様、お義母さんと呼んでもいいわ」
「それはとても嬉しいのですけど・・・
忠夫さんは・・・」(汗
「ああ、大丈夫だよ。
少なくとも死んじゃいないから」
「そ、そうですか・・・」
勇気を振り絞り声を掛けるキヌに、百合子は微笑んで理解を示す。
男の義理を果たした横島だが代償は高くついたらしく、ポイっと投げ捨てられピクピクと痙攣しており白目も向いている。
その姿に声すら掛けられないネギ達であった。
数分後、木乃香達からの励ましではなく母の一喝により強制的に復活した横島。
ようやくホテルを出発し、電車に揺られて着いた先は渋谷。
「全く、年甲斐もなくはしゃぎやがって」
「そう言うな。
母さんも娘に憧れていたからな。
今日くらい大目に見てやれ」
現在はブティックにて、百合子主催のファッション・ショーが開催されている。
今回の目的は、義娘&息子の教え子達に洋服をプレゼントしたいと百合子が提案したのだ。
当初、エヴァ以外の皆は断っていたのだが・・・
「これも親孝行と思ってくれたまえ。
明日菜ちゃんとのどかちゃんには・・・そうだな、日頃忠夫が迷惑を掛けているお返しという事で」
大樹からの説得に、自身を納得させた。
だが、エヴァ達はご存知の通り美女・美少女であり、同姓でも惹きつけられる。
そんな彼女達のファッション・ショーに、店員達は百合子の指示通りあれやこれやと服を持って走り回り、周りの客も見物している。
横島父子は少し離れた場所で見守り、逆にネギは輪に入り彼女達を褒めていた。
ちなみに、今回はチャチャゼロとカモはホテルで留守番である。
「そういう忠夫こそ、どうなんだ?
オマエに気に入ってもらおうと、精一杯頑張っているんだ。
混ざってきたらどうだ?」
「そうしたいのは山々なんだが、何処かのエロ親父を見張っていなくちゃならん」
「ほう・・・
それは立派な仕事だが、そのような輩はこの店にはいないから問題ない。
いや、見た目高校生の30過ぎのオッサンがいたな。
これは要注意だ」
「「・・・」」
互いの挑発に二人の間から火花が散る。
口では挑発しているが、実は二人とも好みの女性に声を掛けたい。
そのためには、隣の男が邪魔でしかたないのだ。
だが、たとえ相手を乗り越えても横島には妻候補(?)、大樹には長年連れ添った妻に折檻されて終いとは二人は気付かない。
結局、エヴァに呼ばれた横島は肩を落として輪の中に入り、
邪魔者がいなくなった大樹は妻の眼光により身動きが封じられた。
たとえ結果が理解していても挑むのが男だというが、こればかりは違うだろう。
昼食をはさみ、次に訪れた先は紳士服を扱う店舗。
息子の為だが対象は横島ではなく、ネギである。
「丈夫に作ってあるし、動きやすいよう工夫されているわ」
「話に聞くと、ネギ君もトラブルに巻き込まれる体質のようだしね。
普通のスーツではすぐに破けてしまうだろうが、これなら少しはマシだろう」
「あ、ありがとうございます!」
前もって依頼していたネギのスーツを取りに来たのだ。
ネギの仕事を考慮し、丈夫さと動きやすさを優先した特別性を用意した。
二人の気遣いが詰ったプレゼントに、ネギは受け取ったスーツを抱きしめ深く頭を下げる。
そしてエヴァ達は二人にお返しにと百合子にはネックレス、大樹には腕時計をプレゼントした。
「ありがとうね、皆」
「大切に使わせてもらうよ」
百合子は柔らかく微笑み、大樹は照れくさそうに頬を掻いていた。
時は進み夕陽が差し込む頃、横島が自分達だけで寄りたい場所があると要望した。
どこか真剣さを感じさせる表情に、夫妻は頷き荷物なども預かりホテルへ戻った。
『メインイベント』があるから、出来たら早めに戻ってくるようにという言葉を残して。
横島の案内に、ネギ達が訪れた場所は・・・
「ここね・・・
懐かしい・・・というべきかしら」
「それでいいんじゃないか?
そう受け止められるなら・・・な」
15年前、ルシオラが自らの霊的構造を与え自らが消滅した東京タワー。
タワーはまだ開いてはいるが、彼等がいるのは外なので騒がなければ気づくことはない。
強い風に煽られる明日菜達を気遣い、文珠で遮断している。
決して、必死にスカートを抑える彼女達が気になったワケではないというのが横島の言い分。
高さに少々怯えるのどかには頑張ってもらっている。
「忠夫さん、ルシオラさん・・・」
自身が消滅した箇所を屈んで撫でるルシオラ、そんな彼女の肩に手を乗せ同じ箇所を見つめる横島。
小竜姫とキヌは魔神大戦の時を思い出し、今度こそ二人を・・・いや、誰も失わないと胸に誓っていた。
さらにその後ろで、彼等を見守っていたエヴァがネギへ視線を向ける。
「よく見ておけ、ぼーや。
この世界の『英雄』の背中を。
貴様もいつか、忠夫と同じ選択を迫られるかもしれんからな」
「えっ!?」
「わ、私達はネギにそんな選択をさせないと誓ったのよ!」
「そ、そうです!」
エヴァの思わぬ言葉に、ネギ以上に明日菜とのどかが強く反発する。
横島の秘密を知った翌日、空き教室にて『横島先生のような選択も後悔もさせない』とネギに誓ったのだ。
だからこその反発だったが、エヴァは蔑むように笑う。
「そのような誓いなどあるがなかろうが、運命とやらはかなり意地が悪く残酷だぞ?
もし運命が優しければ私はとうの昔に天寿を全うし、忠夫も我等の世界に来ることもなかっただろう」
『・・・』
その運命に翻弄された一人であるエヴァに、明日菜達も返す言葉がなかった。
黙り込んだ二人に、エヴァはネギへ視線を戻す。
「もしかすると、ナギも同じような選択を迫られたかも知れんな。
世界や平和とぼーやの母親を・・・な」
「父さんも・・・」
「私の勝手な予想だから、真に受けても保障はせんがな。
いいか、ぼーや?
運命の・・・宇宙意思と言い換えても良いが、忠夫はもちろん、アシュタロスでさえ逆らえなかったモノだ。
それを打ち破るには・・・」
「エヴァちゃん、そこからは俺が言うよ」
エヴァの言葉を遮り、ルシオラの肩から手を離しネギへ振り返る横島。
その表情には様々な感情が浮かんでいた。
「ルシオラがこうして蘇ったのは、とてつもないほどの奇跡だ。
何かが欠けていれば、まだ先どころか不可能だったかもしれない」
魔族であるルシオラは精神体に近い存在であったこと、その彼女の魂が横島の中で眠っていたこと。
さらに霊波片もあり、足りないのはほんの僅かであったことなど。
それらが重なり合い、成功したのだ。
どれか一つでも欠けていれば、可能性はほぼなかったであろう。
「もしかしたら、この先・・・
オレとネギは敵対関係になるかもしれない」
「そ、そんなっ!?
どうして!?」
予想だにしない横島の言葉に、ネギは戸惑いを通り越し混乱する。
さらに話を聞いていたルシオラ・小竜姫・キヌを除いた木乃香達も驚きを隠せない。
続きは再びエヴァが引き継ぎ、説明を続ける。
「分からぬか、ぼーや?
