皆さん、初めまして。
キヌです。
15年前に横島さんが行方不明になって、どれほど泣いたでしょうか・・・
しかも、その原因が自分勝手な神族・魔族だと知り、どれほど怒りに身を震わせたでしょう・・・
あの人の友人達はもちろん、美神さんも決して見せようとはしませんでしたが悲しみに包まれた事か・・・
皆さんは横島さんは絶対生きていると言い聞かせ、私も信じつつ自分の人生を歩み続けました。
私は六道女学園を卒業し、少々複雑な内容でしたがGS資格を取り・・・
美神さん・シロちゃん・タマモちゃんと事務所で、横島さんを待つつ日々が過ぎていきました。
その間、笑いで済まされるような出来事や、本当に大変な事まで様々な出来事などがありました。
かおりさんは雪之丞さん、魔理さんはタイガーさん、ピートさんはエミさんと結婚。
そして横島さんが行方不明になって10年後、美神さんも西条さんと結婚し子供も生まれました。
育児も落ち付いた後、私は氷室家に戻りました。
あれほど事務所で横島さんを待っていたのですが、どうしてか居づらくなってしまったんです。
もしかしたら、あの美神さんが横島さんを諦めてしまったという事実から目を逸らしたかったのかもしれません。
横島さんが行方不明になり、15年余りが経った一週間前・・・
私の元に連絡も無しに突然訪れた美神さんに首を傾げましたが、次の言葉に私は固まりました。
『おキヌちゃん、よく聞いて。
平行世界に飛ばされていた横島君が見つかったわ。
先に平行世界へ確認しに行った小竜姫様が、彼本人に会ったそうなの。
私も彼女から事情を聞いたけど、本当に変わらない様子よ。
しかも、一週間後に戻ってくるらしいわ』
と・・・
その意味を長い時間を掛けて理解した私は、安堵と喜びに泣き崩れました。
私の泣き声が聞こえたのでしょう、お母さん達が私に駆け寄ってきまして落ち着くのは大変でした。
それだけでしたら、一週間先をただ楽しみにしていたらよかった。
でも・・・
『でもね・・・
横島君はこの世界には戻ってくるけど、問題は別にあるの。
落ち着いて聞いてちょうだい。
・・・彼は平行世界で知り合った人達と共に生きる決意らしく、今回が最初で最後の機会となるわ』
『え・・・?』
その言葉に、私は今度こそ身も心も凍りました。
姉さんが憤る中、私は全てが遠い出来事のように感じ、気が付けば布団に寝かされていました。
どうやら気絶してしまったようです。
美神さんも私が目を覚ました後、ルシオラさんも蘇ったなど追加の説明をし帰って行きました。
約束の一週間が来るまで、私はずっと悩み続けていました。
私も横島さんが大好きで、この想いに変わりはありません。
でも私を育ててくれたお母さん達や、女華姫様がいたこの世界を捨てるなんて・・・
迷えば迷うほど横島さんが決意した重さを理解し、自分が情けなく思えました。
そして、再会した横島さんは本当に変わりませんでした。
本当にエッチな性格で、女性に弱く、煩悩が強くて・・・
でも、周りを明るくする雰囲気と彼の変わらない笑顔・・・
私は、どのような選択をすればいいのでしょうか?
「だから、こうしてお願いしてるんです。
何とか聞いてくれまへんでしょうか?」
「お願いー
令子ちゃーん」
「何言ってるの!!
散々ナメた真似してくれて、頷くはずないでしょうが!!」
ある意味の現実逃避兼重大な心の整理をしていた私ですが、美神さんの威圧感に現実に戻されてしまいました(汗
美神さんが座るデスクの前には、鬼道さん・・・婿入りなので今は六道正樹さんですね。
正樹さんと冥子さんが持ち込んだ依頼を引き受けてもらえるように説得していますが、効果は薄いです。
ほら、シロちゃんとタマモちゃんも怯えて震えていますよ。
私も正直に申しまして、かなり辛いです・・・(汗
「ちわーっす!!
来ましたよ、美神さーん!!
・・・帰っていいっすか?」
ああーっ!!
見捨てないで下さい、横島さはーん!!
『GS美神+ネギま!』
「人魔と歩む者達」
第八話・英雄の帰還と別れ 5
横島達がこの世界に戻ってきて二日目。
ホテルを出発した彼等は、西条の指示通りに美神除霊事務所を訪れた。
横島の両親達はせっかく東京に戻ったのだからと、本社や顔なじみの所を回る予定なので別行動である。
中に入った途端に感じた令子が醸し出す雰囲気に、横島は回れ右し戦術的撤回を図る。
当然、キヌを初めとしたシロとタマモが縋りつくように止めたのは言うまでもない。
「そ、それで、何があったんすか?」
テーブルを囲むように座るのは、令子・冥子・正樹・横島・チャチャゼロを頭に乗せたエヴァのみ。
キヌを始めた美神除霊事務所の所員やネギ達は、
ソファーや自分で用意した椅子などに微妙に距離をとりつつ座り様子見をしている。
エヴァはその程度で恐れるはずもなく、チャチャゼロは令子の雰囲気に武者震いしていた。
「どうもこうもないわよ!!
冥子ったら、今日は私達が受けるはずだった仕事を持っていったのよ!!」
「そりゃいかんぞ、鬼道。
なんて命知らずな」
「ちゃ、ちゃうねん、横島はん。
これには深い訳があるんや」
恐る恐ると横島が事情を尋ねると、令子は苛立ちが混じったヒステリー気味な声で叫ぶ。
その言葉に横島は正樹に哀れみの視線を送り、
彼は内心では横島が令子の緩和剤になるかと期待していたので慌てて事情を話す。
ちなみに横島は西条に続き、彼も鬼道と旧姓で呼んでいる。
そのほうが呼びやすく、本人も了承しているので問題はない。
「それは朝食の時やった。
お義母はんから、悪魔の言葉を聞かされたんや」
『二人とも〜
悪いけど〜、令子ちゃんの所へ行って〜、仕事を依頼してくれないかしら〜
あっ、大丈夫よ〜
今日入れてあった〜、令子ちゃんの仕事はこっちで片付けておいたから〜』
『はあっ!?』
「車でここまで来る間、生きた心地せんかったわー」
「だろうなー」
顔を上げ遠くを見る正樹へ、横島は同情の視線を送る。
その間、空気を読まないのかマイペースなのか分からないが、冥子は令子の説得を続けている。
「お願い〜、令子ちゃん〜
もし断れると〜、お母様に怒られるの〜」
「アンタも一児の親なんだから、いい加減にガツンと言ってやりなさいよ」
「そんな〜!
お母様の怖さは〜、令子ちゃんもよく知ってるじゃない〜!」
「ま、まぁね」
冥子の母である前・六道当主の手腕は衰えておらず、引退をした今は基本的には手を出さないが重大な部分で暗躍している。
「ちなみに横島はんには、GS免許の失効を防いでいた対価っつーことらしいで」
「ギャー!!
