cianの追想・その2

この世の果てで恋を唄う少女YU-NO

2003年3月31日

 「一番印象深かったゲームは?」と問われた時、皆さんどのゲームを思い浮かべますか? 私は『YU-NO』を挙げます。発売はelfより1996年12月。SS版は1997年12月。Win版は2000年12月発売の『完全限定版大人の缶詰』に収録されています。なお、私はSS版とWin版をプレイしました。

 DOS版とWin版はまったく同じだそうです。DOS(Win)版とSS版では、

・宝玉(DOS版は8、SS版は10)の数が違う。

・異世界ルートで、SS版は一度クリアすれば任意の地点からスタートできる。

この二点が違います。宝玉の数は難易度にも関わってきますので一概に言えませんが、異世界ルートのことはWin版を出す時にSS版を踏襲して欲しかったですね。セーブが3カ所しかできないんですから。

 このゲームを語る時、練り込まれたストーリーや「A.D.M.S」などポイントは沢山あります。特に並列世界を自在に行き来できる「A.D.M.S」は、ゲームをする行為それ自体がゲーム世界を構築するという点で、たいへん素晴らしいものと思います。しかしここではあえてそれに触れず、気になったイベントに焦点を絞ります。

 私が『YU-NO』で一番印象に残っているイベントは、クンクンのエピソードです。詳細は割愛しますが、プレイ済みの方ならば覚えていらっしゃることでしょう。クンクンの死とその後の主人公の行動について、かなり反響があったそうです。

 この主人公の行動を批判することは簡単です。が、一体誰が批判できるでしょう? そうしなければ主人公の命がないだけでなく、クンクンの死が無駄になってしまいます。では逆に、主人公の行動を簡単に首肯しえるでしょうか? いくら主人公の行動が「正しい」としても、それはあくまで理屈、感情はまた別です。複雑な気持ちになったプレイヤーも多かったのではないか、と思います。

 このようなイベントを入れることは、コンシューマのゲームでは難しいでしょう。それまで殆どコンシューマのゲームしかプレイしていなかった私が、色々な意味で随分とショックを受けたことは鮮明に覚えています。

 次に印象に残っているのが神奈のエピソード。神奈のそのおとなしい外見と、正反対の私生活。また、そうせざるをえなかった過去。神奈の境遇に何かしらの感情を覚えると同時に、孤独であることについて考えさせられました。

 「悲しみは一人でも耐えられるが、喜びを分かち合える人がいないことは辛い」

 私はあまり交友関係の広い方ではありませんが、孤独でもありません。孤独であることの不幸を必ずしも理解しているとは言い切れませんが、それなりに理解しているつもりです。ましてや、神奈のように“喜び”の全くない世界では……。

 後から取って付けたようですが、一人暮らしの老人を狙った詐欺事件を聞くと、孤独であることの不幸を思い知らされます。このような老人を狙う人間は糾弾されてしかるべきですが、騙される老人の環境には「身内は何をやっているのか?」と思わずにはいられません。これが単に“うまい言葉に騙された”だけなら、まったく同情しませんが。うまい話など、そうそう転がっているはずもありませんし。

 ところで、『YU-NO』では近親相姦的な描写が2人になされています。一人は予想に過ぎないのですが、もう一人は……。Win版では「*」と伏せ字がされていますが、SS版では「娘」と表記されています。

 これはどう解釈すべきでしょう? SS版は18推ですから、えっちの描写はありません。前後の状況から一線を越えたとは思いますが。まぁSSはコンシューマですから横に置いとくとして、Win版の方で一言。

 Win版は伏せ字でえっち描写があります。しかしどう見ても娘としか解釈できません。ソフ倫の規定は読んでいませんが、これが通るのは何かおかしいと思うのは私だけでしょうか。

 私個人の意見としては現実社会はともかく、ゲームでは近親相姦をあまりタブー視しておりません。が、ソフ倫でタブーとしている以上守られるべきと考えます。規制には必ず抜け道が存在するものですが、伏せ字すればOKというのは、何か釈然としないものを感じます。

 近親相姦的描写について、シナリオ担当の剣乃ゆきひろ氏は、

表現にタブーなどというものがあってはいけないと思うが、表現した責はクリエイターが全て負うべき

と述べています。その是非はさておき、それもまた一つの考えかと思います。

 この他にも印象に残るシーンがいくつかあります。最初に述べたストーリーのことや「A.D.M.S」のこともありますが、それ以上に重要なイベントシ−ンが心に残っています。もし『YU-NO』をプレイしなければ、恐らく18禁ゲームはその後殆どプレイしなかったのではないでしょうか。私にとってはそれほどまでに魅力のある作品でした。

 しかし、お薦めできるかというと疑問が残ります。一番のネックはプレイ時間。初プレイでは最低30時間以上は必要です。(私は40時間以上かかりました) 難易度も高いです。分岐は簡単ですが、澪ルートのロジックパズルは解き方を知らないと辛いでしょう。あと、宝玉を上手に使いこなさないと、ひたすら時間ばかりかかります。

 そういった理由でお薦めはしにくいのですが、私は名作と評価しています。うまく言えないのですが、一面においてはこれを超える作品はまだ出ていないのではないか、とさえ考えています。

written by cian