中国に経済についての本というと「楽観論VS悲観論」みたいなかたちになるケースが多いですが、タイトルからするとこれは「悲観論」の本。帯にも「中国が 米国を追い抜く日はこない。」とありますし、本の中でも中国経済における短期・中期・長期の問題点をあげ、その問題解決の難しさを説いています。
ただ「悲観論」と書くと悲観的な強いバイアスがかかっているようにも思えますが、この本を読めば短期はともかく、中長期には中国が今のような成長を続けるのが難しいということがわかるのではないでしょうか。
順番に紹介すると、まず短期の問題はリーマン・ショック後に行われた中国の「4兆元投資」の問題です。
4兆元は当時のレートで約57兆円。この巨額の景気刺激策と金融緩和によって中国経済は多くの国がリーマン・ショックの後遺症に苦しんだ2009年も経済成長を続けたわけですが、著者によればその巨額の投資がさまざまな歪みをもたらしたと言います。
過剰投資によって鉄鋼などの製品価格は低迷し、不動産市場にも巨額の資金が流れ込み、市場に大きな歪みをもたらしました。
著者は中国経済はすでに減速しており、「2015年頃まで、中国経済が自然体で5%前後の潜在成長率を達成することは難しいだろう」と見ていますが、これについてはもともとこの本でも指摘されている通り中国の統計はあてにならないのでなんとも言えないですね。
ただ、この本ではそうした統計の歪みを含めてさまざまなデータが提示されているので、中国経済を見る上でのチェックポイントのようなものはつかめると思います。
中期の問題は主に経済制度の問題なのですが、これは複雑すぎてここで簡単に要約できるようなものではありませんが、何と言っても大きいのは「国進民退」と呼ばれる現象。
園田茂人『不平等国家中国』(中公新書)でもとり上げられているように、中国では2000年代に入ってから国有セクターに勤める人の給与の伸びが目立つよ うになっており、国有企業がその特権やコネを活かして民間企業を圧迫するような形になっています。これを「国進民退」というのですが、この本ではその「国 進民退」の様子がさまざまなレベルで紹介されています。
地区級市の市長たちが自らの出世レースのために、無理して経済指標をあげようとしたり過剰投資を行なっていることを指摘した86p以下の部分や、そうした 地区級市をはじめとする地方政府による農民からの土地収用とそれを競売にかけることで収益を得る行為の問題点(この問題に関しては梶谷懐『現代中国の財政 金融システム』が詳しいです)、製造業が収める増値税とサービス業が収める営業税の違いからくる問題点(サービス業の税負担が重く経済のサービス化を阻害 している)など、興味深い指摘が多いです。
そして、一番多くの人が納得すると思うのが長期の問題。
中国でも少子高齢化が進んでおり、「人口ボーナス」を享受してきた中国の経済発展にもブレーキが掛かることは大泉啓一郎『老いてゆくアジア』(中公新書)でも指摘してありましたが、中国の未来に関してはその中での予想よりもさらに厳しいものが予想されます。
なんといっても衝撃的なのは、2010年の中国の出生率が1.18(北京や上海は0.7程度。この数字は2012年の夏に発表された人口統計をもとに筆者 が計算したもの)という数字だということ。これは今までのモデルに使われていた推計よりも大幅に低いものですし、少子化に苦しむ日本よりも低い数字です。
そしてこの出生率からの推計によると2030年頃までは増加すると考えられていた中国の総人口は2020年頃から現象に転じ、生産年齢人口は今現在(2013年)がほぼピークだというのです。
しかし、「一人っ子政策」は「人口増加は悪」という固定概念や、財政難に陥っている農村が「一人っ子政策」への違反に対する罰金を財源として必要としているため、なかなか見直しが行われていないと言います。
中国は「未富先老」(豊かになる前に老いる)かもしれないのです。
中国の制度自体がわかりにくく煩雑なために、この本の記述もやや煩雑でわかりにくくなっていますし、処方箋については「著者の主張するような改革や自由化 でうまくいくのか?」という疑問もよぎるのですが、中国経済の抱えるさまざまな問題点を凝縮して列挙していて読み応えがあります。
