全く、美神も素直じゃないんだから。
でも、確かにエヴァンジェリンを初め、皆が横島を想っているのは確か。
ロリに堕ちたと聞いたときはお腹を抱えて笑ったけど、今は納得ね。

「さて・・・
 私達はオカルトGメンとやらに向かうが、オマエ達はどうする?」

「私は昨日の後始末があるから、事務所に残ってるわ。
 皆は好きにしなさい」

うーん、どうしようかなー

「ねえ、アンタ達の今日の予定はどうなってるの?」

「はい。
 これからはオカルトGメンにて、皆さんで見学をさせていただきます。
 その後は忠夫さんが通っていた学校、六道家などを周る予定です」

私の問いに、エヴァンジェリンのメイドらしいアンドロイドの茶々丸が畏まって教えてくれる。
同じアンドロイドなのか、マリアと仲が良いみたいね。

「ふーん・・・
 だったら、私も付き合って良いかしら?」

「拙者も良いでござるか!?」

シロ!!
勝手に話に入らないでよね!!
まっ、そこのところはもう諦めているんだけど・・・

「構わん。
 そうそう、今の忠夫は学生服を着ているぞ。
 写真にでも撮って、笑いの種にしてやれ。
 それと、美神令子に一つ頼み事がある。
 お前達は先に下に降りていろ。
 私もすぐに向かう」

「高いわよー
 私への依頼は」

「分かっている」

エヴァンジェリンの言葉に、茶々丸が持参していたボストンバッグをドスンと机の上に置いた。
中身も気になるところだけど、私は横島の所に行こう。

「おキヌちゃんはどうするの?」

「・・・ごめんなさい。
 私は考えたいことがあるから」

「そう?
 それじゃ、行きましょうか?」

「はい」

横島が帰ってくると聞いてから、ずっと悩んでるおキヌちゃん。
再会したらどちらにしても決意するかと思ったけど、逆にますます悩んじゃってる。
こればかりは、さっきの話のように自分で決めないと後悔するわ。
私としては今は別れてもエヴァンジェリン達に命を分けてもらって、
100年先くらいに再会してずっと一緒の方が良いんだけど。

「どうなるのかしら・・・ね」

「??
 タマモちゃん、何か言ったかえ?」

「ううん。
 なんでもないのよ、木乃香。
 それよりも、向こうでの横島の生活を教えてくれる?」

「ええよ♪
 あんなー・・・」

そう簡単に決まらないし、なるようにしかならない・・・か。
今は、目の前にいる横島と楽しみましょ。







『GS美神+ネギま!』

「人魔と歩む者達」
 第八話・英雄の帰還と別れ 7







令子達と話を終えたエヴァ達。
エヴァはその後も令子と話込み合流した後、彼女達はタマモとシロと共にオカルトGメンの本部に向かう。
オカルトGメンに入ると、すでに顔馴染みであるシロとタマモがロビーの受付に一言二言話し木乃香達を誘導する。

「横島、いる?」

『おお、いるぞ』

「入るわよ」

ある待合室の前でタマモがノックし、確認をしてから扉を開き中に入る。
中は思った以上に広く、待合室というよりもちょっとした会議室と言った方が適切であろう。
その中では横島とルシオラは西条とピートと話し合っている体勢で、ネギ達はなにやらパンフレットのような物を読んでいた。

「皆、お疲れさん。
 美神さんの呼び出しなら、かなり疲れただろ?」

「はいです。
 ですが、それ以上にとても重大で大事な話でした。
 色々と考えさせられました」

「??
 小竜姫様?」

「フフフ。
 秘密です」

労わる横島に、夕映は改まった表情で返す。
彼が自分達の世界を選んだ覚悟と決意。
この世界の恩人・友人達を目の当たりにしても揺るがず、彼に甘えている事に気付かされたのだ。
エヴァと茶々丸以外、同じ表情をする木乃香達に首を傾げる横島が小竜姫に問いかけても秘密にされる。
そんな中、やけに上機嫌なエヴァがネギ達に話しかける。

「ぼーや。
 何を読んでいる?」

「これはピートさんが持ってきてくれた、オカルトGメンにあるパンフレットです。
 この世界での一般的な霊的現象の説明とオカルトGメンへの案内など、色々載っていますから」

「ほう?
 どれ・・・」

ネギの説明に興味が引かれたエヴァは、一冊・・・態々、彼が持っている物を取り上げて目を通す。
明日菜は若干目が釣り上がるが、すぐに溜息を零して別の物をネギに渡す。

「へぇ〜
 そないなってんやなー」

しかも自分達も別の物を取れば良いのに、エヴァの後ろで覗き込むように読む木乃香達。
エヴァがこの中で一番背が低いので、特に問題がない所が少々悲しい。

「なるほどな。
 GSは高給取りだが、依頼されれば実力次第で即解決。
 オカルトGメンは小さなモノまで引き受け、無料だが番が来るまで時間が掛かる。
 良し悪しだな。
 実際、忠夫がいなくなってからの15年の間に何かあったのか?」

「もちろんだよ。
 さすがに魔神大戦のような、神魔が事件を起こしたというわけじゃないけど・・・ね」

「ええ・・・
 本当に色々とね」

「そうでござるなー」

西条に言葉に、タマモとシロも遠い目をしつつ相槌を打つ。
横島がいなくなって15年。
東京は元より、日本全体が騒動になることもあった。
だが神族はもとより、魔族でさえ原因であるものはなかった。
しかし横島が戻ってきた事で動き出すとは、かなりの皮肉だろう。
横島とルシオラは、今まで西条とピートからその話を聞いていた。

「さて・・・
 エヴァ君達も来たし、横島君の予定も詰っている。
 そろそろ移動しようか?」

「そうだな」

『はーい!』

西条の催促の言葉にネギ達も元気よく返事をし席を立ち、部屋を後にした。


「ここは司令室。
 大小関係なく、大抵の指示や情報などのサポートが行われている」

『へえー』

「そして、ここで美人のねーちゃんが多いのは西条の趣味だ」

「そうなんだ。
 どう思う、シロ」

「これは火急に美神殿に知らせなくては!
 タマモ、行くでござる!!」

「違うから、妙な事を言わないでくれ!!
 横島君!!
 君はどこまで僕を追い込めば気が済むんだい!?」

「何を言う!?
 寧ろ、褒めてるんだろうが!
 そこのおねーさん!!
 僕とお茶でも・・・ぐぼっ!!」

「結局はそれかー!!」

「ぎゃー!!」

「・・・本当に変わりませんね」(汗


「次は資料室。
 古い文献から、今まで起きた事件などの資料も保存されています」

「・・・」

「ゆ、夕映〜?
 目がキラキラしてるよ〜」

「エヴァちゃんも興味深々やなー」

「だからって、勝手に持ち出さないでくれたまえよ」

「チッ!!」

「フフフ。
 私が後で話してあげますから、我慢してくださいね」

「約束ですよ!?」

「ええ」

「・・・一瞬で戻ってきたなー、夕映ちゃん」

「あ、あはは・・・」


「ここは訓練室。
 以前の地下ほどじゃないが、新人や僕達も利用している。
 ちなみに百体抜きだけど、雪之丞君が初の達成者だよ」

「アイツ、そういうのは好きだからなー
 絶対、諦めんだろうし」

「ああ。
 達成するまで、何度も何度も・・・
 それこそ、何度でも・・・ね」

「かなり、しつこかったみたいだな?」

「それはもう」


この後も、彼等は西条とピートの案内で施設の見学が続いた。
時折すれ違った女性職員をナンパし、エヴァ達にシバかれた横島というオチもあった。



「あーっ!!
 やっと来たわねー!」

「おお、愛子」

オカルトGメンを後にした横島達が向かった先は、彼が通っていた学校。
その校門前で出迎えた愛子。
もちろん本体である机もあり、それに腰掛けている。
学校ということでおかしくはないのだが、中々シュールな光景である。
ちなみに、移動手段であるワゴンの運転手はピートに代わっている。
学校に行くならば、彼の方が適任だと西条が考えたのだ。

