「それじゃーな、横っち」
「銀ちゃんも元気でな」
横っちと最初で最後の機会の飲み明かした朝。
徹夜で飲んどったから二日酔いは覚悟してたんやけど、横っちの文珠とかいうので直してもうた。
便利やもんやな。
「おじさんもおばさんも元気で。
また、連絡します」
「ああ、待ってるよ」
「お仕事、頑張ってね」
「はい」
本心を言えば、まだまだ横っちと一緒にいたいんやけど撮りがある。
プロして蔑ろにする訳にはいかへんし、周りに迷惑を掛けてまう。
強いて言えば、最後の日に少しでも都合を付けることが出来るように努力するだけや。
「皆、俺から言わなくともええ事やけど・・・
横っちのこと、頼むな」
「ええ。
ヨコシマは私達が絶対幸せにするわ」
横っちの為に、それこそ自分の命を投げうったルシオラさん。
そしてエヴァンジェリンちゃん達も強く頷き返してくれる。
用事があってここにはおらへん神様の小竜姫様も同じ気持ちやろうな。
神族・魔族・妖・人の全てが横っちを想っとる。
ホンマ、モテるヤツやで。
あっ!
「せや!
最後に携帯で写真撮らへんか!?」
「ええー
男と写真なんて嫌やなー」
「そう言わんと頼むわ。
誰かに撮ってほしいんやけど」
「では、私が」
「そっか?
じゃ、頼むで」
名乗りを上げてくれた茶々丸ちゃんに携帯を投げ渡して、横っちと肩を組む。
なんだかんだ言いつつも、抵抗しないところが横っちらしいで。
こういうのも最後かと思うと、寂しいもんや。
「それでは、いきます」
「おお」
「ええで」
「では・・・」
この写真、俺の宝物や。
絶対忘れへんからな、横っち。
『GS美神+ネギま!』
「人魔と歩む者達」
第八話・英雄の帰還と別れ 8
横島が元の世界に戻ってきた日から四日が経ち、五日目となった。
昨夜訪れた銀一を見送った彼等は、そのままロビーにて小竜姫を待っていた。
彼女は早朝、妙神山へ戻った。
何か問題があったのではなく、元々の予定であり『ある人物』を迎えに行ったのだ。
大樹達はすでに仕事に向かっており、『明日を楽しみにな』と張り切っていた。
「・・・遅いな。
大丈夫なのか?」
「心配ないって。
特に問題があるとか難しいものじゃないし、距離があるからこれくらいは掛かるさ。
『アイツ』も小竜姫様相手なら、大人しくしているだろうし」
「アイツ?」
待たせるのは良いが待つのが嫌いなエヴァが文句を言い、横島も宥める。
彼女の『力』を使って飛べばそれこそあっという間だろうが、人間と同じ交通手段ならもうそろそろな時間である。
木乃香達には『今日一日、デジャヴーランドで遊び倒す』と伝えており、思い思いに楽しみにしていた。
その中で『アイツ』という言葉が引っ掛かり、訊ねようとするが『ある声』に遮られた。
「すみません、お待たせしました」
もちろん、その声の主は小竜姫。
だが、小走りで彼等に近づくのは彼女一人だけではない。
「久しぶりだな、横島」
「相変わらず偉そうな態度だな、天竜」
「うるさい!
余はこの話し方しか知らぬ!」
「分かってるって。
久しぶり」
「うむ!」
竜神族の長・竜神王の息子である天竜であった・・・
「ほほう・・・
そなた達の世界も楽しそうだな」
「うん!
教師のお仕事や魔法使いの修行も大変だけど、皆さんは優しいし楽しいよ」
「殿下もネギ君を見習ってください。
いつも、勉強から逃げていないで」
「うっ・・・」
平日の中途半端な時間なためか、乗客は少ない電車の中で話し込むネギと天竜。
その周りには明日菜達が座り、向かい側には大人である横島達が寛いでいる。
ネギの世界や私生活を聞き、楽しそうだと天竜は語るが小竜姫に突っ込まれて口ごもってしまう。
天竜も以前のような服装ではなく、小竜姫が用意したネギを参考にした服を持参した物を着ているので目立たない。
竜神族である証の角も、念のため二人とも見えなくしている。
今回はお忍びであり、目立たないことに越したことはないからだ。
「でも、良かったんすか?
天竜を連れて来て」
昔のようにメドーサのような刺客に襲われる可能性は低いだろうが、
微妙な立場にいる自分の側にいて大丈夫なのかとの意味を込めての問いかける横島。
「はい、もちろんです。
殿下の降臨は竜神王様もお認めになられていますし、念を押しています」
「そうっすか」
その意味を深く理解してなお、小竜姫は太鼓判を押す。
横島が帰還した二日目に囚われた者達はほとんどが下級、中級はその中でも少数といった程度。
逆に理解ある中級以上・・・上級、それ以上を含んだ者達は横島に深い感謝と謝罪の気持ちを持っていた。
特に竜神王は息子から彼の話を聞いており、尚且つ小竜姫の想い人である。
立場と状況が許すなら、直接会ってみたいと考えるほどだ。
「あっ・・・
そろそろ着くそうですね」
「おっと・・・
おーい!
そろそろ降りるから、準備して置けよー」
『はーい!』
電車内に流れるアナウンスに目的の駅に着く頃だとネカネが伝え、横島がネギ達に呼びかける。
こうして、彼等は日本有数のテーマパーク『デジャヴーランド』へ到着した。
『うわー!!』
チケットを購入し中に入ったネギ達は、その賑やかさとスケールの大きさに歓声を上げる。
さすがに此処では平日でも客は多く、溢れんばかりである。
「美神さんに感謝だな。
さすがに親父達に金を借りるのもアレだし・・・」
入場料のみならず一日フリーパス購入し、その負担は当然横島が持った。
今まで自分の都合に合わせてもらったお礼というわけではないが、今日一日羽を延ばしてもらおうと考えていた。
天竜や自分の分を含めると合計14人分となり、少々値が張る金額だったが美神から貰った報酬で問題なく払えた。
昔、入場券をクジで当てた小鳩に誘われた時に比べればかなりの差であろう。
ちなみにカモとチャチャゼロだが、カモは荷物の鞄の中に隠れ、
チャチャゼロは見たままの少し怖い人形としてエヴァが持ち問題なく入場できた。
「さて・・・
皆にも一応金を渡しておくから、問題があったり土産なんかがほしかったら使ってくれ」
「そ、そんなっ!