もし忠夫が人魔だと知れ渡れば、『正義』を掲げる愚か者達が襲い掛かるだろう。
残りはコヤツを利用しようとして接触する者達か。
後は・・・」
「後は、なんですか?」
「いや・・・
この考えはないだろうから、気にするな。
話がズレたが、ぼーやが望まなくとも周りが囃し立てるかもしれんぞ?
未来の『立派な魔法使い』よ」
「その可能性もあるし、互いの目的や立場の違いかもしれない。
ネギもいつかは・・・それほど遠くない未来、俺の手から離れ自分の足で歩いて行くだろう。
その先は、誰にも分からん」
『・・・』
最後は横島の言葉で締めくくり、話は終える。
横島と共に生きると誓った木乃香達はもちろん、明日菜たちでさえ言葉も出ない。
彼女達にとっては横島が敵になるなど考えた事もないし、考えたくもない。
だが、すでに決意と覚悟を持っている者もいる。
「私はいつでも、いつまでもヨコシマと一緒よ。
魂まで・・・ね」
「私もです。
この想い、絶対になくしません」
「忠夫さんも一人の人間ですから、時には間違いもあります。
その時は、一時的に敵として向かい合う覚悟はあります」
「私も小竜姫と同じ意見だ。
妄信的に信じるだけでは意味がないぞ、ルシオラ、キヌ。
その時は三行半ではなく、『実家に帰る』といった程度で許してやる。
精一杯詫びろよ、忠夫」
「あ、ありがとうな」
常に横島と共にいる明言するルシオラとキヌ、逆に場合によっては一時的にしろ敵対する覚悟を持つ小竜姫とエヴァ。
どちらも横島を想っての決意であり、まだ決断できないネカネ達は自身がまだまだ未熟だと痛感した。
「その時はどうする、ぼーや。
周りの声に従い忠夫を討つか?
それとも・・・」
「師匠。
僕の答えは決まっています」
「ほう?
ならば聞かせてもらおうか」
エヴァの再度の問いかけに、ネギは決意を秘めた表情で返す。
横島達も半ば内容を察していたが、彼から直接聞きたく無言で見守る。
「僕はお兄ちゃんから、父の事を聞きました。
皆が尊敬する『サウザント・マスター』。
でも、お兄ちゃんから語られる一人の人間『ナギ・スプリングフィールド』の姿。
父さんは周りの声に惑われているのではなく、自身が信じる大切なモノの為に戦っていた。
そんな姿に僕は憧れたんです。
だから・・・
僕は僕が目指す『立派な魔法使い』になります!
これが僕の目標です!」
ネギの心からの決意に、横島は微笑むがエヴァは険しい表情を消さず問いかけ続ける。
「その道は険しいぞ。
周りの声に影響され、いつの間にかその道からズレてしまうかもしれん」
「その時は、私達が引っぱたいて戻してあげる!
ね、本屋ちゃん!」
「は、はい!
今、ネギ先生が仰った未来こそ私達が望むものです。
時には迷ったり、立ち止まることもあります。
ですが、最後にはこの道を目指して歩んで行きます」
念を押すエヴァだが、今度は明日菜とのどかが自らの決意を述べる。
さらに・・・
「忠夫さんとネギ君がケンカするなんて嫌や。
ウチ等も協力するで。
なっ、せっちゃん?」
「もちろんです。
お二人の道を別れさすなど、あってはいけません。
いえ、なるはずがないです」
木乃香の声に、刹那も賛同する。
さらに夕映達も何度も頷き、自分たちも同じ気持ちだと表明している。
全員の気持ちが一つになっている光景に、エヴァは今度こそ険しさを消して再び意地に悪い笑顔を出す。
「ククク。
成長したぼーやと、師弟対決というのも面白いとおもったのだがな」
「い、いえっ!
僕が師匠に勝てるなんて、それこそ何年掛かっても無理ですよ!」
「当然だ、馬鹿者。
ぼーやであろうとも・・・いや、誰であれ後れを取るつもりはないぞ」
「あう・・・」
それこそ、彼女が認めているのは横島だけであろう。
小竜姫などはライバルとして見ているので上とは認めてはいない。
「話がそれたな。
ぼーや、今の決意と覚悟を忘れるな。
もしそれを忘れ、愚か者達に染まり敵対するなら容赦はせん」
「はい!!」
「良い返事だ。
元の世界に戻った後、一つ取っておきを伝授してやろう」
「ホントですか!?」
「ああ。
生き残れるかは、貴様次第だがな。
ククク」
ひとまずこの場ではネギを認めたエヴァ。
その褒美か、修行にて新たな段階に進むと明言から横島の元へ歩む。
横島も感謝の気持ちを込めて彼女の頭を撫で、
口ではどうこう言っても手で払いのけないエヴァのやりとりをルシオラ達は微笑んだ。
ネギの方も明日菜達に囲まれ、褒めたり意気込んだりし盛り上がっていた。
そんな中、高揚感が収まった明日菜が一言。
「あ、あのさ・・・
ネギの話も落ち着いたし、ひとまずここから下りない?」
『あっ』
ポツリと呟いた明日菜に、一同は今が何処に立っているか改めて認識し・・・
「きゅう・・・」
「キャー!!
本屋ちゃんが倒れた!!」
「アカン!!
そっちに行ったら落ち・・・
落ちてもうたー!!」
「ここは僕がっ!
って、魔法使えないんでしたー!!」
「バカネギー!!」
「さらにネギ先生まで!」
「ああっ、ネギ・・・」
「ネカネさんまで気絶したですっ!」
「だから、そっちは危ないですよ!」
「ふう・・・
茶々丸」
「はい、マスター」
唐突な現実の確認にのどかは気を失い、さらに悪い事にフラフラーと端によって落ちてしまう。
ネギが助けようと飛び込むが、今更ながら魔法が使えないと思い出すが時すでに遅し。
共に落ちていく光景に刹那は叫び、明日菜が突っ込み、ネカネも気絶してしまう。
さらにのどかと同じように落ちそうなるが、夕映とアキラによって事なきを得た。
周りが騒ぐ中、エヴァが茶々丸に命令し助けに行ったので無事救助される。
横島も思い出の場所だがそう長くいるところではないなと、ルシオラと顔を見合わせ苦笑した。
のどかとネカネが復帰してからホテルへも戻った一同。
ロビーにて『メインイベント』の主役達を待っていた横島夫妻が待ち構えており・・・
「さあ、行くわよ」
「時間が少々押している。
急いで準備してきてくれ」
と、百合子は女性陣を、大樹は息子達を連れてそれぞれ別室に案内する。
大樹がつれてきた部屋には茶々ゼロとカモもおり、それぞれ定位置についている。
「・・・で?
何となく予想は付くんだが、一応聞くぞ。
一体、何のマネだ?」
「えっ?
お兄ちゃんは分かるの?
僕は何がなんだが・・・」
「兄貴・・・
ここまで来て気付かないのかよ」
「ケケケ。
ヤッパリガキハガキダナ」
「ハッハッハ・・・
ネギ君は純粋だからね。
忠夫も分かっていても聞くな。
こういう時は最後まで秘密にしておいたほうが楽しい」
「・・・分かったよ」
彼等は案内された部屋で『ある服』に着替え、ホールに移動し女性陣が来るのを待っていた。
パイプ椅子に座る兄弟の服装は同じであり、いわゆる白のタキシード。
さらに大部屋ではカメラマンやスタッフがセッティングに忙しく、慌しく走り回っている。
少なくとも着替えの段階で両親の思惑に気付いた横島だが、母が関わっている以上中止出来ないだろうと諦め顔。
「中が教会風で、神父がいないだけマシか」
「そう思うことこそ、内に秘める願望か?」
「違うわ!
