「ごめんなさいね。
 みっともないところを見せちゃって」

「そのようなこと、仰らないで下さい。
 親の気持ちを思えば当然の事です」

「ありがとう、ネカネさん。
 あっ・・・
 それと、ハンカチをありがとうね。
 洗ってあるから大丈夫よ」

「気にしていませんが、ありがとうございます。
 母親が子供の為に流した涙です。
 汚くなんてありませんし、記念にとっておきたいくらいです」

「や、やめてちょうだい。
 ネカネさんも意地悪ね」

「クスクス・・・
 すみません」

我ながら、恥ずかしいところを見せちゃったわ。
いくら15年ぶりに忠夫と会えたからって、周りを気にせず泣くなんて・・・
私も歳を取ったものね。

「君がネギ君だね。
 ネカネ君から話は聞いているよ。
 忠夫が兄貴分なら、俺たちにとっても息子同然。
 是非とも、お父さんと呼んでくれ!」

「は、ハア・・・」

あの人にしては珍しく、女の子に声を掛けずにネギ君の相手をしてるわ。
ネカネちゃん以外、中学生や小さい子だから手を出さないだけかしら?
小竜姫様はさすがに神族だから慎重にしているのか、忠夫の相手だと自覚しているからかしら?
後者だと嬉しいんだけどねー
ルシオラさんは別格だから手を出すはずもないし、これに関しては安心ね。
それにしても、イギリス紳士を意識しているだけあってネギ君は子供ながら礼儀正しいわね。
忠夫と大違いだわ。

「兄貴の兄さんだから親分で、その父親だから・・・
 大親分!!
 是非とも、あっしに女への心得を!!」

「ふむ・・・
 この道は険しいぞ、カモ君?」

「覚悟の上っす!!」

「・・・いいだろう。
 まずはだね・・・」

喋るオコジョも変だけど、変に意気投合するウチの宿六(汗
あっ・・・明日菜ちゃんにカモ君がシメられ、あの人も注意されちゃってるわ。

「では・・・
 私も義母(はは)殿、義父(ちち)殿と呼んで良いだろうか?」

「え、ええ、エヴァちゃん!?」

「あっー!!
 エヴァちゃん、ずるいー!!
 ウチ等もええ?」

見た目はネギ君と変わらない、吸血鬼らしいエヴァンジェリン・・・エヴァちゃん。
最初は冗談かと思えたけど、その瞳の強さや雰囲気が長年生きてきたものだとすぐに気付かされた。
そんな彼女が、さらなる希望の声を上げる木乃香ちゃんに動揺しているウチの息子を・・・ねぇ。
本当に何があったのやら。

「一先ず、今は名前で呼んでちょうだい。
 自己紹介も終わったことだし、そろそろ本題に入りましょうか?」

『はい!』

さて、聞かせてもらいましょうか?
忠夫が15年間、平行世界にいた生活を。
そして彼女達が息子を本当に想い、このコも彼女達を幸せに出来るのか・・・





『GS美神+ネギま!』

「人魔と歩む者達」
 第八話・英雄の帰還と別れ 4





百合子も落ち着き、家族の再会を済ませた横島一家。
現在は一辺に百合子と大樹、
向かい側にはルシオラ・横島・小竜姫・エヴァ(頭にチャチャゼロ付き)・茶々丸。
その側面には木乃香・刹那・夕映・アキラ・ネカネ、その向かい側には明日菜・ネギ(肩にカモ)・のどか。
テーブルを囲むようにして各自ソファーに座り、ネギ達も自己紹介を済ませた。

「まさか、オフクロ達がいるとはなー
 こんな部屋にいるなんて分かるかってんだ」

「私も驚いたけど、大部屋で落ち着いて話せる場所を取ってくれたんでしょう?
 美智恵さんの気遣いに感謝しましょ」

そう。
この部屋を選んだのは、再会した横島達が気兼ねなく再会や話が出来るようにと美智恵が考えたもの。
ちなみに明日菜達の部屋はレギュラークラスの大部屋であり、ネギと横島も同じクラスの二人部屋である。
料金は美神母娘持ちであり、娘曰く・・・

『小竜姫様やふんぞり返っているエヴァンジェリンはともかく、他の子たち高級すぎると逆に気が引けるでしょ?
 決して、ケチったわけじゃないのよ!!』

との事。
確かに言っている事は正しいが、最後が本音に聞こえるのは何故だろう?
ちなみに横島が住んでいたボロアパートは、すでに解体されている。
彼の部屋にあった彼曰くの『お宝』は令子が焼却処分し、残りは美智恵が夫妻に届けている。

「まずは、本題に入る前に・・・
 ルシオラさん、いいかしら」

「はい」

もちろん本題とは、冒頭にもあったように行方不明となった15年のこと。
そして自分の息子が平行世界を選んだことであり、女性関係である。
思わず顔が引き攣る横島だったが、その前に百合子はルシオラに視線を向ける。

「アナタの事も美智恵さんから聞いたわ。
 魔族とか関係ない。
 アナタはこのコを本当に愛してくれた。
 それも、自分の命を与えてくれるほどに。
 こういうのも逆に失礼かもしれないけど、このコの親として礼を言うわ。
 本当にありがとう」

「か、顔を上げてください!
 あれは私自身が勝手にやったことです!
 それに、ヨコシマの心に深い傷を残してしまいました。
 礼を言われることではありません」

百合子のみならず大樹からも深く頭を下げられ、戸惑い慌てるルシオラ。
彼女の声でゆっくりと顔を上げ、申し訳なさと感謝が入り混じった表情を向ける。

「・・・それでも、私達にとっては息子が生きてくれることが何よりも望むことなの。
 自然の摂理に反しようともアナタが生き返ってくれて、こうして会えたことが嬉しいわ。
 これからも、忠夫をお願いね」

「バカでお調子者だが、俺と同様に良い男だ。
 よろしく頼む」

「はい。
 私はもうヨコシマと離れません。
 ずっと側にいます」

「ルシオラ・・・」

両親からの認められた言葉に、ルシオラは隣に座っている横島の手を握り力強く頷く。
百合子と大樹も頷き返し、今度は息子である横島を見やる。

「それで、忠夫・・・
 アンタはこの世界を捨てて、ネカネさん達の住む平行世界とやらで生きる覚悟を決めたらしいね」

「あ、ああ。
 オフクロ達には悪いとは思っているけど・・・」

母からの追求に申し訳なさそうにする横島だが、百合子は首を振る。

「私達のことは気にしなくて良いんだよ。
 会えなくなるのは本当に残念だけど、アンタが選んだ道だ。
 どちらにしても、子より親が先に死ぬんだ。
 私達は口出ししないし、文句はないさ。
 でもね、それでも私が言いたいのは・・・」

「ひっ!?」

「アンタがルシオラさんのみならず、他の子達に手を出した事だよ!!
 しかも、育てていた妹分や中学生だって!?
 アンタは身なりはそんなんでも、30歳超えてんやろ!?
 年齢差を考えんかい!!」

