10年一昔、といいますが、古いゲームを年月をへた後に評価するのは、なかなか難しいものです。グラフィックはもちろんのこと、アナログ的に目に見えるところだけをとってみても、現在そのまま市販のパッケージとして平均的な価格(定価8800円前後)をつけたりしたら「許せん」となるでしょうが、しかし現在でもソフトウェアを楽しめることができる場合もあるわけで、そういう場合には「時代を超えるもの」をもつ作品である、と言えるのかも知れません。
バラエティパッケージ『アリスの館4・5・6』に入っている旧作群のうち、この『闘神都市』は、まさにそんな作品なのではないかと感じたしだいです。
なお、私が最初に『闘神都市』をプレイした時点では『闘神都市2』はプレイしていませんでしたが、このレビューを書いたのは『闘神都市2』をプレイした後です。
主人公・カスタム(変更不可)は、グリーンハニーに襲われていた少女・クミコを助けた。彼女は、年1回開催されるトーナメント方式の武闘大会「闘神大会」に参加したまま行方知れずになっている父を捜しに、闘神都市へ行くところだった。優勝者には、将軍としての称号と名誉が与えられ、一生豪勢に暮らすことができるのだが、参加するためには美人のパートナーが必要であり、各試合の勝利者は、相手のパートナーを一晩自由にできるというものであった。そんな闘神大会に、自分をパートナーとして申し込んでほしい、というクミコの頼みを聞き入れたカスタムは、闘神都市へと乗り込んでいくのであった。一介の田舎剣士であった彼は、勝ち進んでいくにつれ、さまざまな事件を目にすることとなる。クミコの父親はどこにいるのか。そしてまた「闘神大会」の裏に潜むからくりの仕組みはいったいなにか。
ストーリーは、王道そのものといってよいのかどうか。「強い者が美酒を味わえる」という、ゲーム世界での「論理」が素直に貫かれ、かつ「強い者」が権力者ヅラして横暴な振る舞いをするわけでもありません。いい人も多い一方でイヤな奴もあり、また息絶える者も出てきます。
設定として「闘神都市」というものを設けたのは、やはり「Hシーンをどう入れるか」といった面もあったのでしょうが、そこでのHシーンは基本的にあっけらかんとしており、いざやることをやる段になって、プレイヤーが「判断」を迫られることはほとんどありません。Hシーンの多くは強制ですが(一部は回避可能)後味の悪い結果になることがないので、心理的にプレッシャーを受けることもないでしょう。
また、用意されているイベントも、「どうしてそうなる?」と思考を停止させるようなものはありません。しかし、イベントの出し方、そして伏線の消化が非常にスムーズに行われているため、飽きやダレを覚えることがありませんでした。エンディングも「ある程度予想可能な範囲内」のものであったとはいえ、「そういうエンディングに到達するための途中経過をただいま処理中」といったことを意識させることはありません。
「ハニー」に代表されるアリスソフト名物の迷モンスターたちは、このころからすでに健在だったようで、さまざまな連中が顔を出してくれます。
ただ、苦言を呈したい点は、テキストが稚拙であることでしょう。この点ばかりは、ゲーム(技術)の新旧とは無関係であるはずなのですが、テンの打ち方がお粗末だったりして、いいところで読みにくい文が出てきてゲンナリすることがありました。たとえば
そして、闘神の命により売られていた女の子達は、全て開放された。
誤変換(「開放」でなく「解放」)はさておき、これでは「闘神の命により」行われていたことが「売られていた」ことなのか「開放された」ことなのかがわかりません。前後の文脈でわかるだろ、というのが一般的なのでしょうが、このテキストの場合、前後を見てもわかりませんでした。もっとも、意味を確定できなくとも一向にかまわない(「闘神の命により」を削除するだけで意味は明確になります)のですが、これは白けの原因となりますね。
迷宮での戦闘を行うことでレベルアップし、またイベントをクリアすることで、試合に勝ち進んでいくシステムになっています。まずは闘神大会で優勝して「将軍」になることが当面の目標となります。試合に勝つためにはイベントをクリアしなくてはいけない場合が多いので、ダンジョンを右往左往しているうちに自然にレベルアップしていきます。
ダンジョンはオートマッピングされ、画面の右側に表示されますが、別の階に移動したりダンジョン外に出たりすると、このマップはクリアされます。ダンジョンの構造自体は変化しないので、何度も出入りしているうちに覚えることは可能ですが、最初はやや鬱陶しかったものです。
また、モンスターとの遭遇率が非常に高く、一歩ごとにザコを相手にしなくてはいけないケースも多々あります。ひたすら「先に進みたい」という場合にはかなりうざったいのですが、これのおかげで、経験値稼ぎの「作業感」をある程度抑えることができた、とも思います。大半の敵からは逃げることも可能ですが、一部の敵からは逃げられません。特に、序盤で「やぎさん」にちょっかいを出して何度も殺されました(^^; また、レベルの低いあいだはボロボロになることも多いのですが、レベルの低いモンスターを相手にしていればほぼ無傷で過ごすこともできるので、レベルと到達度とのつながりを実感できます。このバランスは非常にうまく取れています。
モンスターは、残り体力を1にして「捕獲」し、キャラ屋に売ることができますが、大した金額ではなく(そもそもこのゲームではあまりお金の利用価値がありません)、また買い戻して利用することもできず、せいぜい捕獲時のCGが見られるだけで、メリットは皆無です。「悪事」パラメータによってレベルアップに必要な経験値が増えるだけです。もっとも「悪事」パラメータは、その後の展開やエンディングには何の関係もありませんが。
