EP−ROMの昔話・その40

ONE 〜輝く季節へ〜

2003年3月18日

 18禁ゲーム界に「泣かせ」を持ち込んだ張本人であり、泣きゲーとしてはもはや古典と化した感もある本作。しかしこのゲームが発売になった当時はどんな受け止め方をされていたのでしょうか? 今回はそんなことを中心に書いてみたいと思います。Tacticsより1998年5月にWindows95用として発売になりました。

 発売前には前作「MOON.」をプレイしていた方はこのゲームに注目していたようです。が、そういう方は全体としては少数派でしょう。私もプレイしてませんが、ある方がNIFTYの会議室で非常にプッシュしていて、「この人が推すのなら何かあるのだろう」と私は発売日に購入したのでありました。購入前にデモムービーを見ていたのですが、それを見た私の感想は、「世界の終わりでも来るのか?」。セリフ回しや雰囲気がそんな感じを抱かせたのですけれど、そういった印象を持っていたためにのちに「えいえんのせかい」に対してもそれほど大きな違和感を持たなかったのだろうと思います。

 さてプレイを開始すると「To Heart」とそっくりな出だしに「To Heartのパクリか?」と最初は思ったのですが、理解不能の「えいえんのせかい」と共に、主人公は消滅してしまって、「一体このゲームは何だ???」とあまりの謎の多さに頭を抱えることになりました。そしてこのゲーム、実は極めて難易度が高く、何度も何度もバッドエンドを見せられて一時は「このゲームバッドエンドしかないのか?」と思いましたが、何とかハッピーエンドを見ることができました。(ちなみに最初にクリアしたのは澪ちゃん)

 しかしハッピーエンドを見ても謎はちっとも解けません。ヒロイン6人は何とか自力でクリアしましたが、隠れキャラの氷上シュンはKenさんの攻略情報を参考にさせてもらいました。

 このように理解できない謎を大量に残してくれるゲームであるだけに、NIFTYの会議室では発売以来大量の発言がアップされましたが、大きく分けると2通りの立場があったようです。

 まず1つがあまりに理解不能な世界観などに拒絶反応を示す人。もう1つは謎は謎として無視して、ヒロインとのラブストーリーを楽しんで絶賛する人でした。当時積極的に発言をアップしていた人で、「拒絶」でも「絶賛」でもない反応を示していたのは、Kenさんと私だけだったような気もするのですけれどね。

 さて私はこの内容を何とか理解しようとして色々考えた内容をアップしてはKenさんを始めとする多くの方と討論をしましたが、結論としては「これをまともに理解するのは不可能」ということになりました。

 この当時に書いた文章を後で読み返してみると「この当時は考えが足りなかったなあ」ということが痛切に感じられます。そもそもゲームにおける世界観や、それを支えている原理というものはきちんとした体系を持って構成されているというのが普通の考え方です。それらが矛盾に満ちているとするならば、「まともな作品になるはずがない」というのがそれまでの常識でした。ところがこの「ONE」においては(おそらく意図的に)世界観などを矛盾に満ちたものとしています。それでも1本の作品として成立させ得るということを示したのが本作でしょう。

 こんな手法は誰にでもできるものではなく、マネをするのはまず無理でしょう。それどころか、「一発芸」に近いものでないか、とも思えるのですが。

 なぜこんな手法を取ったのか、というのは興味ある所ですが、私はおそらく「理解させないため」ではないか、と思っています。ゲームにしても何にしても、作り手から様々な情報を与えられたのであればまず「理解しよう」とするはずです。ところがそれが矛盾に満ちたものであるならば、理解できないわけですから受け手としては当然不安になります。そういった中で何を感じるのか。「理解」ではなくて「感じて」欲しい、そういったメッセージのように私には思えるのですが。

 それだけに、このゲームにどのように向き合うか、ということについて考えるならば「直感を信ずる」のが良いのではないか、と思います。自分が何を感じることができたのか、それを大切にするのが良いではないでしょうか?

 さてこういったゲームですから、私は相当人を選ぶゲームであろう、と思っていました。ところがその後圧倒的な支持をされ、ゲーム界において「泣かせ」というトレンドを持ち込むまでになりました。ただこのゲームの支持のされ方というのは理解不能な謎には目をつぶり、非常に秀逸なヒロインとのラブストーリーを楽しむ、というものであるようです。

 これが悪いなどと言うつもりは毛頭ありませんが、「理解不能」であることに対する拒絶反応が思ったよりも少ないな、ということが私にとってはかなり意外でありました。

 1本のゲームについてこれほど色々と考えさせられたことはこれまでの所、他にはありません。そういった意味からも忘れることのできないゲームとなっています。そしてゲーム界のトレンドを変えたゲームということで歴史に残る1本ともなるのでしょうね。

written by EP−ROM