私達も学生とはいえ、それくらいの持ち合わせはあります!
入場券とフリーパスまで払っていただいたのに、これ以上ご迷惑を掛けるわけにはっ!」
さらに横島は財布から念のためにと少し多めに二万円ずつ渡そうとするが、刹那が慌てながら断る。
その言葉に明日菜達はもちろん、バイトとはいえ収入を持つネカネも賛同する。
天竜とエヴァは貰う気満々だったが。
天竜は暢気だっただけだが、エヴァにはその理由が分かっていた。
「気にするなって。
実は明日菜ちゃん達の持つ金はちょっと問題があるんだ」
『問題?』
もちろん横島も理解しており、首を傾げるネギ達に事情を説明する。
「ああ。
小銭はともかく、札はナンバーが載ってあるだろ?
確率は低いが、もしここで同じナンバーの札があったら面倒になる」
「あっ・・・」
横島の説明に、明日菜達も問題点に気付く。
確かに可能性は低いがゼロではない。
実際、横島も令子からの報酬がなければ両親に頭を下げるつもりだったのだ。
30歳過ぎの大人が両親に金を強請るという、情けない事をせずに出来て胸を撫で下ろしていた。
「無用なトラブルは、出来るだけ避けるに越したことはない。
お前達も受け取っておけ。
それでも気にするなら、元の世界に返ったときに使った分を返せば良い」
「・・・分かりました。
必ずお返しします」
「別に良いって」
さらにエヴァの助け舟の言葉に、彼女達も自分を無理やり納得させ受け取る。
もし返そうとしても、横島は絶対に受け取らないと予測できるからだ。
ちなみに、ネギはもちろん当然とばかりに手を出す天竜にも渡す。
モテる美形やある程度以上の男には一銭も渡さない横島だが、弟分であるネギにそれに近い天竜には問題はない。
「さてっ!
準備も整ったことだし、遊ぶか!」
『おー!』
注意事項も伝え準備が終え、入場時に渡されたパンフレットを広げ話し合うエヴァ達。
横島は何処でも付き合うつもりなので輪には入らず、少し離れて決まるまで待っていた。
そんな彼に、ある意味『お約束』が襲った。
『ああっ!
なに、勝手に抜け出してんだよ!』
「は?」
ある男性・・・服装からデジャヴーランドの作業員であろう人物が、横島の手を掴み何処かへ連れて行こうとする。
15年前にも同じような流れに、嫌な展開が思い浮かぶ横島。
「俺は本物だって!」
「はいはい。
アニマトロニクスはそう言うんだって。
全く、オマエが出てくるとGS協会から文句を言われるからな。
おーい、手伝ってくれー」
『うっす!』
横島の正当な訴えを作業員は軽く流し、数人掛りで問答無用で担ぎ運んでいく。
その中にある意味深な言葉にも気付かず、横島はルシオラたちに助けを求める。
だが・・・
「ぎゃー!!
ルシオラ、小竜姫様ー!!
って、気付いてないー!!」
彼女達はいまだ相談中で事態に気付かない。
内心では天竜同様楽しみにしていた小竜姫、感情を持ち楽しむという事を知った茶々丸でさえ。
彼女達も良い意味でも、悪い意味でも変わったものである。
そして、横島が連行されて数分後・・・
「ン?
オーイ、御主人。
横島ノヤツ、何処ニモイナイミタイダゼ」
『はっ?』
最初に気付いたのは、エヴァの腕の中で待ち疲れ周りを見回したチャチャゼロ。
その言葉に一同は顔を上げるが、当然横島の姿はない。
『ええーっ!?』
今更ながら、慌てる彼女達であった・・・
「この度の件、本当に申し訳ありませんでした!」
『すみませんでした!!』
「そ、そこまで謝られると、こちらも恐縮しちまうんだが・・・」
その後、地下の整備室に囚われの身(?)となった横島だが、社長を伴って来たエヴァ達によって助けられた。
当初は茶々丸のセンサーで横島の所在は分かったのだが、
関係者以外立ち入り禁止とスタッフに通せんぼされ入ることは出来なかった。
そこで小竜姫は令子に連絡を取って事情を説明し、社長経由で出してもらうようにと考えたのだ。
電話に出た令子は大きく笑つつ了承し、帰りに横島一人で事務所に寄ってほしいと伝言を頼んだ。
しばらく地下の出入り口前で待機していると15年前と同じ社長自ら走って来て、無事横島は救助される。
現在は社長室にて、社長本人と作業員全員から謝罪され頭を下げられている最中である。
横島も文句を言いたかったが、先にここまで謝罪されるともう何も言えなかった。
「まさか、ご本人が来ていただけるとは思わず・・・
それに15年前と変わらないお姿なので、勘違いしてしまうのも無理はないかと」
「ほう?
それは私達も原因があると言いたいのか?」
「い、いえっ!