「へぇ〜
 見たところ、普通の学校よね〜」

「こらこら、アスナちゃん。
 そりゃ、六道女学院のような霊能科があるわけじゃないんだからね。
 でも、霊的トラブルの多さじゃ負けないわよ」

「その一つだった貴様に言われたくないな」

「それは言わない約束よ、エヴァちゃん」

「ここがお兄ちゃんが通っていた学校・・・」

校舎を見上げながらの明日菜の感想に、愛子は苦笑しつつもこの学園も普通じゃないと説明する。
さらにエヴァに突っ込まれるが、軽くスルーである。
ネギも自分の仕事場(?)である麻帆良学園以外の普通・・・と言って良いか分からないが、学校に興味深げに眺めていた。
だからこそ、彼が一番に気付いた。

「あ、あの・・・
 愛子さん」

「ん?
 どうしたの、ネギ君?」

「窓から皆さんがこちらを見ているのですが・・・」

「えっ?」

ネギの言葉に愛子のみならず、横島達も校舎を見上げる。
そこには、窓から身を乗り出すようにして彼等を見ている生徒達がいた。
それも多数。


『ねえねえ!!
 あの人って、オカルトGメンのピートさんじゃない!?』

『そうよ!
 私、雑誌を読んだことあるもん!』

『うおっ!!
 スッゲー美人!!』

『それに、めっちゃ可愛い子達もいるぜ!』

『是非とも、お近づきを!!』


各自、ワイワイと自分勝手に騒ぐ生徒達。
その中に、横島が含まれていないのはお約束。
同じ学生服を着ている彼なら、それほど目立たないかもしれないのだが。

「なんというか・・・
 さすが、横島が通っていた所よねー」

「ゴ、ゴメンねー
 今日は平日だから、皆がいるから前もって注意していたんだけど。
 やっぱり、抑えられなかったわ」

タマモの心からの呆れの言葉に、愛子もさすがに縮こまる。
中には教師も盛り上がっているのだ。
穴があれば入りたいという気持ちであろう。
『後でオシオキしないと』など、心中で物騒な事を呟きつつ話題を変える愛子。

「ど、どうしようか?
 これじゃ、中に入ろうにも・・・」

確かにこれでは見回るどころか、自分達が見世物のようになってしまうだろう。
もしかしたら、それ以上のトラブルが起こるかもしれない。
愛子は少々引き攣った笑顔を横島に向けながら問いかける。

「そうだなー
 皆はどうしたい?」

横島にとっては愛子に会いに来たというのが一番の理由であり、学校そのものには興味は薄い。
強いて言えば、クラスメートの旧友達に会いたいという気持ちがなくともはないという程度。

「僕は興味はあるな。
 麻帆良以外の学校は初めてだし、お兄ちゃんが通っていたところだもん」

まず声を上げたのは、期待を込めた表情で続行を希望するネギ。
木乃香達も大小の差はあるがネギと同じ気持ちなのだろう、彼に向けられた視線でよく分かる。
エヴァにとっては、霊的トラブルに興味があるのだろう。
ルシオラ・小竜姫・タマモ・シロの四人は、横島に一存している。
周りの反応に、見学希望が多数だと判断し再び愛子へ視線を向ける横島。

「一応、頼むわ。
 次の予定の六道家にはまだ時間があるし、どっかで暇つぶしするならネギ達に中を見せてやりたいんだ」

「OK。
 だったら先に騒動を抑えてくるから、ちょっと待っててね」

確かに見学を希望するならば、未だ続いている騒動を止めなくてはいけないだろう。
横島の要望に頷き、本体の机を担ぎ校舎に入っていく愛子。

「あの机が本体である事も、ヤツの存在も理解はしているが・・・
 シュールな光景だな」

愛子の背中・・・背中には机しか見えないのだが、彼女を見送るエヴァ達。
エヴァの率直な感想に明日菜達のみならず、タマモ達も頷く。
逆に見慣れていた横島とピートは、顔を見合わせ苦笑した。


その後、騒ぐ生徒達を大人しくさせた愛子・・・時折、生徒達の悲鳴が聞こえたような気もしたが。
校舎の案内が始まった。

「ここが私達が通っていた教室よ。
 休み時間で、次は移動教室だから開けてもらったわ。
 私は、今でもここで授業を受けているの」

「15年もか?
 同じ内容でつまらなくないか?」

「そんなことないわよ。
 時代の流れか、内容も年々変わっていくしね。
 エヴァちゃんも同じだったの?」

「ああ。
 ある学園に、15年間中学生をやらされていてな。
 何度も同じ内容がつまらなく、サボっていたな。
 まあ、今年は卒業する目処が立ったので問題はないが」

「ええっ!?
 もったいない!
 授業の中でも青春は生まれるのよ!」

「そういうのは明日菜達に言ってやれ。
 私は少々特殊だからな」

「そうね!
 アスナちゃん、青春してる!?」

「え、えっと・・・」(汗

案内された教室で、バスガイドのように説明をする愛子。
その右手には小さい旗をお持ち、『横島君ご一行様』と書かれている。
少々立場が違うが共感するエヴァが愛子に問いかけるが、彼女は笑って返し青春の素晴らしさを熱く語ろうとする。
それを押し付けられた明日菜は、愛子の相手をしつつエヴァに恨みがましい視線を向けた。
無論、全く堪えていないエヴァだった。


「ここは美術室。
 今日は暮井先生は『二人とも』お休みだから、無人だけどね」

「あ、あの・・・
 二人って、やっぱり・・・」

「ええ。
 暮井先生本人と、そのドッペルゲンガー先生よ。
 ドッペルゲンガー先生も芸術に目覚めて、授業にどっちが行くか揉めてるのよ」

「おいおい・・・」(汗

「やはり、この学校も普通じゃないです」

「まーね。
 でも、だからこそ私もこうして受け入れられたんだけどね。
 横島君と美神さんのお陰だけど」

「少し、羨ましいです」

「せっちゃん・・・」

美術室では鍵こそは開いてはいるが、中には誰もいない。
のどかが愛子の説明に引っ掛かるものを感じ、彼女も肯定する。
さらに美術の顧問である暮井緑の近状に夕映が突っ込み、刹那がポツリと呟き木乃香が彼女の手を握った。


「懐かしいですねー
 思えば、よくここで横島さんやタイガーにお弁当を奪われてましたねー」

「何を言う!?
 あの時は、貴重なタンパク源だったんだぞ!
 それに、ピートは持参していたバラから精気を取っていたじゃないか!」

「僕だって、味のついた美味しい物を食べたいですよ」

「皆、お待たせー
 食堂の売れ残りで悪いけど、たくさん持ってきたわ」

「ありがとうございます。
 ネギ、迷惑を掛けなかったでしょうね?」

「大丈夫です!
 ほら、アスナさん!!
 食堂の人が、オマケにお菓子をくれたんです!」

「よかったなー、ネギ君」

「あっ、そう・・・」

次に案内された場所は、学生時代横島達がよく利用していた屋上。
その前に横島達が昼食はまだだと知った愛子が、先に食堂に寄りパンなどを購入にしに行った。
もちろん木乃香達も手伝いを申し出たのだが、横島はネギに白羽の矢を立てた。
兄としての気遣いであり、彼も喜んで手伝いオマケまでもらったようだ。

そして、彼等は思い出の場所で食事を取る。
舌が肥えているエヴァも文句を言わずパンを食し、思い出話に花を添えて・・・・



「いらっしゃ〜い〜
 おばさん、待ってたわ〜」

「よく来たね」

「どうもっす」

昼食後も案内は続き、時には生徒達に取り囲まれたりするというハプニングもあったが無事終えた。
主に女生徒はピート、男生徒は好みの女性達に声を掛け、横島が蹴散らしたり嫉妬してピートに呪いのワラ人形を使い、
突っ込み役の明日菜に度突かれた。