だから、あそこに借りを作るのは嫌だったんだよー!!」
やっぱりと、六道からの高い借りに嘆く横島。
こちらが頼んだわけではないが、令子達の願掛けや実際に役に立った事に本気で拒否できず肩を落とす。
横島は攻略済みと判断し、正樹は再び令子と交渉に挑む。
「ホンマ、頼みますわ。
報酬もさっき言った通りですから」
「私達が引き受けるはずだった仕事分の金額丸々、そしてアンタ達からの報酬・・・ねぇ。
でも、私達は横槍を入れられたのよ?
そう簡単に納得出来る筈ないでしょ」
「そこんとこは理解してますけど・・・」
報酬を持ち出しても、令子の棘棘した言葉に及び腰になる。
元々令子達が引き受けるはずだった大口の仕事であり、その報酬は計り知れない。
その全てを譲り、それとは別に自分達からの依頼の報酬も払う用意はあると正樹は伝える。
しかし見た目では乗り気ではない令子だが、肘を付き手で隠している口が歪んだのはエヴァしか知らない。
「でもね、私達の信頼と看板に傷をつけたのも確か。
向こうも気にしているだろうからこちらからのフォローと『忠告』、それと迷惑料を込めてさらに八割を増加してもらうわ」
『ええーっ!?』
「そ、それは行き過ぎや!!
せめて二割やで!!」
令子からのさらなる報酬の増加の要請に正樹は戦慄する。
横島など令子をよく知っている者達は『来た!!』と構え、
ネギ達はただでさえ報酬の金額に言葉を失っていたが、さらなる令子の要求に椅子からひっくり返る。
「なに甘いこと言ってるの?
GSという商売は、命を掛けた仕事なのよ?
そういう勝手なことをされたんじゃたまらないわ。
水に流すにしても、それくらい払うのは当然。
七割九分」
「で、でも、それにしても吹っかけすぎや。
それに横島はんのGS免許のこともあるで?
三割」
「それはそれ、これはこれよ。
多少マケるにしても、七割八分九厘よ」
「一厘かよ!?」
「そ、それは申し訳ないと思ってます。
でも、決して悪いようにはしないというのがお義母さんの言葉や」
「本当にそう思ってる?
あの人の狡猾さはアンタも身に染みているほどでしょ?
それに何?
仕事の依頼内容が書かれてないでしょ?
どんなに面倒な仕事か、想像するだけで逃げたくなるわ。
本来なら受けるにしても、三倍や四倍にしてもいいくらいよ」
「(お義母はーん!!
やっぱり、元々不利な立場で美神はんに交渉するなんて無茶やー!!
ホンマ、恨むでー!!)」
切り札の一つである横島のGS免許のフォローを出しても、令子は容赦はなく指摘する。
テーブルにある契約書には依頼内容は書かれておらず、報酬とサイン欄のみ。
確かにこれでは、彼女ならずとも警戒するのは当然であろう。
これは六道女史の企てであり、これも試練だとばかりにあえて不利な立場から令子に交渉を当たらせたのだ。
あんまりな自分の評価に横島は突っ込み、知らされていない正樹は依頼内容を教えてくれなかった六道女史に内心で文句を言う。
その後・・・
必死に喰らいつく正樹だったが、令子の情け容赦なく返り討ちにされる。
結局、報酬の上乗せは七割に納まる。
令子の手腕は凄いのか、彼女相手に一割下げた鬼道が凄いのか悩む所であった・・・
「いらっしゃ〜い。
待ってたわ〜」
一応、六道家の依頼を引き受けた令子達。
事務所の前で正樹が用意していた車に一同乗り込み、移動する。
ただし令子達はコブラで着いて行き、トランクにはあらゆる霊的アイテムが入ったリュックを乗せている。
車は都心を離れもしばらく進み、横島達のみならず正樹を含めた一同が怪しく思う。
どうやら、彼等も説得のみで依頼の内容は知らされず戸惑っているようだ。
ようやく目的に着いたのか車は止まり、一同は下りると彼等を待っていた今回の企みの張本人である六道女史が出迎える。
『・・・・・・』
「あら〜
挨拶くらい返してくれないと、おばさん悲しいわ〜」
六道女史の声が虚しく響く中、令子達のみならずネギ達も言葉をなくしたまま。
彼等が到着した場所は、特撮モノなどがスタントでよく使うなどがよく使う荒野。
そのど真ん中に浮きまくっている数々のモニターが備え付けられていたステージ、
その前には昨日の歓迎会に参加したメンバーやそれ以外の知人も座っている。
しかも、周りには数々の屋台もあり各自好きな物を取っている。
さらステージの背後には馬鹿でかい塔の様な物が建っていたり、武道台があれば誰でも言葉をなくすだろう。
「遅かったな、横島!!
待ちくたびれたぜ!」
「ゆ、雪之丞!!
これは一体何!?」
未だ硬直したままである横島達に、相手も気付き席を立つ。
横島に声を掛けた雪之丞だったが、令子が先に問い詰める。
「俺もよく知らねー
朝早くから連絡があってな。
横島関係で面白いモノが見れるから来てくれってな」
「・・・最初から知っていたわけじゃないわよね?」
「それはないよ、令子君。
今日の朝に皆へ連絡が行っていた事は本当だよ」
「・・・そう。
でも・・・アナタ!!」
「うっ・・・」
「見てくれ、横島!!
昨日言っていた、俺の子供達を連れてきたぜ!
ほら、挨拶しろ」
『はじめまして!!』
「へぇー」
もしかしたら昨日から知っていたのではないかと疑う令子だったが、神父の言葉に渋々納得する。
しかし、それでも苛立ちは収まらず、せめて六道女史から連絡が来た時にこっそりと教えてほしかった西条に矛先を変える。
横島も雪之丞達のネギ以上明日菜達以下といった、それぞれ親の面影を受け継いだ子供達の紹介を受けていた。
「お、お義母はん!!
これはいったい何なん!!?」
「これ〜?
ちょっとしたイベントなんだけど〜、やっぱり楽しく行かないと面白くないじゃない〜
大変だったんだから〜
一週間で用意するの〜」
「面白なくてええんです・・・」
「それはそうと〜、交渉はどうだった〜?」
「う・・・」
横島達が談話しているなか、正樹は六道女史に問い詰めるがのらりくらりと避け逆に報告を求めてくる。
引き受けてはもらえたが、報酬に関しては良い結果を出せなかったので言葉が詰る。
「その様子だと〜、うまくいかなかったのかしら〜?」
「仕事は何とかOKしてもろたんすけど、報酬がさらに七割を追加を約束させれました・・・」
「あら〜
思ったよりも頑張ったわね〜
私の予想だと〜、二倍以上だと思っていたわ〜
やっぱり〜、横島君と一緒に仕事をしたいのかしら〜」
「に、二倍・・・」(汗
令子が大口と評していた五件の仕事。
その報酬の合計は、誰でも一瞬疑いたくなるような金額であろう。
さらに六道家からの依頼の報酬を加えた、合計金額の七割。
正樹は六道女史の予想外な好評の言葉に、改めて令子の恐ろしさを肌で感じていた。
「さて〜
それじゃ〜、さっそく〜
あら〜?」
「ん?