親父こそ皆に手を出すんじゃないぞ!」
「おいおい。
ネカネさんやおキヌさんは確かに好みだが、義娘と認めたんだ。
さすがに手を出したりはせん」
「本当だろうな?」
「本当だ。
少しは父を信じろ」
「普段の我が身を振り返っても、もう一度言えたら信じないでもないぞ」
「本当だ。
少しは父を信じろ」(即答
「信じられるか、ボケー!!」
父子の何か漫才のような会話が続き、意外な一面を見せる二人を見続けていたネギ。
そんなやり取りがしばらく続くが、背後の扉が開く音で中断・・・いや、言葉を失う。
「皆さん、お待たせしました」
そこには私服のままの百合子が先頭に立ち、純白のウェデングドレスを着てブーケを持ったエヴァ達の姿に。
アキラや夕映、刹那など普段髪を止めている者達も降ろしている。
『・・・』
それは子供のネギも同じであり、周りのスタッフやカメラマンまで。
あらゆる視線を集めているエヴァ達だったが、気にも留めず・・・
いや、明日菜ん・のどか・刹那・夕映・アキラなどは恥ずかしそうにしていたが、それぞれ想い人の元へ向かう。
「何を惚けている、忠夫。
女が着飾ってきたのだ。
一言くらい、褒めるべきだろう」
横島の前には彼と共に生きると誓った者達が集まり、
その中で口調こそいつも通りだが期待が篭っているエヴァの声に我に帰る横島。
「あ、ああ・・・
その、なんだ・・・
皆、よく似合ってるし・・・
と、とても綺麗だ」
「ほ、本当か?」
「も、もちろん」
「そ、そうか。
ま、まあ、当然だな」
座ったままなので小柄なエヴァや夕映とも真正面となっており、他の者達は若干見下ろすようになっている。
ナンパのように多くはなかったが、逆に本心からの言葉なんだと受け止めることができ頬を染める。
「よかったな、せっちゃん。
似合うてるって!」(木乃香)
「はい、嬉しいです。
このちゃんも、綺麗ですよ」(刹那)
「い、一気に気が抜けたです」(夕映)
「ホントに」(アキラ)
「この衣装で似合わないなんていわれたら、それこそしばらく立ち直れないですね」(小竜姫)
「ですね」(ネカネ)
「ですが、周りの皆さんはどうして手を止めてこちらを見ているのでしょう?」(茶々丸)
「簡単じゃない。
私達があまりにも綺麗だから、見惚れているのよ」(ルシオラ)
「そ、そんなことないですよ。
他に理由が・・・」(キヌ)
「何を言う、キヌ。
ルシオラの言う通りだろう。
全く、自覚がなさ過ぎるぞ」(エヴァ
横島へのお披露目を終え、ようやく安堵した彼女達はそれぞれ雑談に入る。
その近くでは、明日菜とのどかもネギの元へ集まっており・・・
「ど、どうですか、ネギ先生?」
「とても綺麗ですよ、のどかさん!
本当によく似合ってます!」
「っ!」(真っ赤
「わ、私は?」
「明日菜さんももちろん綺麗です。
僕、新しい一面が見れて嬉しいです。
まるでお姫様のようです!」
「そ、そう・・・
あ、アンタ見たいなガキンチョに褒められてもそんなに嬉しくないけど、素直に受け取っておくわ」
契約上では主の言葉を受けてのどかはオーバーヒートしてしまい、明日菜はフンとそっぽを向き素直でない言葉を出す。
しかし、明日菜への褒め言葉に真実が含まれていることに二人が知るよしもなかった。
「・・・あっ。
ほら、皆!!
手が休んでいるわよ!!」
『は、はい!!』
先程まで神聖さすら感じさせた彼女たちだが、
今では歳相応に談話している光景に場を仕切っている男性のカメラマンが我に帰り指示を出す。
その声に金縛りが解けたように、ビクッとさせたスタッフも再び動き出す。
溜まっていた息を吐き出すかのように深呼吸するカメラマンに、百合子が近づき声を掛ける。
「いかがかしら、風間さん。
ウチの息子達のお相手は?」
「見事ですよ、百合子さん!
これほどの被写体・・・いえ、お嬢さん方はそうはいないですよ!
それこそ、芸能入りしててもおかしくありません!」
「はいはい。
それよりも、私はいいのだけど時間は大丈夫なの?」
「大丈夫です。
なにしろ、百合子さんからの依頼ですか。
逆に、この機会を与えてくれて感謝したい気持ちです!」
元々、このセッティングは百合子の伝手で設けられた。
さらも衣装であるウェディングドレスは夫婦からのプレゼントであり、この一週間頑張っていたのだ。
キヌの分も前もって用意していたところが、全てお見通しといった感じであろう。
百合子の息子達の『お相手』の中には、明日菜も含まれているのだが本人は気付いていないので問題はない。
挨拶も済ませると、百合子は周りを見回して声を小さくして風間に話を続ける。
「それで、『あの事』は大丈夫なの?」
「私が仕事で撮る写真以外は一切許可しない・・・という約束ですね。
そのような隠し撮りのような行為など、言語道断であり社内でも規則になっています。
初めは何だと思いましたが、あれほどでは念を押したくなる気持ちも分かります」
横島達の存在を必要以上に広げたくない百合子は、風間に仕事以外の写真は撮らせないという約束を取り交わしていた。
念には念だったが、スタッフの中にはカメラマン見習いもおり、咄嗟に携帯を取り出そうとして腕が動く者達もいた。
そういう風間も、もし自分が見学側だったら同じ事をしたのではないだろうかと内心で苦笑する。
「ですが、残念です。
まだ撮ってはいませんが、きっと私の中でも大作となるでしょう。
一枚だけでも店に飾らせてもらえませんか?」
「残念ですけど諦めてください。
息子達も事情がありまして、目立つ事や世間に広めてほしくないんです。
もちろん、犯罪に関わっていることはないから安心して」
GS協会や政府から睨まれている横島。
15年前の魔神大戦の時と変わらない姿であり、思い出す者もいるかもしれない。
さらにルシオラは一時人間側の敵であり魔族、小竜姫はGSの世界では有名な神族である。
その三人だけでも、細心の注意と警戒が必要なのである。
そんな密談をしていた二人だったが、妻に手綱を握られていた大樹があることに気付く。
「なあ、百合子。
スタッフの女の子が一人、皆に紙やペンを渡しているんだが・・・」
「えっ?」
夫の言葉に百合子のみならず風間も視線を追うと、確かに彼女達だけでなくネギや横島にも配っている。
明らかに段取りの説明とは思えない行動に、大樹は不審に思ったのだ。
「アイツめ・・・」
「風間さん、あの人は?」
「彼女は友人の雑誌の編集長から預かっている記者の『宮下悠』といいます。
名目上は出張扱いですが、友人も彼女の期待しているのでしょう。
中々光る物を持っています」
「雑誌記者・・・」
風間の説明の『記者』という部分に引っ掛かり、若干目が鋭くなる百合子。
その変化を感じ取った風間が慌ててフォローを試みる。
「い、いえ・・・
彼女や友人はゴシップ関係の記者ではなく、女性をターゲットにしていて・・・
説明するよりも、実際に見てもらった方が早いですね」
彼の足元にある鞄から雑誌を一冊取り出して百合子に手渡す。
渡された彼女はペラペラと捲り、内容を確認する。
「ふーん。
ファッションや占い、恋愛関係にアイドルや俳優・・・ね。
女性というより、女の子向けね。
あら?