滅相もない!」
「いや、エヴァちゃん。
皆が先に気付いてくれたら、ここまでややこしい事にならずに済んだんだが・・・」
「うっ」
逆にこの状況を出されたコーヒーを啜りながら面白く社長を弄るエヴァだったが、逆に横島の突っ込まれてしまう。
木乃香達も反省しているが、特にヒドイのは・・・
「しょ、小竜姫様も気にしないで。
こういう事はよくあるから」
「そ、そうですよ。
私達も同じなのですから」
横島と天竜の護衛役も兼ねている、部屋の端の壁に額をつけて落ち込んでいる小竜姫だった。
刺客や過激派に襲われる可能性は低いが、気を抜いてはいけないところでこの失態。
ルシオラとネカネが必死に励ますが、中々立ち直れない様子だ。
「なあ、社長。
一つ良いか?」
「はい。
構いませんが、何か?」
横島は謝罪を受け入れ、作業員が退室し落ち着いた後・・・
彼は前から気になっていた疑問を社長にぶつける。
「作業員達が運ばれる時に言ってたんだが、俺のアニマトロニクスが出てきたらGS協会から文句を言われるとか何とか・・・
どういうことだ?」
「そのことですか。
本人を前にして語るには、少々伝えづらい話なのですが」
「構わんって。
話してくれ」
「・・・分かりました」
社長の前置きと確認に横島は頷き、事情が語られる。
木乃香達は元より、落ち込んでいた小竜姫も席に着いて真剣な表情で見守っていた。
「横島さんはご存知だと思いますが、我がデジャヴーランドのアトラクションの一つ。
『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』というものがあります」
「あれからトラブルはないか?」
「ええ。
美神さんが定期的にチェックしていただいていますので。
人気ぶりと今の時代として、メダルの引き上げを提案されましたが・・・」
「・・・さすが美神さん。
ちゃっかりしてるなー」(汗
油断も隙もない令子に横島は思わず苦笑する。
社長も同じ気持ちだったのだが、表情には出さず話を続ける。
「アトラクションが正式にオープンしてから、しばらくして後のことです。
GS協会の幹部と名乗る方が訪れ、横島さんのアニマトルニクスを撤去するように言ってきたのです」
「予想はしていたが、こうも考えたとおりだと呆れも通り越すな」
「こういうのも私の口からでは言いにくいですが、このデジャブーランドは巨大企業です。
GS協会の一幹部程度なら跳ね除けることは出来ますが、政府も絡み共同で仕掛けられますと・・・」
横島の存在を出来うる限り世間に広めたくないGS協会が、行方不明になった後に圧力を掛けてきたのだ。
さらにそのときの対応も知られたくない政府もGS協会と組んでまで。
巨大とはいえ、一企業でしかない彼等にとってあまりに不利だった。
「私は美神さんに連絡を取り、事の次第を伝えました。
その後、彼女が協会に掛け合ったそうですが結果はご存知の通り・・・
タマモさんとシロさんのアニマトロニクスを追加し、横島さんのアニマトロニクスは撤去せざるを得ませんでした。
ただ、いつでも出せるようにと美神さんから言われていました」
「美神さん・・・」
GS協会に乗り込んだ詳細は令子は誰にも語ろうとしないが、その数日間はかなり荒れていた。
その気遣いと、見えにくい優しさに横島は内心で感謝した。
「なるほど。
GS協会と政府から目を付けられていた忠夫本人が訪れるとは思わず、アニマトロニクスと勘違いしたわけか」
「いえ。
この事情は私と上層部しか知りません。
詳細は知らず、ただ勘違いしただけでしょう。
本当に申し訳ありませんでした。」
エヴァの予測を少々正し、再び頭を下げる社長。
この話を聞き、ここでも横島を邪魔者扱いにする者達の影に木乃香達は表情を暗くする。
特に天竜は、人間界での横島の扱いに怒りすらも感じていた。
小竜姫が視線で抑えていなければ、大声を出していただろう。
その気配を察した社長は、明るく励ますように別の本題を切り出す。
「皆様にはそのような顔は似合いません。
私どもは横島さんを含め、皆様をお客様として歓迎いたします。
ご迷惑を掛けたお詫びとして、一日フリーパスの代金の返還。
さらにVIPフリーパスにお変えしましょう」
「いいのか?」
「もちろんです。
今日は心ゆくまでお楽しみください」
『ありがとうございます!』
お詫びという謝罪以上に気遣いに、ネギ達は元気よく礼を言う。
当初からかなり予定が狂ったが、ようやく横島達はデジャヴーランド回りが始まった。
最初のお目当ては、先ほど話にも出た美神監修『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』
来客からも人気も高く、今ではデジャヴーランドを代表するアトラクションの一つである。
そのためにかなりの人数が並んでいたが、VIPフリーパスの効果で並ばずに入ることが出来た。
だが・・・
『少々、人数が多いようですね。
最低でも二つに分かれてほしいのですが』
規定では一グループ10人となっているので、14人は確かにオーバーしている。
相談の結果・・・
「行くぞ、ネギ!」
「う、うん。
そ、それじゃ、お先に行かせてもらいますね」
「何が出るやら」
「後でねー」
「す、すみません」
「失礼します」
トップは自分だと強く最初を希望した天竜、そして付き合わされたネギに肩に乗っているカモ。
ネギが行くならばとのどかも参加し、明日菜もやれやれと軽く手を上げて共に行った。
天竜の保護者兼護衛の立場にある小竜姫の5人プラス一匹が先手となった。
しばらくして横島達の番となり、スタッフの誘導に従う。
「楽しみやなー」
「刹那さん。
一応注意しておきますが、過剰反応して備品を壊さないで下さいね」
「き、気をつけます」
「ま、まあ、気にせずに楽しもう」
「そうです」
「ようやく私達の番か・・・」
「待つのがイヤだったら、ネギ達と一緒に行けばよかったじゃないか」
「ヨコシマ。
それ以上の言葉は無粋よ。
ね、茶々丸ちゃん?」
「はい」
二番手は小竜姫を抜いた横島メンバー。
木乃香はワクワクし、刹那はネカネからの忠告に言葉がつまりアキラと夕映にフォローされる。
多少とはいえ待つのが嫌いなエヴァが文句を言うと、横島が『先に行けば良かっただろ』と口にするがルシオラに逆に注意された。
茶々丸もルシオラの意見を肯定し、スタッフがいるので声が出せずとも笑っている雰囲気があるチャチャゼロだった。
暗闇の通路を歩いていた横島達だがある扉の前で立ち止まり、スタッフがドアノブを握る。
「それでは、『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』!
行ってらっしゃいませ!」
掛け声と共にスタッフは扉を開き、彼等を中に誘導すると外から扉を閉める。
もちろん、中は美神除霊事務所の部屋であり・・・
『あっ、こんにちわ!
美神除霊事務所へようこそ!』
「うわー!
懐かしいなー」
所員であるキヌのアニマトロニクス(今後、省略してキヌ・ニクスと表記)が出迎えた。
以前と同様に幽霊時代のモノであり、横島の胸に懐かしさが込み上げた。
そして囚われの身となった若い頃の令子の映像がスクリーンに表示され、ストーリーが流れる。
『拙者達では少々力不足でござる!
