KIDからリリースされた『Never7』をプレイしたころ、これとタイトルが非常によく似た『Ever17』なるゲームがでているという話を聞きました。もっとも、プラットフォームがPS2およびDCのみということで、私には縁のないものだったのですが、「プレイを終えるまで情報はシャットアウトせよ」といった評判を聞くにつれ、Windows版が出ればやらないといけないだろうな、と思ったしだいです。実際にプレイすると、『Never7』とプロットで共通している部分があるほか、ここで失敗した点を(方法として)全面的にやり直しているといった面も非常に多く見受けられますが、ゲームの構成およびストーリーの作りは、前作とはまったく異なっています。前作をプレイしていたかどうかは、このゲームの評価に直接的な影響は及ぼさないでしょう(というより、『Never7』と同等かやや上程度の期待しかもたないのは、もったいない)。
タイトルで連続性を持たせているかのように錯覚させるのは、わざとだったのでしょうか。もっとも、「ever 17」という表現、翻訳不可能(というより意味不明)だと思うんですが(^^;
また、ゲーム内のキーワードにドイツ語が多用されています。もちろん、ドイツ語の知識の有無によってストーリーの理解度に違いが出るわけではないのですが、これらは素直に英語でもよかったでしょう。ドイツ語の表記が出るたびに一瞬思考が止まってしまい、「…えーと…」となってしまったのは、私の体の中に外国語苦手意識が染みついてしまっているのが理由なのかもしれませんけれどね(^^;;;
PS2/DCは、2002年8月29日に発売されています。なおこのWindows版は、イベントおよび通信販売のみとなっており、一般店頭販売は行われていません。
なお、このゲームでは、ゲームデザインを含めて、具体的な言及(紹介)がプレイのおもしろさを大きく削ぐことに直結するので、以下のレビューでは表記をかなり抽象化してあります。ご了承ください。
※このゲームは、年齢制限のない一般ゲームです。
海中テーマパーク「LeMU」(レミュー)に遊びに来ていたり働いていたりした、相互の面識のない男女。しかし事故が発生して地上に通じる部分が水没し、彼らはLeMUの中に閉じこめられてしまった。短期間の生活には支障がないものの、高い水圧のために圧力隔壁の耐久限界が刻々と迫る。おまけに外部との連絡手段が取れず、救助の動きも見られない。いかにして脱出すればいいのだろうか。
シナリオ担当は、打越鋼太郎/笹成稀多郎/中澤工/梅田伸明の各氏。
序盤で出てくる主人公選択画面で大きな流れがまず決まり、続いて日常シーンでの選択肢によって(おそらく好感度の上下により)エンディング対象キャラクターが決定します。大きく分けてシナリオは2×2+1(トゥルーシナリオ)=5で構成されるほか、バッドエンドもあります。各シナリオごとにそれぞれ独立/完結した展開になってはいますが、例えばつぐみシナリオを単独で見て「これで終わりだ」と思う人はまずいないでしょう。どのシナリオも「これだけじゃない、まだ先があるはずだ」とプレイ意欲を継続させるエンディングで締めています。
トゥルーシナリオで、それまでの伏線が一気に回収される形態となっています。このため、いったん最後までプレイしただけでは、「……えっと、そんな伏線あったっけ?」という状態になることさえありました。まとめそのものが急というわけではなく、むしろかなり丁寧に収めているのですが、それでも用いられているネタの量が半端でないため、一回のプレイで全貌を的確に把握するのはかなりキツいでしょう(私の能力では無理でした)。
各ストーリーの作り方、そしてプレイヤーに対して興味を持たせながら話を引っ張っていく手法は非常にすぐれたものになっています。
まず、登場人物の使い方は、ほかに例を見ないものになっています。武をのぞいて大半のキャラが“何かを抱えた状態で(=何らかの形で窮状に関わって)いる”ことがミエミエなのですが、それがかえってブラフとなり、だれがどのような鍵を握っているのかをなかなか把握させない点は大したものです。一方、悪役(あるいは、根本的な要因となった背景)はある程度想像ができるのですが、それがプレイ中の“現状”とどのようにリンクしているのかをなかなかつかませないため、プレイヤーの理解が追いつくのにけっこう時間がかかり、話が進むまでなかなか先を読めません。
そして何より、キャラクターの位置づけを最後まで読み取らせない方法は、実にみごとというほかありません。主人公は自分の顔が見えない(見せない?)という(ゲーム独自の)ルールを逆手に取ることで“主人公”をカモフラージュしています。また複数主人公というシステムを取ることによって、単純に視野の拡大に直結するとプレイヤーに思わせながら、実際には別の効果を持ちだしているため、まんまと一杯食った、と思ったものです。これは第三視点というキーワードに帰着することにもなるわけですが(主人公が“2人”というのは“デュアル”を指すのではなく“3マイナス1”を指すのでしょう)。
