経済産業省の有識者会議が8日にまとめた電力制度改革の報告書で、家庭向けも含めた電力小売り自由化などの進め方が決まった。電力大手10社で独占状態の電力業界に、新規参入を促して競争を促すことが狙いで、料金引き下げやサービス向上が期待される。ただ、規制改革が進んだ海外では、必ずしも料金引き下げにつながっていない例もある。【丸山進、ワシントン平地修】
◇「発送電分離」がカギ
16年をめどに実施される電力小売りの全面自由化では、一般家庭でも地元の大手電力以外の電力会社から電気を買う契約を結べる。例えば東京に住む人が、九州電力や中部電力などの大手や、新規参入した特定規模電気事業者(新電力)から電力を購入できる。
自由化は沖縄県や離島なども原則として対象。電力会社の地域独占が崩れれば、新電力の参入も併せて競争が進み、料金の値下げも期待できる。料金が割高でも、太陽光などの再生可能エネルギーによる電力だけを扱う会社と契約するなどの選択肢も生まれ、料金やサービス内容で選ぶことが可能になる。
しかし、過度の競争などで電力の安定供給に支障があってはいけない。このため、全面自由化前の15年をめどに、電力会社の営業範囲を超えて全国の電力供給が適正に行われているかどうかを調整する「広域系統運用機関」を設立する。福島第1原発事故後に、電力会社間で電力のやりとりを十分に行えなかった反省もある。
新電力が太陽光などの発電所を建設しても、送電網がなければ家庭まで電気を運べない。現在、送電網は電力大手が保有しており、新電力が使用するには高いコストを求められるとの批判もあった。小売りの全面自由化の効果を上げるためには、大手電力から送電部門を分社化する「発送電分離」を実施して、新電力と既存の電力会社を対等な競争関係にすることが必要だ。
送電部門の分社化は18~20年をめどにしている。それまでは電力大手が地域独占状態などを背景に不当な値上げをしないよう、現在の料金規制も維持する。電力会社は自由化には強く反対していないが、送電部門の分社化には難色を示しているため、改革が計画通り進むかどうかは予断を許さない。
また、原発再稼働をどうするかなど、政府のエネルギー政策の方向性が見えないままでは、新規事業者が長期の事業計画を立てることが難しくなるため、参入に二の足を踏む恐れも残っている。
◇先進米国では大規模停電も
米国では90年代に電力自由化の取り組みが進み、96年には送電網の開放が義務づけられたほか、送電部門の運営を独立させた。電気事業者は3000社以上に上り、13州で小売り部門が完全自由化され、家庭や企業が電気を購入する相手を自由に選ぶことができる。
先駆けとなったカリフォルニア州では98年に大手電力3社の持っていた送電網の運用を中立機関に委ね、家庭や企業は電力会社を自由に選べるようになった。だが、2000年~01年、大規模停電や料金高騰などの「電力危機」が発生。火力発電の燃料となる天然ガス価格が上昇する中、州政府が電気料金に上限を設けたことで、発電会社はコストを電気料金に転嫁し切れず、発電会社の倒産が相次いだことが影響した。これにより、その後の小売り自由化は停滞し、複数の州で再規制の動きも出た。
電力規制に詳しい米コンサルタントのスティーブ・ミトニック氏は「自由化で発電コストの効率化は進んだが、電気料金は下がっていない。国民への恩恵は現実化していない」と指摘する。公的な後ろ盾のない電力会社は資金力に乏しく、自由化は新規の発電施設の建設を滞らせる要因にもなっている。
多くの電気小売りが新規参入し、「自由化の成功例」といわれるテキサス州では自由化地域の電気料金は全国平均を上回っているとされ、「収益が電力会社トップの巨額の報酬に回されている」(地元メディア)との批判もある。
2013年02月11日 09時16分