騒がしいな」
とりあえず話も終わり、二人は本題に移ろうとした時に横島達が騒がしくなってきている事に気付く。
しかも昨日とは違い、決して良いモノではなく険悪な雰囲気。
その元凶は・・・
「横島さん!!
私はあなたを認めません!!
雪之丞やおキヌさん達は高評価していますが、信じられません!!」
「そうだ!!
アンタみたいな男が、私達や美神さん以上なんて信じられるか!!」
「かおり!!
なんて事を言いやがる!!」
「魔理しゃん!!」
「かおりさん、魔理さん!
落ち着いてください!!」
雪之丞の妻・かおりとタイガーの妻・魔理の二人であった。
夫や親友が宥めるが聞き入れず、目の前にいる横島に食って掛かる。
二人にとって横島は、バカでお調子者の女好きという印象しか持っていない。
一度出会った頃は煩悩全開であり、『魔神大戦』の本当に経緯を彼女達は知らない。
GS協会が隠している事と、真意を知っている雪之丞達も語ることが出来るのは横島のみと考える。
ただ、彼がいたから世界は救われたとしか教えていない。
さらに横島が行方不明になった頃の失意の親友の姿が拍車を掛けている。
「まーまー
雪之丞もおキヌちゃんも落ち着けって。
かおりちゃん達が言っている事に間違いはねーんだし」
そのある意味、原因である横島は気にも止めずにかおり達の言葉を肯定する。
ルシオラに命を助けられた時に自分の価値を高めるという決意をしたが、それはまだ発展途上であり自己評価は低い。
さらに雪乃丞はともかく、令子よりも強いとは到底思えない横島。
「ほら、ごらんなさい!!
アナタ達もいい加減、目を覚ましなさい!」
「そうだ!!
この男が世界を救っただって!?
ありえねーよ!!
もしあの時にアンタじゃなくて、私達がいたらもっと役に立てたぜ!!」
言質を取ったとばかり、さらに横島に蔑みの表情を向けるかおりと魔理。
これにはおキヌだけはなくネギ達も憤り、反論しようと駆け寄ろうとする。
しかし、その前に雪之丞がキレた。
「目を覚ますのはかおりだ!!
おい、横島!!
ちょうどいいから、コイツを扱いてやってくれ!!」
「はっ!?」
「アッシからもお願いしますじゃー!!
元々、横島さんのことはお互いに意見が合わなかったんじゃー」
雪之丞からの予想外な言葉に戸惑う横島だが、タイガーも賛同し頼み込む。
付き合っていた頃や結婚し子供が生まれた今でも、横島のことは互いにすれ違ったままである。
横島の本当の価値を知り、魔神大戦の経緯を知る雪之丞とタイガー。
対して横島の一面しか知らず、魔神大戦の表向きしか知らないかおりと魔理。
しかも互いに譲らず、ある意味タブー扱いされていた。
この機会に、間違った価値観を壊してほしいと願う夫達。
そして・・・
「私からもお願いします、横島さん」
「お、おキヌちゃん!?」
彼女達の親友であるキヌからも頼まれ、横島はさらに驚きが増す。
その気持ちを察し、彼女は悲しみが混ざった決意の表情に顔を歪める。
「確かに力で証明するのはよくはありません。
ですが今の間違った価値観のままじゃ、いつか絶対に後悔します。
私の親友を救う為に、お願いします」
「おキヌちゃん・・・」
彼女の言葉や雰囲気に、初めて横島はおキヌが『大人』になっている事に気付いた。
見た目も充分大人なのだが、心の成長まで感じ取れたのは初めてだった。
「・・・分かった。
何処まで役に立てるかは分からないけど、やってみるよ」
「っ!!
ありがとうございます!!」
横島の了承に、キヌは深く頭を下げる。
周りから見れば良い話なのだろうが、すでに負ける事を決められているかおりと魔理にとっては面白くない。
それどころか、親友に裏切られたような錯覚をする。
「の、望むところです!
皆さんの評価がどれほどの間違いであり、私達が正しいか証明してあげます!!」
「おお!!
ここまでナメられて、引き下がってられるか!!」
あまりの剣幕に子供たちも母から離れ、父親の側で戸惑っている。
そんな彼等に父親よりも早く、横島が親友達の子供の頭に手を乗せる。
「悪いな。
俺のことで両親が不仲になっちまって。
出来うる限りのことはするから、もう少しだけ待っててくれ」
『はい!!』
明確な根拠はないが彼ならば何とかしてくれると信じられ、子供たちも落ち着きを取り戻す。
その経緯を聞いていた六道女史が話に割り込む。
「だったら〜、そこにある武道台を使ってちょうだい〜
元々雪乃丞君達が〜、横島君に試合を挑む事が出来るように〜用意したものだから〜
霊的処理や結界も備わっているから〜、思う存分やっちゃって〜」
「ありがとうございます。
魔理、私からで良いわね」
「ああ。
出来れば私の分も残してくれよ」
「無理ですわね。
私だけで充分ですわ」
武道台の理由と使用の許可をもらい、かおりが礼を言う。
こうして予想外の事態に入り、横島対かおり&魔理の試合が始まる事となった。
「お手柔らかに頼むよ」
「それは無理な相談ですわ。
全力を出させてもらいます」
武道台で向かい合う横島とかおり。
広さは六道女史学園にある物より倍は広く、周りには結界が敷かれている。
その結界の外で頼み込んだ雪之丞達、あえて口出ししなかった令子達、そしてネギ達が囲むように観戦する。
この中で横島の実力と魔神大戦の経緯を知らない愛子と小鳩が、令子に恐る恐る問いかける。
「あ、あの、大丈夫なんですか?
あの人達も一流のGSですよね?」
「大丈夫よ。
あの二人に横島君は倒せないわ。
可能性があるとすれば変に暴走することだけど、彼もおキヌちゃんや親友達のお願いだから真面目にするでしょ」
「横島君って、そんなに強いの?」
「ええ。
マイト数はたぶんだけど、私と同等かそれ以上。
実戦を潜り抜けてきたから、不意打ち・卑怯なんでもあれ。
さらに小竜姫様や猿神の修行を受けていたのよ?
