虚構の環:第1部・再処理撤退阻む壁/2 エネ庁・電力各社、撤退を模索
毎日新聞 2013年02月04日 東京朝刊
◆虚構の環(サイクル)
◇言ったら負けの「ばば抜き」
03年6月、経済産業省資源エネルギー庁の安井正也電力・ガス事業部企画官(現原子力規制庁緊急事態対策監)は今後の再処理政策について協議するため、電力各社とひそかに会議を設置した。集められたのは▽電気事業連合会の武藤栄・原子力部長(現東京電力嘱託)▽村松衛・東京電力企画部マネジャー(現常務執行役)▽豊松秀己・関西電力原子力事業本部副事業本部長(現副社長)▽青木輝行・中部電力副社長。各組織の原子力部門を代表する人物が顔をそろえ、エネ庁内部で「エージェント(代理人)会議」と呼ばれた。
青森県六ケ所村再処理工場の建設費は当初7600億円だったが、漏水や不良溶接などのトラブルが相次ぎ2兆円を超えることが確実になっていた。再処理工場経営会社の筆頭株主である東京電力と経産省双方の首脳は02年、極秘に会談し、高コストを理由に再処理から撤退することで一致した。しかし部品のひび割れなどを隠蔽(いんぺい)した「東電トラブル隠し」で東電首脳が引責辞任し協議が中断。エージェント会議で復活した形になった。
安井氏と電力側4人は取材に対し、会議の存在を否定した。しかし、関係者がメモを残していた。メモによると、03年7月のエージェント会議で、電力側が1枚の文書を示した。そこには再処理からの撤退を決断するための条件が並んでいた。「国から『撤退したい』と言い出す」「使用済み核燃料は国の責任で処理する」「電気料金に上乗せして集めた使用済み核燃料の再処理費用(この時点で約2・7兆円)を、再処理をやめても電力会社側が自由に使えるようにする」……。
東電首脳が振り返る。
「このころ、村田成二・経産事務次官が『六ケ所から撤退できないか』と提案してきた。電力から『撤退したい』と言えという。冗談じゃない。国から言い出し国が責任をとるべきだと考えた」
言い出した方が責任を負う。だから言い出せない−−。この構図はエネ庁内部で「ばば抜き」と呼ばれた。
◇
実はエネ庁は90年代前半にも撤退を検討していた。「X作戦」と名付けた勉強会を主催したのは原子力産業課の課員たち。ある課員が説明する。「再処理は技術として確立していないのに事業費はどんどん膨れあがる。心配だった」。そこで使用済み核燃料をすぐ再処理するのではなく、再処理工場は当面ストップし技術が確立するまで核燃料を貯蔵(中間貯蔵)する政策について検討した。