国境を越えて広がるサイバー犯罪への対応に警察当局が追われている。専門技術を持つ捜査員の育成に力を入れるが、新たなウイルスは広がるばかり。ノウハウを持つ民間企業との連携もスムーズに進まない。サイバー犯罪捜査に強い海外の当局も対応に苦慮している。
■日本
【樫本淳、須藤龍也】「ネットから現実社会に行動を移せば、従来の警察捜査が通用する」。米セキュリティー大手「マカフィー」の本城信輔主任研究員は1月23日、業界関係者との懇談会で、パソコン遠隔操作事件が解決する見通しを語った。
真犯人を名乗る人物が猫に首輪をつけたというメールを送っていたことを踏まえた。海外では、遠隔操作ウイルスが使われるネットバンキング不正送金事件で、金融機関での現金引き出しが解決の糸口になることが多いという。
ただ、本城研究員は今回の事件を受けて指摘する。「ネット空間の情報を地道に収集し、事件解決に生かす仕組みが必要だ」
警察もサイバー犯罪の捜査態勢を強化してきた。警察庁によると、すべての警察本部にサイバー犯罪専門の捜査部署が設置され、全警察官約26万人のうち捜査員約1千人が所属している。新年度は約170人の増員を予定する。
だが、多くは元々通常の捜査部門にいた捜査員。採用時から専門知識を持つ捜査員は200人前後にとどまり、民間企業などの専門家を中途採用したサイバー犯罪捜査官が約80人、専門捜査員に育てる前提の新規採用が約100人。幹部は「数、質とも足りない」と話す。
一日に10万種以上のウイルスが作られるとも言われるサイバーの世界。技術や知識が後れをとっているとの指摘から、警察は民間企業との連携強化を打ち出している。ただ、「捜査情報をどこまで出すか課題は多い」(幹部)という。
あるウイルス対策会社の解析担当の研究員は「何の事件か教えてもらえないこともある。証拠や情報が示されれば具体的なことも言えるのに、一般論の助言しかできない」と話す。
「捜査員と個人的関係で無償で請け負っている」との不満や、「協力要請が遅い」との声もある。サイバー犯罪では、関係した人物の特定に通信会社などのアクセス記録を押さえる必要があるが、一般的に3カ月とされる保存期間を過ぎてから声がかかることが多いという。
パソコン遠隔操作事件では、警察庁からウイルスのコピーが提供され、民間の関係者を驚かせたが、目的は犯人割り出しでなく、ウイルス対策ソフトのワクチン作りとされた。
ウイルス対策会社は世界中から日々、膨大な情報を収集する。セキュリティー会社ラックの西本逸郎専務理事は「警察は企業と連携をさらに強めることが必要」と語る。