また個別のイベントの作り方も、秀逸です。
ゲーム中ではデフォルトで認められているものの、実際にはそんなことはありえない、いわばトンデモ理論とでもいうべきものはこのゲームの中でも出てきます。そして、話を最終的に結末へと導く流れにおいても、このトンデモ理論が直接用いられますが、それがあたかも“実際にあり得る理論ないし仮説であるかのように錯覚させる”ことはありませんし、また“シナリオライターがその見解の検証をプレイヤーに求める”こともありません。さらに、それぞれのネタがいろいろと幅広く用いられており、しかし蘊蓄語りのオンパレードに走らずにバランスよく流れていくさまは、非常に心地よいものでした。
ただし、このゲームシナリオを手放しでほめられることは難しそうです。
その最も大きな点は、ストーリーを継続させるためのポイントの強引さにあります。例えば、トゥルーエンドにおける武などご都合主義的な観が拭えず、このために最後の大団円も“用意されたハッピーエンド”という感じがつきまといます。特に、ストーリーの作成にプレイヤーの意思を介在させている(としか私には見えませんでした)ため、この無理が非常に大きいものになっています。(ゲーム中のキャラクターによって)人為的/計画的に作られた“結果”が、実際には確率的に極めて発生しにくいものに依拠しているため、最後の最後で大いに白ける可能性も高いでしょう。
ドラマ性という面で見ても、やや物足りないと思えるところがあります。各登場人物の焦燥感などの描写がどうにも薄いほか、(これはトゥルーエンドとのバランスの結果なのですが)武−つぐみ以外では「恋愛アドベンチャー」(KIDのジャンルによる)たり得ていません。武−空も、時間制限のある中での恋愛譚としては弱いですし、残りの組み合わせは論外というよりお門違いでしょう。
また、繰り返しプレイの際に感じたことですが、イントロでのツカミの弱さ、そして中盤の単調さがやや気にかかりました。類似のシチュエーションを並べていかなくてはならないというストーリーの配置は仕方ないのですが、緊張感よりも倦怠感が先にきそうな“閉ざされた日常”に、ツクリモノとしての空々しさを感じてしまいました。閉じこめられた直後に水と酸素の供給に対する懸念がないとか、小刻みに振動がくるのに鬼ごっこしたりとか、「なんでやねん」と思ったことは一回や二回ではなかったことも事実です。
このほか、序盤から中盤で科学的(に見えるかもしれない)な説明を多用しながら、要所要所では超科学的(あえて「非科学的」とはいいません)な展開で済ませている点も、やはり気になります。ただし、無理な流れになっていることは百も承知、それを知ってのうえでの力業ということがハッキリ読みとれ、プレイヤーに対して“理解度テスト”を課しているわけではないため、これは許容範囲でしょうか。ただし次元の把握のしかた、根本的に何か違うと思うのですが…。この点を考慮すると、SFものとしてみると途端に評価が下落すると考えておく方が無難です。
私の環境では、ロードしようとすると強制終了することがあるほか、OS(WindowsXP SP1)を巻き込んで落ちることさえありました。また、メッセージスキップの既読/未読の判定が甘いほか、CGモードへの登録もうまくいかないことが多々あります。2003年5月29日現在、修正ファイルは公開されていません。
デモムービーと体験版(オンライン限定)が提供されています。デモムービーは本製品のオープニングと同じで、水の使い方がなかなかよいと思う一方、どこに魅力があるのかがどうにもつかみにくい感じがありました。
対応OSは、Windows98/Me/2000/XPです。CD-ROM4枚組となっており、いずれもピクチャーレーベル仕様ですが、なぜかデザインはすべて同じです。フルインストール時に必要なHDD容量は約2.36GBで、プレイ時にはCD-ROMは必要ありません。
画面はグラフィックが800×600全画面表示で、ウィンドウ表示とフルスクリーン表示とを切り替えられます。下部にメッセージウィンドウが表示され、透明度や色を変えることが可能です。メッセージスキップ(既読/未読の区別あり)と文字速度調整、テキスト読み返し機能などが装備されています。また、メッセージ表示と音声との同期/非同期を設定することもできます。
ゲームを起動すると「起動メニュー」が表示され、DirectSoundの使用/非使用(非使用時はSE/BGMが鳴らない)、起動画面モード切り替え、MMXコード使用/非使用、CPUパワーに応じたエフェクト設定を変更できます。CPUは「High」(クロック周波数1.2GHz以上)/「Middle」(同800MHz以上)/「Low」(同400MHz以上)から切り替えます(私は「Middle」にてプレイ)。
