2012年11月28日(水)

福島の汚染草木からバイオ燃料を

阿部
「バイオエタノール。
植物を原料としてつくる燃料で、再生可能なエネルギーです。」

鈴木
「サトウキビやトウモロコシなどから作るのが一般的ですが、意外な原料からバイオエタノールをつくることに、あるベンチャー企業が成功しました。」

阿部
「この技術、東日本大震災の被災地からも熱い注目を集めています。」

意外な原料からバイオエタノール

「いらっしゃいませ。」

こちらで給油されているガソリン、バイオエタノールが含まれています。
環境にやさしい燃料として各地で普及への取り組みが始まっています。

そのバイオエタノールを作る新しい技術を、岐阜県のベンチャー企業が開発しました。
全国から見学に訪れる人たちが後を絶ちません。

雑草・紙くずがバイオエタノールに

原料はなんと、雑草。
近所で刈り取ってきたものです。
使えるのは雑草だけではありません。
ゴルフ場で刈られた芝や、オフィスから出る紙くず。
植物の成分、セルロースが含まれていればエタノールをつくることができます。
そして、訪れた人が驚くのが、製造装置がコンパクトなこと。

バイオベンチャー 鈴木繁三社長
「これが出来たエタノール、本当に単純なプラント。」

実は国も今、雑草などからエタノールをつくる研究に取り組んでいます。
しかし、そのプラントの多くは巨大なもの。
巨大化の背景には、雑草などからエタノールを作る効率の悪さがあります。

すでに実用化されているサトウキビの場合は、含まれる糖を発酵させてエタノールをつくります。
しかし、雑草などは、セルロースをいったん糖に分解する必要があります。
できあがるエタノールの量が少ないため、巨大なプラントで大量生産せざるをえません。
ではなぜ、このベンチャー企業は小規模でエタノール生産が可能なのでしょうか。

秘密は、セルロースを分解する特殊な酵素。
分解効率が高く、従来の数倍ものエタノールを作ることが可能です。
地元・岐阜大学で20年に及ぶ研究の末、発見されました。
設備が小規模なため、コストが大幅に抑えられます。
エタノールの採算ラインは、1リットルあたりの生産コスト100円と言われています。
国のプラントは、平均150円ほどかかるのに対し、この会社のプラントでは50円ほどで生産していると言います。
この会社では今後、全国各地に、地域の雑草などを利用する小さなプラントを建設していきたいと考えています。

バイオベンチャー 鈴木繁三社長
「地産地消のエネルギーを作りましょう。
“地エタノール”を作りましょう。
町に特化した材料で、町にあった大きさのプラントで町の人たちに利用してもらう。」

除染にも効果 バイオ燃料新技術

そして今、この技術を応用した、新たな取り組みが始まろうとしています。
原発事故で被害を受けた福島県飯舘村です。
放射性物質に汚染された森林の除染に、役立てようというのです。
今年(2012年)6月から9月まで、その効果を確かめる実験が、環境省の事業として行われました。

汚染された草木を刈り取り、細かく砕きます。
それを酵素で分解し発酵させます。
蒸留してエタノールをとりだすと、残りの茶色い液体に、放射性物質が集まります。
そこに薬品を入れて、放射性物質を固め中間貯蔵施設に持ち込みます。
一方、バイオエタノールからは、基準値を超える放射性物質は検出されませんでした。
生産コストについても試算したところ、採算ラインをクリアするものでした。

先週、ベンチャー企業が飯舘村を訪ねました。
飯舘村の森林組合がこの技術に興味をもったのです。
村には、およそ800人の森林組合員がいます。
プラントが出来れば、除染に役立つだけでなく、新たな働き口になると期待しています。

森林組合員
「とにかく仕事が無ければ、飯舘村になかなか帰れない。
話を聞いて期待はしている。」

村では来年(2013年)にも、試験プラントを立ち上げ、村に合った利用方法を探っていくことを検討しています。

飯舘村森林組合 相良弘組合長
「このまま黙っていてもなにも前に進まない。
研究をしていけば道は開けるのではないか。」

今後は、作ったエタノールの販売方法など、具体的な課題について、ベンチャー企業と話し合っていく予定です。

阿部
「除染とエタノール生産という一石二鳥を狙ったこの試みですが、将来住民が戻ってきてエタノールを使ってくれるかどうかという課題もあります。」

鈴木
「ただ、こうした問題を乗り越えれば、今はほとんど手つかずの森林の除染を進めるきっかけになるかも知れません。」

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