タイトルのゲーム「With You」はF&C内部では新人育成用のゲームとして企画されたようです。が、そんなことは外部の人間にわかるはずはなく、公開された橋本タカシ氏の原画が良かったこと、二人の幼なじみの間で揺れ動く主人公という設定、さらには事前に公開されたデモの出来が良かったことなどがあって発売前の期待はかなりのものがありました。余談ながら、橋本タカシ氏が、「With Youの開発中であるにもかかわらずPia2が発売(1997年10月31日)されたら秋葉原に買いに走ってしまった」と書いているのを見るとかなり以前から開発はされていたようではありますが。
ゲーム内容は結構知られているとは思いますが、主人公には真奈美と菜織という2人の幼なじみがいますが、真奈美は主人公が小学校3年生の時に父親の仕事の関係でミャンマーに引っ越してしまいます。それから7年、再び真奈美が日本に戻ってきて、この3人の関係はどういった結末を迎えるのか、というゲームです。
設定からするといかにもシナリオに期待できそうではあります。ところが内容がファンタジーになって面食らったり、真奈美が勝手に「あたしの居場所はもうなかった」とか言って暴走したり、主人公が一方に走るともう片方は妙に物分りが良かったり、などなど、シナリオとしては実に中途半端なものでした。シナリオ重視にも萌えゲーにもどっちにもなり切れていない、という印象で、NIFTYの会議室は非難の声で一杯になったのでした。
私もその当時一緒になって非難していた記憶がありますが、落ち着いてから考えてみるとあそこまでボロクソに非難しなくても良かったかな、とも思うのですが。まあそれだけ事前の期待が大きかったゆえの反動でしょうが。
マニュアル等の情報から判断すると、このゲーム当初の予定では真奈美オンリーヒロインのラブコメだったようです。が、スタッフからダメが出て、どうするか会議の末、それまでサブキャラだった菜織をヒロインの一人に格上げして現在の形になったのだとか。しかしマニュアルにあるラブコメ路線のあらすじを見ると、こっちの方がよっぽど面白そうに見えるのですが。
「もしこうだったら」というのは考えても仕方のないことですが、このゲームに関しては、「もし当初の予定通りのラブコメだったら」「もし乃絵美が義理の妹で乃絵美エンドが存在していたら」など、1歩違っていたらこのゲームの評価は大きく変わっていたかもしれない、とどうしても思ってしまいます。
その後このゲームはコンシューマーにも移植されましたが、私はセガサターン版をプレイしました。こちらではファンタジーの入らない真奈美シナリオが追加されたりして、ゲームをプレイするという楽しみの面では良くなったのですが、そのせいでファンタジーシナリオが完全に浮いてしまって一体このゲームのテーマは何だったのか余計にわかりにくくなってしまいました。ただ、Hシーンがなくなってかえってスッキリした感はあります。このゲームを18禁で作ったこと自体が間違いだったのかもしれません。
他にも、マニュアルの地図のミャンマーの位置が違っていたとか、乃絵美役の藤咲かおりさんのお名前をスタッフロールで“藤崎”と誤記するとか、色々話題には事欠かないゲームではありましたね。多分内部では相当ゴタゴタがあったのではないでしょうか? スタッフが大量にLeafに移籍した後でもありますし。ついでながら、Leafに行ってしまった人はスタッフロールでどうなるのか注目していたのですが、ちゃんと名前はありましたね。
もっとも、コンプティークではこのゲームが年間18禁ゲームベストに選ばれて、なぜなのか首をひねった覚えがあります。コンプティークの読者はCGだけで選んだのでしょうか?
このゲームのころから2000年くらいにかけてF&Cは迷走を続けることになりますが、それを端的に表している1つなのかもしれません。ただ、ちょっと非難されすぎな感がないわけではありませんが。ただ前述の通り、もし何かが1つ違っていたら、ということをどうしても考えてしまう、そんな思い出を持ったゲームとなっています。