社説:国会同意人事 民主の対応にあきれる
毎日新聞 2013年02月09日 02時30分
国民からどんな目でみられているか、まったく分かっていないのではないか。もちろん、国会の同意を必要とする人事案件をめぐる民主党の対応である。
経過はこうだ。安倍内閣は8日、公正取引委員会の委員長に杉本和行元財務事務次官をあてるなど14機関41人の人事案を衆参両院の議院運営委員会理事会に提示した。ところが杉本氏の人事案が、一部新聞に提示前に報じられたことから、民主党は「事前に報道された人事案は認めない」というルールを盾に提示を拒否し、理事会を途中で退席したという。杉本氏が適任かどうかの判断以前の問題だというわけだ。
今国会が始まった後、民主党はいったんはこのルールの撤廃に柔軟姿勢を示していたが、結局、国会同意人事案件を国会駆け引きの材料に再び使い始めたということだろう。あきれるような対応というほかない。
「事前報道ルール」は衆参ねじれ国会となった07年に設けられた。メディアの事前報道で人事が既成事実となり、同意人事が形骸化しかねないとの理由だった。しかし、ルール決定当時から私たちが強く批判してきたように、どう考えてもこのルールはまったくおかしなものだ。
そもそも事前に報道されたかどうかはその人事が適切かどうかにまったく関係がない。むしろ、その人物が適任かどうか、与野党がきちんと判断するという国会同意の趣旨をないがしろにするものだろう。
事前報道されれば認めないという発想自体、報道の自由に照らしても問題だ。
衆参のねじれ状態に、この奇妙なルールが重なり、政府の人事案件は国会の手続きが進まず、国会停滞の一因となっている。とりわけ民主党政権で国会同意人事は滞り、今度の通常国会では100人以上の処理を迫られている。こうした責任を重視したからこそ、民主党も一時、ルールの撤廃に傾いたはずだ。
一転してルール温存に転じた今回の対応は、輿石東参院議員会長が主導したとされ、与党主導の国会運営となることを輿石氏は警戒したとの見方がある。だが、こんなルールを頼りにしなければ安倍内閣に立ち向かえないのでは情けない限りだ。
民主党は政権を手放したら、何でも反対の抵抗野党に舞い戻るというのか。それでは国民の失望感は増すばかりだろう。
党内でも輿石氏の対応には批判が出ているという。今後、日銀総裁人事も控えている。民主党は拒否方針を撤回し、ルールはすみやかに撤廃すべきだ。そして人事案は是々非々で判断するというあたり前の原則に立ち返るべきだ。