「沙織事件」(その28を参照のこと)以来、各ソフトハウスは今後どのようにゲームを作成していったらいいのか手探り状態だったわけですが、当事者であるアイデス(手入れを喰らった時には社名は別でした)もかなり苦労したようで、その1つの試みとして発売されたのがタイトルのゲーム、「卒業写真・美姫」でした。このゲームは、「卒業写真」と「美姫」という2つのゲームのカップリングで、どちらもフロッピー1枚のゲームです。カクテル・ソフトブランドで1992年3月に発売されています。(なお、このゲームは一般指定として発売されました)
ではまず「卒業写真」から。このゲームを今からプレイするのはかなり困難だと思うのでストーリーの詳細を書いてしまいますが、
主人公は高校3年生で、同級生の香村宏美と夏までつき合っていたのですが、あることがきっかけで別れてしまいます。その後羽田由那子という新しい彼女ができたものの、今でも宏美のことが忘れられないまま卒業式の前日になってしまった、というゲームです。ゲームはこの日1日の出来事が展開されていきます。ゲームとしては完全一本道のゲームで途中での分岐というのはないようです。コマンド総当たりをしなければいけないのが少々面倒ですが。
ラストシーンではお互いに今でも好きだ、ということがわかったものの、時すでに遅く宏美は外国に留学することを決めており、そのまま別れを告げられてしまいます。この時の宏美の、
時が過ぎれば……きっと……思い出に変わるわ………
という言葉が何とも痛く感じられます。ゲームに限らず、あらゆるメディアにおいて、
周りのことなど知ったこっちゃない、世界は二人のためにある
と言わんばかりの主人公とヒロインの行動を見かけますが、ある程度年齢を重ねた人ならばそんなわけにはいかない、あるいはそうできなかった経験をお持ちのことでしょう。それだけに、このゲームの味わいというのはある程度年齢が上の人の方が良くわかるかもしれません。このラストシーンでかかる曲、「とまらないメリーゴーランド」が非常にいい曲で、雰囲気を盛り上げています。私にとってはF&C系のBGMではベストです。(PC-98版の「きゃんきゃんバニーリミテッド」のスタッフロールの曲もこれでした)
本当ならば色々な方にプレイして欲しいのですが、入手は難しいでしょうし、おまけに1トラック9セクタという変則フォーマット(通常のMS-DOSは1トラック8セクタ)を使用しているので、PC-98実機がないとイメージファイル化はおそらく不可能でしょう。イメージファイル化さえできればエミュレータでプレイ可能なのですが・・・ 本当ならイメージファイルをバラまきたい所ですが著作権法違反になってしまうのでそういうわけにはいきませんしねぇ・・・
ところでなぜこのゲームを取り上げたのかと言いますと、同じくF&Cから出ている「Piaキャロットへようこそ!!2」及び「Piaキャロットへようこそ!!3」のメインヒロインシナリオがこのゲームをモチーフとしているのではないか、と思えるからです。Pia2は「卒業写真」の男と女の立場を逆にしたものでしょうし、Pia3は「卒業写真」で「新しい彼女ができた」というのを省いたものでしょう。ただ大きく違うのはPiaシリーズではハッピーエンドになっていることです。(Pia2のあずさエンドをハッピーと言っていいかどうかは議論があることでしょうが)
どちらも筋を通せば「卒業写真」のような終わり方がふさわしいのかもしれませんが、「それでいいのか?」と言われた場合、私は肯定することができません。このような切ないストーリーを見せられてしまうと、例え筋を曲げてもハッピーエンドにした方がいいのかな、と。特にゲームの目的が「女の子とハッピーになる」ということである以上。
このPiaシリーズのシナリオに納得できなかった人には特にプレイして欲しいのですけれど、前述のようにプレイするのは難しいでしょうねぇ。残念です。
続けて「美姫」ですが、こちらは「卒業写真」とは違ってひたすらさわやかな話です。あらすじだけ書いておきますと、
主人公は中学3年生で、この学校では卒業の際にこの地方に伝わる伝説を元にした神楽を舞う習慣がありました。その伝説というのは、その地方の領主の娘と鍛冶屋の男が恋をしたのですが、身分違いの二人は駆け落ちをします。が、途中で捕らえられ、男は処刑され、領主の娘はそれを悲しんで館に火をつけて自害した、というものです。
さて主人公は鍛冶屋の男役を、ヒロインのあゆみは領主の娘役を演じていたのですが、突如として精神だけこの伝説の時代に飛ばされ、主人公は鍛冶屋の男に、あゆみは領主の娘に乗り移ってしまいます。その後、何とか駆け落ちを成功させると元の時代に戻ることができ、戻ってみたら伝説がハッピーエンドになっていた、というお話です。
こちらについてはコメントは省略させて頂きます。
「恋愛をテーマとした物語でありながらハッピーエンドにならない」というかなりの異色作でありますが、今プレイできる環境がないのが残念です。PC-98版のままでいいから、再販してもらえないかなあ、と思いますけれどねぇ。