銀一君も載っているじゃない」
「ほう?
どれどれ」
その中には人気俳優として横島の親友・銀一の紹介記事があり、妻の声に興味が引かれた大樹も後ろから覗き込む。
「プロフィールに写真、ちょっとした質問ね」
質問の中に『一番の宝物は何ですか?』という問いに、彼はこう答えていた。
『僕を支えてくれるファンの皆さん・・・と言いたいですけど、僕の幼馴染にして一番の親友です』
と、なんとも彼らしい返答が書かれてあった。
「それで、宮下の担当は・・・これです」
「カップルアンケート?」
タイミングを見計らって風間がページを捲り、あるコーナーを二人に見せる。
内容は不定期に選んだスポットで道行くカップルにアンケートを取り、何点かを紹介している。
「ありがちなコーナーですが、かなり好評らしいですよ。
時折、彼氏が一人で相手が複数という場合もあるんだとか」
「へー
そんなカップルはウチのバカ息子だけかと思ったけど、日本も狭いわねー」
「何を言う、百合子。
その青年こそ、男の中の男じゃないか」
「・・・」(バキッ!!
「ぐはっ!!」
不用意な言葉を言ってしまった夫に、百合子は肘打ちして黙らせる。
周りの視線よりもつい先程まで息子と言い争っていた為、倒れはしなかった静かに悶絶していた、
風間はその光景に口元が引き攣るのが止められなかったが、百合子は気にも留めず内容を確認する。
「・・・確かに、個人情報や詳細は書かれていないわね。
写真もなく、ちょっとした特徴程度なら大丈夫でしょ」
アンケートの他には、カップル名や取材したスタッフ(悠)のコメントが載っている程度。
「もし、マズイのでしたらやめさせますが・・・」
「いいえ、構わないわ。
この程度だったたら問題ないし、彼女たちを見たら反対する気も失せるわ」
恐る恐るいった感じで訊ねる風間だが、百合子は苦笑し彼女達に視線を向ける。
そこには、頬を赤くしつつワイワイと盛り上がる面々。
さらに同じ危機感を持っているエヴァも受けていることが、安心した理由の一つである。
ただ、一緒の輪に入っているネギはともかく、隅っこで背中を向けて一人記入している息子には呆れたが。
「それでは、彼女達が落ち着いてから始めましょうか」
「ええ、お願いね」
準備も整い、いつでもOKな状態なのでアンケートが終えるまで待つこととなった。
実際、それほど時間が掛からずに終え、今更ながら自分のせいで中断している事を察した悠は何度も頭を下げていた。
ようやく、本来の予定である記念写真が撮られることとなった。
「横島さんとネギ君は中央として・・・
ネギ君が前、横島さんがその後ろに立ってください。
そして小柄なマクダウェルさんと綾瀬さんがネギ君の隣・・・
えっ、宮崎さんが?
構いませんよ。
でしたら、右隣に宮崎さんと神楽坂さん、左隣にはマクダウェルさんと綾瀬さんで。
横島さんの左右・・・
マクダウェルさん達の後ろに次に低い桜咲さん、近衛さん・・・
まだいけますね、近衛さんの横に絡繰さんと大河内さんがお願いします。
反対側には蛍さん、ネカネさん、氷室さん、龍姫さんで。
はい、これでいいですね。
では、撮りますよ」
横島達を整列させて微調整も終え、新郎新婦の記念写真を撮る。
一枚目は姿勢を正し、女性陣もブーケを持ち正装で。
二枚目は自由と言う事で、各自思い通りに動く。
ルシオラが横島の首に手を回して抱きつき、エヴァが対抗するかのように反対側の手を引っ張る。
さらにその腕に木乃香が刹那を巻き込んで抱きつき、さらにネカネとキヌ共々倒れこみそうになるが小竜姫がしっかりと支える。
その行動に夕映・茶々丸・アキラなどは『あっ』といった表情で横を向いている。
のどかは勇気を振り絞ってネギの手を握り、明日菜は腕を組んで再び在らぬ方へ顔を向ける。
風間はこれで味があると語った。
依頼の記念写真は二枚で終えたが、彼女達はそれぞれ想い人と携帯でツーショットや木乃香と刹那などの三人一組など撮っていた。
そこには微笑ましさすら感じさせ、スタッフからも笑顔で後片付けを始めた。
「ふう・・・
やっと終わったかー」
「どうした、忠夫?
この程度で根を上げてたら、この先苦労するぞ」
「それはそれとして、私も楽しめたからお疲れ様と言ってあげるわ」
もはや撮影会と言ってもいいくらいのイベントも終え、夕食や入浴も済ませ後は就寝するだけとなった。
今日の夜が、横島がこの世界におられる最後の時間であり、明日にはネギ達の世界に行かなくてはならない。
だからこそ、エヴァ達は気遣い親子三人水入らずにさせてあげているのだ。
今は両親が泊まっている部屋であり、
お酒やつまみが置かれたテーブルを挟むかのように横島一人席、両親はソファーに座っている。
ちなみにこのお酒は、近右衛門の土産として横島が父に依頼していた物の余りである。
男・・・しかも老人への土産では信じられないだろうが、
それほど世界樹の魔力を使わせてもらった感謝の意は大きいのだろう。
「しかし、よかったのか?
余っている金を受け取らなくて?
持って行っても使い道がないんだが」
「いいんだよ。
あれは私達からのプレゼントで、そのために頑張ったんだから」
午前中の洋服、さらにウェディングドレスなど、その全ては夫婦が負担している。
横島の残りの金額では全額返済とは行かないが、まだ残っている分だけでも渡そうとするが百合子は決して受け取らない。
頑として受け取らないと察した横島もそれ以上何も言わず、しばし無言の時が流れる。
そんな三人だったが、次に口を開いたのは百合子だった。
「それにしても・・・
今日がアンタと過ごせる最後の夜なんて・・・ね。
この一週間、長かったような短かったと言うか」
「なんだよ、オフクロ。
寂しいのか?」
テーブルに置かれたお酒を一口のみポツリと呟く母に、横島は軽く聞き返す。
『バカ息子がいないで清々するわ』などを予想ていた横島だが、それは明らかに間違いである。
「・・・寂しいに決まっているじゃない」
「へっ?」
先程以上に小さい声だが、何とか聞きとげた横島。
それでも聞き違いかと確認する前に、百合子が睨むような視線を向ける。
だがそれは、何度も受けた恐怖を与えず弱弱しさすら感じさせた。
「寂しいし悲しいに決まってるやないか!!
15年も行方不明で、やっと会えたらと思ったらもう二度と会われへん!!
ネギ君もやし、ルシオラさんやエヴァさん・・・アンタの嫁さんにして、ウチ等の義娘にも!
これからやっていうのに・・・
私達はアンタ達の幸せを見ることが出来へんのやで!!
