「心に届くAVG」。かなり暗そうな18禁ゲームのキャッチコピーとは思えないフレーズ。そこに潜むのはいったい何か。そこに見えるのは、人間の弱い面に目を向ける内容なのであろう、そんなことを考えながら手に取ったのは、あのヒット作『ONE 〜輝く季節へ〜』発売の直前でありました。
また、本作品CD-ROM(オリジナル版)には、デモもおまけとして入っていましたが、このデモは出色の出来です。これ以降も、いろいろなゲームのでもファイルを見ることがありますが、これだけの代物は長いことお目にかかっていませんでした。なぜ、このデモムービーがリニューアル版ではカットされたのか…非常に残念です。
謎の宗団「FARGO」。死んだ母が最後に身を置いていた郁未、帰らぬ兄への再会を求める晴香、姉を捜している由依の3人の少女。目的こそ違えど、強い意志を持った3人は互いに協力を約す。そこで行われている、修行という名目の陵辱。重なる惨劇の中で、肉体、そして精神に忍び寄る破綻。極限状態になった郁未が向かい合った真実とは何か。
シナリオの構成そのものはさて措くとして、その背骨となる“世界”を組み立て、そこから物語を作ろうとしています。モチーフが、あの宗教団体であることは間違いないでしょうが、それのパロディに陥ることなく、人が求める強さ、それと背中合わせの弱さ、そういったものにスポットを当てている、珍しいシナリオ内容といえます。
その真骨頂というべきものが、「不可視の力」そのものでしょう。宗教心と超能力とを安易に結びつけるのは感心できません(「超能力」と「奇跡」とは違います)が、単なる「心の隙」といった次元でなく、人間が「生きている」がゆえに負わねばならない十字架から目を背けないということにまで踏み込んでいるのは、みごとなものです。「精神鍛錬」というものに関し、ある程度はエロと強引にリンクさせているものの、決してそれだけで終えていないゲームは、数少ないのではないでしょうか。
ただ、精神的な弱さという面では原理的なレベルにまで突っ込んでいる反面、“世界”の構築自体は、むしろ失敗しているように感じます。ゲーム中の演出が緊迫感を否が応でも加速させ、矛盾を棚上げさせるのに一役買っていたという面もありますが、クリアしてから考えてみると、そもそも「宗団」の措定が、“世界”に対してどのようなものとされているのか。NIFTYの会議室で「お花畑」と評された「謎」が、消化できない形でぼつぼつと散乱していることを、どう捉えるべきか。
さらに、これも致命的な問題ともいえそうですが、最初の3分の1を終えた時点で、シナリオ的なクライマックスが来てしまった、と感じてしまいました。基本的に一本道で長めのシナリオの場合、中途に小さなヤマを用意するというのはよくあるパターンですが、このゲームでは、ヒロインが3人おり、それぞれにシナリオが平行する形で用意されているため、いわば「3つのクライマックス」があります。しかし、この「クライマックス」を、かなり早い時点で経験したのち、それ以後のシナリオに対しては、あまりのめりこむことができず、かなり淡々と進めてしまいました。どうにも、全体的なシナリオのバランスについて、ややバラつきがあるようです。由依シナリオのエンディングの強烈さは、他のシーンをはるかにはね飛ばしてしまっています。
これは、キャラクター描写の濃淡に還元できる問題かと思うのですが、それぞれの背景や心境に関する記述を見ると、主要な3人がそれぞれバラバラ。由依(と友里)に関しては問題ないのですが、晴香については「無鉄砲に突入して自滅」といったイメージさえ受けます。また、主人公たる郁未に関しても、「成長」という視点でのシナリオテーマがいつしかぼやけてしまっているという印象は拭えません。
別次元の話になりますが、レイプされる女性の痛み、苦しみというものを正面切って描いているのは、非常に好感が持てます。「口では嫌がっていても身体は正直だぜエッヘッヘ」といった、男性におそろしく都合のいいシナリオというものは、何度も目にしていると嫌になってきます。しかし、それが容易に癒されることなく、更には1人だけでなく周囲の人間にまでその痛み、苦しみが拡散してしまうことのむごたらしさを、情け容赦なく書きながら、決して「救いのない」話で終わらせていないのは、高く評価するべきでしょう。陵辱されるシーンは大量に出てきますが、決して「陵辱Hゲーム」ではない。男性本位なダーク系のゲームに対するアンチテーゼといったら持ち上げすぎか?