そして本日最後の予定場所である、六道家の屋敷を訪れた横島達。
呼び鈴を鳴らしてイヤホン越しに用件を告げると執事の服を着た男性が現れ、中に案内される。
そしてある部屋に通されると中には六道女史、そして唐巣神父の二人が待っていた。
ちなみに、ピートは志願しワゴンに残っている。
やはり六道女史は今でも恐れられているのだろう。

「皆もそんなに身を固くしないで〜
 おばさん、悲しいわ〜」

「は、はあ・・・」

六道女史曰く、『冥子や正樹君は学園で仕事をしているから』とのこと。
それならば学園に呼べば良いと思うが、そうすれば横島が暴走する事は明らか。
神父は自分の為に時間を取ってもらうのは悪いという気持ちと、六道女史の抑え役を買って出たのだ。
どれほど役に立つかは分からないが。
明日菜達はさすがに固くなり、堂々としているのはエヴァと茶々丸、小竜姫だけである。

「タマモちゃんもシロちゃんも昨日を抜けば久しぶりね〜
 アナタ達の活躍はよく聞いてるわよ〜
 おばさん、鼻が高いわ〜」

「へ?
 どういうことっすか?」

タマモ達の活躍と六道女史とのつながりが見えず、首を傾げる横島。
その疑問に答えたのはタマモだった。

「言ってなかった?
 私達、美神の提案・・・ううん、あれは問答無用だったわね。
 六道女学院にに入学させられたのよ」

「そ、そうなのか?」

「そうでござる。
 中学三年生に入り、実質4年間でござろうか」

「へえー」

彼女達がまさか六道女学院に入っていたとは思わず、驚き半分感心半分な横島。
しかし、すぐに別の懸念が浮かんだ。

「でも、大丈夫だったんすか?
 二人とも・・・」

妖怪である九尾の狐であるタマモ、人狼族であるシロがGSを目指す六道女学院に入学するなど前代未聞。
もし入っても、敬遠されることは明らか。
だからこその問いかけだったが、六道女史と神父は軽く笑う。

「大丈夫どころか、良い傾向だったわ〜
 霊力の差はあるけど、知識面は同じだったからね〜」

「もちろん横島君が懸念する問題はあった。
 あの年代は、妖怪全てが悪霊と同じように考えている者が多くてね。
 でも、それは自分達で乗り越え、たくさんの友人が出来たらしい」

「まーね」

美神にとっては、横島が行方不明になったことで落ち込む二人の気を紛らわせたいという遠回りな気遣いと、
同じく通っているキヌの為でもある。
令子からの要望に、六道女史はすぐに許可を出し受け入れた。
二人は『美神令子』の保護妖怪であり、人格なども冥子から聞いており問題はないと判断した。
なによりも、学園の『新しい風』となってくれるのを期待したのだ。
その結果、当初こそイザコザはあったがすぐに解決し良好な仲を築いていった。
令子やかおり達のように少数が上り詰めるのではなく、全体が意識改革し実力が上がったのだ。

「それじゃ、GS資格も取ってるのか?」

「取ってないわよ。
 私はGSになるつもりはないし」

「拙者も同じでござる」

あの学園に通って霊能科を受けていたのなら、GS試験も受けたのかという最もな疑問。
横島からの問いかけに、手をパタパタ振り否定するタマモとシロ。
しかし、その言葉に表情を暗くしたのは神父である。

「それは私が不甲斐ないからだよ、横島君。
 GS協会が許可をしなかったんだ。
 妖怪相手に出せるはずもない・・・とね」

「・・・そういうところ、昔と変わらないっすね」

「すまない」

「ごめんなさいね〜」

「い、いえっ!
 二人が同じってことじゃなくて・・・」

「分かっているよ。
 でも、結局は私も同じさ」

「そうね〜」

神父はこれまで二人にGS免許・・・GS試験を受けられるように動いたのだが、他の幹部達が難色し未だ実現していない。
魔神大戦の公表時には横島の存在を出来うる限り消して強固な情報規制を行い、正当な評価をしてこなかったGS協会。
さらに人魔となり、行方不明になった彼を『余計な荷物が消えた』と高笑いしている幹部達に彼は怒りを感じた。
その対立もあり『ある未来』ではGS協会の会長となっていた神父が、いまだ幹部の一人という立場の原因である。
神父は元より、六道女史もこの件に関しては深く入り込めず、二人揃って頭を下げた。
エヴァ達、話を深く理解できる者達は表情を歪ませ、真に理解できない者達も嫌な気分が襲った。
そんな雰囲気をかき消すかのように、六道女史が手をパンパンと叩く。

「そうそう〜
 横島君の顔を見るのもだけど、他にもお願いもあったんだわ〜」

「お、お願いっすか?」

『来た!』とばかり、さらに身構える横島。
そんな反応に苦笑する六道女史は、エヴァに視線を向ける。

「エヴァちゃん〜
 あなた達が使う魔法の事なんだけど〜」

「・・・大体察しが付いた。
 魔法の仕組み、原理を教えろというのだな」

「話が早くて助かるわ〜」

六道女史の要望を先読みしたエヴァが先に口に出し、彼女も肯定する。
そして、さらに交渉を続ける。

「何も全部教えろなんて言わないわ〜
 もちろん教えてくれた方が良いんだけど〜
 基礎と仕組みだけでもいいのよ〜
 言い値で払うし〜、なんでも用意するわ〜」

横島でさえ恐れる六道女史の珍しい下からの立場にエヴァは内心いい気分だったが、それを微塵にも見せずお茶を啜り一言。

「断る」

『へっ?』

あっさりと却下し、お茶のオカワリを要求する。
これには六道女史のみならず、ネギ達も気の抜けた声しか出なかった。
いち早く復帰した六道女史が、エヴァに少々焦りながら説得を試みる。

「ど、どうしてかしら〜
 お金はともかく〜、この世界でしか手に入らない物をいくらでも用意するわよ〜
 もしかして〜、魔法をこの世界に残すことを危惧しているのかしら〜?」

「それは多少あるが、そこまで気にしてはいない。
 実際、精霊も魔力も存在しないこの世界では望み薄だからな」

魔法を残す事でこの世界に悪影響を与えないかという可能性を出すが、エヴァは否定する。
他に理由が思い浮かばず、困惑する六道女史にその理由を語る。

「先約があるからだ」

「先約〜?
 誰なの〜?」

「魔鈴めぐみだ」

そう・・・
横島の歓迎会の時、ネギやネカネから魔法の事を訊ねていた魔鈴。
一通りピートに愚痴を言い終えたエヴァも近づき、前々から興味を持っていた彼女と話しこんだ。
この世界で魔法を蘇らせようとする変わり者にして、それに全てを賭けている人物。
実際に会話して彼女を気に入り、自分達が扱う魔法を書に残し譲ろうと破格の約束をしたのだ。
それでも基礎と中級程度までであり、ネギが持参した予備の魔法の杖を一本譲るまでである。

「ホテルで滞在している間に用意している最中だ。
 明日に渡す予定でもある」

「だったら〜、私達にも教えてくれてもいいんじゃないの〜?」

魔鈴に渡すのなら、自分達が教えてもらっても影響はないではないかと疑問を抱く。
その問いかけに、エヴァはニヤッと笑い本意を語る。

「私の好みの問題だ。
 貴様も魔法を求めてはいるが、それは家の繁栄のための手段であろう?」

「・・・」

「だが、魔鈴めぐみは魔法そのものを求めている。
 自分自身の為にだ。
 だからこ気に入り、私からはヤツしか渡すつもりはない」

それは何よりエヴァらしい答えだった。
他にネギやネカネに頼むという手段もあるのだが、リーダー的存在のエヴァが否定するなら彼等も従うだろう。
だからこそ、最初からエヴァに交渉を当たったのだが見事に玉砕した。
だが、エヴァの物言いにある事に気付いた六道女史。

