「笑えるゲーム」としていろいろ評判になる一方で、バグの嵐に対する悪評もあれこれと耳にするゲーム…というのはべつだん珍しくない気もしますが(^^;) この『秋桜の空に』は、新規ブランドがひっそりとリリースしながら、かなり幅広い反響を得たこともあって、発売からかなり間をおいて入手しました。もっとも、1回エンディングに到達するまでは一気にプレイしたものの、あとは数か月たってからもう1つのシナリオを…という具合に進めたため、なかなかコンプリートするに至らず、結局半年以上かけてゆっくりプレイしたことになります。もっとも「ハマって何度もやり直した」のではなく、意識的に間をおいただけなのですが。
主人公・新沢靖臣(変更可能)は、学校でも破天荒かつ滅茶苦茶な行動を取る腕白者として名をはせ、クラスメートや隣家のお姉さんたちと脳天気な生活を送っていた。彼の磊落な人柄ゆえか、その周りに集まる、心にトラウマを抱えた少女たち。彼と彼女たちとが担う物語が紡ぎ出す悲劇と、その果てに見える未来予想図やいかに。
企画・シナリオ担当は「竹井10日」氏。
前半の展開は、爆笑コント的なノリがひたすら続きます。単に「常識破り」という次元ではなく、実際にはあり得ないような行動や言動を実現させてしまうばかばかしさには、ただ圧倒させられます。ただし、このパートが非常に長いために、主人公を軸とする各キャラクター間の人間関係が「ばかばかしい」ままで固定化してしまう面があります。単に「お笑い」のみの力業で押し切るのであればそれでも可でしょうが、これは、その後の展開へとつなげていく過程において、大きな矛盾を露呈するものになっているという面もあります。
何よりも、各キャラクターの行動原理にそれぞれの理由付けがきちんと行われているため、個別で見ると「何やってんだか…」としか言えない一挙手一投足が、単に笑って済ませていいものではないと思える点もプラスですね(これは、ともかく最低1回はエンディングまで見ないと実感できませんが)。
また、「話の進み方」を無視するかのように刹那的な行動が繰り返されるうえ、しばしば登場するあからさまにダミーとわかる選択肢群についてもいちいち「笑える対象」になっています。ストーリーの「リズム」を作らず、あえて「終わりを用意しないかのごとき流れ」を用意しているのが、この前半パートのテンポの良さを作り出した因たる素といえましょう。
ただし、文化祭と体育祭を連続させるなど、イベントを作りやすい環境を用意するために無理なスケジュールをでっちあげたという不自然さが否めない点は否定できません。もっと「通常の奇行」(笑)をベースにして「日々のお笑い」を見せてくれた方が、より楽しめたと思います。
一転、後半のシリアスな展開は、それが「記憶」というものと密接にかかわっているために深刻なものになっているはずなのですが、その「深刻さ」が上滑りしているという印象が拭えません。
まず、前半のドタバタ的人間関係が非常に「濃密な関係」を演出するのに成功している一方で、後半のシリアスな展開になるとそれが一気に希薄なものに転じるため、断絶の大きさが「深刻さの不自然さ」を作り出しています。主人公の「過去」を知っているという意味で身内に準じる存在であるすずねえを別とすれば、主人公の周りには常に3-4人の悪友どもが群れているわけですが、主人公の変貌とともに彼女・彼らが「ごっそりと抜け落ちていく」のは、「主人公サイドから見た悲劇」の度合いを強める役割をもつ一方で、事態を第三者的に見た場合には「滑稽なまでの豹変」という形に見えてなりません。前半部で「楽しさ」を見せることと後半部で「悲しさ」を強めることとは決して二律背反になるものではありませんが、少なくともこのゲームのシナリオでは、その部分のギャップは相当に大きいものであるといえます。
また、後半のシリアスパートに入るのと前後して、特定のヒロインとのラブラブパートに入るわけですが(私はいろいろ試してみましたが、誰のルートにも入らない汎用バッドエンドは見当たりませんでした)、そこで主人公が抱く「異性への愛」は、基本的に「受け取る形の愛」という要素を含みます(「受動的」ではありません、念のため)。この「愛」の欠如におびえる彼の心理が「せっぱ詰まった状況」下でかなり詳細に語られますが、それは彼が「それまで、恋愛という形態とは異なる想い」を「受け取ってこなかった」ことを前提としているものとしか見えません。そうなると、主人公がこれまで「周囲の人を楽しませる役を演じてきた」という事実は、どう説明できるのか。かなりの無理が生じるように思えます。
