人気作品の続編が出るというのは珍しいことでもなんでもありませんが、オリジナル作品にかかわったスタッフが誰ひとりとしていない上に、核となる具体的なキラーキャラクターがいるわけでもないという作品の続編となると、これまで経験したことは一度もありません。
『ONE』(Tactics)は発売当初大反響を呼び、その独特の雰囲気に対しては賛否両論ともにさまざまな意見が出たものです。『ONE2』は、そのコンセプトをかなりの程度継承して作られた作品とはいえ、リリースそのものがメーカーサイドによる話題作りという面は否定できません。おまけに、『ONE2』作成に携わっていたスタッフも途中で入れ替わるという事態も相まって、どんな作品になるのか、非常に変わった形で注目を浴びたゲームになっておりました。
個人的に『ONE』に対して大きな思い入れがあったために複雑な気分でしたが、一方、『ONE』という名前の呪縛に押しつぶされない作品になってほしい、という思いもありました。もちろん、作品名といえども、それは単に「世界観に共通点があるに過ぎない」と割り切れればいいのですが、前作がそれ以降のゲーム市場の方向を動かすだけのものだった(あえて具体的な根拠を持ち出すまでもないでしょう)ことを思えば、すんなり「別の作品」と思うこともできませんでした。こういう形での「期待半分、不安半分」というのは初めてだっただけに、どうなるかは発売日翌日に購入するまでまったく見当がつきませんでした。
以下、「前作」とは、『ONE』のことを指します。
主人公・貴島和宏(変更不可)は、生活能力皆無でワーカホリックの父親の元に引っ越してきた。彼は転校先で、何人かの級友とすぐに仲良くなり、楽しい学園生活を始める。その過程で友達づきあいを始めるうちに、不思議な経験をすることになる。好きになった相手が、自分の前から消えていくことを…。
シナリオ担当は、青山拓也氏。ネクストンの別ブランド「PL+US」の『蒼刻ノ夜想曲』『想い出の彼方』『トリコロール』各作品を担当された方です。
前作では主人公が抱えていた問題を、本作ではヒロインが抱えるというスタイルを取っています。ヒロインがそれぞれ抱えている悩みは多種多様ですが、共通点として「トラウマのために現在臆病になっている」ことがあります。
主人公は転校生としてやってくる存在なので、「それまでの関係」にとらわれていません。いうなれば、最初は「傍観者」としてスタートするわけです。すると、主人公とヒロインとの関係が「どのように」作られていくかが重要なのですが、主人公がヒロインに対して興味を抱いていく過程は、遙をのぞいておおむねきちんと描けています。
また人間関係をめぐる心理描写がきちんと描けています。特に、主人公・及川・奈穂については、そのデリケートなさまは一歩間違えれば陳腐な型どおりのテキストの羅列になりかねないだけに、非常にうまく出されています。そしてまた、人間関係の描写の巧みさが、そのまま「主人公がヒロインに惹かれる」ことへナチュラルにつながっています。この点は特筆できるでしょう。
もっとも、エンディングでの展開や幕の引き方については、説明をあえて省略しているのではなく、むしろ粗雑さをうかがえるものがあった点は指摘しておくべきでしょう(具体的には奈穂シナリオ。前作をプレイしていなければ、あのエンディングでの展開は、理解不能どころか受容不能にさえなりかねません)。もちろん、前作でも十分唐突さはあったわけですが、前作は難易度がかなり高く初めの数回はバッドエンドの繰り返しになることは確実で、それゆえに「不可解/理不尽」がプレイヤーにインプリントされたおかげで、この点は気にならずに済んでいました(積極的に評価できることではなく結果オーライ的副産物でしょうが)。展開が実直だっただけに、詰めの甘さは残念です。
あるキャラクターのルートに入ると、前作『ONE』で取り上げられた「永遠の世界」に関する記述が明示的に出てきます。そこでは「永遠の世界」自体は基本的にブラックボックス化され(これは正当でしょう)、それに対応する形で「現実世界」が措定されています。しかし、このパターンを用いている例は多くはなく、実際にはそれぞれエンディングで示されるパターンはみな違っています。
ネタバレなしで書くのはなかなか難しいのですが、ヒロインのたどった、ないしは選択した「結果」については、各シナリオごとに、「失う」(うーん、微妙な表現ですね)ことの根拠をそれぞれ変えています。これによって、全体的なスケールの大きさ、あるいは繰り返しによる悲劇性のすり込みといったことは見られませんが、むしろ「失う」ことがワンパターンになるのを防ぎ、世界観が多彩であることを示しているように感じられます。この手法は前作とはまったく異なるものですが、どちらが良いというものではなく、作者の判断によるものでしょう。