「それじゃ〜、魔鈴さんから教えてもらうのはいいのね〜?」

「構わん。
 私は用意したモノを渡すのみ。
 その後のことは知らん」

エヴァもそこまで縛るつもりもなく、逆に抜け道も用意している。
彼女もタダで魔鈴を甘やかすつもりはないらしい。
研究はすぐに行き詰るだろうし、最大のスポンサー兼協力者として六道家と手を組めばもしや・・・
横島達が去った後、魔鈴は六道家からのラブコールにしばらく困るだろう。
クックックッと笑うエヴァに魔法に関しては話は終えたので、次は刹那へ向ける。

「それじゃ〜
 次は刹那ちゃんね〜」

「わ、私ですか?」

「ええ〜
 昨日のシロちゃんとの試合なんだけど〜、あの時に使っていたのが『氣』なのかしら〜?」

「は、はい。
 少々陰陽術も入っていますが・・・
 京都神鳴流と言います」

「陰陽術も〜?
 やっぱり力の質が違うと、ここまでズレて来るのかしら〜?」

もちろんこの世界でも陰陽術はあるが、発動には霊力が必要である。
対して、刹那が扱う陰陽術は『氣』で発動している。
ますます興味が沸いた六道女史は、セールストークのような勢いで頼み込む。

「あの力をこっちで調べてみたのよ〜
 霊力と似てはいるけど〜明らかに別の力と研究者は言っていたわ〜」

「は、はあ・・・」

「おばさん〜
 魔法だけじゃなくて、『氣』にも興味があるの〜
 教えてくれないかしら〜」

「ええっ!?」

『魔法』の次は『氣』。
予測できる事であったが、刹那的には突然な申し出に慌ててしまう。

「わ、私は末席なので、人に教えるほどの者では・・・」

「そんなこと気にしになくていいのよ〜
 一応、前もって『京都神鳴流』というのを調べたんだけど〜、そんな流派は存在しなかったわ〜」

「っ!?
 そ、そうですか・・・」

この世界では氣をメインにして戦う神鳴流は存在しなかった。
もしやと覚悟はしていたが、こうして突きつけられるとショックを受ける刹那。

「だから〜
 この世界でも発動する『氣』は〜『魔法』より現実的なのよ〜
 ねえ〜お願い〜」

だが、六道女史はさらに刹那に追い込みをかける。
困惑する刹那はエヴァに視線を向けるが、意地悪な笑顔で返すのみだった。

結局、横島と神父が止めるまでこのやり取りは続いた。
改めて気持ちを落ち着かせた刹那は、六道女史の要望を断った。
自分の流派である神鳴流が存在しないというのが、一番の理由だった。
それでも、映像の解析や分析などは許可を出した。
六道女史は思ったほどの成果ではなかったが、最低限はクリアしているので満足するしかないと苦笑した。



次の日・・・
今日も挨拶周りであり、今回は友人達の所がメインである。
といっても、訪ねられる場所などすでに決まっており少ない。
タマモ達はおらず、運転手は前回同様ピートである。

「よく来たな!
 歓迎するぜ!」

「いらっしゃいませ、皆さん」

まず最初は約束どおり雪之丞の所であり、弓式除霊術の道場である『闘龍寺』。
彼等を出迎えたのは師範代である雪之丞と、その妻であり今では当主であるかおり。
かおりも横島の事を改め、以前とは違い彼にも柔らかく微笑み歓迎する。
それだけのことだが木乃香達は嬉しく、横島の後ろで各自顔を見合わせ微笑む。

「ですが、今の時間は鍛錬の時間ですので、しばらくお待ちになってもらいますが・・・」

GSの仕事以外では、道場で弟子達を扱いている二人。
前当主はつい最近引退し、彼等の多忙さはかなり多い。

「ちょうどいい。
 我等も霊的関係に興味があってな。
 見学させてもらうぞ」

「もちろん良いぜ。
 もし何か気付いた事があれば教えてくれ」

「それでは、こちらへどうぞ」

エヴァの希望に雪之丞はニヤッと笑って許可を出し、かおりもしょうがないといった感じで道場へ通す。
案内された道場はとても広く、外からでも弟子達の掛け声が聞こえる。

『わあーっ!』

雪之丞を先頭に各自道場に踏み入れると、ネギ達は歓声を上げた。
中では胴着を着た者達が組み手やら、霊力を一定に集め維持し続けるといった修行に目を奪われた。

「なるほど・・・
 これが人界での修行ですか」

小竜姫も目の前の修行を興味深げに見回す。
彼女が妙神山での管理人であった頃、訪れる者達はある程度力をつけている者達ばかり。
こういう大人数で修行に明け暮れる彼等に、初々しささえ感じ微笑む。
だが・・・

「こらっ、お前達!!
 余所見をしてないで、修行に打ち込め!!」

『は、はいっ!!』

やはり男性が多く、見た目は中学生一年生にも見えなくともないエヴァから二十歳前のネカネや小竜姫。
その全員が標準を超えすぎている容姿に思わず手が止まり、雪之丞が叱咤する。

「あ、あのさ・・・
 やっぱり、私達ってお邪魔じゃないのかなー」

「そんなことはありませんわ。
 むしろこちらが不甲斐なくて、謝りたいくらいです。
 なんて情けない」

明日菜の言葉に、溜息を付きながら否定するかおり。
特に神族である小竜姫に、道場の恥部を見られたような気がして肩を落とす。
そんなやり取りがある中、当然雪之丞の声が響き渡る。

「テメー等、しっかり見ておけ!!
 今から、俺達が組み手をするからな!!」

「嫌だといってるだろうがー!!
 美人なねーちゃんとならともかく、男・・・しかもオマエとなんてやってられるかー!!」

「いい加減にしないかー!!」

「ぶほーっ!!」

雪之丞が横島を組み手に誘い、彼も相変わらず煩悩に正直なコメントを叫び、エヴァがロケットキックを浴びせる。
ちなみにエヴァはすでに予測していたかのように、スカートではなく珍しくズボンを穿いているので問題はない。
蹴り飛ばされた横島はちょうど組み手の場所まで吹っ飛ばされたので、これ幸いとして雪之丞がなし崩しに組み手に挑む。

「ねえ、かおりさん。
 ちなみに、ヨコシマ好みの女性っています?」

「え、ええ・・・
 見れば分かると思いますが弟子の中にもいますし、お手伝いさんにも・・・」

「そう・・・
 皆、ヨコシマに注意してね」

ルシオラの確認に、かおりは肯定し頷く。
予感的中だったので木乃香達に呼びかけ、彼女達も・・・小竜姫でさえ、深く頷く。
ネギ・明日菜・のどかなどは、いつもの事だともはや諦め気味である。
かおりはその様子に、一昨日修正した彼の評価を少々戻したのだった。


「ハッハッハッ・・・・
 ありがとうございました、横島君。
 弟子達も良い勉強になったでしょう」

「そうすっかー
 それはよかったっすねー」

「横島!!
 今度も頼むぜ!!」

「いやじゃー!!」

二人の組み手は弟子達の価値観を粉砕し、かなりの衝撃を与えた。
見た目は自分達とさほど変わらない横島が、雲の上である雪之丞と対等に戦っているのだ。
さらに、サイキック・ソーサーや栄光の手などの霊力技に釘付けだった。
時折人としてはありえない曲がり方で避けているのは、お約束であり見なかったことにしている。

「中々美味いな」

「お口に合って何よりです」

時間は過ぎるの早く、すぐに昼食の時間であり横島達も共にしている。
とは言っても弟子達も一緒ではなく別室で雪之丞とかおり、そしてかおりの父である前当主が共にしている。

