主人公・亜樹は放課後、ルックスはいいのにちょっと浮いている同級生の女の子に、校舎裏に呼び出される。期待を胸に抱き足を運んだ主人公だが、彼女はなんとハンマーで襲いかかってきた! 何がなにやらわからずに泡を食う主人公。実は、彼女には人にいえない秘密があり、それを隠そうとしていたというのだ。しかし、なぜかハンマーの効果はなく、彼女は主人公に「わたしのボディーガードになりなさい」…。無茶な要求だったが、何となく従ってしまう主人公。肩に力の入っていた彼女も、主人公やその友人たちと接することでしだいに打ち解けていくようになる。
攻略対象となっているヒロインは、「あらすじ」で記したメインヒロインである深緒(みお)、後輩でコーラス部の期待のホープである美幸、同居している姉の友里子、謎のお嬢様といえるかなかの4人で、それぞれにエンディングが用意されています。このうち、深緒および美幸、有里子およびかなかは、ゲーム全体の核となっている深緒の正体や美幸の立場などについては基本的に共通しているものの、シナリオのトーンが大きく異なっています。このため、2つに分けて記します。
深緒および美幸については、もともと美幸が主人公に対して好意を持っており、いっぽうで深緒はその自覚もないままに主人公に惹かれていき、結果として親友である2人がともに主人公に……という流れになります。さすがに両手に華状態をキープするわけではなく、主人公サイドでは比較的早い段階でケリがつくため(ヒロインサイドが暴走するため実際にはケリがなかなかつきませんが)、結ばれるまではオーソドックスというか、よくあるパターンの展開になっています。
その一方で、ヒロインと主人公が結ばれた後になると、深緒をめぐるもうひとつの秘密に踏み込んでいくことになります。詳細については省略しますが、恋人同士の関係のほかに第三者が関わり、そのために当事者が思い悩むこととなります。登場人物の行動にはいささか無理がありそうですが、叙述自体には適度な緊迫感があり、実際にプレイした時間よりも楽しめた印象があります。
惜しむらくは、エンディングが「主人公とヒロインの間でのみ」決着する形で終わってしまっていること。美幸シナリオであれば切なさを含んだものと片付けてもよいでしょうが、深緒シナリオの終わりには何とも後味の悪さがつきまといます。御都合主義に走れというのではないのですが、最後の段階で2人だけがいいとこどりをする、いや、させられる形で決着が付くのは、その置かれた状況が厳しいものであったことを差し引いても、やや不合理ともいえる苦みが残らざるを得ません。その前の段階でなんどもつらい場面があったのに、そこでそういう幕引きで終わるのか、と思ってしまいました。特に、最後で動いてくれるキーパーソンが共通となるかなかシナリオと比較した場合、この後味の悪さが際だってしまいます。
いっぽうの有里子およびかなかについては、両者が惹かれるプロセスの叙述は皆無に等しく、結ばれてからの流れが中心になっています(実際のプレイ時間で比較した場合は深緒/美幸も似たようなものですが)。にっこりした笑顔を見せてくるかなか、主人公に甘えてくる有里子の両者とも、かなり濃密な描写になっています。いちゃラブ度で判断すれば、こちらのほうが高いでしょう。
その一方で、主人公とヒロインの関係そのものが、ストーリーの進行にあわせて厳しいものとなっていきます。有里子については実の姉弟という関係であるだけに言わずもがな、かなかも他のキャラクターとは根本的に異なる立場でありその存在そのものがなかなか認められないわけで、単純に「好きな者同士が結ばれる」ことが祝福されないだけでなく、どうあがいても社会的につらい立場になることが明白なカップルが、蟷螂の斧を振り回すようなものです。そうなると、気力の続くかぎり抵抗するか、心を閉ざして諦めるかに走りがちなのですが、ここでも愚直なまでに解決の鍵を探していくさまは、切羽詰まった状況も相まって、なかなか見応えがあります。有里子シナリオでは事実も展開もミエミエでしたし、かなかシナリオではシナリオの組み立て方にあざとさが拭えず、素直に楽しめたとはいいがたい面もありますが、最後まで飽きることなく進められました。
おもしろいのは、ヒロイン側が激情的になったり悲観的になったりしても、主人公は比較的楽天的で、なかなかくじけないこと。必ずしも行動力が伴っているわけでもないのですが、視野狭窄になるではなく、ヒロインに比べて冷静な視点や判断をもたせています。これは、主人公がストーリーテラーという位置づけになっていることを超え、その冷静さがなければヒロインもろとも潰れてしまうであろうことを考えると、長期戦となるこのシナリオを支えているのは、実は主人公その人にあるといってもよいでしょう。
ただし、バックボーンとしての環境に無理があるのもまた事実。噂が一瞬で広まる田舎、それも地方名士に連なる家系の人物たちであるにもかかわらず、情報の伝達が中途半端であったり、また村八分的な動きも特にないのはなんとも不思議。お祭りなんて行事でも参加が拒まれることなどなく、すんなりと周囲が受け入れてくれる“理解のよさ”は(終盤付近でやや不自然に変わりますが)、どうにもキレイゴトが先立った世界を演出しているように思えましたが、勘ぐりすぎでしょうか。
主人公はかなりおちゃらけたタイプで、シリアスな場面以外は基本的にドタバタ劇を続けているといってよいでしょう。学園ものの定番といえばそれまでですが。あと、なにげに絶倫で、かなかシナリオでは続いて二桁って、あんた人間ですか。
ややまわりくどいともいえる独特のテキストについては、人によって好みが分かれそうです。
テーマとしては「母親の愛」「友情と恋愛」「不老不死」などがあり、これらへの渇望、苦悩、整理にいたるのが各シナリオになっています。有里子やかなかのシナリオではかなり重い流れになっており、マイナス方面へも冷静に観察できる判断を是認可能かどうかで評価が分かれそうに思えます。
ヒロインとのいちゃいちゃぶりと、終盤のシリアス展開での雰囲気づくりがきちんとできており、総体としてよくまとまっていたと感じます。最後の締めに弱い点がありますが、なかなかの佳作と評しておきます。