EP−ROMのゲーム今昔記・第1回

Kanon

2003年6月11日
タイトルKanon
ブランドKEY
対応機種Windows95/98
発売日1999年6月4日

 「ONE」は18禁ゲームの世界において大きなムーブメントを巻き起こしたと言って過言ではありませんが、それを作成したスタッフのほとんどがTacticsをやめて新ブランドを旗揚げしたというニュースは大きな驚きをもって迎えられたものでした。それだけにこのブランドの第1作はどんなものになるのか多くの方が注目していました。さて、その内容は?

 ストーリーはいとこの名雪の住む家に居候することになった主人公が、7年ぶりに訪れた町で出会う少女たちとの物語です。ヒロインは5人+1人ですが、+1の1人を除くとどれも「奇跡」がテーマとなっている話というのが特徴でしょうか。

 このゲームをどの順でクリアするのが良いのか、というのは人によって意見は様々なようです。クリア順によって印象もかなり変わってくるようではありますが。ちなみに私のクリアは、舞→あゆ→名雪→真琴→栞、の順でした。発売日に購入したので事前情報とかは当然ないわけで、この順になったのは偶然です。自分では割といい順だったのでは、と思っていますが。

 発売当時においては当然のことですが、「ONE」と比較する意見もかなりありました。「ONE」の意味不明さに比べればわかりやすくなった分「Kanon」の方がいいという人もいれば、「ONE」と比較するとパワーダウンが否めない、という意見もありました。

 私個人としては後者の意見で、「ONE」は色々問題点はあったものの、プレイヤーを作品世界に引きずり込むようなパワーが感じられました。それと比較すると「Kanon」は完成度は上がったものの、そういったパワーがどうにも感じられなかったのです。「アクを取ったらうまみまで無くなった」という感じでしょうか。すでに「Kanon」が発売になってから何年も経過していますが、「ONE」と「Kanon」のどこに違いがあるのか、今でも良くわからなかったりします。単に第一印象の強烈さなのかもしれません。実際、「Kanon」が先という方の場合、必ずしも「ONE」の評判がいいわけではないようですし。

 さて、このゲームも発売直後に色々と議論の対象となりましたが、その1つが、(以下ネタバレにつき背景と文字を同色にします)

「あゆは7年前に死んだのか?」

ということでした。私としては7年前に死んだという解釈を書き込んだのですが、かなり強い反対意見に遭いました。ゲーム終盤までは死んだとする解釈の方が筋が通っているのですが、そうすると奇跡によって7年前の事故が「死亡」から「意識不明」にその後の歴史が変わったという解釈をしなければならないので、これは受け入れがたいという方が多かったようです。実際の所、死亡説に賛成してくれた方はほとんどいませんでしたし。

 私としてはどうせ「奇跡」などという現実離れしたことを持ち出すのだから何が起ころうがかまわない、と思っていたのですが、「歴史が変わる」などというのは受け入れがたい、と思う方の方が多かったようですね。で、色々議論もしたのですが、どちらの解釈を取ったとしても問題があり、議論しても結論の出る問題ではないと悟って議論をやめました。アニメ版では「意識不明」の解釈を取っていますが、これはアニメにするのであれば当然でしょうね。

 他に議論の対象になったのが、

「真琴シナリオのラストは主人公の願望か現実か?」

というものでした。これはおそらく製作者サイドとしてはどちらとも取れるエンディングにしたのでしょうからこれまた結論の出る話ではないのでしょうが、個人的には「主人公の願望」説に1票。理由はあのシナリオの終盤ではヒロインが天野に変更になっているのであって、真琴はそのまま消えた方が筋が通る、というのものです。まあ前述の通りで議論しても答えの出る話ではないのでしょうが。

 発売当時になされた別の議論として、「この世界は現実なのか、それとも主人公の夢か何かなのか」というのもありました。このゲームでは「夢」というのもキーワードの1つなので、「主人公の夢」という解釈もできないわけではないと思います。これなら奇跡が起こっても何の問題もありませんし。が、私としては「現実」という解釈です。理由は単純でエンディングテーマにあります。この「風の辿り着く場所」という明るい曲に、「実は主人公の夢だった」という解釈は似合わないだろう、ということなのですけれどね。

 ところでこのゲームのシナリオについて考えた場合、「真琴シナリオがベストシナリオ」という意見が多いようです。私もこの意見に異存はないのですが、実は私が一番好きなのは栞シナリオだったりします。

 まあ確かに栞シナリオが突込み所満載なのは認めます。ただそれはそれとして、このゲームの全シナリオの中で一番ラブストーリーらしいシナリオだとも言えるのではないかと。Hシーンへの導入も一番自然ですし。

 このゲームに対する批判の中の1つとして、「このゲームのどこに18禁の必然がある?」というものがあります。確かに舞や真琴シナリオでは不要でしょうし、あゆシナリオでは精神年齢があの状態で手を出してはマズイでしょう。名雪シナリオでは肌を重ねるような関係になった後であの展開は不自然、と色々問題はあるのですが、栞シナリオだけはあそこでは栞を抱く方が自然だと思えます。ですから私は栞シナリオの存在によってこのゲームが18禁である必然性はあると思っています。

 ただ栞シナリオには1つ大きな欠点があって、(ネタバレのため背景と文字を同色にします)

 栞の誕生日でのことですが、あのシーンの後主人公は公園で眠り込んでしまい、目が覚めたら似顔絵とストールがあった、と言うことは、誕生日を祝った後、栞は家に戻って似顔絵を描き、再び公園に戻ってみると主人公が眠っていたのでストールと似顔絵を残して去っていった、という実に美しくない展開を仮定せざるを得なくなります。ここは製作者のミスとしか思えないのですが、もっとまともな終わり方にして欲しかったものです。

 先ほども書きましたが、個人的印象としては「ONE」と比較するとパワーダウンしていると言わざるを得ないのですが、ゲームとしての完成度は上がっていることは確かなので、『「ONE」と「Kanon」とどっちを人に薦める?』と聞かれたら「Kanon」の方かもしれません。「ONE」は激しく人を選びそうなので。

 そう言えば、このゲームの初回版では「anemoscope」というサントラCDがついていました。これは素晴らしい出来で、今までに色々見てきた初回特典の中ではベストです。これを一般向けに売って欲しい人は大勢いると思うのですが、無理なのかなあ・・・

 このゲームによってKEYの名前が世間一般に広まったことは間違いありませんし、ゲームとして面白かったのもまた事実です。ただ、「これはいい、名作だ」ということにどこか引っかかりを覚えてしまうのもまた事実でして、18禁ゲームの歴史においてはどんな位置付けがなされるゲームなのだろうか、ということを色々考えてしまう、不思議な感情を抱かせられるゲームでもあります。

written by EP−ROM