心配はないわ」
「そ、そうですか・・・
横島君も成長したわねぇ」
愛子は15年前と少しも変わらない横島を眩しそうに見る。
これほどの長い時が流れても、自分と同様に歳を取っていないように見えることに疑問はある。
だが二人にとっては些細な事で、彼が彼らしいことが何よりも大切だった。
だからこそ確信している。
自分達が救ってもらったように、今は間違っているかおり達も大丈夫だろうと。
「アナタの評価は大げさでも、雪之丞が自分のライバルと言い続ける相手。
最初から全力で行かせて貰います!!」
そんな会話をしている間に、武道台に立つかおりは彼女の家に伝わる『水晶観音』を纏う。
頭に血が上っても、冷静に評価する部分もあった。
それはこれまでの経験が彼女を成長させたのだろう。
「行きます!!」
ドンっと勢いをつけて横島へ襲い掛かるかおり。
一気に勝負を決めるつもりでの特攻だったが・・・
「どわっ!」
「っ!?」
横島は軽い悲鳴を上げるが、あっさりと彼女の攻撃をかわす。
そのことに一瞬動揺するが、すぐに持ち直し更なる連続攻撃を繰り出す。
「わっ!
とっ!
ほっ!」
「な、何ですって!?」
だが、その攻撃でさえ横島は避けていく。
彼女も夫である雪之丞と組み手を何度もしており、
横島が避けているのは偶然ではなく動きを読んでいるのだと経験が理解させられる。
「なら、これではどう!!
雪之丞直伝・連続霊波砲!!」
今度は逆に間合いを取り、連続霊波砲に変更する。
しかし・・・
「どわー!!
雪之丞、なんつー技を教えとるんやー!!」
「クッ!?」
それもさえ避けらてしまう。
縦横無尽に避ける横島のスピードに追いつかず、霊力を無駄にするだけと判断し中断する。
「ハア、ハア・・・
こ、こんなことって・・・」
連続霊波砲は霊力の消費も激しく、息を整えつつ目の前の現実が信じられないかおり。
魔理でさえ、言葉を失ってしまう
「少しは分かったか、かおり。
横島の実力が」
「み、認めませんわ!!
もう一度!!」
雪之丞の言葉と現実が受け入れられず、冷静な部分も失い再び横島へ襲い掛かるかおり。
だが、今度は横島も避けるだけではなかった。
「フッ!!」
パリィィィン!!
「キャアアアー!!」
逆にカウンター越しに、サイキックソーサーを投げつける。
攻撃態勢であり避けられず、まともに受けてしまい彼女の水晶観音は砕け散ってしまう。
ちなみに水晶観音を破壊した横島は『イヤ〜ン』な展開を期待したのだが、下に法衣を着ているので少々残念だった。
「ま、まさか・・・
こんなことって・・・」
先ほどのサイキックソーサーは、横島が水晶観音を破壊するだけに調整されていたので彼女自身には怪我はない。
だが、ソーサー以上に彼女は精神的にはかなりダメージを受けている。
彼女も今では『闘竜寺』の正式に継いでおり、一流のGSでもある。
自分の切り札である水晶観音を一撃で破壊するサイキックソーサーの威力、
そして身体にはダメージを与えない精密なコントロール。
それは自分の実力では出来ないことであろう。
その事実一つ一つが、かおりだけではなく魔理にも襲い掛かる。
「あ、あなたは・・・」
「ん?」
「ど、どうしてそれほどの力を・・・?」
幼少の頃から闘龍寺で修行をしていた自分を、高校の頃にGSに入り込んだ横島が超える。
知り合ってから彼はGSどころか、尊敬する美神令子のパートナーでさえ信じられなかった。
そんな彼がそれほどの力を手にしている事に、驚愕もあるが不思議でもあった。
その問いに横島は、頬を掻きながら少し照れくさそうに口を開く。
「もう、二度と後悔しない為・・・
それと皆を護る為・・・かな」
「・・・そうですか。
そういう理由では納得です」
チラッと場外にいるルシオラ達を目にやり、答える横島。
その表情から本心の言葉と察し、憑き物が落ちたように笑みすら浮かべるかおり。
ここでようやく、彼女も外にいる魔理も横島を認めた瞬間だった。
「申し訳ありませんでした、横島さん。
数々の無礼、お詫びします」
「か、顔を上げてくれ!
間違っちゃーいねーし、俺もそう思ってんだから。
それよりも、納得したなら試合はもういいな?」
深く頭を下げるかおりと魔理に、今までのことよりもさっさと試合を終えようとする横島。
だが、そこは雪之丞を夫に選んだかおり。
「いえ・・・
ここまで来たのなら、最後まで付き合ってもらいます!!」
「やっぱり・・・」
再び水晶観音を纏うかおりに、予想通りの展開に横島は肩を落とす。
だが横島を外敵ではなく、一つの成長を諭す壁と認識したかおりはさらに全霊力を注ぎ込む。
「この一撃だけです。
今の私ではあなたには届かないでしょうけど、持てる全ての力をぶつけます!
よろしいですか?」
「よろしいも何も・・・
そうしないと納得しないんだろ?
ただし、これっきりにしてくれよ」
「ええ!!」
場外にいる雪之丞もやってやれと視線で強い催促をしているので、もう好きにしてくれと軽く手を上げるしかなかった。
横島から了承を貰ったかおりは、さらに気合と霊力を込める。
「行きます!!
ハアアアアアアア!!」
一点に霊力を集中した右手を振りかぶり、一直線に横島へ突撃するかおり。
対して横島も、悲鳴を上げたり逃げようとせずに腰を落とす。
そして・・・
「栄光の手<ハンズ・オブ・グローリー>!!」
同じく右手に栄光の手<ハンズ・オブ・グローリー>を展開し、互いの拳がぶつかりあう。
二人の霊力が迸り、霊力処理されたはずの武道台ですらヒビが出始める。
「「あああああっ!!」」
しかし拮抗は二・三秒であり、再び水晶観音ごと全てを込めた霊力が粉砕されたかおりは吹き飛ばされる。
「おっと」
だが、結界を飛び越えた雪之丞が抱きとめ事なきを得た。
かおりは薄っすらと目を開き、自分を抱きとめている夫を見やり申し訳なさそうに謝罪する。
「アナタ・・・
今まですみませんでした。
アナタの親友を侮辱し続けて・・・」
「いいってことよ。
アイツは気にしてないしな。
魔神大戦の経緯も、横島から許可をもらったら話してやる」
「ええ・・・」
「立てるか?」
「大丈夫です。
子供の前で、これ以上の失態を見せるわけには行きません」
雪之丞にも謝罪しつつ、ただでさえ負けた姿や今までの醜悪な自分を自覚し、自ら毅然と立つかおり。
何気なく惚気ている雰囲気を醸し出す二人。
周りはいい加減にしてくれといった感じだが、タイガーは隣にいる妻に声を掛ける。
「魔理しゃんはどないするんかいのー?」
「もちろん戦うさ。
横島さんのことは私達が間違っている事も、実力も上だと痛感してる。
でも、だからこそ戦ってみたい」
「・・・了解ですじゃ。
横島さんー!!
