主人公・大樹の父親は「母さんに会いに行ってきマス」という書き置きを残して姿を消した。しかし、その母親はすでに死んでいるはず。混乱しながらも、大樹は父親の突然の失踪を全寮制の学園に通っている妹の小雪に伝えようとするが、学園の生徒に連絡を取ることができないという。大樹は学園のある島へ小舟で無理に乗り込もうとするが、不法侵入者として追い回される羽目に。小雪に会うことはできたが、この学園は魔法使いを育成するもので、人間界からは隔離されているのだという。逡巡した主人公だったが、そのときたまたま一緒になった記憶喪失の女の子とともに、この学園に転入することとなる。ゼロからはじまる学園生活、どんな展開が待っているのか。
メインヒロインである記憶喪失少女・アリシアのほか、努力家でプライドが高い同級生、読書家で世話焼きな妹、小っちゃいがなぜか大食いで花を愛する先輩、瓜二つの双子である後輩姉妹というキャラクターがそろっています。おおむね説明した設定どおりの行動を取ってくれますし、努力家の同級生が簡単なマジックをしようと主人公の真似をしてもうまくいかずに涙目になったり、双子の片方がもう片方のフリをして主人公とデートとか、どこかで見たようなお約束イベントのオンパレードですが、それでも各キャラクターの描写が適切になされているため、サプライズこそ少ないものの、置いてけぼり感を抱くことはあまりないでしょう。
どのストーリーでものほほんとした雰囲気があり、キャラクターとのやり取りをのんびりと楽しめ、ヒロイン別シナリオに分岐してもキャラ相互のやり取りは大なり小なり残っています。また、イベント発生時に出てくるデフォルメCGが、これまたゆるゆるな雰囲気を醸し出しており、ゆったりしたゲーム世界を演出しています。主人公が特に積極的に活躍するまでもなく、いつの間にかヒロインとラブラブになっているのはいささか物足りないのですが、世界そのものがのほほんとしているので、その延長ということでよいのでしょう。
プレイしている途中ではさほど気にならないのですが、各シナリオのエンディングとなると、オチが弱いのが残念です。アリシアとセーラのシナリオはまだマシですが、全体的に腰折れのような形で突然終わってしまう、あるいは唐突にターニングポイントを迎えてそのまま流れて終了、というのが基本になっています。どうも、ほのぼの日常パートを描いているぶんにはいいのですが、少しでもドラマチックな展開が出てくると、取って付けたような安直さが表面に出てしまうように思えます。
また、ヒロイン別シナリオの間に設定矛盾と思われる点があるほか、主人公に関する重要な設定がごく一部でしか用いられていない(としか読めない)など、残念な点も少なくないのですが、しっかりと読み込ませるタイプのお話でもないので、これでもいいかな、と思ったしだい。
身も蓋もない見出しを付けてしまいましたが、全ヒロイン別のエンディングを迎えたあとで出てくるトゥルーシナリオは、どうしてそのようなハッピーエンドを迎えられたのか、そこにいささかの説得力もないシロモノで、とてもではありませんが楽しめるものではありません。これは、エンディングそのものではなく、トゥルーシナリオの流れそのものが、それ単独で見ても無理を重ねているうえ、ヒロイン別シナリオで示されている設定などとの断絶があまりにも大きく、とうてい“トゥルー”と呼べるものになっていないためです。なぜエンディング対象となったヒロインたちのみがこのトゥルーシナリオに参加できたのか、なぜ主人公が解明へのアプローチをとることができたのか、キーパーソンであるはずのセシルやボガードの行動と役割はどうしてあのようにズレてきたのか、などなど、突っ込みどころ満載で、これらすべてを「それが運命」で片付けよというのは無理なはなしです。
このトゥルーシナリオが大団円エンドであるとして“おまけ”扱いすべきか、このトゥルーシナリオがヒロイン別シナリオを総括する中軸であると判断するべきか。客観的な評価を下すのであれば後者でしょう。しかし個人的には、ヒロイン別シナリオを進めているときの雰囲気が気に入っているだけに、このトゥルーシナリオについては“見なかったこと”にしたいと思います。
これといったポイントがあるわけでもないのですが、かわいいキャラクターたちとのんびりした日常――あくまでもゲーム世界というフィクションとしての、ですが――を楽しむゲームとしてとらえるべきで、そうすれば十分に楽しめる出来になっています。ストーリーの組み立てにもさほど鼻につくところもなく、オンリープレイを人数ぶん繰り返してもそう面倒ではないので、初心者も安心してプレイできるでしょう。
その一方で、ヒロイン別シナリオ相互間のリンクが弱いことに加え、トゥルーシナリオが強引という範囲を超えたシロモノになっているため、シナリオ面ではほとんど期待しないほうがよいでしょう。ヒロイン別のエンディングを見たら、それ以上はプレイしなくてもよいと思いますが、これ以上は読者の判断しだいでしょう。
万人向けの大人しいゆるゲー、と評しておきます。