「時に、横島君・・・」

「はい?
 なんっすか?」

食後、お茶を啜りまったりしていたのだが、前当主の姿勢を正しつつ固い口調で横島を呼びかける。
その雰囲気を察し、周りも雑談を止めて見守る。

「改めて感謝と礼・・・
 そして、お詫びする」

「ちょっ!?
 どうしたんっすか、突然!?
 顔を上げてくださいよ!!」

テーブルに両手を付き、深く頭を下げる前当主。
突然な行動に、彼等だけではなく雪之丞夫妻も驚きを隠せない。
横島は顔を上げないと話も聞けないと頼み込み、ようやく上げた前当主は真意を語る。

「この程度は当然のことです。
 魔神大戦の折には、当時高校生だった君に辛い決断をさせてしまったこと。
 正当な評価もされず、逆に君を快く思わない輩のせいで自分が生まれた世界を去らなくてはいけない現状。
 全ては、大人の自分達に責任があります」

「お父様!
 もしかして・・・」

「ああ。
 魔神大戦の経緯は、当時取り寄せた報告書で知っていた。
 そして、今の彼の立場もな」

その言葉にかおりは思わず父に問いかけ、彼も肯定する。
闘龍寺はGSにしても名門であり、その立場は高い。
その伝手で魔神大戦の本当の経緯が載っている報告書を取り寄せ、知ったのだ。
横島とルシオラの事を・・・
その返事に、益々厳しい表情で父に抗議するかおり。

「で、でしたら・・・
 どうして、私にも教えて下さらなかったのですか!?
 そうすれば横島さんのことを長年誤解したままにならず、この人とすれ違わずに済みましたのに!」

「雪之丞君も言っていたが、この事を語れるのは当事者のみ。
 私も取り寄せた報告書を読んで、後悔したものだ。
 そして彼に会えたのなら、謝罪と感謝を送ろうとずっと考えていた。
 まさか、15年も先になるとは思いもしなかったが」

「・・・」

「それに、オマエは彼に関しては意固地になっていたからな。
 もし伝えても、真っ向から戯言だと一蹴しただろ?」

「そ、それは・・・」

実際、当時の恋人だった雪之丞、親友のキヌ、そして尊敬し『表側』の立役者である令子達の言葉にも耳を貸さなかった。
反論できず黙るしかないかおりに前当主は苦笑するが、再び横島を見やると真顔に戻る。

「話を戻しまして・・・
 今の現状は腐った者達や、当時何も出来なかった大人である自分達にあります。
 まことに申し訳ありませんでした」

「だから、顔を上げてくださいってば!」

再び頭を下げる前当主に、慌てて上げるように願う横島。
彼の言葉に、少々時間を開けてから顔を上げる前当主。
頬をポリポリと掻きながら、ルシオラに視線を向ける。

「美智恵さんもそうだけど、皆気にしすぎだよなー」

「そうね」

問われた彼女も苦笑で愛する者の言葉を肯定する。
そして、ルシオラが自分達の心中を語る。

「あの時の決断は、私とヨコシマの問題です。
 アナタや美智恵さんはもちろん・・・美神さんでさえ、背中を押してはくれたけど直接は関係なかったわ。
 二人が決めた行動ですので、皆さんが気にする必要はないんです」

「・・・そうですか。
 しかし、今の現状は・・・」

「それこそ、アナタのせいじゃないっすよ。
 俺達は後悔はしていないっす。
 あの時も、今も・・・ね」

横島とルシオラの本心に、前当主は改めて彼等の絆の強さを知った。
雪之丞もそんな親友だからこそ、あの時少しの手助けが出来なかった事を悔やみ、
この世界を去らなくてはいけない現状を恨んだ。
かおりは親友を思い、出来れば残ってほしいと説得するつもりだったがそれも無理だと理解させられた。



「いらっしゃいですじゃー」

「散らかっているけど、気にせず寛いでくれ」

闘龍寺を後にした横島達が、次に向かったのはタイガーの自宅兼事務所。
そこでも、タイガー本人とその妻・魔理が出迎えた。
さっそく事務所に通された彼等だったが・・・

「く、寛げったって・・・」

明日菜が中を見回し座る場所を捜すが、中々見つからない。
その中は、お世辞に言っても『かなり』散らかっていた。
横島が美神除霊事務所にいた頃、キヌがいなかった時の散らかりようと似たり寄ったりである。

「これで寛げというのか、貴様等?」

「あ、あはは・・・
 あたしもタイガーも、そういうのは苦手でさー
 ついつい・・・」

「ついついで済むか。
 まあ、来客室は綺麗にしてあるだけマシか」

苦手な二人だが、さすがに依頼人と打ち合わせしたりする部屋は綺麗にされていた。
寧ろ、その散らかりようが見えないようにカモフラージュされている。
それくらいなら、整理したほうが早いだろう。

「仕方がない。
 茶々丸、整理してやれ」

「それはよろしいのですが・・・」

溜息交じりのエヴァの命令に、さすがの茶々丸も勝手にするわけにはいかなく魔理に視線で問いかける。
その魔理は両手をパンと叩き、嬉しそうに微笑む。

「整理してくれるんなら、願ったり叶ったりさ」

「すみませんですじゃー」

「決まりだな。
 私は来客室にいるから、終わったら呼べ」

二人の承諾にエヴァはフフンと笑い、側にあった本を数冊見繕い来客室に向かう。
だが、そうは問屋は降ろさない。

「ダメですよ、エヴァさん。
 言い出したアナタが手伝わなくてどうするんです」

「そうよ。
 一緒に頑張りましょう」

「くっ・・・」

提案こそしたがやる気ゼロなエヴァだったが、小竜姫とルシオラの神魔コンビに阻まれてしまう。
逃げ道を失ったエヴァは、先程の自分の言葉を悔やんだ。


こうして、何故か事務所の大掃除にかかる横島達。

「これは処分してもよろしいですか?」

「いいよ。
 あっと、ネカネさん。
 そっちは残しておいてくれ」

「わかりました」

茶々丸は主の命令どおり、ネカネと共に魔理に確認をしながら書類などを片付けていく。

「ほう・・・
 やはり、興味深いな。
 逆の立場であり目的も少々違うが、六道前当主が魔法や氣を知りたいという気持ちも分からんでもないな」

「はいです」

「こらっ。
 サボってないで、お仕事」

「それじゃ、終わるものも終わりませんよ」

「「アタッ」」

エヴァは当初こそほんの少し手伝ったのだが、気になる書を見つけるとその場で読み始める。
つられてというわけではないが、夕映も同様である。
そんな彼女達は、掃除に精を出すルシオラと小竜姫から軽いゲンコツを貰った。

「魔理さんー
 こっちはアッチに置けばいいの?」

「えっと・・・
 それの中身はなんだっけ?」

「一年間の仕事の詳細です」

「おっと、そうか。
 ありがとな、アキラ。
 明日菜ー
 場所はそこで良いけど、取りやすいように手前に置いておいてくれ」

「りょーかい。
 だったら、刹那さんの荷物が先ね」

「はい」

体力のある明日菜・刹那・アキラはダンボールに入れた荷物や机の移動など、力仕事を担当していた。

「のどかはそっちを頼むな〜」

「はい。
 ネギ先生も届くところまでで良いですからね」

「はい」

木乃香とのどか、ネギはルシオラと小竜姫同様、掃除機や箒・ぞうきんなどを手に掃除を担当している。

「いいか、タイガー?
 これは支出が多すぎる。
 ここは・・・これくらいに抑えることが出来るだろ?」

「な、なるほど・・・
 さすが横島さんですじゃー」

戦力の要である大の男達は、来客室に入っている。
最初は二人も力仕事を担当していたのだが、ふと横島が収入や支出の明細書を見たのだ。
その余りにも大雑把過ぎる内容に、急遽タイガーに経済面の指導をすることとなったのだ。
令子が抜けた事務所でも繁盛させた横島の手腕は健在であり、充分為になった。
横島曰く・・・