ゴゴゴと威圧感を出し説教する母に、座ったままで腰が引ける横島。
真祖の吸血鬼や半妖、ガイノイドとは関係なく年齢で怒鳴るところが横島の親らしい。
年齢を問題にするならば、エヴァや小竜姫も説教されるべきなのだがそれはそれ。
男という立場であり、自分の息子だから許せないのだ。
すっかり怯えている横島に溜息を付きながら、今は自分達の番だとエヴァが口を開く。

「百合子殿、大樹殿。
 そのことに関しては、私達の話を先に聞いてくれないだろうか?
 元々割り込んだのは私達だからな」

「・・・そうね。
 それじゃ、聞かせてくれるかい?
 アナタ達の想いを」

当初の百合子の言葉で、夫婦を名前で呼びながら割り込むエヴァ。
彼女の言葉も最もであり、二人は話を聞く体勢に入る。
まず最初に語るのはエヴァ。

「私は知っての通り、真祖の吸血鬼だ。
 身なりはこんなだが、実際に何百年も生きている。
 生まれは中世の欧州、動乱が続く時代だった・・・
 そこで私はどこぞの領主の城に預けられ、不自由のない生活を送っていた。
 その頃はまだ正真正銘の人間だったが、十歳の誕生日・・・
 目が覚めると、すでにこの身体だった。
 私は神を呪い、私をこの身にした男に復讐を果たした後、城を飛び出した」

「・・・中世というと、魔女狩りの時代だったんだろ?
 大丈夫だったのかい?」

「確かに面倒だった。
 魔法使い共の国にも受け入れられることはなかったしな。
 その頃は吸血鬼としての弱点もあり、なによりも成長しないこの身体だ。
 住み場所を数年で変え、殺さなくては生きられない時代だった。
 逆に殺さずに済む数十年もあった。
 最後には南洋の孤島に居を構え、人と交わらずに生きていった。
 訪れるのは私と戦い、命を落とす覚悟を持つ者達となってからは楽になった・・・」

「それは、寂しいことだね」

「今思えばそうなのだろうな。
 だが、その頃は何も思わなかった」

エヴァの過去を聞き彼女を襲った理不尽に百合子は沈痛な気持ちを抱え訊ねるが、
当の本人はなんでもないという感じで語り続ける。
ネギ達も、彼女の口から初めて語る過去に言葉をなくす。

「そんなおり、ある男が訪れ興味を引かれた。
 ナギ・スプリングフィールド。
 そこにいるぼーやの父だ。
 その男をモノにする為、散々ちょっかいを出していた頃・・・
 日本の海岸で戦り合っていると、上空から降ってきたのが忠夫だった」

エヴァは遠い眼をして、あの頃を思い出していた。
横島と頭をゴッツンコして不覚にも気絶し、気が付けば膝枕をされていたこと。
そして彼とのやり取り、内心ではほとんどナギを諦め掛けていたが自分を彼以上に惹き付けた横島。
自ら『登校地獄』の呪いを受けて麻帆良学園に通い、卒業する頃には迎えに来てくれるという約束を信じ待ち続けたこと。
だが、ナギも横島も迎えに来なかった現実を。

「結局・・・
 もしもの時はこれで呪いを解けと渡された双文珠はどうしても使えず、ずっと麻帆良で待ち続けた。
 だが、14年と少し経った頃か・・・
 ナギの血を引くぼーやが麻帆良に来ると聞き、決意した。
 私は囚われのお姫様のように嘆きながら待つなど似合わず、ぼーやの血を使って呪いを解き忠夫を捜しに行くと。
 忠夫がぼーやの保護者のようなものになっており、共に生活をしているなど知らずにな」

「忠夫、こんな良い女を待ちぼうけにさせるとは・・・」

「・・・悪い」

「それでどうなったんだい?」

大樹は呪いを解く手段を渡していたとはいえ、約束していながらも15年も放置していたことに憤り、
言葉少なげに謝る横島。
百合子は大樹が注意しているので自分からは何も言わず、エヴァに先を勧める。

「ぼーやが来日しても、万全を期すため一時的に封印が弱まるまで直接手を出さなかった。
 だが、駒を増やすためにクラスメートから少々の血を頂いている最中、ぼーやが現れ一戦することとなった。
 良い線を行っていたが従者である茶々丸が捕らえ、絶好のチャンスだと考え血を頂こうとした。
 しかしぼーやが私の双文珠に気付き、
 今更ながら私との約束とぼーやの様子見に麻帆良を訪れた忠夫本人が私の目の前に現れた」

「なかなか運命的で、複雑な再会だったね」

散々待たされ、自ら呪いを解こうとした頃に本人がやってくるという皮肉さの複雑な再会。
これには百合子も苦笑しか出てこない。

「ああ。
 その後は麻帆良の最高責任者が呪いを解いた後のフォローの代償として、
 もはや茶番劇と成り下がったぼーやとの敵対関係を続けた。
 ぼーやは英雄であるナギの息子であり、修行の一環として・・・な。
 結末としては、元々予定していた呪いが弱まる時期にぼーやと駆けつけた明日菜を試した後、完全に解いた」

「ネギ君はともかく、どうして明日菜ちゃんまで?」

「明日菜はぼーやのルームメイトであり、元は一般人だったがコヤツの不祥事で魔法を知って以来、手助けをしていてな。
 現在はそこに居るのどかと共にぼーやのパートナーだ。
 私の主観で話しているので疑問に思う部分もあるだろうが、後で本人から聞いてくれ」

「分かったわ」

元々敵対関係であったネギはともかく、明日菜まで出てきたことに疑問を抱く百合子。
だが、今は関係なく後回しにする。

「続きだが、その件が終えた翌日・・・
 コヤツ等を我が居に招待し、忠夫と一戦し全てをぶつけた。
 私は生きる為とはいえ人を殺しすぎ、もう幸せになる資格はない。
 その頃は人魔などとは知らず、人の寿命では忠夫もすぐに死にまた一人になると・・・な」

「忠夫はなんて言ったんだい?」

おそらくその時のエヴァは、溜め込んでいた感情の全て息子にぶつけたのだろう。
結果をみればこうして救われた彼女が居るのだから無事解決したのだろうが、どう言ったのか不安が残る百合子。

「クックックッ・・・

『俺も人を好きになる資格はないかもしれない。
 それでも、俺は諦めない。
 それにエヴァちゃんは一人にはさせない。
 ずっと俺が側に居るし、全部受け入れるから』

 だったな。
 今から思えば、最高のプロポーズだったな」

「ぎゃー!!
 改めて訊くと、思いっきり恥ずかしい!」

「うるさい」

「ぐはっ!」

今更ながら、かなり恥ずかしい台詞を言ってしまったと自覚した横島がソファーから落ちて転がるが、
足元で転がれると鬱陶しいのかエヴァが踏みつけ黙らせる。
百合子も息子が時折、素でそういう言葉を出す事もある事を知っているので溜息を零す。

「全力でぶつかり合い、改めて自覚と確信をした。
 ああ、私はコヤツが本当に好きなのだと。
 そして人の寿命など関係ない。
 ずっとこの者が側に居る事が何よりも幸せなのだと理解し、共に居る覚悟を決めた。
 その時に仮契約を交わそうとしたが、嫉妬深い誰かさんに邪魔をされたがな」