そなた達の力を貸してくだされ!』
『もちろん、嫌とは言わないわよね?』
以前は横島のアニマトロニクスが出てきたドアから、
シロとタマモのアニマトロニクス(こちらもシロ・ニクス、タマモ・ニクスと表記)が入ってきた。
「ほう・・・
少々不恰好な部分もあるが、よく出来ているではないか」
『人形遣い<ドール・マスター>』の異名を持つエヴァ。
アリアを初めとし、その出来栄えに比べれば質は落ちるだろうがそれなり高評価をする。
そしてキヌ・ニクスの誘導に従い、二体が出てきたドアを潜ると洋風の路地が広がっており・・・
「おっ」
「むっ」
『皆、離れるでござる!!』
『悪霊退散!!』
目の前を低級霊を仕込んだ機械が通り過ぎ、シロ・ニクスが注意しタマモ・ニクスが破魔札もどきで退ける。
本来ならばシロは霊波刀・タマモは狐火だが、一般人にとっては札のほうが分かりやすいだろう。
しかし、横島やエヴァが気になったのは別の仕掛けだった。
「今のが霊力を吸収する結界か・・・」
「人間用のな。
茶々丸ちゃんとチャチャゼロは大丈夫か?」
「はい。
特に問題はありません」
「俺モナ」
仕掛けの一つである霊力を吸収する結界。
真祖の吸血鬼であるエヴァは問題はなく、横島は念のために茶々丸たちに変化はないかと訊ねる。
「ひゃー
背筋がゾクッとしたわー
なっ、せっちゃん?」
「は、はい。
実際は影響も出ない低級霊らしいですが、私でさえこれほど強大に感じるとは・・・」
「あの感覚が霊感なのですね。
やはり、可能なら私達も霊的修行を受けるべきですか・・・」
「それは薦めないわ、夕映さん。
魔法に関してもまだ見習いなんだし、まずはそこを集中する事」
「それに霊力は私達の世界では未知の力。
例え弱く・・・運がよく才能があっても、もし使ってしまえば自分はもちろん、忠夫さんに迷惑を掛けるわ」
「そうですか」
木乃香は結界による悪寒に両手で自分の身体を抱きしめるようにして擦り、刹那は超以来の戦慄に驚いていた。
ちなみにその大きな戦慄から、全力の氣で機材を破壊しようとし耐えた彼女だけの秘密である。
もし忠告を受けていなければ、どうなっていたか・・・
半袖から見えるトリハダが立った腕を見やりつつ霊力を身に付けた方が良いかと思案する夕映だったが、
ルシオラとネカネに否定される。
夕映と同じ気持ちだったアキラも話を聞き、残念そうだった。
「ちなみにだな、忠夫、ルシオラ。
この結界は二人にも有効なのか?」
「俺は多少と言ったところかな。
老師の修行の中に同じような内容があって・・・結界はこれ以上だぞ?
その中で散々シゴかれたからなー
今じゃ慣れて、この程度じゃほとんど問題ないな」
「私は関係ないわよ。
これはあくまで人間用だから」
猿神の修行でこの手の結界にも『慣れさせられた』横島、魔族であるルシオラには特に効果はなかった。
15年前にもタマモがあるトラブルで霊力を使ったことから、それほど強力なものではないのだろう。
逆に言えば、遊園地のアトラクションの一つでそこまでする必要もない。
『さあ、ここから地下へ入りましょう』
飛び交う悪霊の仕掛けの中をシロ・ニクスとタマモ・ニクスが退治しつつ町を歩き、さらに地下へ誘導される。
当初は結界による悪寒に驚いていたが、今ではある程度慣れて余裕を持ちつつ階段を降りる。
「前はミイラ化したようなエミさんの人形が襲い掛かってきたなー
一応、壁に触れないようにな」
「何を言う?
こういう時は楽しまなくては損ではないか」
エミの人形に襲いかかれたのは昔の低級霊が融合し自己を持ったボスの仕業であり、そのような予定はなかった。
それを知らない横島が彼女達に注意するが、エヴァが逆に階段を下りながら壁をペチペチ叩く。
彼女らしい行動に横島は苦笑し先頭を譲り、何かあれば対処可能のするため木乃香達の側による。
だが実際には何も起こらず降りきると、着いた先は墓場。
多少慣れたとはいえ結界のよる悪寒と、その雰囲気に余裕が消えた木乃香達は身構える。
そして・・・
『皆さん、気をつけて!』
『下でござる!』
二体の警告と共に、墓の下からミイラのような物体達が横島達を取り囲むように現れる。
以前なら上半身のみだったが、改良されたのか今では足を含んだ下半身も付けられていた。
さらにいかにも的な音楽と共に、ボスである悪魔・アストラル登場。
ミイラもボスも電力供給のケーブルが付けられている。
『ほらっ!
恥ずかしがらずに手を翳して!』
「こ、こうかー?」
『そう!
それで念を込めるの!!』
「念って何なん?」
『要は気合を込めるの!』
「えっと・・・
う〜ん!!」
タマモ・ニクスが木乃香の手を掴んで体勢・・・いや、ポーズを整える。
一般人ならば照れもあるだろうが、彼女達は魔法の修行で若干コミカルな魔法の杖を使ったり、何度も詠唱も唱えている。
この程度では周りが仲間のみなら問題はなく、ノリに乗って指示に従った彼女達だった。
その後、アトラクションを堪能しネギ達と合流した横島達。
話に聞くところ、低級霊の悪霊もどきが出た時に小竜姫は攻撃しようとして明日菜が身体を張って止めたらしい。
先程の横島を連れて行かれるのに気付かなかった不祥事に気合を入れすぎていたらしい。
その話を聞き、刹那はやはり留まってよかったと自分の精神力を高く評価した。
次に訪れたのは迷路。
もちろんただの迷路ではなく、霊的技術が使われている。
「なになに・・・
『この迷宮は霊感の強さが左右されます。
初めての方でも、もし強い霊感をお持ちなら短時間でクリアできます。
逆に低ければ時間が掛かるでしょう。
あなたもGSの才能があるか、試して見ましょう!
なお、GSやその関係者の方はお断りはしていませんが、苦情などは受け付けませんのでご了承ください』
・・・か」
「今の人間界は霊的技術も進歩していますが、発想も凄いですね。
このような使い方、私達では思いもつきませんよ」
「小竜姫様じゃ意味ないからね。
あっ!
私が小竜姫様に効果があるようなモノを作ってあげようかしら?」
「・・・少なくとも、人間は出られそうにないモノになりそうだな」
横島が備え付けられている看板を読みあげ、小竜姫はその使いように感心していた。
その言葉に発明家としてプライドと好奇心を刺激されたルシオラが提案し、エヴァが少々口元が引き攣りながら突っ込む。
木乃香達はというと、説明看板の横に備え付けられているタイム表に釘付けだった。
「た、忠夫さん!!
