虚構の環:第1部・再処理撤退阻む壁/1(その1) 青森・六ケ所村、「再処理堅持」の意見書
毎日新聞 2013年02月02日 東京朝刊
◆虚構の環(サイクル)
◇原燃社長、突然役場に 「ひな型」提示、4時間半後に可決
民主党政権の原子力政策策定が大詰めを迎えていた昨年9月6日午後8時ごろ、青森県六ケ所村の自宅でくつろぐ橋本猛一(たけいち)村議会議長の携帯電話が鳴った。ディスプレーに表示された名前は「川井吉彦」。日本原燃の社長だった。川井氏が専務時代からの付き合いだが09年8月に社長に就任してからは初めての電話だ。議長によると、川井社長は「近く閣議決定される」と事態が切迫していることを伝えた。
この日、民主党のエネルギー・環境調査会が「30年代に原発ゼロを目指す」「核燃サイクルを一から見直す」とする政府への提言を決めた。核燃サイクルは、原発の使用済み核燃料を再処理し、ウランとプルトニウムを再利用する事業。見直しは六ケ所村で再処理工場を経営する日本原燃の業績や村の財政、雇用を左右する。橋本議長は川井社長からの電話を切り、この問題に詳しい橋本勲、三角(みかど)武男両村議に相談。国に意見書を出すため翌朝、早めに登庁することを決めた。
7日午前9時前、議長が役場の「正副議長室」に入ると、両議員だけでなく、面会を約束した覚えのない川井社長ら日本原燃幹部3人がソファに座っていた。川井社長らは文書を示し、再処理から撤退した場合(1)村内への使用済み核燃料受け入れ(2)過去に再処理を委託した英仏から返還される放射性廃棄物の搬入−−など3項目について、継続が困難になると説明した。
意見書のたたき台とも言える内容だが、公文書の原案を民間企業が作成するのは異常だ。橋本議長が「証拠が残るから文書を持ち帰ってほしい。後は我々で相談して決める。他の議員や記者たちに見られるとまずいから早く退席してください」と言うと3人は従った。
議会は同日午前10時に開会し、意見書は午後1時半、全会一致で可決された。「再処理路線の堅持を求める」と題した意見書には8項目が並び、その中には、日本原燃の主張する3項目が含まれていた。
日本原燃は「社長が誰に電話したのか相手のあることなので回答を控える。ただ意見書を出すよう依頼していない」と回答した。橋本議長も「意見書は我々が独自に作った原案を基にした。日本原燃の文書は参考にしていない」と説明する。しかし電話がきっかけで議会が動き出した事実は動かない。
電話から意見書可決まで17時間半の早業だった。