「〜♪」

最後の付け足しに、チラッとルシオラを見やるエヴァ。
彼女は視線を逸らし、口笛を吹いていた。

「人魔と知り、永遠に共に生きていけることが出来るとも知った今、私には忠夫だけなのだ。
 百合子殿に反対されようとも、悪いが離れるつもりはない。
 私は横島にこの世界を選ぶ時には共に着いて行く覚悟を伝えていたが、
 結果的にこちらの世界を選ばせたことにはすまないと思っている。
 私の話は以上だ」

そう締めくくり、テーブルに置いてある紅茶を啜るエヴァ。
百合子も大樹も、彼女の想いの強さを充分感じ取った。

「次は順番的に私でいいですか?」

「・・・そうね。
 お願いするわ、ネカネさん。
 忠夫も何時まで寝てるんだい?
 今はアンタの事を聞いてるんだから、シャンとせんかい!」

「お、おう」

次に語るのはネカネ。
百合子と大樹も頷き、再び聞く姿勢に入る。
横島も母の言葉にノロノロと起き上がりながら、再びソファーに座る。

「私とネギが忠夫さんに出会えたのは、皮肉にも私達が住んでいた村が襲われた時でした。
 その頃の私は魔法学園の寮暮らしで、まだ三歳のネギは連れて行けず村に残ってもらっていました。
 大きな休みを取れるたびに、出来るだけ村に戻るよう心掛けていました。
 その時も一ヶ月ぶりに村に戻る日でして、
 バスから降りると、遠くから魔物の大群が押しかけている事に気付き慌てて村へ・・・」

「魔物というと、この世界の妖怪といったものかい?」

「いえ。
 おそらく人の手で魔界から召喚された者達です」

「魔界・・・か。
 おっと、話を折ってすまない。
 続けてくれ」

魔物というところで大樹が質問し、ネカネが間違いを正す。
話の腰を折った事を謝り、百合子同様続きを勧める。

「私は急いで村に駆けつますがすでに遅く、村人達は敵の攻撃を受け石化されていました。
 唯一無事だったスタンさんという老人と共にネギを捜し続け、ようやく見つけると魔物の攻撃を受ける前でした。
 石化されるのを覚悟してネギの前に飛び出ると、そのさらに前に忠夫さんが放った文珠のおかげで無事に済みました。
 忠夫さんは、すでに死亡とされていたネギのお父さん・・・ナギ・スプリングフィールドと共に助けに来たのです。
 一先ず安全な場所へ避難し、そこで合流したナギさんはすぐに去っていきました。
 忠夫さんに私達のことを託して・・・」

「それで、忠夫が君たちの保護者のようなものになったんだね?」

「はい」

ネカネの語りに、彼が保護者のようなものになっている理由がようやく分かった夫妻。
自分の中では高校生の息子が、当時12・3歳の少女と3歳の少年の面倒を見てきたことに違和感があるが、
それでも誇らしい気持ちもあった。

「事件の後、思いつめていたネギを忠夫さんが正してくれました。
 そして、私にも無理をして頑張る必要はない、
 泣きたい時には泣けば良い、素直に自分を頼ってくれと・・・と仰ってくれました。
 その時、私は自分の想いに気付きました。
 時間なんて関係ない、私はこの人が好きなのだと」

「なるほど・・・」

「麻帆良に訪れるまでの六年間、それなりに頑張ってアピールしていたのですが気付いてくれなく・・・
 ネギに続き、麻帆良に行こうか迷っている忠夫さんの背を押して告白しました。
 ですが、彼が誰かを・・・ルシオラさんをずっと想っているとも気付いていました。
 それでも諦める事など到底出来ず、その仲に入れてくださいとお願いしました。
 その時に仮契約を交わそうとしたのですが、それも誰かさんに無効されましたけど」

「忠夫・・・
 オマエ、ほんっとにバカだな」

「うっ・・・」

「反省してますから、もう許して」

さらに彼女の想いと行動を聞いた大樹は呆れた視線を息子に向け、これもまた言い返せない彼だった。
またもやチクチク刺されたルシオラは、両手を軽く上げ降参のポーズを取る。

「着いて行く為にはさらなる成長をしなくてはいけないと修行と仕事に明け暮れていたある日、
 忠夫さんから麻帆良に来てくれないかと連絡を受けました。
 もちろん承諾して麻帆良に行き、そこで忠夫さんの過去と人魔の事を知りました。
 でも、私にとっては忠夫さんが人魔でも構いません。
 この人が私の知る忠夫さんなら、それだけで充分なんです」

「・・・そう。
 アナタも本当に忠夫を想ってくれているのね」

ネカネの強い想いも感じ取り、百合子と大樹は感謝したい気持ちになる。
次に口を開いたのは木乃香だった。

「それじゃ、時間的の順番を考えると次はせっちゃんやなー」

「うう・・・
 せ、せっかくですから、このちゃんも一緒にどうですか?」

「うん、ええよー
 でも、最初はせっちゃんからやでー」

「わ、分かりました。
 よ、よろしいですか?」

「ええ。
 アナタが半妖だとも知っているし、だからって私達は差別しないわ。
 落ち着いて話してちょうだい」

「・・・はい!」

刹那の要望により、二人同時に語ることとなった。
初めは木乃香が推薦した刹那。

「私は学園長の依頼により、麻帆良に到着したばかりの忠夫さんを迎えに行った時が初めての出会いでした。
 正直に申しまして、その時の彼は一人でパントマイムのようなものをしており不審人物にしか見えませんでした」

「アンタ・・・
 何やってんだい?」

「い、いやー
 どうやってエヴァちゃんのご機嫌を直すかシミュレーションをしててさ」(汗

「何を言っている?
 その時の私は『登校地獄』の呪いにより、迎えに行けるはずがなかろう」

「・・・」(汗

「アホだね」

今までとは違い、いきなりなマイナスからのスタートに呆れる百合子。
横島も冷や汗を流し明後日の方を向いて誤魔化そうとするがエヴァに突っ込まれ、百合子は益々呆れた視線を向ける。

「それでも案内の最中にネギ先生の事を訪ねられ、彼なりに頑張っている事を誇らしく笑うこの人に一瞬心を奪われました。
 ですが途中で半妖だと知られ警戒し、剣を向けてしまいました。
 その時です、彼から自分も同じ存在だと聞かされたのは。
 私は大いに戸惑いました。
 もし相手が同じでも、自分からそう簡単に言えるなんて・・・
 どうしてそんな大切な事を話すのかと訊ねると、彼は笑って言いました。

 『そんなこと気にしていないからかな。
  俺はどっちかというと、力を隠す為に黙っているものだし。
  納得できないなら、秘密を知ったお返しということで』

 と・・・
 本当に彼は半妖など気にしておらず、私自身を見てくれると知り本当に嬉しかったです。
 私はずっと迫害を受け、このちゃんの父親に拾われるまで辛い日々でした。
 だからこそ、私は救われました」

