さてPart1で書きましたように、このゲームはセガサターン(以下SSと略記)に移植されることになりました。あのキャラクターたちがしゃべるということで私も発売を楽しみにしていたのですが、ここで問題なのはSS版は18推だということです。
18推、というのは「18歳以上推奨」の意味で、18歳未満禁止ではありません。以前はSSには18禁があったのですが、この時点では18禁は廃止されて、レーティングは18推のみ残っていました。18推というのは多少基準に揺れがあったものの、「下着まではOK」で、乳首を見せたりするのは不可、という規定です。とーぜん全裸は不可です。となると、18禁モノの移植はHシーンをどうするかが問題になります。
なかなか凄いことをやっていたのがキッドで、Hシーンの構図は18禁版と同じものの、オリジナルでは全裸の所が下着を付けているのですね。「パンティ履いたままえっちはできないと思うがなあ?」という素朴な疑問が出る所ですが、そんなことおかまいなしです。他にNECインターチャネルなどでは「肝心な所でブラックアウト」という方法でした。これは今のコンシューマーへの18禁移植物などでもそうですね。
さて、エルフ自らが移植する「下級生」はいったいどんな出来なのか、発売に注目したのでした。発売は1997年4月25日です。
発売日に購入してみるとCD3枚組。かなりの量があるな、と思ったのですが、実は3枚目のCDは回想モード専用でした。実際にゲームで使うのは2枚です。
さて、現在でもそうですが、音声付きのゲームの場合、主人公の名前をどうするのかが問題になります。これ以前に出た、NECインターチャネルによる「同級生」の移植版は名前が固定だったのでこれはどうなるか、と思ったのですが、名前は設定可能です。名前を入力する画面では奈々ちゃんがガイドしてくれるのですが、パッドのYボタンを押すとガイド役が愛ちゃんに、Zボタンを押すと真歩子ちゃんに変わります。やっぱりゲーム名が「下級生」だからこの3人が選ばれたのでしょうかね?
ではゲーム中で主人公を呼ぶ場面ではどうしているか、ですが、極力「あなた」「あんた」「先輩」などの代名詞を使うようにしています。で、どうしても名前を使わなければならない場面では文章全体が無音になります。このゲームはフル音声というわけではなく、所々無音になる場面があるので、これでもそれほど不自然ではありませんが。エルフのポリシーとしては、「名前だけ無音にする」というのは避ける、ということなのでしょうね。
さて、日常のシーンはPC-98版とほとんど変わりません。ただ、「ペニス部に入ったら」とか、「アナルセックスも大好きなんだってね」のようなヤバすぎる内容は変更されています。あ、後、PC-98版にはブルセラマンという、セーラー服を着て、パンティを頭にかぶっているという謎の男がいましたがさすがにこれはヤバかったようで、SS版では「おまかせじいさん」という謎のじじいに変更されています。役割は同じで、ブルセラグッズを持っていると高値で買い取ってくれます。
大きく変わったのはティナの役割でしょう。PC-98版では一定期間ごとに過去を回想するような謎の夢を見るのですが、この内容は他に将来を約束した女の子がいる、と思わせる内容で、さらに女の子にキスしただけでティナはイヤミったらしいことをチクチクと言います。まあティナの立場からすれば主人公が他の女の子に走るのは裏切り以外の何物でもないでしょうが、そんなことはプレイヤーにとって知ったこっちゃないわけで。このように、どうプレイしてもプレイヤーに罪悪感を抱かせるようなゲームデザインにはかなりの非難が寄せられました。
その反省の上に立ったのでしょうか、SS版ではティナのセリフが大幅に変更になっています。結構けなげなことを言ったり、プレイヤーにそれまでの自分の歩みを振り返らせるようなことを言うので、ティナの役割自体がPC-98版から変化したと考えた方が良さそうです。謎の夢もティナ関連のイベントを進めなければ見なくなったので、SS版ではティナを無視すればどうやっても罪悪感を抱くということはなくなりました。
また当然と言えば当然ですが、Hシーンは大きく変更されています。いったいエルフはどのようにアレンジしてくるのか、と思ったのですが、結局本番のシーンではブラックアウト、という方式を取っています。これにより当然のことながらPC-98版から変更せざるを得ないわけですが、キャラクターによって出来、不出来の差が大きいようです。少なくとも愛ちゃんと真歩子ちゃんの二人に関してはSS版の方がいい、というのが私の感想です。
愛ちゃんはPC-98版では主人公の求めに仕方なく応じている、という感がなきにしもあらずでしたが、SS版では「自分から何かがしたい」という思いがビンビンに伝わってきて非常に良いです。真歩子ちゃんはPC-98版の場合、何度もホテルに行っていると「お口でご奉仕」してくれるのですが、SS版の場合は「週刊誌に男の人はこういうことをすると喜ぶと書いてあったからやりましょうか?」というのに対して主人公がそれをやめさせています。やはりキャラクターのイメージとしてはそういうことをしない方が良いでしょう。