『もし経営難に陥って、魔理ちゃんと子供が路頭に迷ったら可哀想だろ!?
 決してタイガーのためじゃないぞ!!』

とのこと。

結局、タイガーの事務所では大掃除で終わってしまった。
それでも各自話したり、時には興味深いモノを見つけ楽しんでいた。
そんな中、一仕事終えた横島に魔理が訪ねた。

「なあ、横島さん。
 おキヌちゃんのことなんだけど・・・」

「おキヌちゃん?
 もしかして、まだ俺のことでケンカしてんのか?」

「い、いや・・・
 そのことに関してはあたし達が悪かったと反省してるし、解決してるさ」

「だったら、何だ?」

「えっと・・・
 横島さんはおキヌちゃんの事を・・・」

「えっ?」

「や、やっぱり、いいや!
 忘れてくれ」

「??」

魔理がキヌのことを訊ねようとするが、結局は打ち明ける事は出来ず聞かずじまいに終えたのだった。



次の場所であり、周る場所が最後である魔鈴のレストラン。
昨日六道女史に語ったように、完成したエヴァお手製の魔道書を渡す為。
そして、もう一つ・・・

「ルシオラちゃん!」

「姉さん」

「やっと来たか」

「皆さん」

「待ってたなのねー」

魔族であるパピリオ・ベスパ・ワルキューレ・ジーク、神族のヒャクメとも待ち合わせをしていた。
ルシオラとようやく再会できたパピリオとベスパは、もう一度ゆっくりと話す機会を願ったのだ。
魔鈴のレストランならば今日は休業日にしているので客はおらず、神族や魔族も目立たず落ち着けるからである。

「魔鈴めぐみ。
 頼まれていた物だ」

「ありがとうございます、エヴァさん!
 お礼というワケではないですが、食事を振舞わせてください」

「そうか?
 掃除で疲れたからな。
 頼む」

「はいっ!」

エヴァに渡された数冊の魔道書を胸に抱きしめ、せめての礼として食事に誘う魔鈴。
のちに、六道女史から協力要望という名のラブコールがしつこいほど来るとは知らずに。

「疲れたもなにも、エヴァちゃんはほとんど動かなかったじゃない」

「だからどうだというのだ?
 魔鈴めぐみの料理は、言わば私への礼であり対価だ。
 言わなくともヤツは人数分用意するだろうが、私の一存でオマエだけ無しに出来るのだぞ」

「うっ」

「さあ、どうする?」

「・・・ゴチになります」

「ククク。
 その素直さに免じて許してやろう。
 寛大な私に感謝するのだな」

実際には、全くといって良いほど手伝わなかったエヴァに文句を言う明日菜。
だが、彼女からの切り返しに屈してしまった。

「ルシオラちゃん。
 学校って楽しいでちゅか?」

「ええ。
 ウチのクラスは一癖ある人達が多いけど、いつもお祭りみたいで楽しいわ」

「姉さんが一癖あると言うほどか。
 実際、どんなもんだい?」

パピリオは学校生活というものに、ベスパはルシオラにして『一癖』と評するクラスメートにそれぞれ興味が沸いた。

「そこにいるネギ君が担任で、ヨコシマは副担任でしょ。
 吸血鬼のエヴァちゃん、ガイノイドの茶々丸ちゃん、半妖の刹那ちゃんに明日菜ちゃん達。
 忍者と拳法家に魔法使いの卵もいるし、一般人でもそのバイタリティは凄いわよ。
 今はもういないけど、百年先から来た未来人もいたし」

「へぇー」

「・・・そ、そうかい」(汗

ルシオラが語る内容にパピリオは素直に感心しているが、ベスパは若干口元が引き攣っていた。
周りでも、食事が出来るまでそれぞれ談話を楽しんでいる。

「小竜姫が教師ねー
 生徒達も、こんな頭が固い人が先生じゃ大変なのねー」

「失礼な。
 これでも生徒達に人気はあるんですよ。
 もしヒャクメが先生をすると、毎回自習してそうですね」

「もちろんなのねー
 生徒達の自立心を高めるなら、それが一番なのねー」

「・・・やはり、アナタには教師には向きません」

小竜姫はヒャクメの良い意味で言えば『自立精神を向上させる方針』に溜息を零した。

「なるほど。
 横島も大変なのだな」

「ああ。
 つくづく思春期の女の子は難しい」

「よ、横島さんがそのような事を・・・
 昔は誰彼構わずナンパしていた横島さんが・・・」

「やかましい!」

上の軍人と教師という違いもあるが、教育する立場に共感するワルキューレと横島。
過去、高校生はもちろん中学生も守備範囲だった横島の変わりように、ジークは戦慄した。

「やっぱ、可愛ええなー」

「お褒めに預かり恐縮ニャ」

「クッ・・・
 ここでもライバル出現か」

「マッ。
 魔法使イノ間ジャ、黒猫ハ定番ナ使イ魔ダカラナ」

木乃香達は魔鈴の使い魔であるクロに興味を引かれ可愛がり、カモが対抗心を燃やしチャチャゼロに突っ込まれた。
テーブルには喋り動く黒猫・オコジョ・人形という、中々シュールな光景だが彼女達は気にしない。
逆にほのぼのさを感じるところが、すでに手遅れかもしれない。

「皆さんー
 用意が出来ましたよ」

『はーい!』

食事の準備が整い、魔鈴の呼び声に一同は席に着く。
この場ではマナーなど気にする者はおらず、自由に料理を楽しむ。

「何度食べても、魔鈴さんの料理は美味いっす!
 良いお嫁さんになれるっすよ!」

「ありがとうございます♪」

「ちなみに、俺なんかはどうっすか!?
 アイタタ!!」

「何か言ったかしら、ヨ・コ・シ・マ?」

「聞き逃した。
 もう一度言ってくれ」

「な、なんでもないです」(泣

「クスクス」

魔鈴へ料理を褒めつつもナンパを敢行する横島だったが、左右に座っているルシオラとエヴァにそれぞれ太股を抓られる。
さらに木乃香達からもジト目の視線を向けられるとすごすごと引き下がるしかなく、魔鈴は微笑ましく思い軽く笑った。

「アンタ、マナー良いわねー」

「イギリス紳士ですから。
 のどかさん、そっちは・・・こうですよ」

「は、はい」

明日菜自身もマナーなど気にしなかったが、ネギの行儀の良さに感心しつつも少々敗北感も味わっていた。
のどかはネギとの話題がほしく、マナーを教えてもらっている。
その様子に自分も覚えたほうが良いのではないだろうかと、さらに危機感が募る明日菜だった。

「小竜姫〜
 私も皆と同じモノを食べたいなのね〜」

「ダメです。
 アナタも『一応』神族なのですから」

「一応も何も立派に神族なのねー!」

「でしたらなおのこと、我慢しなさい」

「うう〜」

「あげないでちゅよ」

「そんな恨みがましい目で見るな」

「ほしければ、堕天することだね」

「そ、それは言い過ぎでは・・・」

神族である小竜姫を労わり、魔鈴は別の精進料理を用意していた。
同じ神族であるヒャクメにも同じものを出され、それほど気にしていない彼女にとっては逆に辛い。
唸るヒャクメにパピリオは両手で隠し、ワルキューレは若干気が引け、ベスパの極論にジークは引き攣る。

料理も食べ終わり、食後のお茶を堪能しレストランを後にする横島達。
魔鈴がソワソワとしており、エヴァが用意した魔道書を一刻も早く読みたそうにしていたからである。



「横島様。
 ご友人と名乗る方がいらっしゃっていますが」

「友人?」

「はい。
 ・・・正直に申しますと少々怪しい格好で、名前も仰いませんでした」

ホテルに戻った横島達は、チェックインの手続きとルームキーを受け取るためロビーに寄る。
そこでホテルマンから友人と名乗る来訪を告げられた。
予定箇所は全て周り、心当たりはなく首を傾げる。
強いて言えば、何処からか聞きつけた高校時代のクラスメートくらいであるが可能性は低い。

