報道発表資料 [2009年11月掲載]

ノロウイルス集団感染防止対策に関する調査研究について
東京都健康安全研究センターノロウイルス対策緊急タスクフォース 中間報告(第3報)

平成21年11月19日
福祉保健局

 東京都健康安全研究センターでは、平成19年度から緊急タスクフォース※1において、ノロウイルス感染症の拡大防止策を検討しています。今般、研究成果を中間報告(第3報)としてまとめましたので報告します。

※1 タスクフォース概要は別紙参照

中間報告(第3報)のポイント

1 集団発生事例について疫学的に検討

  • 都内における感染性胃腸炎患者の報告数は、2006−2007年シーズン(2006年10月〜2007年4月)は過去最大となったが、その後は、2シーズン続けて過去5年平均とほぼ同様の数値となっている。
  • 過去3シーズンにかけて保健所に報告のあったノロウイルス等による感染性胃腸炎の都内における集団事例※2の施設別発生数を比較すると、高齢者施設の割合が減少し、保育園・幼稚園の割合が増加している。
    ※2 患者10人以上の事例で食中毒は除く
  • 集団事例では、おう吐した人のケア、おう吐物処理の際の手袋・マスク・ガウン(エプロン)の着用が不十分であった。

2 おう吐物を介した感染の可能性を検証

  • おう吐物の粘度が低い場合には、感染力のあるウイルスを含む飛沫が床上160センチメートルまで舞い上がる可能性がある。また、微小な粒子が1時間程度空気中に滞留した。
  • 施設内で患者がおう吐した場合、二次感染を防止するためには、処理を行う人は、手袋・マスク・ガウン(エプロン)などを着用するとともに、部屋に立ち入る人を最小限に留め、窓を開けて換気をすることが効果的である。

3 二酸化塩素の消毒方法を検証

  • 二酸化塩素を用いてウイルス※3そのものを不活化(消毒)するためには、次亜塩素酸ナトリウム※4と同等の濃度(1〜2ミリグラム/リットル)であることが必要である。
    ※3 ノロウイルスは培養できないため、ネコカリシウイルスを代替使用
    ※4 次亜塩素酸ナトリウムによる消毒効果については(第2報)を参照
  • 二酸化塩素(600ミリグラム/リットル)で消毒する場合、おう吐物を十分除去した箇所では、10分間はウイルスを消毒するのに十分な濃度が維持され、次亜塩素酸ナトリウムと同様に消毒効果がある。ただし、二酸化塩素は、市販品の開封後に濃度が自然に減少することや、不快臭があること、カーペットの変色が起こることに注意が必要である。

中間報告(第3報)(PDF形式:917KB)
※本調査研究に関連する論文は東京都健康安全研究センターホームページをご覧ください。

問い合わせ先
東京都健康安全研究センター企画管理部管理課
 電話 03−3363−3231

〔別紙〕

東京都健康安全研究センターノロウイルス対策緊急タスクフォースの概要

1 目的

 ノロウイルスについては、これまで、食中毒予防に重点をおいた対策が実施されてきました。一方、食品を介さずにノロウイルスによる感染が拡大したと考えられる報告事例数が増加していますが、そのメカニズムは十分には解明されていません。ノロウイルスによる集団感染を防止するためには、科学的な実証に基づく効果的な対策が求められています。
 そこで、東京都健康安全研究センターでは、平成19年3月、外部専門家や都及び特別区保健所などの協力を得て緊急タスクフォースを立ち上げ、ノロウイルス対策に関する調査研究に取り組んできました。

2 期間

 平成19年度から3年間の計画
 毎年、冬季にノロウイルスの感染事例が増加する時期の前に、その時点までに得られた最新の科学的知見に基づく情報を都民に提供しています。今回は、平成20年11月11日に公表した中間まとめ(第2報)以降の調査研究についてまとめました。本年度は、タスクフォースの3年計画の最終年として、今後、ノロウイルスの感染拡大の防止に向け、残された課題の調査研究を実施し、とりまとめを行っていく予定です。

3 検討内容

(1) 集団感染事例の疫学的検討
(2) 流行ウイルスの遺伝子解析
(3) 感染経路の解明
(4) 消毒法の検討
(5) 検査法の改良・開発

※中間報告(第1報)の概要

(1) 集団感染事例の主な感染拡大要因を解析

  • 当センターで検出したノロウイルスの遺伝子型は、GII/4の新しい型(2006年ヨーロッパb)が多かった。
  • おう吐物を一つの感染源として、おう吐場所の消毒処理の不徹底や、おう吐物の残渣が乾燥粒子となって室内に浮遊し、これを経口的に吸い込んだこと等により感染が広がった。


(2) おう吐物の実用的な処理方法の検証

  • おう吐物は広範囲に飛び散ることが分かったため、中心部だけでなく広く周辺部にも気をつけて処理をすることが重要である。
  • 加熱消毒する場合は、十分な効果を得るための工夫が必要である。


(3) ノロウイルス感染を確認する検査法の検討

  • 検査法の原理の違いによって、検出感度に顕著な差があった。
  • 下痢等の症状がない人のふん便中にもウイルスが排出されるため、おう吐や下痢症状がなくなった感染者や発症者と接触した人の感染確認検査には、感度の高い検査法を選択することが望ましい。

※中間報告(第2報)の概要

(1) おう吐物から発生した微小粒子の空気を介したヒトへの感染経路を検討

  • 密閉した実験室内で擬似おう吐物を落下させると、微小粒子が飛散し、1時間室内空気中に浮遊した。また、ウイルス培養液を霧状に噴霧すると、微小粒子が長時間浮遊し、空気中のウイルス量もほとんど変化しなかった。
  • 施設内で患者がおう吐した場合、おう吐場所に立ち入る人を最小限にとどめ、窓があれば換気することが望まれる。


(2) 消毒方法(低温・長時間加熱、塩素消毒)の留意点を検証

  • ウイルスを不活化するためには、50度で2時間以上の加熱が必要であった。
    (例:家庭用布団乾燥機を利用した場合、50度に達しない機種もあるので注意が必要。)
  • おう吐場所を塩素消毒する場合、おう吐物が残存していると塩素が速やかに消費されるため、おう吐物を十分除去してから十分な量の次亜塩素酸ナトリウム溶液(0.1%)を用いて消毒する。
  • 緊急対応時に備え、0.1%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液を作り置く場合、密栓状態で室温・暗所に保存すると、180日間程度効果が持続した。
    ※ノロウイルスは培養できないため、ネコカリシウイルスを代替使用


(3) 食品を対象としたノロウイルスの検査法の改良法を開発

  • これまで食品中のノロウイルスを高感度に検出することは困難だったが、検査法の改良に取り組み、国の検査法と比べて、カキではウイルス回収率を23〜29倍向上する改良検査法を開発した。