魔理しゃんにも相手をしてくれほしんじゃー!!」
魔理の目にも今までの横島に対しての蔑みの色はなくなり、純粋に敬意と強者に対しての好奇心が見えた。
タイガーはこれで夫婦の間にあった唯一の蟠りも消えたことに安堵し通つつ、横島に呼びかける。
彼も予測していたのだろう、やる気こそ見えないが手を振り呼んでいる。
魔理は頬を軽く叩き、気合を入れて武舞台へ立つ。
「アタシもアンタの力は嫌がおうにも理解してる。
だからこそ、最初から一撃に全てを込める!!」
持っている木刀を構え、全ての霊力を注ぎ込む魔理。
木刀は彼女の霊力を纏い、光り輝く。
「行くぜ!!
ハアアアアアアア!!」
木刀を振りかぶり、かおりと同様に一直線に突っ込む魔理。
横島も前回と同じく、腰を落とし構える。
「ヤアアアアアア!!」
一気に飛び込み、魔理は全力で横島目掛けて木刀を振り下ろす。
確かに今では一流の仲間入りをしており、夫であるタイガーがサポート役で主に戦うのは彼女である。
その全ての霊力が込められた一撃は並大抵ではないだろう。
だが、込められた霊力はただ集められただけである。
対して、横島はというと・・・
「フッ!!」
バシュ!!
カラン・・・
「あっ・・・」
栄光の手から展開された霊波刀。
それは彼の強力な霊力はもとより、さらに圧縮され半ば物質化しているほどである。
ただ霊力を集めただけの一撃など鍔迫り合いすらも起こらず消し飛び、木刀は真っ二つにされた。
「チェックメイト」
かおりとは違って飛ばされてはいないが、霊力が消耗し尻モチを着く魔理の前に霊波刀を突きつける横島。
彼女は負けた事実よりも、自分にはない彼の霊波刀に見惚れていた。
「魔理ちゃん?」
「あっ!!
す、すまん!!」
彼の呼び声に我に返り、慌てて起き上がろうとするが力が入らず再び倒れこむ。
その姿にタイガーが近づき、彼女を抱き上げる。
「横島さん、今回は本当にすまなかったですじゃー」
「気にすんなって。
俺のことが原因で夫婦間がぎこちなかったら、目覚めが悪いしな。
祝福するのは気に食わんが、仲良くしろよ」
「もちろんですじゃ!
魔理しゃんはあっしが護るっすて」
「はいはい。
惚気はいらねーよ」
「あっ!!
横島さん!!」
タイガーの言葉を遮り、先に下りようとするう横島に魔理が声を掛ける。
『ん?』と顔だけ振り返る横島に、タイガーに抱き上げられたままの魔理が今までの非礼を詫びる。
「今までスミマセンでした!!」
「だから気にしてないって。
あの頃は確かに二人の言うとおりだったからな。
俺のことは関係なく、これからもおキヌちゃんと仲良くしてくれ」
「もちろんだ!!」
唯一の懸念も解消され、今度こそ横島は武道台を降りる。
ネギ達が出迎えようとするが、彼自身が視線で抑えキヌの元へ歩む。
「これでいいのかな、おキヌちゃん?」
「はい!
ありがとうございます、横島さん!」
横島の確認に、彼女は深く頭を下げる。
こうして彼等の夫婦間、キヌたちの仲とのすれ違いはようやく解消されたのだった。
「予想外なイベントがあったけど〜今から始めるわよ〜」
「何をするかは知らないけど、先にこの状況を説明してくれませんか?」
一件落着した後・・・
六道女史が誘導し美神・横島・キヌ・タマモ・シロはステージ上に立ち、その他は前のパイプ椅子に座っている。
未だ内容すら知らず、なにやらイベントのような雰囲気に進行役である六道女史に問いかける令子。
おキヌなどは知り合いばかりとはいえ、少々恥ずかしそうにしている。
「慌てなくても〜今から説明するわ〜
令子ちゃん達には〜後ろにある塔に入って〜、数々の難題をクリアしてほしいの〜」
「何っすか?
その本当にテレビ番組のような趣向は?」
要点だけの説明にこちらも気にしていない横島は益々首を傾げる。
六道女史も分かっているとばかり、一つ頷いて説明を続ける。
「今回の目的は〜令子ちゃんたちの戦い方を〜記録に残したいのよ〜
横島君も参加した〜美神除霊事務所全員の〜」
「それは私達の戦力を記録に残すという事ですか?」
自分達の戦い方、ひいては自分達の戦略を知られるということ。
GSの仕事では雇い主と共に除霊に向かう時もあるが、それとは話が別である。
厳しい表情をする令子だが、それも六道女史も理解している。
「そんな難しく考えないで〜
メインはあなた達の適切な判断や〜、コンビネーションなのよ〜
この記録は〜学園の中でも〜さらに優秀な子達に見せる〜教材の一部にしたいのよ〜」
「そういうこと・・・
だったら、横島君の文珠とかも使用禁止ですか?」
「判断は任せるわ〜」
「チッ!
分かりました。
改めて、この仕事を受けます」
「助かるわ〜
これ、一応建前上の目的の調査書よ」
ここでようやく彼女の目的を聞き、令子も趣旨を理解する。
記録に残り、さらに適材適所の選択やコンビネーションを主に置くならば文珠は使えない。
そのことが分かっての質問だったが、全てを理解しているはずの六道女史はしれっと返す。
『狸め・・・』と内心で文句を言いつつも、思ったほど面倒な物ではなく請けた仕事なので正式に引き受ける。
色よい返事も貰った六道女史は満足し、塔の中に入る目的とある程度の内容が書かれた書類を渡す。
まずは令子から目を通し、横島やキヌ、タマモやシロも同じく読んでいく。
シロとタマモも書類に目を通すところが、彼女達の成長を物語っている。
「皆さんも〜どうぞ〜」
六道の言葉に正樹も書類を雪之丞達やネギ達に配る。
GSとして慣れている雪乃丞達はもちろん、この世界の住民である愛子や小鳩は何とか理解できる。
だが、違う世界の住民である明日菜達にはよく理解できなかった。
「あ、あの・・・
これって、それほど難しい物なんですか?」
「ああ・・・
君達には馴染みがないものだから、実感できないんやな。
僕が説明してあげるわ」
ネギが代表し配り終えた正樹に問いかけ、若干苦笑しながら詳細を説明する正樹。
「見て分かるとおり、書類にはこう書かれとる。
悪霊が建物を乗っ取ったので、除霊すること。
悪霊自身は自我もなく、ランクはC級。
ただし、確認する為に無理やり依頼人も同行すること。
調査から数日経った後に依頼が舞い込んできた事。
簡単に言うとこんなもんや」
「はい。
C級と言うのは、どれほどのものなんですか?」
「そやなー」
C級と書かれても、それこそ実感と判断がつかないネギ達に正樹はしばし考え口を開く。
「神族・魔族が関わるなら、低級でも問答無用で最高ランク。
以前に冥子から聞いた、真祖の吸血鬼であるピート君の父が絡んだ事件でも同じや。
その時は個人では達成不可能なので、優秀なGSを集めるのが恒例や。
そこからランクは落ちていって、君達が出くわした事件は状況が特殊やからランクはB。
今回のC級は真ん中や。
超一流の美神はんなら、一人でもお釣が来るくらいやな」
『へぇー』
この世界での一般的な評価の説明に納得する明日菜達。
刹那も改めて、自分達の世界とは違う価値観に驚いていた。
「・・・どう思う、小竜姫?