特に中長期のスパンで中国について考えてみたい人はぜひ読んでおくといいと思います。
中国台頭の終焉 (日経プレミアシリーズ)
津上 俊哉

ただ「悲観論」と書くと悲観的な強いバイアスがかかっているようにも思えますが、この本を読めば短期はともかく、中長期には中国が今のような成長を続けるのが難しいということがわかるのではないでしょうか。
順番に紹介すると、まず短期の問題はリーマン・ショック後に行われた中国の「4兆元投資」の問題です。
4兆元は当時のレートで約57兆円。この巨額の景気刺激策と金融緩和によって中国経済は多くの国がリーマン・ショックの後遺症に苦しんだ2009年も経済成長を続けたわけですが、著者によればその巨額の投資がさまざまな歪みをもたらしたと言います。
過剰投資によって鉄鋼などの製品価格は低迷し、不動産市場にも巨額の資金が流れ込み、市場に大きな歪みをもたらしました。
著者は中国経済はすでに減速しており、「2015年頃まで、中国経済が自然体で5%前後の潜在成長率を達成することは難しいだろう」と見ていますが、これについてはもともとこの本でも指摘されている通り中国の統計はあてにならないのでなんとも言えないですね。
ただ、この本ではそうした統計の歪みを含めてさまざまなデータが提示されているので、中国経済を見る上でのチェックポイントのようなものはつかめると思います。
中期の問題は主に経済制度の問題なのですが、これは複雑すぎてここで簡単に要約できるようなものではありませんが、何と言っても大きいのは「国進民退」と呼ばれる現象。
園田茂人『不平等国家中国』(中公新書)でもとり上げられているように、中国では2000年代に入ってから国有セクターに勤める人の給与の伸びが目立つよ うになっており、国有企業がその特権やコネを活かして民間企業を圧迫するような形になっています。これを「国進民退」というのですが、この本ではその「国 進民退」の様子がさまざまなレベルで紹介されています。
地区級市の市長たちが自らの出世レースのために、無理して経済指標をあげようとしたり過剰投資を行なっていることを指摘した86p以下の部分や、そうした 地区級市をはじめとする地方政府による農民からの土地収用とそれを競売にかけることで収益を得る行為の問題点(この問題に関しては梶谷懐『現代中国の財政 金融システム』が詳しいです)、製造業が収める増値税とサービス業が収める営業税の違いからくる問題点(サービス業の税負担が重く経済のサービス化を阻害 している)など、興味深い指摘が多いです。
そして、一番多くの人が納得すると思うのが長期の問題。
中国でも少子高齢化が進んでおり、「人口ボーナス」を享受してきた中国の経済発展にもブレーキが掛かることは大泉啓一郎『老いてゆくアジア』(中公新書)でも指摘してありましたが、中国の未来に関してはその中での予想よりもさらに厳しいものが予想されます。
なんといっても衝撃的なのは、2010年の中国の出生率が1.18(北京や上海は0.7程度。この数字は2012年の夏に発表された人口統計をもとに筆者 が計算したもの)という数字だということ。これは今までのモデルに使われていた推計よりも大幅に低いものですし、少子化に苦しむ日本よりも低い数字です。
そしてこの出生率からの推計によると2030年頃までは増加すると考えられていた中国の総人口は2020年頃から現象に転じ、生産年齢人口は今現在(2013年)がほぼピークだというのです。
しかし、「一人っ子政策」は「人口増加は悪」という固定概念や、財政難に陥っている農村が「一人っ子政策」への違反に対する罰金を財源として必要としているため、なかなか見直しが行われていないと言います。
中国は「未富先老」(豊かになる前に老いる)かもしれないのです。
中国の制度自体がわかりにくく煩雑なために、この本の記述もやや煩雑でわかりにくくなっていますし、処方箋については「著者の主張するような改革や自由化 でうまくいくのか?」という疑問もよぎるのですが、中国経済の抱えるさまざまな問題点を凝縮して列挙していて読み応えがあります。
特に中長期のスパンで中国について考えてみたい人はぜひ読んでおくといいと思います。
中国台頭の終焉 (日経プレミアシリーズ)
津上 俊哉