あと…「宗団」なんて日本語、ないと思います(^^;)
タクティクスによると、ゲームジャンルは「心に届くAVG」だそうな(^^;) 基本的なシナリオは一本道で、バッドエンドになるルート、サブヒロインである晴香・由依の運命によってエンディングが分かれます。
ハッピーエンドに到達するのはそう難しくはありませんが、全CGをゲットするのはなかなか大変です。
また、エンディングに到達すると、「おまけRPG」に入ることができます。これがかなり難しく、まともにクリアするのは困難を極めるようです(私はいまだにクリアしていません(^^;)。
初回版では、背景と人物CGとの重ね合わせが非常に汚くなるという不具合がありました。タクティクスのWebサイトから修正ファイルをダウンロードできます。
オリジナル版では、ウィンドウ画面のバックグラウンドが真っ黒な壁紙になるうえ、移動にも手間がかかるなど、お世辞にもいい操作性ではありませんでしたが、翌年にリリースされたリニューアル版ではずっと快適に操作できるようになっています。セーブ&ロードはどこでも可能で、数的にもすべてを使い切ることはまずないでしょう。
CGモード、BGMモードは、エンディングに到達すると入れるようになります。特にCGモードは、ゲームに登場する、とあるキャラクターがガイド役になってくれるので、なかなか楽しめます。
BGMは、CD-DAで演奏されます。『雫』などでその手腕を発揮している折戸伸治氏のサウンドが光ります。テクノ系の「閉鎖された空間」が、個人的には一番印象に残っています。
曲の個性が強すぎる感じがありますが、サウンドという強烈な演出が、プレイヤーの目を背けずに(悪く言えば、矛盾などにも目を向けさせずに)突っ走らせるのに一役買った、ともいえましょう。『Melody』などとは違い、ゲーム世界にサウンドが必要だったというよりはむしろ、サウンドが力技でゲーム世界を支えていたようにも見えます。
樋上いたるさんのキャラ原画は、幼いという言葉がまさに当てはまりますが、決してロリっぽいというわけではありません。目線が低いため、プレイ開始当初は若干の違和感を覚えたものですが、実際にプレイしていくときにならなくなるから不思議なものです。
気になったのは、人物CGと背景CGとの重ね合わせのまずさ。リニューアル版では解決していますが、これは何とかして欲しかった。
名倉由依。一見脳天気に見えながら、その過去、そしてそれを乗り越えて見せた笑顔は、実に輝いていました。どうみても彼女の方がAクラスだと思うんだけどなぁ(^^;) あまり詳細には書きませんが、「郁未がAクラスである」ことを前提としても、由依は問題なしとして、晴香の存在意義が非常に薄れるという問題が残ります。
鷹月ぐみなさんの詳細な「評論」は必見です。このゲームがどのようにして組み立てられたかを、その素材から構造的に分析されています。
個別の描写不足は、シナリオ全体のバランスをかなり崩してしまっています。マルチシナリオならともかく、一本道のゲームですから、この痛手はかなりのもので、シナリオに対して高い評価を与えることは、ちょっと無理そうです。
このゲームでしか見られないとさえ言えるような書き方があったのも、また確かでしょう。しかし、テーマが「最初はあった」らしいのに、「いつの間にか」コンパスの針がずれていき、最終的にはそれがあさっての方向を向く、というのでは、光る描写も効果を発揮できません。
おまけに、エンディングの御都合主義的な終え方は、「あのシーンで覚えた感動は何だったんだ…」と思わせるものでした。
多くのメッセージを込めることに成功したゲームとは言えましょう。しかし、そのメッセージを伝えるすべを埋め込まないまま出てしまったゲームでもある、そんな印象です。お約束でしょうが、次の一言に尽きます。
精進することです」