セーブ&ロードは、任意の個所で3個所までクイックセーブ&クイックロードが可能です(ゲーム中のイベント名が表示されます)。これとは別に、キーボードのみで可能なセーブ&ロードが65個所まで可能で、ゲーム中の日付とセーブ時の実日時のほか、それまでに登場したキャラクターのスタンプを記録でき、またゲーム中のイベント名も自動的に記録されます。さらに、各選択肢ごとにオートセーブ&オートロードが行われるため、選択肢を変えてリトライすることも容易です。このため、リプレイを繰り返してもとまどうことはまずないでしょう。
トップメニューからは「Special」に入ることができ、「Shortcut」(既読の任意のイベントからリプレイ可能)、「Jukebox」(BGMモード。曲名選択方式)、「Album & Wall Paper」(登場人物別のCGモード。サムネイル表示)、「Screen Saver」、「System Voice」の各モードに入れます。KIDのゲームに多く見られるおまけシナリオの類はないようです。
これらの操作の大半は、キーボードとマウスの双方で可能です。実際のプレイ時にはほとんどストレスを感じることはなく、またリプレイがまったく苦にならない仕様となっています。
サウンド担当は「阿保剛」氏で、PCM再生されます。BGMのバリエーションは割と多いのですが、プレイ中にはほとんど耳に残らないだけでなく、音が鳴っていること自体、気にしないでプレイすることになりました。閉ざされた空間における緊迫感を盛り上げるという点では、かなり物足りないものと感じます。
音声は、主人公以外フルボイスです。キャラごとに演技のレベルに幅があるように思えました。
キャラクターデザイン担当は「滝川悠」氏。目がずいぶん大きいのですが、万人向きの絵でしょうか。
背景画像は非常にきれいで、これまでの同社の作品の中では出色の出来でしょう。ただし色合いが全体的にやや妙だと思えるものが多かったのが残念。また、壁紙用のおまけCGなどが充実しています。
また、3Dのアニメーションが非常によくできています。水が吹き込んでくるシーンなど、何度見てもいいのですが、その後のシーン描写がそれに追いついていないのがなんとも…。防水扉くらい入れてほしかったのですが。
お気に入りキャラを1人あげるなら、武が動かせないでしょう。堂々とした姿勢を貫けるキャラクターを1人、光る形で配しているのも、実は計算のうちなのでしょうが、しかし別の視点から武を見た場合に抱く違和感そのものが伏線になっているとは思いませんでしたよ。
ヒロインキャラでいえば、つぐみですね。彼女のほうからほかのキャラへのアプローチが非常に弱いのが残念ですが、いわば“無邪気な生賛歌”に対して堂々と異議申し立てをできるという点で、希有なキャラですし。
ただし、プレイ中にある特定のキャラに対して萌え転がるのは、このゲームにおいてはかなり危険だと思います。詳細は書けませんが…。
ゲーム中における各登場人物の使い方、視点の差異(差延?(^^;)による幻視をはじめ、実に多種多様な装置を用いてプレイヤーのミスリードを誘いつつ、最後はキッチリとまとめているさまは、見事の一言につきます。ノベルタイプのゲームという形式そのものを存分に活用した大作といえます。
ただし、傑作と呼ぶにはかなりの強引さがあるだけでなく、方法としてのレトリックに支えられている構造がまことに脆弱であることも指摘せざるを得ません。
また、プレイ直後に満足感を得られたものの、それは達成感というものではなく、見事な仕掛けにしてやられたという爽快感がまず先にあります。むしろ、後味の悪さがどうしても残り、「この“ハッピーエンド”そのものが単なる可能性の1つ以上にはなり得ないのではないか」とか「時間軸を人為的に遡及させることに対する倫理的決着がいっさい無視されている」とかいった問題点は看過できません。このせいでしょう、私はエンディング(つぐみ除く)を見てもそれを素直に受け止めることができず、まして感動を覚えるなどということはありませんでした。ゲーム中の矛盾というのは見て見ぬふりができますが、無理なエンディングでは、事後の感触が“そこそこ”程度のものになってしまいます。これではもったいない。
シナリオを読み込んでいくタイプのゲームに興味をお持ちのかたであれば、プレイされて腹を立てることはないでしょう。前述のとおり、レトリックに依存する面が非常に強いゲームであるため、誰にとっても認められる名作とはいかないでしょうが、“読む”ことを“楽しむ”ことができる貴重な作品であることはまちがいありません。欠点が非常に多いのも確かなのですが。
なお、プレイされる際には、つぐみ→空→優or沙羅→トゥルーシナリオ、という展開がよいかと思います。このゲームでエンディングの順がプレイヤーの選択で決められるというのは、やや疑問があるのですけれど。