また、叙述がなかなか巧みで、過程がどうなるかについての予想はなかなか立ちませんでした。脇役が活躍するシナリオではその人物の行動が大きな鍵となり、そうでないシナリオではヒロイン自身の発言や行動の動機がなかなか読めないため、先の展開が見えて鼻につくことがありません。もっとも、結果それ自体はある程度想像がつくのですが、このために高揚感のようなものは感じられませんでした。もっとも、安心して読み進められるという面もあげられるでしょうが。
トータルで見れば、各シナリオごとに「各ヒロインごとの、自己存在に対する不安」が示されているといえるでしょう。詳細は控えますが、おおむね、『ONE』の中で示されていた問題(必ずしも「主題」ではありません)を独自に解釈し、その解釈をもとに話を締めています。このため、前作をプレイした人にとっては「そういう見方もあるか」と思うこともある作りになっています。
このため、「続編」としてリリースされることの必然性をきちんと説明できるものに仕上がっています。
テキストは、漢字がかなり多用されていますが、独特のメッセージ表示方式も相まって、まずまず読みやすいものになっています。
ただし、声なしのゲームの割には、会話文の表示の方法に芸がありません。同一人物が2回以上話すことがあるかと思えば、同性の人間が会話をする(かつ、口調に大きな違いがない)こともあって、誰が何を話しているのかがわかりにくいシーンがいくつかありました。会話内容の把握は重要な要素であるだけに、工夫がほしかったものです。
日常生活の楽しさは、悪友とのじゃれあいなどを通じて描かれていますが、見ていて「笑える」というよりは「ほほえましい」とでもいうべきものです。実際の高校生活を彷彿とさせるようなばかばかしいやり取りは、それ自体を笑いのタネにするのではなく、彼らのいる「世界の楽しさ」を演出するものになっています。いうなれば、存在を劇画化することなく、関係にユーモアを付しているものといえましょう。特殊な食べ物を引き合いに出すといったことでキャラクターの滑稽さを際立たせることはしておらず、自然体が徹底しています。落ち着いている反面、派手さにかけるのは否めませんが、むしろ穏やかな流れが雰囲気をうまく出しています。
キャラクターの配置は、おっとりタイプ・他人拒絶タイプの同級生、元気な後輩、やさしい女教師、ひたすら慕ってくる下級生と、ひととおりツボどころをそろえている、といってよいのでしょうか。ただし、結果論ですが、「大人」であるはずの女教師が攻略対象になるのは、「永遠の世界」が子どものみならずモラトリアム真っ最中の「大きいコドモ」にまで広げられるということを意味するわけで、ゲーム全体をまとめていた雰囲気を損なってしまった観があります。某隠しキャラの方が生き生きして見えるのは、この「無理」のせいもあるような気がしてなりません。
序盤で各キャラクターごとの5つのルートに分かれ、それぞれのルートの中ではほぼ一本道に近い形で進むアドベンチャーゲームです。攻略対象キャラクターはマニュアル記載の5人で、これ以外に隠しキャラとのエンディングがあります。もっとも、前作の隠しキャラとは違って、意味深長な存在(笑)にはなっていませんし、むしろキャラが立ってしまっているにもかかわらずスッキリしないエンディングであるため、どうにも落ち着きません。ストーリーの展開を考えれば、攻略可能にしてしまうのは確かにまずいでしょうが。
序盤のいくつかの選択肢ですぐに分岐しますが、見分け方は非常に簡単で、条件を満たしたキャラから優先順位に沿ってルートにはいるようです(心音だけが少し見分けにくいか)。後半の選択も基本的には簡単ですが、遙のみはやや毛色が異なり、選択によってはCGの見落としなどが起こりえます。難易度はかなり低い方でしょう。
私がプレイした環境では、途中でロードするとBGM(CD-DA)が再生されず、無理に進めるとエラーが起きて落ちるという不具合が起こっています。この現象は、5月7日現在の修正ファイルを用いてもこの現象は変わっていません。なお、不具合が発生していたのはCD-ROM(ゲームのインストールおよび起動を行う。Qドライブ)のほかにCD-RWドライブ(Rドライブ)を接続していたときで、このCD-RWドライブを外すと解決しました。
デモがTacticsのWebサイトで公開されています。各キャラクターの表情のほか、各人が抱えている「何か」をうかがわせるスタイルのものになっています。明朝体のテキストが多用されている点も、ゲーム本編のテキストの渋さと合っており、雰囲気を比較的しっかりと伝えるものになっています。
体験版については確認していません。
対応OSは、Windows95/98/Me/2000/XPです。
CD-ROM2枚組で、初回限定版には別途サントラCDがついてきます。パッケージには「ピクチャーレーベル仕様」とありますが、黒く塗られた文字だけの盤面は、私には「ピクチャーレーベル」には見えないのですけれど。必要なHDD容量は、約400MBです。起動にはCD-ROMが必須です。