「そうかい・・・
 君のような素直で可愛い子を迫害するなんて、周りはよっぽど目がなかったんだね」

「はう!」

内心では息子を褒めつつも大樹は正直な感想を述べ、刹那を慌てさせる。
百合子も同じ気持ちで柔らかい視線を彼女へ向ける。

「そして改めて案内の最中に異変を感じ取り、私達は現場である桜通りへ駆けつけました。
 そこには、倒れたのどかさんと途方に暮れていたこのちゃんがいました」

「そこからはウチが話すなー」

途中だったが、この場合は自分の番だと刹那からバトンタッチした木乃香が続く。

「ウチとアスナと夕映と本屋ちゃん・・・のどか、ここにはおらへんけどハルナっちゅー友達と寮への帰る途中やったんやけど、
 のどかは用事があって桜通り前で別れたんや。
 その頃から『桜通りに吸血鬼が現れる』っつー噂があって、気になったアスナとウチが夕映達と別れて戻ったんや。
 エヴァちゃんの姿は見えへんかったけど、
 追いかけたネギ君、さらに追って行ったアスナもおらんよーになって、倒れているのどかを前に途方にくれてたんや。
 すると、忠夫さんとせっちゃんが来てくれたんや」

木乃香は思い出す。
あの頃は刹那が影から自分を護ってくれていたのだが、直接話すら出来ず嫌われているのかと不安になっていたこと。

「あの頃の私は、このちゃんに半妖と知られ嫌われるのが怖くて影から見守ることしか出来ず、
 このちゃんに接されても固い態度しか取れませんでした。
 ですが、忠夫さんとの出会いが私に勇気を与えてくれました」

「せや!
 忠夫さんのお陰で、その時は半妖とか人魔とかは知らへんかったけど、せっちゃんともう一度仲良しになれたんや!
 今から思えば、あの頃から忠夫さんの事を気になっとったと思うえ」

「そう・・・
 よかったわね」

緊張する刹那、本当に嬉しそうに話す木乃香の姿に思わず笑みがこぼれる夫妻。
こういうことに関しては、横島が昔から仲を戻すのが上手かったとも思い出していた。

「ウチは偶然に魔法を知ったんやけど、忠夫さんへの想いを自覚したのは京都での修学旅行や」

「麻帆良学園・学長であり魔法使い達が属する『関東魔法協会』の理事長にして、
 このちゃんのお爺様である近衛近右衛門からネギ先生と忠夫さんがある任務を受けました。
 東を統括する魔法使いとは昔から仲が悪い『関西呪術協会』へ親書を運ぶ任務です。
 快く思わない輩が妨害することは間違いなく、私も護る任務を受けました。
 ですが、敵の本当の狙いはこのちゃんだったのです」

「木乃香ちゃんが?
 東の最高責任者の孫だから、人質に使えると思ったからかい?」

目の前のポヤッとした木乃香自身に利用価値などなく、立場が利用できるとしか考えられなかった大樹。
だが、刹那は首を横に振る。

「半分正解ですが、本当の目的は違ったんです。
 このちゃんは『関西呪術協会』長の娘であり、かの英雄であるネギ先生のお父さんをも越える強大な魔力の持ち主なんです。
 当初は嫌がらせ程度でしたが本格的に襲われ、シネマ村で不覚にも敵の罠に陥りこのちゃんが人質にされました。
 少しでも動けばこのちゃんに向けられた矢を放つと脅迫され、忠夫さん共々迂闊に動けませんでした。
 前もって私達には文珠を渡されていましたが、使うことに戸惑っていました」

「どうしてかしら?
 その状況を打破する手段があるのに?」

次に疑問を抱いた百合子は首を傾げる。
命の危機に、戸惑う理由などそうないはずである。

「エヴァさんから忠告を受けていたんです。
 身を守る為に使うのは構わない。
 ただ、文珠という存在を決して知られるな・・・と。
 身を守る程度のアイテムは、こちらの世界にもあります。
 ですが、私達の世界ではこの世界の霊力は存在しません。
 その結晶である文珠が、敵に知られたら忠夫さんは・・・」

「ウチ等を巻き込まへん為に、姿を消すって言われたんや。
 例え恨まれようとも、ウチ等の為に・・・
 そん時はせっちゃんが忠夫さんの事を好きとしか思うてなくて、自分の気持ちは分からへんかった。
 でも風に煽られて思わず動いたウチ等へ、敵さんは矢を放ったんや。
 その一瞬がやけに長く感じて、それでも文珠は使えのーてそこで気付いたんや。
 せっちゃんだけやなくて、ウチも忠夫さんのことが大好きで離れてほしくないんやって」

「私も同じです。
 咄嗟にこのちゃんに駆け寄り、この身を楯にした時に気付きました。
 このちゃんだけではなく、私もお慕いしていたのだと。
 その時は、忠夫さんが切り札の一つを出してくれて助けられました。
 事件そのものは、結局は奪われたこのちゃんを利用し強大な魔物が復活しましたが皆さんのお陰で解決しました」

「・・・そういうことね。
 でも文珠を使わずに目の前でアナタ達に何かあったら、忠夫は自分が許せないんじゃないかしら?」

文珠の貴重性を狙う組織がいるということを、美智恵から聞いた事を思い出し納得する百合子。
さらに平行世界では霊力とやらは存在せず、息子一人しか使えない力。
あらゆる貴重さが揃っている彼を狙う組織は多く、隠すのは仕方ないかもしれない。
だが、おそらく息子はそこまで覚悟して彼女達の身を護る為に渡したのだ。
その決意も汲んでほしかったのだ。

「・・・はい。
 彼の切り札をさらけ出してまで助けられ、無事な私達を見て安堵し抱きしめてくれた時に気付きました」

「ウチ等は自分のことしか考えてなかったんや・・・
 なんて、馬鹿な事をしてたんやと反省したなー」

「分かってくれていたらいいのよ」

今は二人とも横島の気持ちも理解していると頷いたので百合子も安堵した。

「せっちゃんはその戦いの最中で、ウチはその後の休憩中に仮契約したんやー」

「忠夫さんの過去を知り、人魔の力に怯えてしまったのは事実です。
 ですが、この人自身には何も恐れを抱いていません。
 共に着いて行く為、足手まといにならない為に修行中です」

「そうか。
 君達も、そこまで覚悟と想いを抱いているんだね」

中学生に似合わないほどの強い決意の表情に、大樹も秘める想いの強さを感じ取れた。
チラッと妻に視線をやり、彼女も頷く。

「次は私です。
 皆さんのような立派なものではありませんが、聞いてほしいです」

「もちろんよ。
 聞かせてちょうだい」

今度も自ら申し出た夕映が語りだす。

「私と忠夫さんとの最初の接点は、外国語で書かれている本を読んでほしいという希望から始まりました。
 その頃の忠夫さんは学園長からの依頼で、放課後に参加自由の特別授業を任されていました。
 内容は英語だけではなく様々な外国語です。
 印象としては、女好きと評する割には優しく面倒見の良い先生だと思ったです」