横島曰く、ジジイと同様かそれ以上の狸と評する女の依頼だ。
そう簡単なものだろうか?」
「違うでしょうね。
ただ、メインである生徒達の教材とするというのが真実ならば、それほど難題なモノにはならないかと」
逆に、六道女史をやり手だと理解しているエヴァは隣に座っている小竜姫に問いかけ、彼女も同じ反応を示す。
だが、内容自身は苦労するだろうが、危険性はないだろうとも思っている。
エヴァも納得し、書類を読み終えた令子達が塔の入り口へ移動する背中を見送った。
「それじゃ〜、スイッチオ〜ン」
彼等が塔の入り口の前まで歩くと、六道女史の合図でステージ上に備え付けられていた数々のモニターに電源が入る。
おそらく塔の中であろう部屋の中やら、門の前にいる令子達が映っているものまで。
「このモニターで〜令子ちゃん達が見られるから〜、安心してね〜」
雪之丞達のみならず、ネギ達も興味を惹いていた美神除霊事務所のメンバーによる戦い。
彼等の目と心はモニターに釘付けだった。
「さて・・・
前もって訊いておくけど、さっきの依頼内容を本当に信じている者は挙手」
門の前に立ち腕を組んで鼻を鳴らした令子は、後ろに控えている所員たちに一つの確認をする。
彼女の問いに、全員挙手しなかった。
もしここで手を上げるようなら、キヌを省いた所員を折檻しようと神通棍で滅多打ちだったにするつもりだったので一安心。
「なら、その理由は?
はい、横島君」
「まずC級となってるけど、依頼が舞い込んだのは数日後といったところで怪しいっすね。
その間に強化してB級になったり、他の浮幽霊達や悪霊を呼び込んでいるかもしれない。
何よりも、あの人が苦労したと言った時点で確定っす!!」
「よく出来ました。
アンタも、やっとそれなりになったわねー」
「・・・」(汗
令子のさらなる問いかけにも指名された横島が自信満々に答え、正樹が冷や汗を流す。
この時点で『依頼書や調査書を鵜呑みにするな、現場は常に変化する』という生徒達に教えたい教訓の一つが示された。
「それじゃ行くわよ、皆。
横島君は荷物を死守してよ。
正樹も今回は依頼人の同行と言う立場なんだから、私の指示に従ってもらうわ」
「はい!」
「準備万端でござる!!」
「ええ」
「いつもこんな役・・・」(泣
「分かってます」
門に手を掛けて後ろを振り返る令子へ、キヌ・シロ・タマモが頷き、
横島は霊的グッズが入った巨大リュックを担ぎ、懐かしく理不尽なポジジョンにさめざめと泣く。
正樹は依頼人役であるが本来の役目はカメラマンであり、手と額にはモニターへ送信するビデオカメラやレンズを持っている。
ギギギギィィィィ
令子が音を立てながら扉を開き、一同は中に入る。
お約束で扉が独りでに閉まり、さらに鋼鉄の板が扉を覆う。
様々な予測・・・それこそ、早速敵ばかりか不意打ち上等といったモノだったが、部屋を見た彼女達は拍子抜けする。
「何もないわね」
「でも、かなり広いです」
部屋は何もなく、見た目ではレンガが詰れた壁のみ。
横幅も直径百メート、高さもビル十階以上はあろうかの広さだ。
「お義母はん曰く、壁も最新な霊的技術で処理をしとる。
傷はついても、外に洩れる心配はないで。
ただGSへの仕事の依頼やから、必要以上に傷や損害を与えると報酬は下がるらしいで」
「そうでしょうね・・・
横島君も気をつけなさい」
「うっす」
内容こそ伝えられていないが、補足程度には正樹にも知らされていた。
仕事でも出来る限り、損害は与えないのは当然なので令子も納得済みである。
ただ、『15年以上前のアンタのカミさんを思い出せ』とも内心で呟いたが。
「確かに、おキヌちゃん以外なら簡単に壁なんて崩壊するからなー」
「あら?
そう思う?」
「もちろんっすよ」
令子や自分、妖怪であるシロやタマモならある程度の霊的処理をしても効果はないと踏んでいた横島。
だが、令子は意味深に笑う。
「横島君がいなくなって15年も経ってるのよ?
科学技術が進歩したように、霊的技術も進んだわ。
アナタが背負っている霊的アイテム・・・
例えば見鬼君も、範囲や精密さはかなり上がってるわ」
「へぇー」
「その技術を集めたであろうこの塔だから、並大抵じゃ傷もつかないわね。
それこそ、私の本気じゃないと効果はないわ」
「それだけで、あんさん達がどれほど規定外かよー分かるわ・・・」
その技術と効果をこの場では誰よりも理解している正樹が、驚きを通り越して感心さえする。
やはり美神除霊事務所は、あらゆる意味で並大抵ではないと痛感した。
「話はそこまでとして。
これからどうしたらいいの?」
「中で起こる難題をクリアすると、上へ続く扉が開かれるらしいで。
ほら、あそこや」
「あっ・・・
確かに階段がありますねー」
正樹が指差す場所に壁に付けられた階段があり、天井に繋がっている。
だが、階段が続く天井の先には扉と同じように鋼鉄の板で覆われている。
「ふーん・・・
だったら、精霊バズーカでフッ飛ばしちゃおうかしら?」
「・・・今、美神はんが言ったでしょう。
生半可な攻撃じゃ、ビクともしないって」
「だったら生半可な攻撃じゃなくて、それ以上だったらいいんでしょ。
バズーカでダメなら、シロの渾身の一撃でも耐えられると思う?」
「・・・お願いやから、生徒の見本になれるような方法で頼んます」
「チッ!!」
元より自分のペースを貫く令子からの過激な方法に、慌てて正樹が待ったを掛ける。
キヌが苦笑し、シロとタマモは壁を軽く叩いて強度を調べたり、横島はリュックから取り出した新型・見鬼君を弄っていた。
だからこそ、横島は気付いたのかもしれない。
「っ!?
美神さん!!
反応あり!!
四方八方に囲まれてます!!」
「何ですって!?
横島君は見鬼君をおキヌちゃんに渡して前へ!!
正樹君とおキヌちゃんを中心として、四方を固める!!」
『はい!!』
閉ざされた扉の前で、令子の指示通りに正樹とキヌの二人を囲む横島達。
何が起こるのかと警戒していると、突如天井近くの壁に数々の・・30を超える穴が出現する。
そして・・・
「簡易式神!?
こういうことかー!!」
その穴から、真っ黒の人型の簡易式神が一斉に飛び出している。
これが浮幽霊の代わりなのだろうか?
