告発の真相:女子柔道暴力問題 山口香・JOC理事に聞く/下 暴力撲滅の宣言を
毎日新聞 2013年02月11日 東京朝刊
◇「日本スポーツ界は変わる」世界に訴えよ
柔道全日本女子の暴力問題で、15人の告発を後押しした日本オリンピック委員会(JOC)理事の山口香・筑波大大学院准教授(48)に聞くインタビュー企画。後半は、この問題を機に、日本柔道界、スポーツ界に求められる変革について聞いた。【聞き手・藤野智成】
−−柔道界で暴力を容認する風潮があったのはなぜか。
◆格闘技の性質上、他のスポーツより暴力への境界を飛び越えやすいのかもしれません。講道館柔道の創始者、嘉納治五郎の教えの基本に「精力善用」とあります。「社会の善い方向のために力を用いなさい」と。今回、暴力に陥った理由を「選手を強くしたかったから」と釈明されていますが、日本柔道界が嘉納師範の教えに学んでいないということを示しています。
−−柔道界はこの問題をどう受け止めるべきか。
◆この平和な世の中で柔道をスポーツとして発展させていくには、指導者が心して掛かる必要があるでしょう。柔道の技も使い方を誤れば、暴力になりうる。絶対に暴力を振るう人間でないことを示さないと、柔道なんて教えるな、危険な人間を作るな、という論調になる。中学校で必修化された武道の選択科目からも柔道を外せ、となる。柔道の根幹に関わる問題なのです。
−−男性だけで構成する全日本柔道連盟の理事に女性の登用を求める意見もある。
◆今は上下関係が厳しく男性でも自由に物を言えない空気がある。柔道界の常識は世間の非常識ということも多々ある。女性というより、今後は組織としての多様性が求められる。外部有識者も入れていくべきです。
−−代表選考の明確な基準作りも必要?
◆代表選手選考についても、これまで海外で戦える選手を選ぶという建前で、基準があいまいにされ、議論を呼ぶ選考もありました。選手が暴力を受けながら抗議できなかった背景には、指導者が選考に影響力を持つゆえ、声を上げるのをためらったと思われます。誰が見ても、納得のいく基準が求められます。競泳では、00年シドニー五輪で千葉すずさんが代表選考から漏れ、日本人として初めてスポーツ仲裁裁判所に提訴しましたが、それを機に選考基準が明確化され、今では北島康介選手ですら特別扱いは受けない。競泳陣が成果を出している背景の一つだと考えます。
−−改めて柔道に求められる人づくりは。