これで悲しくない親がおるか!」
「オフクロ・・・」
その感情は横島と再会した時に見せた、母親としての情。
大樹はそんな妻を肩に抱き、引き寄せる。
「例えでも俺達も信じていなかったが・・・
お前が本当に死んでいたなら、その時は悲しみに落ちるだろうがいつかは乗り越えるだろう。
もし遠くとも時間を掛けても会えるなら、笑って見送っただろう。
百合子も言ったが、子はいつか親の元から去るもの。
だが、それでも見守り続けるのが親の勤めであり楽しみだ。
生きているからこそ二度と会えない・・・という、辛さが分からんのか?」
「・・・」
母だけでなく、父からの思いがけなく・・・様々な想いが込められた言葉に、横島も何も言えなかった。
幼少の頃から女性にだらしない父に、厳しい母。
父はともかく、母が厳しいのは半分は自業自得だが、両親に愛されていると実感することが少なかった。
そんな二人が目の前で、痛いほど理解しているのに言わずにいられなかった想い。
改めて・・・いや、初めて親の本心と言うものを知った。
「・・・悪い、オフクロ。
二人の本心に気付かなくて・・・
俺も改めて思うと、会えないのは辛い。
でも・・・」
「それ以上は言わなくともいい。
これは未練がましい親心であり、子供に迷惑を掛けん。
明日は笑って見送ってやる」
「・・・ええ。
それが私達が出来る最後のケジメだもの。
だから、今だけは・・・」
「だな」
落ち着きを取り戻した百合子と彼等親子は、今この時間を噛みしめる。
その時間は夫妻はもちろん、永遠に近く生き続ける横島の記憶から薄まろうとも想いは決して忘れなかった。
そして・・・
最終日にして、ついに横島がこの世界と別れを告げる日がやってきた。
早朝から令子達をはじめ、雪之丞達やワルキューレ達・・・彼の友人達がホテルに集まる。
さすがに大人数になる為、昨夜撮影会をしたホールを借りたので問題はなかった。
「横島!
神族や魔族が何を言おうが関係ねー!
必ず戻って来い!」
「男と約束なんかお断りじゃー!
でも、覚えてはおくさ」
雪之丞自身も少なくとも自分達が生きている間は再会できないと理解している。
だが、それでも横島との繋がりと僅かな期待を得たかったのだ。
だからこそ、横島も口ではどう言っても覚えておくと伝えたのだ。
横島だけでなく、周りでもそれぞれ別れを告げている。
「グスッ・・・
ルシオラちゃーん」
「姉さん・・・」
「もう、二人とも寂しがり屋なんだから。
私達も長寿になっているんだから、また会えるわよ。
だから、待っていてちょうだい」
ルシオラはベスパ、パピリオに泣きつかれていた。
見た目は中学生のルシオラだが、苦笑し慰める姿は大人の女性であった。
「エヴァンジェリンさんもお元気で。
父以外に真祖の吸血鬼のアナタに出会えたこと、とても幸運だと思います」
「こちらも世話になったな、ピート。
父のようにボケるなよ」
「あ、あはは・・・」
エヴァはどうやら、横島には秘密で何かをしていたらしい。
なお、浮気(?)などではないのであしからず。
「じゃあね、木乃香。
また、会いましょう」
「刹那殿、お互い精進するでござる」
「うん。
絶対会えるから、待っといてなー」
「はい、シロさんもまた会いましょう」
タマモは木乃香、シロは刹那と別れを交わしていた。
タマモやシロもまさか横島達から命を分けてもらうなど予想だにしておらず、もう二度と会えないと考えていた。
説明したくとも周り・・・特に横島にすら話していないので、遠まわしに伝える。
「ネカネさん、ありがとうございました。
必ずや、この世界でも魔法を使えるようにして見せます」
「ええ、頑張ってください」
「それと、これを。
初日に撮った歓迎会の写真です。
人数分用意していますので、後で分けてください」
「ありがとうございます」
ネカネは魔鈴から写真を受け取っていた。
ちなみに昨夜撮った写真は、風間が超特急で仕上げそれぞれ配っている。
「いい、のどかちゃん!
ネギ君も君もまだまだ若いんだから自分のペースで、時には積極的にね。
良い青春をしなさい」
「は、はい。
ありがとうございます」
この世界でのどかの恋の相談役の机妖怪・愛子。
彼女のアドバイスが生かされるかどうかは、のどか次第であろう。
「それじゃあの、茶々丸。
調べる事は出来なんだが、違う世界でもそなたのようなものがいると知っただけでも幸運じゃった」
「どうか・お元気で。
ミス・茶々丸」
「はい。
お二人も、いつまでもお元気で」
こちらはカオスとマリアの二人と握手を交わしている茶々丸。
横島の事を抜きにしても、彼等と会いたいと常々思っていた。
茶々丸の心はまた一つ成長したであろう。
「夕映ちゃんも〜、元気でね〜」
「君は努力の才能がある。
霊力など潜在的な天賦の才はあらへんけど、努力を積み重ねることを厭わず機転もきく。
その全てを使いこなせたら、必ず成功する。
焦らず、必要以上に自分を追い込まんようにな。
以上、人生の先輩からのアドバイスや」
「はいです。
確かに受け取ったです」
夕映は冥子と鬼道と話しこんでいた。
特に鬼道からの言葉は、彼女の心に深く残った。
「アキラ。
横島の女好きは言わずもがなだけど、アイツは令子とはまた違った魅力で人を惹きつけるワケ。
ヤキモチもあるだろうけど、頑張るワケ。
色々とね」
「は、はい」
アキラはエミに声を掛けられ、特に『色々』という部分を強調され頬を赤く染める。
同じく長寿の者を愛し、自分達とは違い先に亡くなってしまうだろうがそれでも共に生きると誓った女性。
自分なんて足元にも及ばない強い心を持つ彼女を、アキラは決して忘れないと誓った。
「明日菜ちゃん。
元の世界に戻ったら気をつけなさい。
私の勘・・・霊感なんだけど、近いうちにアナタには重大な事が起きるわ」
「は、はあ・・・」
明日菜は令子から意外な忠告を受けていた。
超一流のGSである令子の霊感。
魔法を知り、さらに平行世界に訪れようとも、その価値観は一般人とそう変わらない明日菜。
霊感と言われても半信半疑だったが、明日菜はとりあえず頷いておく。
「かおりさん、魔理さん・・・」
「そんな顔をなさらないでください」
「そうだぜ、おキヌちゃん。
笑って見送るって言ったじゃないか。
アンタも笑顔じゃないと、こっちも困るよ」
キヌも親友であるかおりと魔理と最後の別れを惜しんでいた。
約束通り、笑顔で見送ろうとするが、キヌの方が泣き顔になってしまっている。
「それじゃーね、小竜姫。
お土産、よろしくなのねー」
「全く、アナタは・・・
ヒャクメこそサボってばかりいないで、再開する時は少しは成長していなさい」
小竜姫も親友であるヒャクメと別れを告げていたが、こちらは明るく軽い。
お互い神族であり、再会できる可能性が高いからだ。
『小竜姫も、次に会うときは胸が成長しているといいのねー』とは、口に出さなかった。
「ネギ君。
君は紳士になる才能がある。
横島君の影響を受けないようにね」
「は、はあ・・・
ありがとうございます」
ネギは西条に話し掛けられ、握手を交わす。
その言い分に分かるような分からないようなネギは、明日菜同様一先ず頷いておいた。
それぞれが別れを惜しむ中・・・
「横島君、ちょっと良いかしら?」
「うっす」
「二人だけ話したいから、別室に行きましょうか」
令子が横島に声を掛け、周りからの視線も気にせず共にホールから出て行く。
だが、エヴァ達の視線だけは気付き、チラッと見やってから。
「ねえ、横島君・・・」
横島が案内した場所は昨夜、横島達が着替えた一室。
そこもある程度広く、5人程度は余裕を持って寛ぐ事が出来る。
令子は設置されていたテーブルの側にある椅子に座り、弟子にして前世からの繋がりを持つ者へ振り返る。
その者、横島はというと・・・
「二人だけの密室・・・
これはもう、誘ってるとしかー!!」
「このバカたれー!!」
「ギャー!!」
煩悩全開で飛び掛り、彼女の全力&カウンターの右ストレートパンチを喰らい吹き飛び壁に皹が入った。
突き出した右手を引っ込め、壁のオブジェとなった横島に溜息を零す。
「お約束のボケをしてれるんじゃないわよ。
最後くらい、まともにいなさい」
「これがいつものオレ達じゃないっすか。
最後だからこそ、いつも通りで」
「だったら、今のはワザと?」
「むしろ、マジ!」
「はあ・・・
アンタって男は・・・
いいから、座りなさい」
「へーい」
それでも一瞬で復活した横島に突っ込まず、席を勧める令子。
彼も令子と向かい合うように座り、その間に令子が備え付けられているティーポットで紅茶を二人分淹れる。
それぞれ手前に配り、令子が口を開く。
「横島君。
最後になるだろうし、一つ聞かせて」
「何っすか?」
「・・・」
しかし先が続かず、中々次に進まない令子。
横島も何も言わず、彼女が口を開くのを待つ。
そして、ようやく令子が呟くように乗せられた言葉は・・・
「アナタ、後悔してない?
