告発の真相:女子柔道暴力問題 山口香・JOC理事に聞く/上 特定の選手、見せしめ
毎日新聞 2013年02月10日 東京朝刊
◆私がいくら訴えても全柔連は、私を納得させようとするばかりで、事態は動かない。仮に私が騒いで、監督を交代させられても、そこに何の意味があるのかと思いました。選手はまた同じような目に遭った時、また泣きつくのか、と。「あなたたちで声を上げるしかない。でなければ、抑止力にならない」と伝えました。私が全柔連と激しくやり合うのを見る中で、彼女たちは変わってきました。他人でもこんなに怒るんだ、と。特定の選手が見せしめのように殴られ、空気が張り詰め、周囲の選手も見ているだけ。ビクビクして監督の顔色をうかがう。ある選手は「我慢しなくてはいけない、文句を言ってはいけないと、まひしていました」と言いました。そして、告発を決断したのです。
−−全柔連の対応が鈍かったのが、事態を重くした。
◆全柔連は事態を隠蔽(いんぺい)したわけでも、軽く扱おうとしたわけでもないと思います。もともと彼らの中では、軽い問題なのです。園田監督が「(現役時代、指導者に)たたかれたことがあるが、体罰と思ったことはない」と記者会見で語ったように、殴られることは当たり前なのです。今も「世界に出て行くんだから、当たり前だろ。何を騒いでいるんだ」と考えている人は少なくないでしょう。
−−全柔連の指導者3人が辞任した今の15人の心境は?
◆彼女たちも傷ついている。園田監督の記者会見を涙して見たと思う。どれだけ痛めつけられても、監督は親みたいなもの。自分たちが我慢していればよかったのでは、と感じていると思います。
−−15人の氏名を公表すべきだという意見が一部にある。
◆今回の件で、彼女たちになんら非はないと私は思っています。その彼女たちの氏名を誰に、何の目的で公表すべきだと言うのでしょうか。百歩譲って、彼女たちの氏名を公表して公の場で闘う理由があるなら、それは双方の意見が食い違っている時です。既に園田監督らは事実を認め、謝罪しています。私がメディアの取材を受け、矢面に立つのは、彼女たちが更に傷つくことは避けたいからです。
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■人物略歴
◇やまぐち・かおり
64年、東京都生まれ。筑波大時代の84年世界選手権女子52キロ級を制し、日本女子初の世界選手権覇者に。公開競技の88年ソウル五輪で銅メダル。89年に筑波大大学院を修了し、現役引退。現在は同大学院准教授。JOCでは理事、女性スポーツ専門部会長。