しかも一瞬の間もなく、次々射出され一気に100を超える式神が降ってくる。
横島は咄嗟にサイキックソーサー、タマモは狐火、シロは霊波刀を展開し打ちもらした敵に備えていたが・・・
「おキヌちゃん、お願い!!」
「はいっ!!」
令子の掛け声に、キヌは見鬼君を彼女に渡しネクロマンサーの笛を取り出し奏でる。
「♪〜」
『っ!』
その音色を聞いた式神たちは、元々命令されていた行動を破棄し令子達の前に着地し待機する。
「やりー!
おキヌちゃん!!
あの穴の向こうに式神の製造機があると思うから、彼等に破壊するように指示して!」
さらなる令子の指示に、未だ笛を吹いているので頷くことで返事を返す。
「(皆さん、お願いします。
私達はここを通してほしいだけなんです。
皆さんも協力してください)」
『!』
命令や指示ではなく彼女からの『お願い』を聞いた式神達は一斉にジャンプし、自分達が出てきた穴へ入っていく。
その数秒後・・・
ドゴーン!!
これもまた一斉に破壊音がこだまし、その穴から任務完了とばかり敬礼する式神たち。
「(皆さん、ありがとうございました。
もう、休んでください)」
音色に乗せた感謝の言葉に式神たちは再度敬礼し、ケント紙に戻る。
その展開にシロとタマモは戦闘態勢を解くが、横島は未だ固まったままである。
「ふう・・・」
「お疲れ様、おキヌちゃん」
「やっぱり、あんさんに取っては並大抵の式神じゃ敵わんなー」
「ど、どういうことなんだだ?」
横島にとっては思いがけないキヌの成長ぶりを目の辺りにし、少々混乱していた。
そんな彼へ令子が意地悪な笑みを浮かべて説明する。
「どうしたもなにも、おキヌちゃんが式神達に指示して製造機を壊させただけよ。
おキヌちゃんも一流のGSとして、立派に活躍してるのよ」
「しかもや。
彼女のネクロマンサーの笛は、もちろん霊達に一番効果があるで?
それだけやのーて、式神も操ることも出来るんや。
しかもや、霊力差やのーて呪術者と式神との絆が弱かったら、いくら霊力や式神をつよーても操れるんや。
冥子の十二神将や僕の夜叉丸は無理やけど、ホンマに式神使いからは恐ろしいもんやで」
「は、恥ずかしいです・・・」
さらに正樹からの評価に、キヌは恥ずかしそうに身を捩る。
その説明を聞きつつも、落ち着いてきた横島はキヌに視線を変え微笑む。
「おキヌちゃんも頑張ってたんだなー
もう立派なGSだ」
「そ、そんな!!
私なんてまだまだですし、横島さんや美神さん達の足元にも及びません!!
でも・・・褒めてくれた事は嬉しいです」
令子と同じくらい、GSとしても横島を尊敬しているキヌ。
自分には過剰な褒め言葉だと謙遜するが、それでも嬉しさを隠しきれない彼女だった。
「先生!!
扉が開いたようでござる!!」
「これで第一関門はクリアってこと?」
二階への扉が開かれたことに気付いたシロが大声で知らせ、タマモが正樹へ確認する。
「そのようやな・・・
実は、クリアかどうかはお義母はんが決めてるんや。
だから、僕等がクリアしたと思うても開かん場合もあるから注意してや」
「・・・ホントにあのオバサンは」
やはり依頼を受けたのは間違っていたのかと、今更ながら少々後悔しながら階段を登り二階へ向かって行った。
一方、一部始終を外のモニターで観戦していた一同。
ステージ上に立ち、ネギ達の説明役として六道女史が解説していた。
「やっぱり〜、おキヌちゃんだけでクリアしちゃったわね〜」
「当然です。
彼女は私達とは方向性こそ違いますが、一流のGSですから」
「ああ」
弓も魔理も、親友の活躍に誇らしそうに胸を張る。
周りも同じ気持ちであり、全員が彼女を認めていた。
「なるほどな・・・
性格は甘いが、それもヤツの強さとなっている。
その思いがあるからこそ、ネクロマンサーの笛を扱えるのだろうな」
「もしあのような技術が私達の世界にもあるなら、神鳴流も変わっていたかもしれませんね」
エヴァも初めてみるキヌの実力を評価し、退魔の流れを汲む京都神鳴流を扱う刹那も頷く。
この世界のGSは、ネギ達の世界ではワンランク以上であろう。
真祖の吸血鬼でさえ、多くのGSで対処可能という時点で色々間違っていると突っ込みたいくらいだろう。
まあ、ブラドーがアホだったからから・・・という理由もあるかもしれない。
「でも〜
後三つもあるから〜楽しみにしていてね〜」
あと三つ・・・
多いか少ないかは個人の判断に分かれるだろうが、あの六道女史が考えたものである。
そう簡単には通されないであろう。
「次は前もってお持ちかねってこと・・・ね」
階段を上がり、二階に到着した一同。
今回は先に横島に様子見に行かせ隙間から覗かせると、目に付いたのは横たわっている二体の獣。
白虎と黒豹である。
伝えた横島の言葉に、各自頭だけを出し確認する令子達。
「前もって聞いておくけど、本物じゃないわよね?」
「も、もちろんや。
本物やったら美神はん達には効果はそんなにあらへんし、生物を改造なんて違法行為はせえへん!!
機械や、ロボットや!!」
「ほ、本物そっくりですねー
た、食べられちゃったりします?」
「あらへん、あらへん!!
アレは僕も知っとるけど、ドクター・カオスと協力して作ったもんや!!
生徒同士の実技試合や式神ばかりやのうて、他に幅を広げる事を目的に開発したもんや」
「確かに見た目は騙せても、獣の匂いがしないでござる。
あれは少なくとも生物ではござらん」
「せやろ!!」
沈黙する二体を不審そうに見やる令子に、若干怯えるキヌ。
六道家の名誉の為に反論する正樹に、シロも太鼓判を押す。
「み、美神さん!!
そんな事を言っているうちに、アイツ等起き上がってきますよ!!」
『っ!?』
横島の叫び声に令子達も視線を獣達に向けると、先ほどまで目を閉じて横たわっていたが、今は目を開き起き上がっていた。
『ガアアアアアアア!!』
目覚めに雄たけびが木霊し、一気に令子達へ飛び込んでくる。
「もう!!
前回も今回も、こっちからの先制攻撃がないんだから!!
今回は前もって気付かれないように情報収集していたんだから、先制させてよね!!」
グチのような文句を言いつつ令子はキヌを抱き上げ、横島は正樹の手を掴んで引っ張り、
シロとタマモは自分達で飛び出して避ける。
二体の突撃を避けたのは良いが、
その攻撃に出入り口は破壊され置いてあった霊的アイテムが入っているリュックも回収不可能となる。
「ああーっ!!
アンタ、シッカリ荷物を護りなさいよ!!」
「しかなたいんやー!!
鬼道!!
オマエがさっさとよけんから、美神さんに怒られたやないか!!」
「今回は一般人の依頼人としての立場や!!