私と出会ったこと・・・」
それは自信溢れる彼女に似つかわしくない言葉と表情だった。
だが、その分あらゆる意味が込められている。
魔神大戦、今の現状、過去の出来事、それは全て令子と関わった事が原因である。
だからこそ、最後に確認したかったのだ。
自分と共にしてきたことに後悔はないか・・・と。
ジッと自分を見つめる令子に、横島は・・・
「小竜姫様や神父もそうだったけど、まさか美神さんまでそんな質問をするなんてー
もう、歳っすか?」
「なっ!?
と、歳ってね、アンタ!
私はアンタを思ってっ!」
「だったら、答えなんて聞かなくても分かるはずっすよ。
質問を質問で返すのはあれですけど、美神さんはオレと一緒にいてつまらなかったっすか?
まあ、迷惑は掛けまくったすけど」
「・・・そんなことないわ」
横島の問いに令子は過去を振り返る。
当初は自分一人で立ち上げた事務所だがどうしても人手が欲しく、悩みにお金を惜しむがバイトを募集した。
事務所前に応募のチラシ張った途端に偶然・・・もはや運命と言っても過言ではなく横島に出会い、
色々あったが時給250円で雇ったのだ。
さらにある事件で幽霊のキヌと出会い、事件やトラブルもあったが楽しかったと本心で語れる。
叶うなら、来世でも同じようにやっていきたい。
「だったら、オレも同じっすよ。
後悔なんて微塵もないし、これからも・・・ね。
強いて言えば、美神さんをモノにできなかったことっすね。
あいたっ」
彼女が望む言葉と、彼らしい言葉に額に軽くデコピンする令子。
しかし、彼女の表情からは吹っ切った笑みを浮かべている。
「アンタねー
ルシオラだけじゃなくて、おキヌちゃん・小竜姫様・エヴァンジェリン達まで手を出しておいて・・・
どちらにしても、私はそう簡単にモノに出来ないわよ♪
まっ、来世でそっちの世界で頑張ってちょうだい」
「えっ?
美神さんが亡くなっても、転生してもこの世界じゃ?」
「私を誰だと思っているの?
神や悪魔・・・宇宙意思でさえ、そんなモノに私の行く道に文句は言わせない。
アンタは知らないだろうけど、シロとタマモもいつかはそっちに行くわ。
だったら、私の方から行くしかないじゃない」
「美神さん・・・」
かつてアシュタロスでさえ宇宙意思には逆らえなかったが、令子にとっては『そんなモノ』である。
その大胆不敵さ・自信溢れる表情こそ、横島が知る美神令子。
二人は笑い、言葉に出さずとも再会を誓った。
たとえ、令子自身が憶えていなくとも。
話は終えたと思い席を立ちかける横島が、令子にとってはまだ終えていない。
ある意味、これからが本番なのだ。
「横島君、そっちの世界の魔法ってどんなものなの?
魔鈴ほどじゃないけど、私も興味があるわ」
「どんなモノっと言っても、マンガやゲームとそう大差ないっすよ。
松明程度の明かりから、それこそ鬼神ですら一発で凍らせ粉々にするといったほどまで」
「へえ・・・」
令子からの意外な問いかけに、横島は座りなおし魔法を語る。
もし今の言葉を魔法使い達が聞けば怒ったであろうが、横島にとっては同じようなモノだった。
「オレは魔法の才能がなかったらしくエヴァちゃんに扱かれて、
ようやく自身の身体能力を上げる魔法が使える程度っすよ」
「フーン・・・
でも、それはあくまで霊力を隠す為のカモフラージュでしょ?
魔力とやらを張っていたら、誰も気付かず気にする必要もないし」
「うっす。
サイキックソーサーや栄光の手は相変わらず人前では使いませんけど、少しは幅が出来たっすよ」
横島もいつまでも霊力技に頼るわけにはいかなく、エヴァに地獄の特訓を受け『戦いの歌』を何とか会得した。
しかし魔法の矢や武装解除などは相変わらず使えないが、とりあえずの目的は成し遂げた。
「それだったら、そうねぇ・・・
仮契約を見せてくれない?
文珠なら発動可能でしょ?
あっ、文珠は足りる?」
「まあ、何とかっと言った感じっすね。
でも、上手くいくかは分かりませんよ」
「ええ、構わないわ」
一昨日の夜、キヌの告白を聞いた後に本人達+α(人口幽霊一号)で打ち上げをした時に令子には双文珠、
キヌ・シロ・タマにそれぞれ文珠の首飾りを渡している。
だからこその問いかけだったが、今では双文珠でも完全に作り出せる横島はまだ余裕があった。
「それじゃ、『仮』『契』『約』っと」
横島は席を立ち、令子に自分の後ろまで下がってもらい、スペース確保に他の椅子やテーブルを片付けると、
文珠を三つそれぞれ文字を刻んで床に放り投げる。
元々、仮契約・・・というかキス狙いだった横島なので、仕組みは充分理解している。
そのことが幸をなしたのか、文珠が発動し仮契約の魔方陣が浮かび上がる。
「本当は魔力なんっすけどこの世界にはないし、動力が文珠だから霊力っすけど」
「充分よ。
で、これはどちらが従者になる設定なのかしら?」
「一応、俺っすけど」
「そう。
なら、好都合」
「へっ?」
魔鈴がこの場におれば、それこそ熱狂したであろう魔方陣に近づく令子。
何か呟いたように聞こえ、魔法陣の前に立っていた横島が振り返ろうとするが、令子が彼の背中を押し魔法陣の中へ放り込む。
そして彼女も中に入り、体勢を整えようやく振り向いた横島の両頬を手を覆い・・・
「ん・・・」
「っ!?」
令子自ら横島にキスをし、魔法陣が発動する。
目が点となり、いまだ状況や思考すら働かず理解できない横島。
そんな彼を気にも留めず、令子は唇を離し舞い落ちたカードを手に取る。
描かれているのは、いつもの服装で腕を組んで仁王立し不敵に笑う横島。
だが、現在のエヴァ達のカードと同じく名前のみであり、繋がりが消えた状態である。
しかし、令子は気にせずカードをポケットの中に入れる。
「これは約束の証としてもらっておくわ。
一言言っておくけど、他の皆にバラしたらコロすから」
「い、イエッサー!」
「じゃっ♪」
固まっていた横島だが、令子からの殺気に身体の髄まで染み込んだ躾が効いたのか慌てて敬礼する。
令子が退室しても条件反射で敬礼したので思考が固まったままであり、様子を見に来たエヴァ達を大いに困らせた。
そして皆に別れを告げ、ホテルを発った横島一同。
令子を含めた全員はホテルで見送り、誰も連いてはいかなかった。
それは令子の一言が原因であった。
『何好きこのんで、あの険しい道を歩かなきゃいけないのよ。
向こうでも此処でも見送るのは変わらないわ。
私はそこまで未練がましい女じゃないわ』
一番繋がりを持つ令子がホテルで見送るのに、他の者が連いていくというのは悪い気がしたのだ。
横島を見送った一同は、彼等は彼等で横島がいなくなった寂しさを埋めるように壮大な打ち上げを開いた。
「うおおー!!