では好タイムを出すほどほど、霊能力の才能があるということですか!?」
「あ、ああ・・・
言い分ではそうなるかな。
でも、かなり大まかだぞ。
GS試験の一次予選みたいにマイト数を測定するものじゃないし、言葉通り遊び半分だな」
「ですが、一つの目安にはなるのですね!?」
「ま、まーなー」
タイム表には時間帯によりランク付けされており、S〜Fまであった。
特に興奮気味な夕映に詰め寄られ、若干後ずさりながら答える横島。
つい先程、ネギ達の世界で霊力を使う危険性を問われたが才能があるに越したことはない。
だからこそ興味があり、特に気合が入っているのは夕映やアキラなど魔法を学び始めた者達。
「おっ?
『ただし、小学生以下の方は保護者同伴のこと』か。
子供が入って迷子になると抜け出せなくなると大変だからなー」
「なにっ!?
で、では余はどうなる!?
700歳は超えているのだぞ!!」
「見た目と性格でアウトだろうなー
ここは大人しく従っておけ。
それとも、天竜はパスか?」
「むむっ・・・」
神族である天竜は10歳などさらに倍に足しても足らないほどだが、スタッフに話しても信じてもらえないだろう。
逆にもし信じられれば騒ぎとなるため、横島が行くか諦めるかの二者択一を天竜に迫る。
結局、天竜には小竜姫が、ネギにはネカネが共にする事と決まった。
他は自身の霊力の才能を試したいため、一人ずつ入る。
エヴァに関してはスタッフと少々揉めたが、その女王様的な性格で『ぎりぎり』中学生と認められた。
天竜では決して認められないだろう。
「では、行くぞ!」
「頑張ってなー」
今回は不参加な横島は気合充分なエヴァ達の背中を見送り、外で待つ。
その間に、女性にナンパする気満々な彼だった。
その結果・・・
「どうじゃ、横島!
余が一番だぞ!」
「クッ・・・」
「??
どうかしましたか、忠夫さん?」
「い、いえ・・・
なんでもないっす」(泣
一番はメンバーの中でも、表示されているランキングでもトップとなった天竜。
彼は入るとすぐにダッシュで一目散にゴールを目指し、横島の元へ得意げに戻ってきた。
順番も最初だった為に本当にすぐに戻ってきたので、ナンパが出来ず終いの横島だった。
「ふむ・・・
こんなものだろう」
「おっ?
悔しくないか?」
「この程度で一々腹は立てん。
霊的技術を体験するのが目的だったからな」
二位はエヴァ。
真祖の吸血鬼である彼女は、霊力を知らずとも抵抗力は備わっているので早かった。
彼女の腕の中にいるチャチャゼロも体験し、満足気だった。
「三位は茶々丸ちゃんかー」
「データを検証し、ゴールまでのルートを予測しました」
「・・・それ、反則だって」
「そうでしょうか?」
三位だった茶々丸だったが、霊能など関係なくハイスペックな科学技術を使い道順を予測してゴールしたのだ。
ガイノイドなのだから霊能力などなく、仕方ないかもしれないが反則気味な手段に横島は力なく突っ込んだ。
「四位・・・か。
忠夫さんはどう思いますか?」
「トップ三人が例外なだけさ。
初心者じゃほとんど出ないタイムみたいだし、マジで才能があるかもしれないな。
どう思います、小竜姫様?」
「可能性はあるでしょうね。
霊能の修行を行ってみないとわかりませんが、出来ない事が残念なほどです」
「ほ、本当ですか!?
よかった」
意外にも4位に入ったアキラ。
走らず少々緊張気味だったが迷わずゴールした彼女の結果に、横島と小竜姫は本当に霊能力があるのではと語る。
状況的に霊的修行は受けられないが、一つの可能性を得たアキラは嬉しそうに微笑んだ。
「あの感覚が霊感ですか・・・
先程の悪寒とはまた違うモノですね」
「刹那ちゃんも潜在的に、ある程度霊力を持っていると思うからなー」
「氣をメインにして戦う彼女は、その勘が霊力の感覚に惑わされた・・・というところですか」
半妖である刹那もエヴァ同様にある程度霊力を持っているだろうが、逆にその感覚に振り回されて四位止まり。
これにしても、もし本格的に学べばすぐに解決されるだろう。
「おもしろかったなー
もう一回入らへん?」
「そんなに気に入ったのかい、木乃香ちゃん?」
「うん!
こう・・・なんて言うんかなー
感覚というか、雰囲気というか・・・
そういうのが気に入ってん!」
「これは、木乃香ちゃんには霊力の才能もある・・・ということすっか?」
「・・・おそらく。
魔力に続き、霊力までとは・・・
恐るべき才能です」
純粋に楽しんでいた5位の木乃香だが、隠れた才能に内心で驚愕する横島と小竜姫。
楽しかったと笑うこの少女に秘められた力は、一体どれほどのものだろう。
「わ、私が6位・・・ですか?
本当にこのタイムなんですね?」
「ああ。
嘘でも間違いでもないって」
「のどかさんは魔法の習得では延び悩んでいましたが、もしかしたら霊能力の方が合っているかもしれませんね」
メンバーの中では6位だが、タイムのランクでは中の上な好成績を出したのどか。
何度も目を擦ったり、自身のタイムが書かれた紙を確認する彼女。
魔法を勉強し、仕組みや理論は理解しているが習得には今一つで自信が持てなかったので喜びも一押し。
「別れ道になるたびにお姉ちゃんと相談したけど、同意見だったり分かれたりしていたよね」
「ええ。
正解率はそれほど高くなかったと思うわ」
二人一緒に迷宮に入ったネギとネカネ。
分かれ道になるたびに相談しあうが、意見も分かれることもしばしば。
その時は交互に従い選んできたが、相談の時間をもあり7位の結果となる。
正解率は互いに五分五分と言った程度であり、霊能力の才能があるかと訊かれると微妙だろう。
「・・・」
「ゆ、夕映ちゃん。
そんなにガッカリしないでくれ」
「期待が大きかった分、ショックも強いのでしょう。
そっとしておいてあげましょう」
8位だった夕映だが、7位のネカネ&ネギとは大きく離れ一番下のランクとなった。
霊感が働かなく焦りを呼び、ゴール出来るだけでも偶然に近いと彼女自身も理解している。
だからこそ椅子に腰掛け、ただひたすら落ち込んでいた。
「どうしてそんなに時間が掛かったんだ?