「俺もネギ達の面倒を見てる最中も、文字通り世界中を駆け回ったからな。
 嫌がおうにも覚えないと、情報収集も出来んし」

「へえー
 成績は悪かったけど、それはやる気がなかっただけと分かっていたから不思議じゃないけど。
 一応、後でテストしてあげる」

「へいへい」

夕映からの初めて聞く息子の教師らしい仕事の内容を聞き、感心していた。
夫婦は知らないが、令子が一時オカルトGメンに所属した時に事務所を任された横島は黒字を出していた。
そこはやはり両親の才能を濃く受け継いでいる。
念のために百合子は試すことにし、嘘偽りない横島も気軽に受ける。

「その時はただ感謝の気持ちしかなく、夕陽を見て零した彼の言葉が気になる程度でした。
 ですが先程話に出た修学旅行のあるイベントで、魔法の存在の確信と忠夫さんへの想いを抱き始めていました。
 私は退屈な平穏な日常よりも、興味深いが危険な非日常を望んでいたです。
 好都合にもネギ先生から京都から戻ってきた後に頼みごとをされ、
 その代償として魔法を教えてもらうことをのどかと共に望みました」

「それはまた危険な考えね。
 一歩間違えれば、ケガじゃすまないわよ」

好奇心が強いのは夕映たちの年齢を考えれば仕方ないだろう。
だがGSの世界でも、簡単に踏み込んではいけない世界だと息子を通して痛感しているからこその言葉。

「はいです。
 その後、忠夫さんから『教訓』として過去を見させていただき、自分の覚悟なんて薄っぺらい物だと痛感させられたです。
 それと同時にこの人を癒してあげたいと思え、忠夫さんに惹かれている自分を自覚したです。
 哲学者であったお爺様の言葉ですが・・・
 
『愛を知らぬ者が、本当の強さを手にすることは永遠にないだろう』

 私は愛というモノはまだ理解し切れていませんが、この想いは本物です。
 人魔のお姿を見させていただいても、決して変わりません。
 この想いと言葉を胸に、忠夫さんと共に居るため修行中です」

「なるほど・・・
 一度挫けかけ、それでも立ち上がって選んだんだね。
 その道は険しく、まさに一生モノ。
 それでも歩むかい?」

「もちろんです」

「そうか・・・
 頑張りたまえ」

大樹の問いにも夕映ははっきりと返し、彼女もエヴァ達と引けを取らない強さを持っていると知った。
アキラは茶々丸に目をやり、お先にどうぞと頷かれたので自分に発破を掛ける。

「それじゃ、今度は私の話を聞いてくれますか?」

「ええ。
 もちろん」

百合子の承諾に、一つ深呼吸してから語り始めるアキラ。

「私は当初、忠夫さんの事をよく思っていませんでした。
 副担任としての自己紹介の時、自分から女好きと白状したからです。
 ですがある機会に直に接してみると、確かに女性に弱い部分もありますが優しくて面倒見の良い先生でした。
 彼の一部が目に付き避けていた自分を反省し、接する機会が増えました」

「女好きねぇ・・・」

「ハッハッハッ!!
 それでこそ、俺の息子だ!!」

「褒めんな!!」

「「ぎゃー!!」」

そこは少しでも変わってほしかった百合子だが、父の大樹は息子の肩を叩き褒める。
結局は百合子の突っ込みばかりの拳を受け、悲鳴を上げる横島父子。

「ですが、常に木乃香達と違う壁のような疎外感に心を痛めていました。
 それは魔法を知っている人達との差で、私はまだ知らずにいましたから。
 その感情が爆発したのは、忠夫さんの過去を知ったネギ先生達が学園を休んだ日です。
 私は忠夫さんに原因があると考え、アパートへ訪れたました。
 私は話してほしいと懇願しましたが、答えられないと拒否されました」

「あの時は、魔法を知らないアキラちゃんに教えるわけにはいかなかったんだ。
『こちら側』に巻き込む事になっちまうからな」

「そうかい。
 忠夫も苦しいところだったんだね」

アキラを拒否した理由を横島も述べ、今回は百合子も納得する。

「ですがエヴァさんの言葉に導かれ、遠目から人魔となった忠夫さんの姿を見ました。
 そして『こちら側』を望むなら、自分の足で歩いて来いとエヴァさんに言われました。
 皆が見守る中、私は彼の本当に仲間になる為に近づいたのですが、数歩分手前で足が動かず止まってしまいました。
 人魔化した忠夫さんの威圧感に、心は望んでいるのに身体が拒否するんです。
 最後はルシオラさんの助言もあり、飛び越える事は出来ました」

「聞くところ、アナタは明日菜ちゃんや夕映ちゃん同様に一般人なのね?
 人魔化したという息子は、それほどのものなの?」

アキラの決意と行動に経緯を評価しつつ、人魔化した息子への疑問が大きくなる。
ほぼ不死であり不老に近く、永遠に存在し続ける者となったことは聞いていたが力の大きさに実感がない。
その疑問に答えたのは小竜姫である。

「もちろんです。
 実感はないかもしれませんが、我々上級クラスの力は人間にとっては誰でも恐れるほどのモノです。
 その気になれば、真祖の吸血鬼であるエヴァさんでさえ一瞬で滅ぼす事ができるでしょう」

「それほどまで・・・
 出来れば私達も、人魔化した忠夫を見たいと思っていたのですが・・・」

「申し訳ありませんが、正直に申しまして無理です。
 ただでさえ忠夫さんの立場は微妙で、人界で封印を解くなどすればそれを口実に攻め込んでくる愚か者達もいます。
 強いて言えば、短時間なら妙神山で可能といったところですが・・・」

「いえ、無理を言って申し訳ありません。
 アキラちゃん、話を進めてくれるかい」

「はい」

好奇心ではなく親として息子の全てを受け入れる為の希望だったが、申し訳なさそうにする小竜姫の言葉に断念する。

「私は元々、争いなど好みませんでした。
 魔法の存在を知っても、あの頃はどうして皆はそれほど頑張って力を手にするのだろうと疑問に思っていました。
 ですがある事件に巻き込まれ、忠夫さん達が進んでいく道が少しだけ見えました。
 何の力もない私はただ見送ることしか出来ず、今度は少しでも力になると誓い魔法を学んでいます。
 その頃にはほとんど忠夫さんへの想いを自覚していましたが、過去を知り本当に受け入れました」

「それは並大抵の覚悟じゃできなかっただろう。
 だからこそ、私はその誓いの重さを理解するよ」

嫌悪する魔法の力を、息子と共に生きる為に受け入れたアキラの覚悟。
その重さを正しく理解し、頷く夫婦。
次はエヴァに催促された茶々丸の番である。

「それでは、次に私の決意を聞いてください。
 これはガイノイドである私が感情を持った経緯でもあります。
 信じられないかもしれませんが・・・」

「何を言ってるの、茶々丸ちゃん。
 アナタが感情・・・心を持っていることは、私もこの人も疑ってないわ。
 真剣に聞くから、安心してちょうだい」

「そうだよ。
 俺たちにとっては、君は充分一人の女の子だ」

「・・・ありがとうございます」

ガイノイドである自分が感情を持つなど、横島の両親が信じてくれるか分からなかった茶々丸だったが、
二人の言葉で杞憂となり深く頭を下げてから語り出す。

「私は創造主の葉加瀬聡美と超鈴音によって生み出されたガイノイドです。
 マスターであるエヴァンジェリン様にも協力していただき、生まれてからずっとお仕えしておりました。
 ですがマスターの時折見せる、悲しくて寂しそうな表情に気を留めておりました」