些細な点かもしれませんが、主人公が「主体」ではなく「客体」であることを考えると、「周囲が受ける悲劇」をヒロインのみが(一部はすずねえも?)担うという展開でハイサヨウナラ、では、あまりに冷たい気がします。もちろん「恋愛」という「人間関係」を直接のトリガーとすることは可能でしょうが、それを最大かつ至上のものに据えるには、主人公の(土壇場での)意識の方向がかなりずれています。
「関係」「愛」「想い」といったものを恋愛関係に集約させずにエンディングへなだれこんでしまっている点が、この欠点の大きな原因でしょう。
各キャラクターごとにストーリーが用意されているタイプのアドベンチャーゲームです。攻略対象キャラは5人で、狙いを絞っていけばエンディングへの到達は容易であり、難易度は「易」のレベルでしょう。
中盤までの展開は、基本的にどのキャラクターを狙う場合でもほぼ同じで、ともに行動するキャラが違うという程度です。
特に初回版では、かなり多くの問題点があるようです。私がプレイしたのは再販版でしたが、それでもプレイ中に何の予告もなく強制終了する(再現性はなく、事前のセーブデータからロードすると回避可能)、普通に進めているとなぜかメッセージが強制的にスキップされる、といった不具合があります。
体験版が頒布されたそうですが、私は未入手・未プレイなのでよくわかりません。
対応OSは、Windows95/98/Meです。Windows2000/XPでは動作しませんでした(互換モードを含む)。
メディアはCD-ROM1枚です。必要なHDD容量は約400MBで、起動にはCD-ROMが必須です。
画面はグラフィックが800×600全画面表示(実寸表示/フルスクリーン切り替え可能)で、下部にテキストが半透明の背景つきで表示されます。メッセージ表示速度設定(4段階)、メッセージの読み返し、メッセージ消去を選択できます。基本的にキーボード操作も可能です。メッセージスキップは、メニューバーをクリックする、または「Ctrl」キー押下で可能ですが、いずれにせよ未読・既読の区別がないのが残念。
セーブ&ロードは、任意の位置で31個所まで可能です。かなりプレイ時間は長いゲームですが、それほど多いプレイ回数を余儀なくされるわけではないので、これでも十分すぎるくらいでしょう。プレイ実日時が記録されます。
ゲームを一度クリアすると、「音楽鑑賞モード」に入れます。また全ルートを見る(あるいはひよりクリア後かも)ことによって、「CG鑑賞モード」および「おまけシナリオ」に入ることができます。CG鑑賞モードは各キャラクターごとにサムネイル表示されますが、はるぴーのCGモードなどサムネイルを見ているだけで笑えます(^^;
音楽担当は、「LOOM」「しもちゃん」両氏。BGMはすべてCD-DA再生ですが、特に印象に残る曲はありませんでした。またオープニング、エンディング2つの合計3ボーカル曲が用意されていますが、いずれも低くて聴き取りにくいボーカルが流れることもあって、これまた印象が希薄です。
音声はありません。これだけ無茶な言動を重ねるのであれば、相当にハイレベルの演技が求められるだけに、むしろ音声なしでよかったという気もします。
キャラクターデザイン原画担当は「岩舘こう」氏。キャラはそれなりにかわいいのですが、キャラ絵・背景ともに塗りがぼてっとした感じで、どうにも精彩を欠きます。パッケージ表絵、あるいは起動画面のすずねえのような、中間色を用いたソフトな塗りを使った方が、各ヒロインがかわいくなったのではないかと思います。
攻略可能キャラの中には、特に「このコがいい」というのはありませんでした。1人を選ぶなら、やっぱりまりぽん(笑)でしょうか。あれだけキャラが立っていて攻略不可というのは、かわいそうな気が。
あと、育った後の子鹿とか(爆)
前半のドタバタ劇だけを見ているぶんには、十分に楽しめます。しかし、このゲームの本来の持ち味として想定されていると思われる「ヒロインと結ばれた後の展開」に関しては、「舌足らず」うんぬんのレベルではなく、別離の「悲劇」をあまり深く考えることなく用い、前半部と単純につなぎ合わせただけと見えてなりません。
また初回版の不具合はかなりのものだったそうで、オープニングの段階で止まってしまい先へ進めなかった例もあるそうです(再販版ではそこまでひどい問題は発生していません)。これに対するメーカー側のサポート体勢もお世辞にも迅速とはいえない点は、作品の評価とは別の次元で、製品として問題があるといえます。
各キャラクターの思考を描くこと自体はきちんとできているのに、その思考の方向がまとまっていれば、かなり芯の通ったものになったと思えるだけに、かなり「残念な出来」になっていると感じます。しかし、センスのよさに関しては十分だと判断できるので、次回作でどのようなものをリリースするのか、期待したいところです。