ルシオラ」
「もちろん、中を見学していたからよ。
本当に時間に余裕があったら、エヴァちゃんのレーベンスシュルト城で作ろうかしら」
「別に構わんが、何度も利用するモノではないだろ?」
「大丈夫!
他にもアイデアはたくさんあるわ!」
「・・・別の意味で不安が生まれたぞ。
大丈夫なのか、忠夫?」
「・・・この手に関しては、保証できないところがアイツだからなー」
魔族であるルシオラはその気になればすぐにゴール出来るのだが、彼女の目的は『見学』である。
その仕組みや効果を実体験し、脳裏には更なるアイデアを膨らませていた。
確かにエヴァの別荘や城ならば秘密裏に利用出来るだろうが、やけにテンションの高いルシオラに逆に不安になるエヴァだった。
そして、最後は・・・
「ぬ、抜け出せなかった・・・
しかも、周りに周ってスタート地点に戻るし」(泣
「あ、アスナさん・・・
元気を出してください!」
予想していた人もいるだろう、最下位は明日菜。
しかも中で迷子状態になり抜け出せなく長い時間さ迷い、ドアを見つけ半泣きで駆け寄るとそこはスタート地点。
必死に営業スマイルを浮かべ笑いを堪えようとし逆に可笑しな表情になっているスタッフに、
明日菜は小さい声でギブアップを宣言。
タイムは測定不能、ランクは対象外となる。
久しぶりにオチ担当となった彼女だった。
「なりたくてなったわけじゃないわよー!!」(絶叫
その後も、霊的技術を施されているものから通常のアトラクションまで堪能した横島達。
楽しい時間はすぐに流れ、空はオレンジ色に染まっていた。
それは終わりの時間を意味し、天竜も妙神山へ戻らなくてはならなく、
デジャヴーランド前で止まる駅で横島達は天竜と別れることとなる。
「では・・・な、ネギ。
そなたとはもう会えんだろうが、決して忘れぬぞ」
「僕もだよ、天竜君」
異世界の英雄の息子と竜神王の息子は固い握手を交わす。
そして、天竜は次に横島へ視線を向ける。
「横島。
そなたの微妙な立場は我等が原因だ。
すまなかった」
「気にするなって。
少なくとも天竜が悪いんじゃないんだからな」
天竜の心からの謝罪を、横島は軽く受け止める。
しかし、天竜の話は続く。
「複雑な事情が絡まった結果だが、我等と同様の寿命を持ったのだ。
だから・・・な。
いつか、この世界に必ず戻って来い!
何百年、何千年掛かろうが余がそなたの場所を作ってやる!
それまで待っていろ!」
自らの決意と願いを語る天竜。
その目には強い輝きを持ち、未熟ながらも上に立つ威厳を醸し出す。
天竜の護衛であり妙神山まで送り届ける小竜姫は、その言葉に『成長しましたね、殿下』と感無量だった。
そして横島は・・・
「・・・ああ、待ってるぞ。
出来たら、早めに頼む」
「う、うむっ!
任せておけ!」
深く微笑みながら手を差し出し、天竜と握手を交わす。
人魔と未来の竜神王の誓いは成され、再び別れる。
その願いが叶うかどうかは、それこそ神のみぞ知る・・・
「うーっす!
美神さん、来ましたよー!」
「いらっしゃい、横島君」
「よ、横島さん・・・」
「ん?
どうかした、おキヌちゃん?」
「い、いえ・・・」
「??」
小竜姫が令子から預かった伝言どおり、途中の駅で降り事務所に寄った横島。
部屋にはいつもの椅子に座り書類の整理をしている令子に、ソファーで何故か緊張し身を固くしているキヌの二人がいた。
令子はともかく、キヌのよそよそしい態度に横島は首を傾げるが、一先ず呼び出した用件を訊ねることにする。
「それで、用件はなんっすか?」
「私もそうだけど、おキヌちゃんもアンタに用事があるのよ。
まずは私からで・・・
はい、これをエヴァンジェリンに渡しておいて」
「??
なんっすか、これ?」
二人ともそれぞれ別件で横島に用件があると伝え、まずは令子が先。
椅子の側にあったアタッシュケースを差し出す。
当然心当たりがない横島は首をかしげ、視線で開けて良いかと問いかけ令子も頷く。
鍵は掛けられておらず、留め金を外しケースを開けると・・・
「糸?
いや、霊糸っすか?」
「ええ。
それも最高級の精霊石を、これでもかっていうくらいに砕いて編んだ物。
石の数は聞かないほうが良いわよー」
「うへー
エヴァちゃんもとんでもない依頼をしたもんだ」
中には束ねられた糸が二つが入っており、若干の光を放っている。
それらを眺めつつ、令子からの詳細に口元が若干引き攣る横島。
レーベンスシュルト城の中で、エヴァが横島と手合わせした時に見せた戦術の中で糸を利用するものもあるので納得はする。
それでもこの世界で、さらにこれほどの上等物を令子に依頼したことに納得半分呆れ半分だった。
「大変だったのよ。
昨日一昨日でこれほどのものを作らせるのは」
「でしょうねー
でも、報酬はどうしたんっすか?
無料で動いたんじゃないんでしょ」
「当然。
私がエヴァンジェリン達を呼び出したときに、彼女が・・・
正確に言えば茶々丸が持って来ていたバッグを覚えているかしら?
その中にあった、歴史的価値がある骨董品を報酬代わりに貰ったのよ。
さらに言えば魔法とやらの関係品はなったらしいけど、霊的にも価値がありそうなのを彼女が見繕ったようでそれも貰ったわ」
「へー」
その報酬を目のあたりにした令子は、エヴァの依頼を二つ返事で了承した。
ピンハネしようかと考えないでもなかったが、エヴァが『一流のGSとして、よろしく頼むぞ』と釘を刺された。
自身の文句・・・守銭奴などは言われ慣れているが、GSとしてのプライドを楯にされると手を出すわけには行かなかった。
だが、コネを持つザンス国に最高級の精霊石を大量に注文した時に交渉で付加価値を付けさせ、それらは令子の懐に入った。
「他にも色々あるけど、先におキヌちゃんの話を聞いてあげて。
私はシロ達と一緒に屋根裏部屋にいるから、終わったら呼んでちょうだい。
ずっと緊張して待っているのも可哀想だし・・・ね」
「み、美神さん!?」
「?」
一先ずの要件を済ませた令子は席を立ち、キヌの肩をポンポンと軽く叩いてから部屋を後にする。
残った者のは、互いのソファーに座って向かい合う横島とキヌのみ。
いまだ状況が掴めない横島だが、
この15年で見間違えるほどの大人の雰囲気を持つキヌがソワソワと落ち着きのない態度に逆に昔を思い出し苦笑する。
そして、一度時間を空けた方が良いと判断しある提案を持ちかける。
「まあまあ。
どんな話かは知らないけど、お茶でも飲んで落ち着こうか?
