cianの追想・その7

アトラク=ナクア

2003年5月17日

 私が最初にこのゲームをプレイした時の感想は、「ストーリーは面白いが、自分には合わない」というものでした。何が気に入らなかったか、それはひとえにエンディングです。かなこの最後の選択が私の感性からすると、感情的に首肯しえなかったのです。

 それから半年くらい経った後に再プレイしましたが、印象は大きく変わり、「これは凄いゲームではなかろうか」と考えるようになりました。発売は1997年12月、アリスソフトの『アリスの館4・5・6』に収録されています。単品の廉価版は2000年9月に発売。私がプレイしたのは廉価版の方です。(内容に違いはないはずです)

 このゲームで特筆すべきはまずストーリーでしょう。出来云々の問題ではなく、プレイヤーを徹底的に「第三者」として扱い、キャラクターに感情移入させていません。また、マルチエンドという形でもありませんので、ある意味「ゲーム」としては不完全でしょう。(これはKenさんのレビューでも指摘されていますが)

 しかし逆に言えば、それだけシナリオの質が高くないとプレイヤーを作品世界に引き込めませんし、『アトラク』のシナリオは充分に魅力を持っていると思います。単にシナリオの質が高いだけでなく、「読ませる」記述という点でも私は高評価しています。

 CG・BGMも作品世界の魅力を際だたせながら、それ単体で自己主張することなくシナリオのサポートの徹しているという点で、非常に良い出来でした。

 えっちシーンについても、私自身は本来それを「18禁ゲームのおまけ要素」としか考えていませんが、シナリオを演出する上で必要であり、ストーリーの中でよく消化されていたと思います。

 確かに「ゲーム」と呼べるかいささか疑問ではあります。この内容を、ゲームという表現手法で取るメリットがどの程度あったのか(1999/09/20戯れ言)というKenさんの指摘はもっともですが、私は「小説的な内容をゲームというメディアで表現するにあたり、ゲームの(表現手法の)利点を存分に活かしている」と評価しています。

具体的には、恋情に対しあまり経験のない小娘ばかりが扱われているわけですが、より「情念」のおぞましさ、救いのなさを徹底させるのであれば、一定程度経験のありそうなキャラクターを配置してほしかったと感じます。

Kenさんのレビューの中で、この意見に私は少々懐疑的です。理由の一つとして、それをするとそれこそ「読むに耐えない」内容になると思います。その場合、私は最後まで読みきる自信がありません。

 もう一つの理由として、事件の元凶である(主人公という理由ではない)初音の存在。初音は数百年生きている女郎蜘蛛ではありますが、「情念」という意味では小娘であると解釈できるかと思います。その初音が生贄として経験ある大人を選んだ場合、シナリオの量が膨大になり、シナリオの方向性が分散され、結果的に作品の魅力が薄れるような気がします。

個人的には、「情念」の描写、あるいはその顛末としては、やや不満が残るのは確か です。

 「情念の描写」については、私は“知らない方がいい世界”があると思っていますし、この程度でとどめた方が(個人的には)いいですね。

 最後に、冒頭で述べたエンディングのかなこの選択ですが……これについては未だに自分の中で消化しきれていません。恐らく何時までも消化しきれないと思いますが、こういう気分になったエンディングは今のところ『アトラク』だけです。 

written by cian