「そ、そんなところまで言わなくても良い!!」

「いいじゃない、エヴァちゃん。
 それほどまで忠夫を想ってくれたという証拠なんだから。
 それに、悪いのは忠夫なんだから」

「・・・すんません」

茶々丸の独白にエヴァが咄嗟に茶々丸のゼンマイを巻こうとするが、この世界では意味がなくギャーギャーと喚く。
百合子はそんな二人を、微笑ましく見やり最後には息子に押し付ける。
横島も何度も責められようが、そのことは事実なので素直に謝る。

「私が生まれて二年と少しした頃です。
 呪いを施した者の息子が訪れるので、彼の血を奪い呪いを解く計画をマスターから聞かされました。
 その時に、忠夫さんに捜しに行くと意気込むマスターの言葉から初めてお名前を知りました」

「あの時はまだ、茶々丸のメンテナンスをしている超や葉加瀬を警戒し伝えていなかった。
 計画の説明ついでに、初めて最低限の情報を与えたな」

「計画の実行中に忠夫さんご本人が現れ、猫に餌やりをしている私に優しいなと声を掛けられました。
 その時は否定しましたが、忠夫さんと接するうちに少しずつ感情が出るようになっていきました。
 この心は私の宝物です」

両手を胸元にあて、柔らかく微笑む彼女の笑顔に大樹だけでなく百合子も見惚れた。
それほどまでに綺麗で、神聖に見えたのだ。

「過去を拝見させてもらい、マスターだけではなく自分もこの人への想いが感情の原点なのだと理解しました。
 以前は冷たく硬いボディでしたが、改良をお願いし今のボディとなっています」

「本当・・・
 人と変わらないわね」

茶々丸が差し出す手を握り、その柔らかさと温もりを感じる百合子。
大樹も触れようとしたのだが、百合子に叩かれた。

「皆様と違って修行などで力を高める事は出来ませんので、この心をゆっくりと育てています」

「その原点が忠夫への想い・・・ね。
 何時の間に、こんなに女ったらしなったのかしら」

「違うぞ、百合子殿。
 女ったらしではなく、人たらしだ」

「フフフ。
 そうかもね」

「そういう会話は本人の前でしないでくれ」

百合子の若干の呆れにエヴァが修正させ、横島は居心地が悪く感じる。
そんなやり取りの最中、最後である小竜姫が口を開く。

「最後は私の番ですね。
 よろしいでしょうか?」

「ええ。
 お願いします、小竜姫様」

「クスッ。
 呼び捨てで良いですよ、百合子さん。
 では・・・」

神族である小竜姫に、礼儀として様付けで呼んだ百合子に訂正しつつ彼女は想いを語る。

「神族である私が、おそらくこの中で一番生きてきたでしょう。
 しかし忠夫さんや美神さんと出会ってからの十数年は、今まで生きてきた以上の充実感がありました。
 特に師匠である美神さんよりも早く、忠夫さんの才能に気付いた自分が誇らしかったです。
 その時は気付きませんでしたが、私も忠夫さんへ微かに想いを抱いていました。
 ですが・・・」

「小竜姫さん?」

途中で言葉を切り、俯いてしまう小竜姫。
これには、先程までの凛とした雰囲気を持つ彼女からは予想できずに戸惑う百合子と大樹。

「魔神大戦では私達神族・魔族は何の役にも立たず、全てを忠夫さん達に委ねてしまいました。
 そして経緯を知り、想いの自覚以上に彼の才能を見出した自分が許せなくなりました。
 もし才能に気付かず、もし気付いても彼が望むまで敢えて知らせなかったならば、
 忠夫さん一人に全てを負わせることもなかったのでは・・・と。
 人魔となり永遠の命を押し付けられることもなく、人として一生を終えられたのではないか・・・と」

「それは考えすぎでは?
 どちらにしても忠夫は一度自ら修行を受けに来たという事ですし、アナタが悪いわけではないはずです」

思い詰めた小竜姫の表情と言葉に、大樹はフォローの言葉を本心と共に送る。
それは百合子も同じ考えだった。

「その時はそう思えてならなかったんです。
 人魔の違和感に気付き、妙神山を訪れた忠夫さんに思わず訊ねました。
 ですが、彼は笑ってこう言いました。

『そんなことはないっすよ。
 小竜姫様や美神さん、アイツに出会えたことに後悔はないっす』

 と・・・
 その言葉が私の心を救ってくれました。
 そして、どれほど彼への想いに溢れた事か・・・」

「これを」

「・・・ありがとうございます」

微かに流れた涙を拭う小竜姫。
今度は百合子がハンカチを差し出し、礼を言い受け取り涙を拭う小竜姫。
しばし時間が開け、落ち着きを取り戻した小竜姫が話を続ける。

「力をコントロールするため、そして今度こそ誰も失わない為に老師と私の修行を受ける忠夫さん。
 想いを伝えようにもルシオラさんが思い浮かび、少しでも彼の力になることこそが唯一の償いと恩返しだと思いました。
 しかしこの人はまた、運命の悪戯によって平行世界に飛ばされ行方不明となってしまいました。
 ルシオラさんから与えられた命です。
 必ず何処かで生きていると信じ続けてきましたが、もし・・・という不安は付きまとっていました」

「小竜姫様・・・」

横島も初めて聞く、小竜姫の胸の内に心が締め付けられていた。
普段のおちゃらけで雰囲気を壊すのではなく、静かに彼女の手を握る。
驚く小竜姫だったが、彼の心遣いに感謝し握り返す。

「そして忠夫さんが行方不明なった、15年後・・・
 彼が人魔の封印を解除した反応を微かに感じ、それを辿って忠夫さんと再会する事が出来ました。
 その時に私は密かに決意しました。
 例え想いは伝えられずとも、もうこの人と離れたくない。
 彼がこの世界を選ぶなら、私も・・・と。
 結果としてルシオラさんも蘇り、彼女から認められましたので告白しました。
 すでに神界の両親と竜神王に決意を述べ、納得していただいています」

「「・・・」」

その再会はお世辞にも言っても締まらないものとなってしまったが、変わらない彼の姿に歓喜したことは忘れない小竜姫。
彼女の横島への強く、そして深い想いに百合子と大樹のみならずネギ達でさえ言葉を失う。


横島に想いを寄せるエヴァ達に続き、ネギ・明日菜・のどかも話し終え一段落する。
横島夫妻は聞いた話を整理し、茶々丸が用意した紅茶を一口啜ってから口を開く。

「アナタ達の話と、息子への想いは分かったわ。
 小竜姫さん、ネカネさん、エヴァちゃん、茶々丸ちゃん、木乃香ちゃん、刹那ちゃん、夕映ちゃん、アキラさん。
 そして、ルシオラさん。
 まずは、こんな息子を本当に好きになってくれてありがとう。
 あなた達のような良い子達なら、安心して託す事だ出来るわ」
 