なんだったら、俺が淹れてあげても良いぞ」
「えっ?
横島さんが?」
「エヴァちゃんにダメだしされて鍛えられてなー
今じゃ、ちょっとした自信があるんだぞ」
「そ、それじゃ、お願いしても良いですか?」
「OK。
ちょっと待っててくれ」
「あっ・・・
横島さん」
「ん?」
「・・・ありがとうございます」
「気にしなさんなって」
キヌも横島の心遣いを察しており、この日初めての笑顔を彼に向けて感謝する。
しばらくし、横島が淹れた紅茶は運ばれテーブルに置かれる。
紅茶の匂いだけで気持ちが落ち着いていくと感じ、つられる様にカップを持ち一口啜る。
「あっ、美味しいです」
「よかった。
自信はあるとか言ったけど、さっきまで内心じゃヒヤヒヤしていたんだ」
「そんなっ・・・
本当に美味しいですよ。
私もこれほどのものを淹れられません」
「そう?
だったら、エヴァちゃんの扱きも報われるっていうものだな」
「フフフ。
お疲れ様でした」
キヌの正直な感想に、横島も胸を撫で下ろす。
紅茶を飲み終える頃には、キヌも力も抜け雰囲気も柔らかくなる。
そして彼女自身も覚悟を決め、姿勢を正し真剣な表情を横島へ向ける。
「横島さん・・・」
「ん?」
「アナタは本当に平行世界・・・
ネギ君達の世界に行ってしまうんですか?」
「・・・ああ。
おキヌちゃん達には悪いと思っているけど、もう決めたことなんだ」
「いえ。
横島さん自身が決めたことです。
私達からは何も言いません。
ただ・・・」
「ただ?」
一度言葉を切るキヌに、横島も急かさず静かに続きを待つ。
そして一つ深呼吸をして、ついにキヌから言葉が発せられる。
「私にも『着いて来い』と言ってくれないんですか?」
「えっ?」
横島にとっては突然なキヌの言葉に驚きを隠せない。
逆にキヌは静かに、決意と覚悟が込められた話を続ける。
「この15年間、アナタを忘れたことはありませんでした。
六道女学院を卒業して、GS試験を受け、美神さん達と一緒に仕事をして・・・
そして10年後、この世界で横島さんと一番の繋がりを持つ美神さんが待つことを諦めてしまった。
輝彦さん・・・西条さんと結婚すると聞いた時、正直に言うとショックでした。
そして、私は怖くなったんです。
私もいつか、この想いが消えてしまうのか・・・と」
「おキヌちゃん・・・」
実際、今では超一流のGSであり美人で気立てが良いキヌ。
交際を申し込む男達は後がたたず、実家に戻っても度々あった。
中には不安を付いて隙を狙う愚か者もいたが、そのような輩は令子や家族によって護られていた。
特に令子は自分も似たような状況だが、相手は幼少の頃は兄と慕っていた人物であり、少なからず想っていた部分もあった。
対してキヌの場合は、それこそ不幸な出来事しか起こらないだろう。
だからこそ容赦せず、排除を続けていた令子。
「美神さんから横島さんが見つかり、戻って来ると聞いたときは本当に嬉しかったです。
そして、自らの想いを再確認しました。
ああ、私はこんなにも横島さんのことが好きなのだと・・・」
目を閉じ、胸に手を当てるキヌ。
胸の奥にある想いを感じるかのような美しい姿に、横島はただ見惚れていた。
「ですが、その後にアナタは平行世界に戻り、今回が最初で最後の帰省と聞いた時・・・
全ての感情が止まってしまいました」
「そ、それは・・・」
「いえ。
横島さんが悪いんじゃないんですから、謝らないで下さいね」
キヌの想いを聞けば聞く分、申し訳なさを感じる横島だが逆に微笑えまれてしまう。
「そして横島さんと再会して、今までずっと見ていました。
本当に15年前と変わらないアナタを・・・
だからこそ、私はずっと迷っていました。
横島さんに着いて行きたいという気持ちもありましたが、美神さんや義父さん達にまだ恩返しをしていません。
それだけでじゃなくて、皆さんとお別れだと思うと・・・」
「俺だってすぐに決断出来たわけじゃないさ。
ルシオラを蘇らせる手段を探しつつも、その考えは胸の中で蟠っていた。
そして麻帆良でエヴァちゃんと再会して、木乃香ちゃん達と出会って益々大きくなった。
ずっと悩んで、ある事件を切っ掛けで決意したものだし」
「それでも、並大抵の覚悟じゃなかったはずです」
二日前の令子がエヴァ達を呼び出した時の内容は横島には伝わっていない。
特殊な事情を持つエヴァと茶々丸以外は、すぐに決断できない重い難題である。
「でも、かおりさんと魔理さんが気付かせてくれたんです。
本当に自分にとって大切な事・・・幸せになる選択を選べば良いと」
「それが・・・」
「はい。
私にとっての幸せは、横島さんの側にいることなんです。
この15年でよく分かりました。
ご迷惑でなければ、どうか私も連れて行ってください」
キヌの話を聞き終えた横島の心の中には、ルシオラと出会う前にあった『ある感情』が蘇ってきた。
それは彼自身、当時には気付かなかったもの。
その感情に若干戸惑いつつ、横島は尋ねる。
「おキヌちゃんの両親はどう言ってるんだい?