どうか、どうか、お元気でー!!」
「もし横島に『どめすてぃっく・ばいおれんす』を受けたなら、すぐに戻ってきてください。
平行世界だろうが、横島を九分殺しにして見せましょう!!」
「大丈夫ですよ。
忠夫さんはそんな人じゃありませんから。
妙神山、よろしく頼みます」
「「ハハッ!!」」
妙神山についた横島達は、門の前で待ち構えていた鬼門・・・さらに、猿神に出迎えられた。
小竜姫は鬼門たちに別れを告げていたが、横島・ルシオラ・キヌ以外の全員が猿神の側に集まっていた。
「感動です、感激です!!
まさか、本当にかの有名な孫悟空に会えるとは!!」
「フォッフォッフォッ・・・
サインしてやろうかの?」
「ぜひ!!」
猿神・孫悟空は日本でも超有名な存在であり、文学少女であるのどかや夕映だけでなく一般人の明日菜、
さらにエヴァも興味があってもおかしくはない。
唯一、茶々丸だけは主の側に控えているといった感じであろう。
しばらくし、夕映たちの興奮も収まり落ち着いた頃、猿神は横島の元へ歩み寄る。
ネギ達も道を開け見守る中、二人は向かい合う。
「横島よ、この一週間はどうじゃった?」
「ハプニングばかりだったし、色々考えさせられることもあったけど帰ってきてよかった。
後悔はないし、未練だった美神さん達にも会えたからな」
「ふむ」
身長差で猿神が横島を見上げる体勢だが、その目には心を見透かすようであった。
横島の言葉が本心である事を悟り、猿神も表情を崩す。
「そうか・・・
元々、こちらの不甲斐なさでそなたをこのような立場に追い込んでしまった。
最高指導者もそのことを悔いておった。
その二人はゲートを開くため近くにおるじゃろうが、そなたと顔を合わせるのは見送った。
言っておくが、それは逃げではなく決意の現われと思ってほしい」
「そんなに気にしてるんすか?
別にオレは誰かを恨んでいるとかじゃないんだから、もっと気軽にしていたらいいのに・・・」
この世界では卑しき大人達、自らの『正義』を掲げる神族、自分勝手な魔族の過激派達。
最高指導者も当初は直接出会い頭を下げるつもりであったが、万全を期したはずなのに横槍を許してしまった現状。
大元は絶ち被害はなかったが、自分達の甘さを痛感し謝る事でさえ今は資格が無いと知ったのだ。
それでも、横島にとってはそこまで責任を感じることはないと思っている。
「それも上にいる立場じゃからのう。
そなたを気に入っているからこそ、なおのこと申し訳ないのじゃろう。
それに・・・
いや、これは秘密じゃったな」
「い、いや、老師・・・
途中で切られたら益々気になるんすけど」
「ほれ、ゲートも開いたじゃろう。
続きはまた今度じゃ」
猿神の意味深な言葉を追求する前に、ゲートが現れタイミングを失ってしまう。
逆言えばタイミングが良すぎるので、最高指導者が見ているというのは可能性が高い。
しかしゲートが開いたという事は、もう時間であり本当にこの世界を去ることを意味する。
ゲートの前に横島達が並び、少々離れた場所で猿神と鬼門が立つ。
「それじゃ、色々世話になったっす」
「それもこちらの台詞じゃ。
必ずや、また帰って来い。
その時は小竜姫との子供も連れて来るといい」
「ろ、老師!!」
「フォッフォッフォッ」
猿神のからかい半分期待半分の言葉に、横島以上に小竜姫が真っ赤になり叫ぶがスルーである。
「さて・・・
これ以上は未練が残るだけじゃ。
もう、行くがよい。
また、会おう」
「はい!
それじゃ皆、行くぞ!!」
『はい!!』
横島の掛け声にルシオラ達も力強く頷き、全員ゲートへ飛び込む。
姿が見えなくりゲートはゆっくりと閉じていき、消えても彼等はしばしその場所から離れようとしなかった。
「帰ってきたー!!」
ゲートを潜り抜け、ネギ達の世界に戻ってきた横島達。
場所は行きと同様、エヴァのログハウスの近くの森の中。
荷物を置き、背伸びをしつつ叫ぶ明日菜だったが・・・
「あ、アスナさん!」
「何よ、ネギ?
あっ・・・」
ネギが咎めるような声に明日菜は何事かと思ったが、ネギと同じ場所を見るとすぐに分かった。
そこには無言でゲートが消えた箇所を見続けている横島とキヌ。
雰囲気からも、決して楽天的ではないことが窺える。
しかし横島はすぐに消し、キヌの肩に手を乗せて笑い掛ける。
キヌも一つ頷き、エヴァ達の方へ振り返る。
「皆さん。
改めて、よろしくお願いしますね」
「ああ。
オマエもしっかり仕込んでやるから覚悟しろ」
「望むところです」
エヴァの気遣い半分の素直でない言葉に、キヌも深く頭を下げる。
横島ももう一度だけゲートの消えた箇所を見やり、ネギ達に叫ぶ。
「さて、帰るか!!」
『オー!!』
こうして横島の里帰りは幕を閉じ、キヌにとっては新しい人生の始まり。
帰り道にネギの提案で、ハルナ・千雨・古・楓・朝倉・さよ。
さらに横島のアパートにいるであろうアリスを呼んで集合写真を撮ろうと提案した。
もちろん賛成し、それぞれ電話を掛けるネギ達。
その写真は横島の自宅にあるウェールズで撮ったモノや、修学旅行の写真が飾られている場所で、
元の世界で撮った写真、そしてホテルで撮った写真と共に飾られる事になるだろう。
ただ、今は・・・
「ゴメンなさい。
もう、いっそ殺してください」
「??」
アパートへアリスと共に戻った横島だがプライベートルーム・・・彼曰くの『お宝』がある部屋がきちんと整理されており、
ひとまずアリスへ土下座する選択しかなかった。
時は流れ・・・
10年、20年・・・50数年の年月が流れた。
「横島君とおキヌちゃんに出会って70年近く、二人と分かれて50年・・・か。
私もおばあちゃんになるわけね」
「美神、口調が昔に戻っているわよ」
「いいんじゃない、『最後』なんだから。
死ぬ前は饒舌になるとか言うけど、ホントねー」
「美神殿・・・」
『マスター』
美神除霊事務所にて、表側の英雄にして間違いなく鍵の一つであった令子が所長椅子にもたれるように座っていた。
長い年月が経ち、すでに年老い・・・それどころか、突如倒れ二日ほど意識が戻らなかったのだ。
「美神殿、お身体に障ります。
もう・・・」
「さっきも言ったでしょ、シロ。
令美達には悪いけど、今日の今が私の命日になるわ。
だったら、死に場所くらい選ばせて貰っても良いじゃない?」
そう・・・
目を覚ました令子は、命の灯が消えかかっていると察したのだ。
いや、寧ろそのまま消えていただろうが、彼女の強い意志が一時の生を与えたのだ
だからこそ周りの反対を押し切り事務所まで来て、シロとタマモしか入室を許さなかった。
「こうしていると、昔を思い出すわ。
ほとんどが横島君関係なのがシャクだけど」
「それほどアンタにとっては、大事な記憶なんでしょ。
最後くらい正直になりなさいよ」
「冗談。
そういうアンタ達はどうなの?