画面はグラフィックが640×480全画面表示で、下部にテキストが最大7行、半透明の背景(メッセージウィンドウ枠なし)つきで表示されます。メニューバーの表示はごく限られており、操作は基本的に右クリックメニューから行うことになります。右クリックメニューから、保存・読込、画面表示サイズ切り替え(全画面/ウィンドウ)、文章表示速度調整(4段階+瞬間表示)、効果音音量、BGM再生の有無、次の選択肢までスキップ(未読・既読の区別なし)、メッセージ読み返し、メッセージ消去を選択できます。基本的にキーボード操作も可能です。ただし、メッセージスキップで未読・既読の区別はほしかったところです。
セーブ&ロードは、任意の場所で30個所まで可能です。プレイ実日時が記録されます。
ゲームを一度クリアすると、「瞼裏の光景」(CGモード)「追憶回想」(Hシーンおよびオープニング回想モード)「優囁旋律」(BGMモード)がそれぞれ選択可能になります。CGモードは各キャラクターごとにサムネイル表示されますが、サムネイル生成の位置が中途半端なので、はたして全CGを見られたかどうかわかりにくいのは残念。
BGMモードでは、各曲名をクリックすることで選択する方式になっています。
BGMはCD-DAで再生されます。「雨」や「雪のように白く」など、『ONE』のBGMをアレンジして再利用しているものがあり、またこれの流れている時間がけっこう長いので、プレイ中にしばしば何をプレイしているのかわからなくなることがありました。シーンに合った、まずまずの曲が多かったと思います。
主題歌「夢幻譜」(作詞:Baseson、作曲:下地和彦、編曲:ようづきわたる、唄:YUKI各氏)がありますが、これがエンディングで使われないのは不思議なところ。確かに前作には主題歌はありませんでしたが、2001年のPL+USの作品にはエンディングのテーマ曲にもヴォーカル曲が使われていただけに、意外でした。
音声はありません。今どき珍しいとも言えますが、シリアスなシーンになってからの音声がどこまで効果を発揮するかは確かに疑問ですし、これはこれで良いと思います。
原画担当は「片桐雛太」「日陰影次」両氏。目と髪の毛にかなりクセが感じられますが、それよりも、女の子の冬服がやたらとヒラヒラしているのが特徴でしょう。夕焼け空が背景になることも多いこの作品には落ち着いた服装の方が似合っていると思うのですけれど、これは個人的な考えということで。ただし、遙先生のムネ、不自然(^^;
キャラクターの表情変化はそこそこ豊富ですが、全身を使ってそのシチュエーションを表現するというよりは、それぞれのキャラクターがどういったことを思っているか、あるいは言おうとしているかを語っているといってよいでしょう。
お気に入りキャラクターといえば、冗談も何もかもぬきで、及川ですね。主人公に対する態度において、一番スッキリとスジが通っているのは、やはり彼でしょうから。女性陣では、某隠しキャラかな。ボキャブラリー不足で先に手が出るというのは、このゲームではやや浮いている観がなきにしもあらずですが、それもまたよし。
シーンでいえば、綾芽がムキになっているシーンですね。こういうキャラは照れたときが一番かわいいと相場が決まっていますが、やはり例に漏れません(^^)
前作の設定をいろいろと使ってはいますが、単純な前作の「踏襲」ではなく、再解釈の帰結を提示しています。一方で、やはり単純に前作の「模範解答」「公式解釈」を示しているわけではなく、角度をシナリオごとに微妙に変えて、そこに穏やかなストーリーを盛り込み、完成度の高い作品になっています。
描写は論理的ですが、ストーリー自体は叙情的な流れにこそ、この作品の魅力があると感じます。「物語」を提示するのではなく、綴ること自体を「物語」としているといいましょうか。超常的なものを導入しているとはいえ、「奇跡」の効果を使うのではなく、むしろそこに至る展開そのものを静かに出しています。
すでに古典と化した観さえある前作の続編として、何ら恥じることのない出来に仕上がっていることは確かです。しかし、その「続編」であるという桎梏ゆえの縛りのために、かなり無理を残してしまった点もまた確かでしょう。「続編」としては非常によい作品になっていますが、やはり前作の「大きさ」を再認識せざるを得ませんでした。
一方、『ONE』を知らない人が楽しめるかというと、正直なところ何ともいえません。少なくとも前作を知っている人間がプレイするのと、そうでない人がプレイするのとでは、受け止め方にかなりの差が生じることは間違いないでしょう。少なくとも、問答無用の破壊力をもって涙腺が刺激されるというタイプのものではありません。
この次には、制約のないオリジナル作品で、新しい「楽しさ」に期待します。