ただ、ラストの逃走パートは非常に難しく、私は数十回殺されました。これのおかげで、アリスソフトのゲーム中一番憎たらしいモンスターが「エンジェルナイト」になっています(^^; また、ボスキャラ本体もかなり強いので、終盤が楽に進んでいるからといって先へ先へと急ぐと、最後で泣く可能性もあります。終盤になると、死んだらそれっきりですので、注意が必要です。
アリスソフトのほかのゲームと同様、経験値が一定以上になると「レベル神」を呼んでレベルアップしてもらうことになりますが、経験値は「戦士経験値」(直接攻撃でトドメをさした場合)「魔法経験値」(魔法攻撃でトドメをさした場合)の2つに分かれています。レベルアップしてもらうと体力・気力ともに全快し、まただんだんレベル神の露出が高くなっていくのも「伝統」の通りです(^^;
以上の点は、後継作である『闘神都市2』と似ている面がありますが、かなり異なっているところもあります。
本編では、戦闘で死亡してもゲームオーバーにはならず、自動的に蘇生するという不思議な仕組みになっています(ペナルティなども一切ありません)。このために緊張感がなくなるという面もあるでしょうが、これは特に問題ありません。
また、試合中でも回復アイテムを利用することは可能です。魔法を大量に使うと「気力」が枯渇しやすいので、その場合にはよくアイテムのお世話になりました。なお、このゲームでも、体力回復アイテムは「世色癌」気力回復アイテムは「竜角惨」です(^_^;
体力の回復は宿屋で「休む」ことで行えますが、大会の日付が進行するので、休める日数は限られています。しかし、かなり早い段階で「ヒーリング」の魔法を覚えるので、ほとんどダメージを受けないザコを相手にしつつ「ヒーリング」を繰り返せば、いくらでも戦闘を継続できます。『闘神都市2』のダンジョン内でよくでてくる体力回復装置のようなものは、トーナメント参加中にはありません。
死亡から宿屋でリカヴァーした後、迷宮に降りて勝つと、なぜか試合に勝ったことになる、というバグがあります。これの他、ダンジョンでの戦闘時に背景画像が表示されるようになるなどの修正を施したファイルが、アリスソフトのサイト、およびこれ以降の「アリスCD」に収録されています。
インストールに必要なHD容量は約7MBですので、空き容量を気にする必要はほとんどありません。インストール先ディレクトリは任意に変更可能で、アリスソフトの汎用プログラム「SYSTEM3.5」で動作します。
マップ内での移動は、キーボードのカーソルキーまたはマウスで行います(私はキーボード使用)が、移動速度は速くなく遅くなくといったちょうどよい加減でしょう。オリジナル版についてはわかりませんが、Windows版については、MMX Pentium200MHzでもAthlon800MHzでも快適に操作できましたから、ある程度の環境をクリアしていればマシンパワーによって左右されることはなさそうです。選択肢の操作はキーボードとマウスのいずれも可能ですが、サブ選択肢を選ぶ際に必要なアクション回数がかなり多く、特にアイテム購入時などは面倒ではありました。
トップメニューで表示されるのは「闘神都市(ゲームを最初からスタート)」「ロード」「アリスの館」の3つです。CGモードなどのおまけメニューは一切ありません。この当時のゲームはそんなものだったのでしょうか。お目当てのCGを残したい方は、ツールバーにある「画像取込」メニューを押すことで、任意のディレクトリにBMP形式で保存されます(ただし、なぜか256色で保存されるようですが)。
グラフィックは、640×400ドット表示で、起動時にウィンドウ表示とフルスクリーン表示とを切り替えることができます。メッセージスキップも可能です(未読・既読の区別はなし)。
BGMは、MIDIで演奏されます。戦闘中はあまりBGMは気になりませんでしたが、街中でののんびりムードの曲が個人的には好きです。
効果音も、戦闘時によく使われています。ハニーフラッシュの「ふぁ〜〜」とか(^^;
サイズが小さくジャギーも目立つのですが、なにぶん10年以上前の作品ですからね。
クミコしかいません、というより、クミコとカスタム以外の人名はまったく覚えていません(^_^; 後発『闘神都市2』では、良くも悪くも印象に残るキャラクターが盛り沢山でしたが、この『闘神都市』では、2人を軸として、その周囲に「脇役」が「立場をわきまえて」いる、といった感じですね。
『アリスの館4・5・6』自体はかなり売れたようなのですが、しかしこれ以前に『闘神都市2』を先にプレイされた方の方が多かったのでしょう、この作品に関するまとまった論評はあまり見当たりません。
「企画2時間で生まれた変なソフト」というだけあって、突拍子もない設定からスタートしている世界だけに、無用にあれこれと野暮なツッコミを許さない展開が待っています。戦闘自体はかなり楽ですが、一歩間違えると…といった緊張感もそれなりに保てるようになっています。
グラフィックや操作面などの古さもあり、また後発の『闘神都市2』を先にプレイされている方が多い現状では、薦めるだけの「ウリ」は特にないでしょう。この作品を先にプレイしていれば素直に楽しめるシーンも、『闘神都市2』のイメージが重なると、とたんに暗く重たい印象を受けてしまうであろうイベントが非常に多いのが辛いところです。また、イベントの量や配置の方法も『闘神都市2』とは違って比較的素直であり、また異様な選択肢が出てくるわけでもないので、淡々と進んでしまうと感じるとも思われます。
個人的には、アリスソフトのRPGの中ではもっとも好きなのですけれどね。
ところで、凶悪ハニーの大群をさばける方法ってあるのでしょうか…。