「その怪しい格好というのは?」

「帽子にサングラス、マスクをつけていました。
 服装こそはセンスが良いものでしたが」

「そして、名前も言わない」

「はい。
 ですが、先にチェックインをしていたご両親が出迎え、歓迎しているようでした」

「オフクロ達が?
 で、ソイツは?」

「おそらく、ご両親のお部屋かと」

「サンキュー」

両親が歓迎するなら問題はないだろうと、とりあえず会う事にする横島。
一同はロビーを後にし、大樹達の部屋に向かう。

「今回はエヴァちゃん達も知らないのか?」

「ああ、知らん」

「お義父様も招き入れているみたいだし、ややこしい人じゃないでしょ」

「そうですよ。
 聞くところ、ご友人とのこと。
 私も楽しみです」

エレベーターの中で、本当は以前のようなサプライズでエヴァ達も知っているのではないかと疑う横島。
今回は本当に知らないのでエヴァは否定し、ネギ達も首を横に振る。
ルシオラと小竜姫が宥め、ちょうど到着したのでエレベーター降り両親の部屋へと向かう。

「おーい、帰ってきたぞ」

『おお、忠夫!!
 やっと帰って来たか!
 ドアは開いてるから入って来い』

ドアをノックし戻ってきたことを告げ、中にいる大樹の言葉に部屋に入る一同。
中には大樹と百合子が椅子に座り、横島の『友人』と話しこんでいた。
その友人とは・・・

「久しぶりやな、横っち!
 心配したで!」

「ぎ、銀ちゃん!?」

そう・・・
横島の小学生時代の一番の親友にして幼馴染の銀一だった。


「いやー!
 まさか、銀ちゃんが来るとは思わへんかったわ!
 帽子にサングラス、マスクを付けた不審人物と聞いとったからなー」

「悪かったな、不審人物で!
 仕方ないやろ!
 内密で来とるんのやし、騒ぎになるからな」

銀一との突然の再会を果たした横島。
驚きが消えると、肩や背中を叩きあい再会を祝う。
そのあとエヴァ達を軽く紹介し、横島の部屋にて二人だけで酒を飲み交わしていた。

「おばさんから連絡が来た時には驚いたで。
 15年も行方不明だった横っちが帰ってきたと聞いた時は。
 すぐにでも会いに来たかったんやけど、仕事の都合で今しか空いてなかったんや」

「そっか。
 銀ちゃんも頑張ってるんやなー」

15年前はアイドル俳優であったが今では夢が叶い、一番人気な役者俳優である。
もちろん撮影など仕事が詰っており、無理に調整してもこの時間しか取れなかったのだ。
マネージャーを通して自分に連絡を繋いできた百合子だったが、
その前の事務員の若干焦りが込められた声に疑問に思うが突っ込んではいけない。

「それにしても、横っち。
 一体、何処で何をしとったんや?
 15年前に教えてもらったアパートに連絡しても繋がらへんし、直接美神さんに訊ねても行方不明としか聞いてへん」

一通り再会を祝い熱が冷め始めた頃、銀一が核心部分に触れた。
問われた横島は無言で酒を飲み干し、一呼吸入れてから口を開く。

「銀ちゃん。
 この件に関しては、GS協会やオカルトGメン。
 そして政府からも厳重に規制されてるんや」

「そないなこと関係あるか!
 俺は横っちに訊いてるんや!
 オマエが話せないというなら仕方ないやろけど、全く関係ないヤツラに止められて諦められるか!」

横島の忠告に、彼らしい言葉で再度理由を望む銀一。
顔を寄せ、ただ自分の身を案じてくれている親友に横島は・・・

「・・・ええか?
 これは絶対他言無用や。
 変に言いふらすと、銀ちゃんに迷惑を掛けるからな」

「分かった」

黙り続ける事は出来ず、全てを話す決意をした。
自分への迷惑など気にもしない銀一だが、話してくれるということで頷く。

「15年前、俺達が再会する前に東京で起こった霊的事件を覚えてるか?」

「あ、ああ・・・
 横っちが敵に寝返ったとか、実はそれはスパイとしてもぐりこんだ・・・とか言うヤツやろ?
 俺は海外ロケやったから、詳しくは知らへんけど」

「実はな・・・」

前置きに一つ確認をしてから横島は語る。

魔神大戦の本当の結末、ルシオラとの出会いと別れ、人魔となり永遠に近い命を持った自分。
その自分をよく思わない神・魔族に襲われ、平行世界に跳ばされたこと。
エヴァとネギの父、ナギ・スプリングフィールドとの出会い、ルシオラを蘇らせる手段を捜すためにその世界を彷徨っていた。
そしてネギとネカネと出会い、生活を共にし、麻帆良での出来事。
色々あったが無事ルシオラも蘇生し、元の世界に帰ってきた。
だが、それはただ一度限りの帰省であり、平行世界に戻らなくてはならない。

「たぶん、銀ちゃん達が生きてる間じゃもう戻って来られへんやろ」

「・・・」

銀一にとって衝撃な言葉で、話の幕を閉じた。
その話を真剣に聞いていた彼の持っていたコップは、力が込められ震えていた。
彼の長い長い物語・・・
いや、単なる本の物語ならどれほど良かっただろう。
だがその話は現実であり、悲痛な主人公は目の前にいる一番の親友なのだ。
15年前と全く変わらない彼の親友の姿に疑問には思っていたが、まさかそのような理由だったとは予想だにしなかった。

「なんでや・・・
 なんで横っちがそんな目に合わなあかんねん!!
 横っちは何も悪い事してへんのに!?」

「いやー
 美人のねーちゃん達にセクハラしまくったけど」

「ちゃかすな!
 オマエは愛する人を犠牲にして世界を救ったんやろ!?
 それやのにGS協会も政府も評価せず、自分のメンツに拘る汚い大人達!
 挙句に、神様達までよってたかって追放やて!?
 ふざけんなや!」

「まーまー
 あの時・・・今もそうやけど、俺は英雄になるつもりはなかったし。
 それに神魔の過激派はごく少数やから」

自分の為に心の底から怒る銀一に、内心では嬉しく思いつつ宥める横島。
だが、その軽い態度が逆に火に油を注ぐ。

「アホ!
 そないなこと、分かっとる!
 オマエは何でそう楽観・・・達観してんのや!?
 俺や夏子だけやない!
 美神さん達にも会えなくなるんやで!
 それでええんか!?」

酒やつまみが置かれている机を力強く叩き、憤慨する銀一。
幸い、中身が零れることはなかったが葛藤は続く。

「なんでや・・・
 なんで・・・」

しかし、今度は俯き声を震わせ呟くのみ。
そんな銀一の姿に、横島は心苦しく思いつつ口を開く。

「なあ、銀ちゃん。
 この決断は、俺自身が決めたことなんや。
 周りの状況関係なくな」

「横っち・・・」

苦笑しつつも決意が込められた言葉と横島の表情を見た銀一は、もはや彼の気持ちを変えることは出来ないと察した。
流れそうになる涙を必死に堪え、空になったコップに酒を注ぐ。

「・・・分かった。
 せやったら、今夜は飲むで!
 最初で最後の俺達の酒盛りや!
 二日酔いなんて気にしてられるか!」

「もちろんや、銀ちゃん!」

今、この時間を無駄にしないよう再び乾杯する二人。

彼等は思い出話や15年の事を、夜が明けるまで語り合った。
その中でエヴァ『達』が自分の恋人であり、両親に紹介した事を言ってしまい、

『よ、横っちがロリコンの畜生になってもうた・・・』

と銀一に嘆かれ、横島を大いに焦らせた。



同時刻・・・
横島と銀一が酒盛りしている頃、美神除霊事務所にも来客があった。

「かおりさん、魔理さん・・・」

「お邪魔しますわね」

「悪いな、こんな時間に押しかけて」

かおりと魔理がキヌに会いに来たのだ。
突然の来訪に少々目を丸くするが、すぐに迎え入れる。
キヌはこの一週間は令子の元に泊まらせてもらい、以前の自分の部屋を利用していた。
その部屋に招き入れ、お茶を配るキヌにかおりが訊ねる。