「そして、ネギ君、明日菜ちゃん、のどかちゃん。
 君たちにも感謝するよ。
 これからも忠夫と良い関係でいてくれ」

夫妻の言葉にエヴァ達は強く、ネギ達は若干慌てながらも一つ頷く。
半ば認められた言葉だったが百合子の『試練』は続く。

「でもね・・・
 忠夫と同じ寿命を持つルシオラさん、小竜姫さん、エヴァちゃん、少し違うけど茶々丸ちゃんはともかく・・・
 人としての一生『程度』しかない、木乃香ちゃん達はどうやっても寿命の関係で先に逝ってしまうわ。
 満足に生きたからと納得するのは本人達のみで、忠夫達にはどうしても影と悲しみが訪れる。
 それでも、あなた達は忠夫と生きていく『覚悟』はあるかしら?」

「オフクロ!
 それはっ!!」

「アンタは後で訊くから黙ってなさい。
 今は木乃香ちゃんたちに訊いてるんだよ」

「グッ・・・」

予想外であり何よりも重い問いに、横島が腰を上げるが母の鋭い視線に抑えられる。
問われた木乃香達は互いに顔を見合わせるが、強い決意を胸に百合子へ答える。

「確かに人間であるこのちゃん達や半妖である私も、忠夫さん達よりも先に逝ってしまうでしょう。
 ですが、だからと言って忠夫さんから離れるという選択はどうしても出来ません」

「極論的には、やはり自己満足になるかもしれません。
 しかし、やはり私達には悲しみ以上の思い出や想いを忠夫さんに送ることしか思いつきませんです」

「他にしてあげる事は、子供もじゃんじゃん産むってことくらいやなー
 ウチ等の分も含めて愛してほしいな」

「恥ずかしいけど、木乃香と私も同じ気持ちです。
 寂しく思う暇がないほど、忠夫さんにいっぱい残したいです」

「私達は忠夫さんと生きていきたいです。
 精一杯生きて、皆さんで幸せに過ごし、最後は笑顔で見送ってほしい。
 これが私達の答えです」

刹那・夕映・木乃香・アキラ・ネカネの順にそれぞれ想いを伝える。
百合子も静かに聞き、大樹が息子へ視線を向ける。

「忠夫。
 オマエには、これほどまでに自分を愛してくれる人達が居る。
 向こうの世界でも、色々と危険な事もあるだろう。
 巻き込むなとは言わないし、厄介ごとが向こうから来る事もあるだろう。
 それでも彼女達を護り、幸せに出来るか?」

父・大樹からの厳しい視線を受け、ここで自分だけが情けない姿を見せられないと横島も腹を括る。

「ああ。
 向こうの世界でも、人魔や霊力、文珠を隠して生きていくのは大変だと分かってる。
 でも、俺もルシオラだけじゃなくていつの間にか皆に惹かれていった。


 大仰な態度だけど、その裏で辛い過去を持つ寂しがりやのエヴァちゃん。

 ガイノイドとか関係なく、無垢な心と優しさを持つ茶々丸ちゃん。

 常に笑顔で、周りを和ませてくれる木乃香ちゃん。

 真面目で時には空回りする時もあるけど、本当に真っ直ぐな刹那ちゃん。

 好奇心旺盛で、何よりも親友を大事にする夕映ちゃん。

 ちょっと大人しいけど、理不尽な暴力を嫌い人の痛みをよく理解しているアキラちゃん。

 優しくて、周りを包み込む大きな心と母性を持つネカネちゃん。

 俺のもう一人の師であり、気高く武神の誇りを持つ小竜姫様。

 そして・・・
 創造主より俺を選んでくれて、文字通り自分の命を託してくれたルシオラ。


 皆には感謝しているし、俺も大好きなんだ。 
 だから、俺は絶対に皆を幸せにする!!」

『忠夫(ヨコシマ・さん)!!』

横島の独白と誓いを聞き、隣に座っているエヴァ達のみならずネカネ達も感極まり彼に集まる。
抱きついたり、改めて想いを伝えたり、思わず泣いたりと騒がしいがそれでも全員幸せそうだった。
ネギと明日菜も拍手を送りつつ祝福し、のどかなど泣いてしまっている。

「よく言った!!!!
 それでこそ、俺の息子だ!!
 百合子、文句はないな!?」

「ええ。
 木乃香ちゃん達だけじゃなくて、忠夫のあれほどの決意と覚悟を聞いて反対する理由はないわ。
 私の完敗」

「よし!!
 それじゃ皆、まとめて俺達の娘だ!!
 今から義父さん、義母さんと呼んでくれ!!」

「よろしく頼む、義母殿、義父殿」

『よろしくお願いします!』

真剣であり数々の想いと覚悟も聞き、大樹はもちろんついに百合子も横島達を認めた。
こうして最大の試練(?)である、両親から認められた横島達。
周りが騒ぐ中、横島は内心で・・・

『ついに、『ちうがくせい』であり自分の生徒達にプロポーズまがいの事を言っちまった。
 しかも両親に紹介し、公認を受けちまった。
 ワイはロリに堕ちたんやなー』

と、諦めと妙な達成感を味わっていた。



大事な話を終えた一同は、横島達は歓迎会、百合子達も先にホテルで食事を済ませたため露天風呂へ向かった。
一度リラックスする為と、文字通り裸のお付き合いで友好を深めようという事だ。
混浴ではない事を大樹が憤り、妻の百合子にしばかれたのはお約束。

「うんしょ、うんしょ・・・
 これくらいでいいかえ、お義母様?」

「ちょうど良いよ、木乃香ちゃん」

「それでは、お流しますね」

女湯では運良く誰もおらず、エヴァ達が色々と談話しつつ温泉を楽しんでいる。
今は百合子の背中を木乃香が洗い、刹那が湯で流すという親孝行(?)をしている。
身体も洗い終わり、再び温泉に浸かる百合子にエヴァとネカネは話相手をする。

「良い湯加減だな、義母殿」

「そうだねー
 向こうじゃ温泉なんてないから、久しぶりでね。
 気持ち良いよ」

支社での社宅も充分設備は整っているのだが、さすがに温泉はない。
日本人として、身も心も休まるのは当然の事だった。

「ネギは髪の毛を洗うのが苦手で、お風呂はよく逃げるんです」

「そうそう!
 ネギったら、水で流す程度で済ませちゃうのよ!
 私もゴネるネギを無理やり洗ったりしたわ!」

「ええっ!?
 と、ということは、アスナさんはネギ先生と一緒にお風呂を!?」

「ちち、違うの本屋ちゃん!!
 シャワーよ、シャワー!!」

「ホッ・・・
 そうですかー」

「そ、そうそう!!」

ネカネからネギの洗い嫌い(?)の話題に、明日菜もウンウンと同意する。
その言葉にのどかが慌て、彼女以上に慌てつつ取り繕う明日菜。

「そりゃいけないね。
 習慣の違いなんだろうけど、綺麗にするのに越したことはないよ。
 ネカネちゃんは平気かい?」

「はい。
 忠夫さんがウェールズで家を用意する時に、日本のお風呂を希望しまして。
 今では慣れたものです」

「そうかい」

フウと気持ちよさそうな吐息を出し、リラックスし寛ぐネカネ。
見た目は西洋人だが、その雰囲気は日本人となんら変わりはない。
彼女のみならず他の義理の娘『達』や、息子の生徒達が寛ぐ様子に百合子も笑みがこぼれる。
だが、その柔らかい雰囲気はエヴァの次の言葉で消える。

