Tacticsからリリースされた『ONE 〜輝く季節へ〜』の主軸スタッフが異動し、新ブランド「Key」から送り出したデビュー作品です。
初回限定版には、オリジナルサウンドトラックの入った音楽CDが同梱されています。
Tacticsからリリースされた『ONE 〜輝く季節へ〜』の主軸スタッフが異動し、新ブランド「Key」から送り出したデビュー作品です。
初回限定版には、オリジナルサウンドトラックの入った音楽CDが同梱されています。
年明けの真冬、主人公・相沢祐一(姓名変更可能)は、海外に移住する両親と離れ、北国の親戚宅へ転居する。久々に再会したいとこの少女、そして、自ら閉ざした過去の記憶。
慣れない雪国での学校生活の過程で、新しい冬物語が生まれていく。
シナリオの内容を、詳細に書くことはできません。マルチシナリオという体裁を取っていますが、各シナリオ間の整合性が取れているわけではなく(矛盾しているためにトータルバランスが崩れているというのではなく、有機的に関連づけされてはいないということです)、また、それらに共通する世界観が確として存在しているわけでもないので、全体を俯瞰して語ることは不可能なのです。
ただ、大ざっぱにいえば、多くのシナリオにおいて、主人公の「過去」が関係している、ぐらいのことはいってもいいでしょう(これとて、当てはまらないシナリオもあるんだけど…)。
前半は日常生活パート、後半、シナリオの分岐が決定してからはシリアスパート、といってよいかと思いますが、後半のシリアスパートでは、演出効果、あるいは思わせぶりなテキスト使いが多用された結果、逆に、そこにこめられているメッセージを受け取ることが困難になっていたように感じます。『ONE』の場合も「わけわからん」という声がありましたが、『Kanon』では、「何がわけわからんのかもわからん」まま、強引にエンディングへと引っ張られていくような印象です。
日常生活パートでのやりとりは、『ONE』よりもさらに洗練され、腹を抱えて大笑いさせてもらいました。ギャグの展開は、年齢不問、日本語さえ通じればオッケーという内容ですから、「汎用的に笑えるゲーム」としては筆頭格にあるといってもいいでしょう。「くー」「あうーっ」「うぐぅ」「あははーっ」「そんなこと言う人、嫌いです」「了承」…といった名ぜりふ群は、昨年の「嫌です」をしのぐ流行語と化した観さえあります。
さらに、テンポも良く、日常パートでメッセージスキップをしたことは、いまだに、数えるほどしかありません。
マルチシナリオ・マルチエンド型のアドベンチャーゲーム。あらかじめターゲットを絞っていけば、詰まることはほとんどありません。『ONE』に見られた理不尽な選択肢は陰を潜め、実に気楽にプレイすることができます。
ただ、「マルチシナリオ」の体裁をとりながらも、実のところ、その「マルチ」ゆえの利点をほとんどいかしきれていない、という気がします。すなわち、段階的にシナリオが展開されていく、というわけでもなく、横の繋がりを期待させていく、というわけでもなく、中核となるスポットへの光の当て方がしだいしだいに違っていく楽しみを味わえる、というわけでもなく、ただ、「各ヒロインごとに別個のシナリオを用意した」ように見えるのです。
シナリオをどうしてこのように組んだのか、そして、ゲーム全体として伝えることのできるものはいったい何か。これが、さっぱりわからないのです。
端的に言えば、「なにが言いたいのかわからん」。
テーマ性が欠如しているというわけではなく、個々のシナリオを見れば、それなりの「何か」を感じることは、確かに可能です。しかし、デジタルメディアであるゆえに実現可能であるマルチシナリオの利点が、どうにもいかされていないように見えるのです。
インストール先は任意に変更できます。
ユーザーインタフェースは、いわゆる「ビジュアルアーツ標準仕様」と呼ばれるとおり、左クリックで進め、右クリックでメニューを呼び出す、というスタイルです。オーソドックスとも言えますが、コマンド選択だけで進むゲームである以上、キーボード使用不可能というのは非常に辛いものがあります。しかも、このゲームは、1プレイに相当の時間を要する(私の場合、5時間45分かかりました)ので、なおさらです。幸い、MCA工房さんから、「KanonPLUS」という、キーボード使用可能とするユーティリティが発表されたので、ありがたく使用させていただきましたが。セーブ&ロードなど、そのほかの操作性については、特に問題ありません。
CGモードは、サムネイル表示されますが、サムネイル1画面に2枚以上のCGバリエーションがあるため、全部埋まってもCG達成率は100%とならないことがあります。このCGモードとサウンドモードは、いずれも、1回クリアしてから入ることができます。
BGMはCD-DAで演奏され、『雫』や『MOON.』の曲を多く担当された、折戸伸治さんがメインに作曲されています。相も変わらず、雰囲気をうまく作り出す曲ですね。「雰囲気にあった曲」というより、やっぱり「作り出す」曲でしょう。また、ヴォーカル曲も、オープニング・エンディングに使われていますが、エンディングの「風が辿り着く場所」は、みごとスタッフロールの終わりでピシッと合っているのが、実に気持ちいいですね。
好きな曲は? と訊かれても、答えようがありません(^^;)
ちなみに、サントラCDの方では、やはり「風が辿り着く場所」でしょう。個人的に、ゲーム内のボーカル曲を集めたMDやCD-Rを聴くことが多いのですが、あまたあるゲームヴォーカル曲の中でも、この曲は堂々の第2位です(第一位は、『Melody』所収の「あしたへ…」)(注:レビュー執筆当時)。
樋上いたるさんの原画です。幼めの顔立ちで、秋子さんなど20代にしか見えないのですけれど(^^;)
立ちCGでは上半身だけのアップで、「うおっ」というのが第一印象。さらに、ころころと変わる表情がテンポよく雰囲気を作り出してくれるので、「やっぱりこのゲームにはこの絵でないと」と思うようになってしまう、そんな不思議な魅力を出していますね。
あと、『ONE』に比べて、背景CGが非常にきれいになっています。
倉田佐祐理さん。にこやかな笑顔の裏にある陰。前作『ONE』の主人公、折原浩平を、女性として描いた場合、このようになるのでないか、と思えます。
ここでも、またNIFTY SERVEの特設会議室でも、実に辛辣なことばかり書いてきましたが、『Kanon』を送り出した方々は、人をうならせるだけの実力のあるクリエイターであると確信していますから、決して無茶なことを書いたつもりはありません。
ぶっとんでいるキャラクターを大量に出しながらも嫌みをみじんも感じさせないスマートさは、ほかのゲームで味わえる可能性はかなり低いといってよいでしょう。
それだけに、「感動するゲーム」という評価に安らえることなく、「心に残るゲーム」に向けて邁進してほしいのです。「心に届くゲーム」なら、作れるのですから。