それ以上は動かへんし、夜叉丸なんて持っての他や!」
「だー!!
マジ、役にたたねー!!」
「チッ!!」
美神の怒声に責任転換する横島だが、彼の立場になお文句を言う。
しかし本来の一般人ならありえることなので、二人ともそれ以上何も言わなかった。
「おキヌちゃん!!
アレもいける!?」
「やって見ます!!」
「念の為に破魔札を渡しておくわ。
シロとタマモ、私と横島君の二人一組でアイツ等を引きつけるわよ!!
効果がなかった場合は、確固撃破を視野に入れておいて!
もし私達が抜かれても、破魔札を使えば一度は退けられるから!!」
『了解!!』
式神ではなく操る事は不可能でも、機能停止にできるのではないかと令子の期待にキヌも頷きネクロマンサーの笛を再び取り出す。
荷物は回収不可能なため、令子が持っているのは神通棍と破魔札、精霊石のみ。
その破魔札の中で最高ランクのモノを数枚、キヌに渡し飛び込んでいく。
「♪〜」
シロとタマモが白虎、令子と横島が黒豹を引きつける間、ネクロマンサーの笛を奏でるキヌ。
だが・・・
「そう簡単には行かないわね!!」
「カオスも余計なモン作りやがってー!!」
やはり効果は薄く、若干動きを遅くすることが関の山。
正樹も敢えて語らなかったが、二体の指令は外にあるステージの裏側にある司令部から送られている。
カオスが協力したのでジャミング対策は万全であり、逆にそれでも影響を与える事が出来るキヌの実力が分かる。
「だったら、そのまま私達が倒す!!
いいわね、シロ、タマモ!?」
令子もキヌが多少押さえている間に勝負を決めると判断し、引きつけから撃破に移る。
「了解でござる!!
おキヌ殿ばかりではなく、拙者の成長も先生に見てもらうでござる!!
タマモ!」
「そうね。
15年前と同じように思われてるのも癪だし、ここは協力しましょう」
「足手まといにならないように、気をつけるでござるよ?」
「そっちこそ!!」
その言葉を聞いたシロとタマモは、互いのポジションに着く。
接近戦はシロ、遠距離にタマモとなっている。
「犬飼シロ、参る!!」
霊波刀を出し、正面から突っ込むシロ。
白虎もシロにターゲットにし飛び掛る。
だが・・・
「甘いわね!!
狐火!!」
『ガアアアアア!!』
シロはぶつかる直前に横に避け、その背後からタマモが放っていた狐火を白虎は受けてしまう。
さらに勢いを付けたシロの霊波刀が白虎を切り付け、ダメージを与える。
「タマモ!!
一気にカタをつけるでござる!!」
「OK!」
懐に飛び込んだシロは勝負を掛け、タマモも賛同する。
白虎は牙や爪で応戦するがシロは避けたり霊波刀で捌き、逆にダメージを与え続ける。
武器の一つである俊敏性もタマモの狐火に阻まれ、シロから離れる事すら許されない。
それは正に息があったコンビネーション。
互いのクセや考えを理解し、信頼しているからこそ成しえる技術。
だが、さらに上には上がいることを、すぐ隣にて繰り広げられていた。
「横島君!!」
「うっす!!」
背中や肩が着きそうなほど近く、黒豹を相手にしている令子と横島。
防御は横島の霊波刀や栄光の手、間合いを開けようとすればサイキックソーサーで塞ぐ。
令子は横島が開けた隙をつき、一点集中に神通棍で攻撃を続ける。
互いに密着するほどの距離で激しく動いても邪魔にならず、動きを読んでいるかのように体勢を入れ替え動き続ける。
シロとタマモは絶妙なコンビネーションと評するなら、令子と横島は一心同体といっても過言ではないくらいであろう。
それほどまでに、二人は息が合いパートナーとしても最高だった。
その戦闘は時間は掛からず、シロの霊波刀・令子の神通棍が二体の眉間を貫き幕を閉じた。
ただ、正樹はある疑問を抱いていた・・・
「さすがだな。
シロ達もそうだが、美神令子と忠夫との連携は群を抜いている」
観戦していたエヴァが正直に評価し、周りも同じ意見だった。
雪之丞達も喝采し、ネギ達は一つの到着点である戦いぶりを見て自分達も出来るようにならなくてはと決意する。
「??
パパ、どうしたの?」
「い、いや・・・
なんでもないよ」
西条は自分以上に令子と息が合う光景に複雑な感情を抱き、膝に抱いている令美に気付かれ宥める。
そんな各自の反応を見やつつ、六道女史はあることを考えていた。
「(令子ちゃん達の活躍で〜目立たなかったけど〜、予想していたよりも〜白虎達の出力が高かったわね〜
裏方に確認させても〜、データでも三割程度大きかったし〜)」
正樹と同じく抱いた疑問、『白虎達のスペックが設定よりも上がっていた』ということ。
相手は令子達なので最高ランクで設定したのだが、さらに攻撃力等が上がっていたのだ。
カオスと協力して開発したものであり、事前にチェックしてもそのような報告など聞いておらず裏方も首を捻っていた。
「(ひとまず〜そのことは後回しにしましょう〜
結果的に〜良いデータが取れたのだから〜)」
しかし六道女史はその疑問を抱きつつも、横島がこの世界にいるこのチャンスを逃すのは惜しく続行を決定した。
だが、それが間違いであった事に気付かない。
彼等の上空に、二つの人影があった。
『ククク・・・
さすがアシュタロスに煮え湯を飲ませた者達だな。
この程度の横槍など、警戒の範疇にもならんか』
『目的を間違えるな。
我等の目的は、横島忠夫の危険性を正確に伝えるという事。
その為には、何としても人界で封印を解いてもらわなくては・・・』
『分かっている。
次はヤツをメインにしているから問題はない。
出来うる限り、力を分け与えておいた』
『そうか。
小竜姫やワルキューレに見つかると厄介だからな。
事は慎重に行くぞ。
なに、今回が上手くいかなくとも次がある』
『ああ』
やはり彼の帰省は、穏やかに済みそうではないようだ・・・
どうも、siroです。
今回も予定外に長くなり、一度切る事となりました。
もう開き直って、ゆっくりじっくり書いて行きます。
第八話が終え、魔法界編に入る頃には原作が一段落する事を祈りつつ・・・
弓と魔理には、嫌な役を押し付けてしまいました。
ですが横島の表面的なことしか知らず、魔神大戦の経緯を知らない。
さらにキヌのことや、周り全てが横島を高評価して意固地になっていると思うとそれほど外れていないかと思います。
当初は塔の中での戦闘シーンを考えていたのですが、挫折して半分省略するような形になってしまいました。
やはり、苦手な物は苦手ですね・・・(汗
克服するためには、何度もチャレンジするべきと分かっているのですが・・・
うう、すいません(ペコリ
弓が霊波砲を使える。
キヌがネクロマンサーの笛で数多くの式神を操れる事などは、独自設定なのでご了承ください。