他のキャラクターに関しては直接行為が描けないがゆえの不自然さが結構目立つので一長一短ですね。直接行為が描けないがゆえに心の結びつきが強調されているので、単純にSS版が劣っているというわけではありませんが。
さて、ではここで下級生が意図したものについて考えてみたいと思うのですが、初代「同級生」の場合は「ナンパシミュレータ」であったわけですが、どうも「下級生」の場合は「恋愛シミュレータ」を目指したもののように思えます。
「恋愛を疑似体験させる」というコンセプトのゲームはたくさんあるわけですが、それらは基本的に「制作者が用意したストーリーを観賞する」という形式になっています。これは別に悪いわけではなく、良いストーリーが用意されているのであれば感動を呼び起こすことができます。ところが下級生はそうではありません。色々と小イベントは用意されていますが、特に一本のストーリーというのは用意されていません。デートができるまでの仲になったら、そのまま関係を深めて猿のようにやりまくるのも良し、その気になれば最後まで清い交際のままでエンディングを迎えることもできます。これだけだったら単に「自由度が高い」というだけの話なのですが、どうも「下級生」が目指しているのは、「現実に近い感情を抱かせる」ということのように思えます。
例えばデートしている所を他の女の子に目撃されることがあります。そうするとその後に「あの女の子は誰なのか」という質問を受けることになります。さてその時どうするか? ごまかすか、正直に答えるか、決定を迫られることになります。これが大して関心のない女の子に目撃されたのであればどうでもいいのでしょうが、もし二股掛けしている一方に目撃されたのであれば、ごまかした時の罪悪感はかなりなものでしょう。結局、「下級生」においては不誠実な行いをするとどのような気持ちになるのか、ということをこのようにして体験させようとしているように思えます。さらに、SS版で追加された演出として、長期にわたってデートに誘わないと、「また誘って下さいね」と女の子が主人公の所にやってくる、というのがあります。これは遊び半分に手を出すとどうなるか、ということを教えているように思えるのです。
また、「下級生」ではゲーム終盤になれば基本的にダレてきます。これはどうもエルフの仕掛けたワナのようで、こういう時に他の女の子に手を出すと後で罪悪感に襲われることになるわけです。
これはティナも「恋愛感情は長続きしない」というような意味のことを言っていますが、この「ゲーム終盤でダレる」というのは初期の恋愛感情が冷めてしまった時を演出しているように思えます。その際にどうするか。最初の恋人に忠実であるのか、それとも新たな恋人を求めるのか。どうするかはプレイヤーに委ねられているのです。その結果どうなるかは全てプレイヤーの責任となるのですから。
これは飛躍しすぎかもしれませんが、もしかしたらエルフはこのゲームは「教育ソフト」のつもりで作成したのではなかろうか、という気がしています。「恋愛は楽しいことばかりではない、辛いこと、悲しいこと、悩むこと、様々なことがあるけれども、男にとっても、女にとっても人間を成長させてくれる素晴らしいものなのだ」と。そう考えるとエンディングのラストで表示される「現実に目を向けてみる時に、あなただけの下級生の世界が始まる」というメッセージはエルフからの、人生の先輩としてのエールではなかろうか、そんな気がするのです。
えらく「下級生」を持ち上げているようですが、「そんなことはわかっている、余計なお世話だ」と言う見方も当然あるわけで。このゲームをエンターテイメントとして捉えた場合、かなりの問題を持っているというのもまた事実です。ですから単純に「いいからやってみろ」とは言いかねる面があるのは間違いない所ではあるのですが。
私はこのゲーム基本的には好きですが、ゲームの後半にダレるというのもまた事実なので、素直に人にお勧めしにくい面はあります。これが出た1996年当時では感動的だったエンディングも、現在はもっと強烈なものが出てきているわけではありますし。プレイ時間がもっと短かったらやってみるのも悪くはないと思うのですが、現状だとねぇ・・・
そう言えば、このゲームWindows版も出ていますが、「PC-98とSSのいい所を合わせた」ということになっていますが、個人的には「どっちつかずで中途半端」という気がしています。まあこれはどのキャラクターがお気に入りかによってかなり印象が変わると思うので、人によって、PC-98版、SS版、Windows版のどれがいいのか、という意見は異なるとは思いますが。