まさか、何も知らないとか?」
「いえ。
昨夜、実家に戻って全てを伝えました。
義父さん達も、半ば予想していたようですけど」
昨日の夜・・・
しかも遅い時間に連絡もなしに戻ってきた娘に驚く両親だったが、その表情で全てを察した。
そして高校時代の想い人と結婚し家庭を持つ早苗も呼び、
神社の中で改めてキヌの口から覚悟と決意が込められた話を聞き終えた三人は・・・
『おキヌの好きにすると良い。
子はいつか旅立つもの・・・
もう会えないというのは寂しいが、自分の幸せを掴みなさい』
『そうよ、おキヌ。
アナタはずっと彼を待っていたのでしょう?
もう後悔しないために、自身の気持ちに素直になりなさい』
『話に聞くと、横島さんには他にも想い人が『複数』いるんだべ?
そこが引っ掛かるべが、実際にあったおキヌちゃんを信じるだよ』
それぞれがキヌの決意を認めた。
横島も忙しいと伝わっており、最終日に自分達も東京に出向くので少し時間を作ってほしいと伝えた。
「15年前にも一度伝えましたが、改めて言わせてください。
私はアナタが大好きです。
今まで知り合ってきた人達の中で、横島さんが一番好き。
過去としての思い出じゃなくて、今もこれからも・・・です。
さすがにルシオラさん達もおられるので、誰よりもとは言いづらいですけどね」
「おキヌちゃん・・・」
キヌは向かい側に座っている横島の手を取り、想いの全てを伝えきり横島の返事を待つ。
笑顔の瞳の中に、不安と期待は見え隠れしつつ・・・
そして、横島は・・・
「あっ・・・」
握られていた右手で彼女の手首を掴み、強く引っ張り自分の胸の中へ誘う。
それでもテーブルに当たり怪我をしないように、左手も使い支えにして。
「あ、あの・・・?」
「いいから、このままで聞いてくれ」
「は、はい」
突然な横島の行動に戸惑う彼女だったが、服越しに感じる彼の温もりに安らぎを感じる。
さらに耳の側で呟くように聞こえる横島の声に力が抜けるキヌ。
「まずは、ありがとうな。
俺をずっと好きでいてくれて。
そして、ゴメンな。
南武グループの事件の時から、ずっと待たせてしまって。
でもルシオラの件がどう決着を付けるか・・・
今になっては分からないけど、落ち着くまで誰とも好きになるつもりはなかった」
「それも分かっていました。
少なくとも15年は待つことは出来ましたし、それほど問題じゃなかったです。
点数稼ぎじゃないですけど、少しでも支えて上げられなかった方が心残りですね」
「ありがとうな、おキヌちゃん」
横島の前置きに近い言葉にキヌも頷く。
魔神大戦の参加者の一人であり、横島の絶望と慟哭を目の前で見てきた。
彼女はその重さを理解しており、彼が立ち直るまで待つつもりだった。
だからこそ少しでも支えてあげたかったのだが、愚か者達のせいでその機会すら奪われただ待つことしか出来なかった。
ただ純粋で真っ直ぐなキヌの想いを、素直に受け止められることが出来る今の横島は抱きしめる腕に力を込める。
「今おキヌちゃんの気持ちを聞いて、気付いた事がある。
俺も君のことが好きなんだと」
「っ!?
ほ、本当ですか!?」
「ああ。
でもルシオラや小竜姫様、エヴァちゃん達と同じくらいで、おキヌちゃん一人選ぶことは出来ない。
それでもいいかい?」
「も、もちろんです!
そ、それで構いません!
寧ろ、それほど想ってくれて嬉しいです!」
自分の命を投げ打って愛する者を助けたルシオラ、もう二度と後悔しない為に力と知識を与え続けた小竜姫。
自分の世界よりも大切だと選ばれたエヴァ達。
そんな彼女達と同等に想われていることは、彼女にとって充分だった。
「だったら、こっちからお願いするよ。
俺達と一緒に来てくれるかい?」
「はい!!
もう、絶対離れません!!
大好きです、横島さん!!
いえ、忠夫さん!!」
「んむっ!?
ちょっ、おキヌちゃん!?」
「ダメですよ、忠夫さん!
もっと、キスしてください!」
「むぅ!?」
心から望んでいた言葉を聞いたキヌは感極まり、横島の首に手を回してキスを交わす。
溜めに溜め込んでいた感情が爆発したのか、普段の大人しく清楚な彼女の雰囲気を投げ捨て何度もキスを強請るキヌ。
横島も嬉しいは嬉しいが、枷が外れたキヌをどう扱って良いか悩んだ・・・
その後・・・
我を取り戻したキヌは先程までの自分の行動を省みて、顔どころか身体中真っ赤にし恥ずかしさの余り部屋から飛び出していく。
その騒がしさに令子達も気付き、キヌの部屋をノックしても反応はない。
とりあえず横島が悪いと決め付けた令子は、神通棍を片手に事務所に戻る。
彼にとっては災難なのか、迷う所である。
こうしてキヌは自分の世界よりも横島を選び、彼も受け入れた。
後にネギ達の世界で、『人魔と共に歩む心優しき死霊使い<ネクロマンサー>』と呼ばれる彼女の始まり。
その彼女は令子の折檻による横島の悲鳴すらも聞こえず、ベッドの中で毛布にくるまりただ悶えていた。
どうも、siroです。
今回も遅くなって申し訳ありません。
仕事は多少落ち着いたのですが、他の急用が舞い込み遅れてしまいました。
さらにテンションも上がらず、ここまでズルズルと・・・
本当にすみません(土下座
今回は天竜によるデジャヴーランドと、キヌの告白をメインにしました。
第八話ではネギ達が薄く感じており気になっていました。
その分、今回は逆に『ネギま』らしさを意識して執筆してみましたがいかがでしょうか?
キヌも栄えある横島メンバーの二桁突入の十人目として入りました。
当初の予定では、キヌは自分の世界に残り美神同様に横島を見送るつもりでした。
ですが読者様方の強い要望により、悩みに悩み入れようと決断しました。
さよや千鶴、高音を泣く泣く省いたのですが・・・(汗
この後の展開に、どう彼女が動くか・・・
今からすでに悩みどころです(苦笑
こちらも当初の予定ですが、本来なら六日目の横島夫妻のイベントまで進むつもりでした。
ですが残りの容量を確認すると中途半端に切るか短く終わらせるしかなく、それならばと今回はここで切りました。
残り一話で終わらせることが出来るか、怪しくなってきました(汗
デジャヴーランドでの設備や迷路。
エヴァ達の霊能力の才能、霊糸などは独自設定なのでご了承ください。