「義母殿。
 このような場では少々無粋だが真面目な話がある」

「・・・それは忠夫に知られると拙い話かい?」

「今は・・・というところだ。
 木乃香達にとっても少々早いと思ったが、先程の話を聞き話すことを決めた」

「ウチ等も?」

エヴァの真顔と雰囲気に百合子も緩んでいた気を引き締め、関係あるらしい木乃香達は首を傾げる。

「ああ。
 部屋で決意を述べた、『人間である自分達では、確実に先に逝ってしまう』という部分だ。
 もしかしたら、何とかなるやもしれん」

『ええーっ!?』

予想外であり、とんでもない内容に明日菜は驚きの声を上げる。
その煩さにエヴァは少々顔を顰めるが、百合子は表情を変えずに続きを待つ。

「ルシオラを蘇らせる儀式が書かれている魔道書を調べる最中、その可能性がある手段があった。
 その時は関係ないと飛ばしたが、妙に引っ掛かり頭の片隅に置いていた」

「でしたら、私達も皆さんと同じ時をずっと生きることが出来るのですか!?」

我に返った刹那が湯を掻き分けてエヴァの側に移動し、その気はないだろうが少々荒く問いかける。
木乃香達も動きこそないが真剣でエヴァの言葉を待ち、明日菜とのどかは静かに見守っている。

「落ち着け、刹那。
 ルシオラの件の時も言ったが、ことはそうそうと行かないのが世の中だ。
 特に古来から人間達が求める不老不死だ。
 無論、代償もいる」

「・・・だろうね。
 そう簡単になれたんじゃ、そっちの世界はどれだけ非常識なんだいと突っ込むよ」

エヴァは刹那を落ち着かせ、百合子もその言葉に頷く。
数々の人間達が求め、どれほどの代償を払っても成し遂げられなかった不老不死や永遠の命。
それこそ、全てを代償にしても手に入るものではない。
だが、永遠の命など望まない横島が人魔となり、結果的に手に入れてしまったなど皮肉だろう。

「ウチ等はその覚悟はある。
 エヴァちゃん、教えてくれへん?」

限りない人間達が求める永遠の命など、木乃香達にとっては愛する者を悲しませず、共に生きる為の手段でしかない。
エヴァも逆の立場だが、人魔と知らない時期に横島の側に居ると誓った時もあり、その覚悟と強さは察してる。
木乃香の言葉に、他の横島と共に生きると誓った者達も共に頷く。

「分かった。
 だが、覚悟は当然として度量も問われるが、その代償を払うのは貴様達ではない。
 私、ルシオラ、小竜姫、横島の人外の者達だ」

『へっ?』

「まさか・・・」

どのような代償・・・試練があるのかと思いきや、本題から外され拍子抜けする木乃香達。
だが、魔道書に目を通したことがあるネカネはエヴァの思惑に気付いた。

「さすがにネカネは気付いたか・・・
 そうだ。
 魔道書にあった『蘇らせた者を自分の命で補う』という手段を改良する。
 永遠の寿命を持つ私を含めた4人が、私がアレンジした儀式で木乃香達に命を分け与える・・・といったものだ。
 先に聞いておこう。
 ルシオラ、小竜姫、お前達は自らの命を木乃香達に分け与える事が出来るか?」

詳細を述べるエヴァが、最後の確認とばかり肩を並べるルシオラと小竜姫に視線を向ける。
木乃香達もさすがにこのような内容とは思わず、複雑な視線を二人へ向ける。
その数々の視線を向けられた二人は・・・一度顔を見合わせるが、すぐに微笑む。

「私は構わないわよ。
 皆が協力してくれなかったら、そもそもこうして蘇られなかったし。
 それに・・・」

「私達も皆さんが大好きです。
 死という別れを回避でき、木乃香さん達が望むなら喜んで差し上げます」

「・・・ありがとうございます」

何の気負いもなく当然といった雰囲気で了承する二人に、
木乃香達は後ろめたさと申し訳なさもあるが、それ以上の感謝の気持ちに溢れ顔が湯に着くギリギリまで頭を下げる。

「まあ・・・
 その儀式はまだ確立しておらず、まだまだ先の話だ。
 その時まで、私も認める程度には力をつけておけ」

『はい!』

エヴァも遠まわしに自分も賛成していると伝え、木乃香達は力強く頷く。
それぞれが改めて強い絆を結ぶ木乃香達を、明日菜とのどかも固い決意で見届けていた。

「皆・・・
 本当に凄いわね。
 私達も負けていられないわ。
 ね、本屋ちゃん?」

「は、はい。
 ネギ先生は永遠の命なんて望まないと思いますので私達は遠慮しますけど、
 夕映達の覚悟は見習いたいです」

「まずは、ネギの足手まといにならないようにしなくちゃ!!」

「はい!!」

そんな二人を含め、百合子は一つ頷くのみで静かに見守っていた。
そして、息子は本当に良い人達と出会えたと初めて運命に感謝した百合子だった・・・


女風呂で新たな決意と目標を得た、木乃香達。
だが湯に浸かりつつ話を聞いたのが拙く、茶々丸以外の百合子も含めた女性一同は湯中りをしてしまった。

「あ〜う〜」

「なにやってるんだか・・・」

「アスナさん、お水です」

「あ、ありがとう、ネギ・・・」

「マスター
 この程度でよろしいでしょうか?」

「あ、ああ・・・」

横島とネギはそれぞれ周って看病し、茶々丸は団扇で煽いでいる。

「百合子ももう歳なんだから、若いネカネちゃんたちと一緒に入っていると辛いだろ?」

「やかましい!!」

大樹は妻を看病しつつも、忠告のようで何気に失礼な言葉を送る。
夫からの現実的な言葉に、百合子は息子が居る手前では詳しく言えず文句を言うしか出来なかった。



初日にして、美神達や両親との再会を成した横島。
そして、重大な話を語った初日は幕を閉じる。
彼等に許された日数はあと六日。
まだまだ、横島の受難(?)は続く・・・







どうも、siroです。

今回は前回の続き手ある両親との再会、エヴァ達の想いと覚悟です。
エヴァ達は改めてとして、小竜姫もうっすらとしか伝えていなかったのでここで掘り起こしました。
ここまで来たならば横島も語らせようと考え、このようになりました。

そしてここで出てきました、魔道書にあった『蘇らせた者を自らの命を分け合う』という内容。
以前に読者様から確認の意味でご質問をいただいたので、今回で出しました。
実際にその儀式を行うのはまだまだ先ですので、あまりお気になさらず。

今まで前回まで令子の表記を『美神』としていましたが、美智恵やひのめも登場し混乱しますので変更しました。