「美神さんはご在宅かしら?」

「美神さんに用事だったんですか?
 今は出かけていますよ」

「タマモ達は?」

「あの子達は令美ちゃんのお世話に疲れて、ぐっすりと眠っています」

「そうですか・・・」

令子はエヴァの『依頼』の為にこの時間でも戻っておらず、タマモ達は早めの就寝である。
安堵の溜息を零し安堵する二人に、首を傾げるキヌ。

「おキヌさん。
 今日、横島さんにお会いしました。
 もっとも、私達は夫のオマケとしてですが」

「まあ、それでも会えてよかったよ。
 事務所も綺麗になったし」

「?
 まさか、アナタは自分の事務所の掃除を彼等にやってもらったのかしら!?」

「ま、まあ・・・
 エヴァンジェリンの提案でさ。
 あ、あたしも手伝ったぞ!」

「そんなことは当たり前です!
 神族であり武神と名高い小竜姫様にまで、お手を煩わせたの!?」

「あ、あはは・・・」

「な、なんということを」

闘龍寺でも、妙神山の管理人であった小竜姫の存在は知られていた。
その彼女に掃除を手伝わせた・・・実際には、魔理は指示や確認ばかりのみであったので言い訳できず笑って誤魔化す。

「まあまあ、かおりさんも落ち着いて。
 私にご用だったんでしょ?
 なんですか?」

「「っ」」

魔理の態度に全てを察したかおりは卒倒しかけ、キヌが話題を変える。
話題を逸らす為であったが、二人は息を飲み黙り込む。
そして、二人は深呼吸し本題に入った。

「おキヌさん。
 単刀直入にお聞きします」

「はい?」

「横島さんのこと・・・どうするんだ?」

「っ!?」

その言葉に、ようやく訪れた意味に気付いたキヌは身を硬直させる。
そんなキヌに、刺激しないようゆっくりと語りかける二人。

「私は横島さんにこの世界に留まってもらえるよう、説得するつもりでした。
 無論、彼の事情は知っています。
 ですが、おキヌさんの事を考えると」

「かおりさん・・・」

「ですが、ダメでした。
 説得する前にあの人の決意の重さを知ってしまうと、何も言えませんでしたわ」

「あたしもだよ。
 おキヌちゃんの事をどう思っているか訊ねようとしたんだけど、聞けなかった」

「魔理さん・・・」

気持ちに感謝しつつも、キヌは二人に注意しなくてはならなかった。

「その気持ちは嬉しいです。
 ですが、やっぱり・・・」

「分かっています。
 彼は周りの状況など関係なく、ご自身で決めた道です。
 私達が勝手に説得や批難していいものではありません」

「だからこそ、おキヌちゃんが心配なんだ。
 この15年、横島さんをずっと想っている事を知っている私達は」

横島の決断・覚悟は、今更変える事も変えさせる事も出来ないだろう。
キヌが注意せずとも、今の二人には理解している。
だからこそ、親友が気掛かりなのだ。
そんな優しい二人に対して、キヌはゆっくりと口を開く。

「昨日ですけど、エヴァさん達の覚悟と横島さんへの想いを聞きました。
 木乃香さん達はまだ中学生なので即答できませんでした。
 ですがエヴァさん、茶々丸ちゃん、小竜姫様。
 そしておそらくその場にはいませんでしたがルシオラさんも、あの人に付いて行く覚悟を持っています。
 それに比べて、私は・・・」

彼女にとって珍しく、自嘲の表情を浮かべるキヌ。
その痛々しさに、二人は彼女を優しく抱きしめる。

「おキヌさん。
 私達が言って差し上げられることは、自分の心に正直になってください・・・ということだけです」

「大丈夫!
 おキヌちゃんの想いは、エヴァンジェリン達にも絶対負けないって!」

かおり達は震え始めるキヌの身体を抱きしめる両手に力を込める。

「だからこそ、私達はアナタに後悔してほしくないんです。
 どちらを選んでも」

「後悔・・・ですか?」

「おキヌちゃんがずっと悩んでいるのは知っている。
 でもこのままじゃ、決断できずに終わっちまう。
 もちろん、こんな人生を懸けた問題だ。
 すぐに決められることじゃないけど、時間が無いんだ」

「そうです。
 私達は横島さんの事を誤解し続け、後戻りが出来ない一歩手前で気付かせてくれました。
 次はアナタの番です」

「私の番・・・」

キヌの身体から震えも治まり、表情からも自嘲が消える。
変わりに浮かんだ表情は・・・

「そうだ。
 横島さんに着いて行くなら、私達は笑って見送ってやる」

「この世界を選ぶなら、あの人を笑って見送って差し上げなさい」

「・・・」

「その為にも、アナタは選ばなくてはいけません。
 横島さんか、この世界か・・・を」

「私は・・・」

その名は『決意』。
かおり達はキヌに変化があった事を感じ取り、身体を離し見守る。
キヌは両手を胸に当て、目を瞑った。

「(私はどうしたいの?
  ううん、お義父さん達や美神さん達にもまだ恩返しはしてないし、女華姫様がいたこの世界を捨てるなんて)」

今までならば、ここまでで無限ループに陥っていたキヌ。
しかし、今回は周りに親友の励ましの声が届いた。

「おキヌさん。
 周りなど関係なく、ご自分の気持ちを感じ取って」

「そうだ。
 どうすれば自分は幸せになれるのかを」

「(幸せ?
  私の幸せは・・・)」

二人の言葉に今まで感じていた『壁』が消える。
彼女の脳裏に美神と横島との出会い、そして今までのことが走馬灯のように流れる。
そして、最後に彼女の心の中に残ったモノは・・・

「すみません!
 私、急用が出来ましたので実家に戻ります!」

突如立ち上がったキヌに、かおりは柔らかく微笑み『後は任せなさい』と伝える。
その場で身支度をして鞄を持ち慌しく出て行くキヌを見送った二人は、ようやく力を抜き姿勢を楽にする。

「世話が焼けますわね」

「でも、良い顔してたよな」

「ええ。
 横島さんが居なくなって以来ですわね」

場はしんみりした雰囲気になり、身を任せる二人。
そして数分が過ぎた後、腰を上げる。

「さて・・・
 何時までも、お邪魔しているわけにはいきませんわね。
 私はお茶を片付けますから、アナタは申し訳ないですけどタマモさん達を起こして説明してください」

「私が嫌な役・・・」

「でしたら、食器を片付ける方がよろしいですか?」

「い、いいや。
 あたしはこっちでいいです」

「でしたら、早くお行きなさい」

「へいへい」

かおりは食器の後片付け、魔理はタマモ達にキヌが出て行ったことを伝えに行く。
タマモとシロは無理やり起こされ寝ぼけ眼で不安だったので、一応紙にも書置きを残し事務所を後にした。


この日の夜・・・
横島は銀一と再会し、キヌは新たな覚悟を持って氷室家に戻った。
彼がこの世界に滞在できる時間は後三日。
刻々と別れの時間が迫っていた。







どうも、siroです。

少々流れを早くし、三日目・四日目が過ぎました。
というよりも、一日で数話分も使っていれば何時終わるか分からないので(汗
これで、ようやく終わりも見えました。

今回は汚い大人達の部分が多くなってしまいました。
前回の神魔といい展開上しかないとはいえ少々気が滅入ったぶん、学校やレストランで癒されました。

ここでキヌもようやくある決意をしました。
最後の最後まで分からないと度々言ってきましたが、そろそろ決断しないとタイミング的に拙いので・・・

横島の学校に食堂がある、闘龍寺の立場、タイガーと魔理は整理や掃除が苦手。
魔神大戦の時に銀一は海外ロケに行っていたなどは、独自設定なのでご了承ください。