身体には慣れた?」
「まあね。
男共のナンパが鬱陶しい以外わね」
「拙者も問題ないでござる」
50年前とは違い、シロとタマモは少女ではなく大人の姿になっている。
シロはかつて自身にアルテミスを降臨させた時と同様の身長にスタイル。
タマモは前世が『金毛白面九尾の狐』・・・いや『傾国の美女』である為、シロ以上のスタイルで妖艶さを漂わせる絶世の美女。
これは二人が成長したのではなく、一月程前にある大事件で瀕死の重傷を負ったのだ。
そこで内心ではかなり惜しんだが、互いに文珠の首飾りを使い治療し一命を取り留めた。
半ば強大な霊力を吸収するようにシロとタマモが超回復し、大人の姿になってしまったのだ。
今まで視線の変化や感覚の違いに戸惑い、それもようやく慣れたが一気に増えたナンパが増えてしまった。
「・・・来ないわね、横島とおキヌちゃん。
霊感が働いて、帰ってくるかもとちょっと期待していたんだけど」
「世の中、そう都合はよくないわ」
ポツリと呟くタマモは、デスクに置かれてた一枚のカードを持ち上げ弄ぶ。
それは、50年前に令子が横島と交わした仮契約カード。
「ねえ、シロ。
アナタはどうするか、決めたの?」
令子の問いは、シロもタマモと同様に平行世界に行くかどうかという意味。
シロも内容を理解しており、一つ頷く。
「拙者もタマモと共に横島先生の下に参るでござる。
すでに長老には覚悟を伝えています」
「そっか・・・
胸のつっかえの一つは取れたか」
安心した令子はゆっくりと首に掛けてある双文珠の首飾りをデスクの上に置き、タマモも仮契約カードを側に置く。
そして深く息を一つ吐き、身体から力を抜き目を閉じる。
「シロ、タマモ、人口幽霊一号。
悪いけど先に入っているわ
後のこと、お願いね」
「・・・ええ。
また、皆で悪霊退治しましょう」
「さよならは言わないでござる」
『どうか安らかに、お眠りください』
「・・・横島君、待っていなさいよ」
その言葉を最後に令子の首がカクリと折り、身体から生気が消えた。
『・・・マスターの生命反応、停止。
死亡を確認しました』
種族を超えた・・・口には出さずとも家族に見送られ、美神令子の生涯に幕が下りた。
頭を下げ、もう二度と動かない彼女の表情が満足げであった。
シロは泣き叫び、タマモも流れる涙を堪えきれず上に向いて目を片手で覆う。
人口幽霊一号も激しい感情に囚われながらも、外で待機していたワルキューレを招き入れる。
「・・・逝ったか?」
ワルキューレに問われたタマモは、ただ頷く事で返す。
そしてワルキューレもベレー帽を少し下げ令子を弔う。
「では・・・
美神令子の遺言に従い、彼女の魂を回収する」
宣言したワルキューレは令子に右手の掌を向ける。
すると令子の遺体が輝き、球体の魂が抜け出る。
彼女の魂の輝きは、誰にも汚されないかのように強い。
「フッ・・・
全く、貴様らしいな」
その輝きにワルキューレは苦笑し、その光景に少し落ち着いたタマモが声を掛ける。
「どうなの、ワルキューレ?
美神はアイツの世界に転生できる?」
「それは分からん。
最高指導者様方も最善を尽くすが、最終的には宇宙意思が決める」
ワルキューレの任務は、令子の魂を回収し最高指導者の元へ届ける事。
そして彼等が平行世界に飛ばすのだ。
彼女の魂を狙う者が多い為、死神ではなく彼女自身が護衛を兼ねて回収するのだ。
「では、私も行く。
後は頼む」
「ええ」
「分かっているでござる」
『アナタが去った後、皆さんを招き入れます』
ワルキューレが事務所を後にしようとした瞬間『奇跡』が起こる。
「なにっ!?」
突如令子の魂が震え始め、さらに小さい光り輝く球体が削るかのように現れた。
さらに・・・
『霊力反応!
双文珠からです!』
人口幽霊一号の警告に双文珠を見ると、輝きが増していき『入/魂』の文字が刻まれた。
小さな球体は吸い込まれるかのように仮契約カードに溶け込み、一瞬目が開けないくらいの光が事務所を包む。
『霊力反応、消滅。
皆さん、もういいですよ』
目を庇っていた腕をゆっくりと降ろし、デスクに近づくタマモ。
そこには双文珠の首飾りがなくなっており、仮契約カードにも変化があった。
タマモが再びカードを手に取り、2人に見えやすいように掲げる。
「フフ・・・
美神らしわ」
以前までなら横島一人だけであったが、今は令子も追加されていた。
横島がこの世界にいた頃の若き日の姿、ボディコンにハイヒール。
右手には様々な種類の破魔札を扇状に広げ、左手には神通混を下向きで持っている。
唯一違うのは、その時代では精霊席のネックレスだったが、双文珠の首飾りに変わっていた。
そして横島は彼女の足元に倒れており、右足のハイヒール・・・しかも踵で頬を踏まれている。
その為、身体は正面だが顔は横向きで涙を流している。
横島のカードのはずだが、令子が乗っ取ったようである
さらに方位や徳性なども書かれており、称号も追加されていた。
「『永遠なる私の丁稚』・・・か。
人間の魂ではそう削ったり出来ないのだが・・・
さすが横島の師、常識外れも桁違いだな」
「そうね」
「せ、先生・・・」
ワルキューレの感嘆すらの言葉にタマモも相槌を打ち、シロは別の意味で涙を流す。
常識外れの奇跡の代償か、強力無比な双文珠も力を使い切り消滅したのだろう。
「さて・・・
美神も無茶をしたので、早めに届けたほうが良いだろう。
これで失礼する。
行くぞ、美神」
「・・・さようなら」
ワルキューレの言葉に頷くかのように、少し小さくなった令子の魂は彼女の周りで飛び回る。
そして窓から飛び出し、去っていく姿を二人は静かに見送った。
外でも彼女の冥福を祈る家族や親友達も同じであっただろう・・・
こうして、美神令子はこの世を去った。
彼女が横島のいる世界に生まれ変わる事が出来るのか、タマモが旅立った後の話は別の物語。
今はただ、彼女の願いが叶う事を祈ろう。
どうも、siroです。
大変、お待たせしまして申し訳ありません!!
仕事の忙しさやリアルな日々でも舞い込むトラブルに、ついに倒れてしまい病院行き(涙
しかも精密検査で異常が発見され、即手術(涙々
人生初の手術は、かなり緊張しましたよ。
その為、ここまで遅れに遅れてしまいました。
本当にすんませんでした(土下座
ようやく第八話も終え色々書きたいのですが、
容量オーバーで管理人様に無理を言って投稿させてもらったのでコメント等は省略します。
申し訳ありません。
シロ・タマモの超回復による身体の成長、横島の仮契約のカード。
ワルキューレが魂を回収できる、美神が魂を削れるなどは独自設定なのでご了承ください。
