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サイバーエージェントのコミュニティサービス「アメーバピグ」は、2012年7月新たに動画コンテンツを共有しながら楽しめるサービス「ピグチャンネル」をオープンした。事業プランづくりから技術開発まで、サービス実現に関わった3人の話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.12.17
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アメーバ事業本部
ピグチャンネル ディベロッパー 冨塚 小太朗氏 |
「例えば、とあるアーティストのライブ放送を自分のPCで見ているとします。友達も同じ時間に彼女の部屋で見ているという。チャットやメールでその感想を共有したりします。ここまでは普通の動画共有サービスと変わりませんが、ピグチャンネルはアメーバピグのサービスの一環ですから、参加者はみんなアバターのキャラクターを身にまとっている。人気アーティストのライブ配信の際には、メンバーと同じコスチュームを着たり、ダンスに合わせて同じフリで動いたり、アバターの表情を変化させたりして楽しみました。アバターであればこそ、共有感、昂揚感がぐっと高まるんです」 ピグチャンネルはアメーバピグの新しいサービスの一つ。アメーバピグにログインすると右下に控えめに「チャンネル」というボタンが表示されている。入口こそ地味だが、それを開けると、アバターたちで賑わう派手な仮想クラブやコンサート会場が出現するというわけだ。 配信されるコンテンツは大きく2種類。「放送局」では、アーティストのライブ映像、ドラマ・アニメや、Amebaでブログを展開するタレントが出演する「AmebaStudio」のオリジナル番組などが流される。 |
もう一つは、利用者自体がDJとなって、YouTubeに投稿された動画の中から自分のお気に入りを選択し、これを同好の人たちと共有する「チャンネルフロア」もある。フロアに見知った友達のアバターがあれば、「おっ、来てたんだ」「一緒に踊ろうよ」というかんじでYouTube試聴会がスタートする趣向。聴衆がその動画選択のセンスを評価する「ニコ」「モヤ」といった感情共有ボタンも用意されている。
アメーバ事業本部
ピグチャンネル 事業責任者 小出 亮太氏 |
そもそもアメーバピグは、自分そっくりなアバターを使って遊べるコミュニティサービス。誰でも簡単に使える操作性や2頭身で2Dの年代性別問わず支持されるかわいいキャラクターで人気を高め、テレビCMなどで知名度を上げた。芸能人の利用も多く、ピグ上でおしゃべりを楽しめる企画や、釣り・カジノといったソーシャルゲーム機能もあり、現在は利用者約1300万人の、日本最大級のコミュニティサービスの一つに成長した。
サービスのコンセプトづくりでは一つ懸念もあった。 だが、その心配も杞憂に終わった。放送局では毎日平均で5番組、月に均せば約140番組の生放送が流れる。チャンネルフロアではいま毎日3万5千本もの動画が再生される。人気コンテンツともなると、一つのエリアだけでは人が入りきらず、エリアを増やさなくてならない。メインは音楽だが、お笑いやバラエティ番組のクリップも多い。サイトは連日賑わい、アメーバピグへの集客拡大という当初の狙いは達成されつつある。 |
もちろんネット上の動画配信・共有サービスはピグチャンネルが初めてではない。先行の動画サービスとの違いをどこに置くかも重要な課題だった。有力なライバルと考えられるのが国内ではドワンゴが提供している「ニコニコ動画」だろう。
「ニコニコ動画さんとピグチャンネルの最も大きな違いはユーザー層ですね。アメーバピグは20〜30代、女性の比率が高い。ライブやプロモーション映像を提供するアーティストやレーベルの側も、このターゲットの違いに関心がある。ニコ動にもピグチャンネルにも配信するというところもあれば、このコンテンツはピグチャンネルに優先的に配信したいとおっしゃってくださる企業もあります」(小出氏)
ネット動画配信は巨視的に見れば、まだ始まったばかりの娯楽スタイル。ネット市場におけるユーザー層の住み分けは十分可能なのだ。

小出氏は事業責任者として、アーティストやレーベルと交渉してコンテンツを集めたり、メンバーのマネジメントを行う。事業プランを詰めるのも彼の仕事だ。
冨塚氏はディベロッパー・プロデューサー役としても、ピグチャンネルの全体の設計に関わっている。
サーバサイドの実装を担当するのがエンジニアの金大洙氏だ。動画サービスの最大の技術的難関が、ユーザーが殺到したときの負荷をいかにさばくかだ。 |
アメーバ事業本部
ピグチャンネル エンジニア 金 大洙氏 |
サーバ分散技術ではOSSを活用するという方法もあるが、金氏はそうはせず、ソケットなどローレベルでの工夫を重ね、Javaを用いたマルチスレッディングを洗練させた。これまでのAmeba、アメーバピグのノウハウを、さらに一歩深めたことになる。
もう一つ、ユーザーが選んだ曲を順番に流すロジックの設計にも工夫がある。まずピグチャンネルには「エリア」と「ブース」という概念がある。エリアはいわば一つのカラオケボックスにあたるもの。アイドルポップスばかり流すエリア、海外ロック専門のエリアなど、さまざまな特徴がある。1エリアには20人しか入れないという制限があるが、エリアの数自体は無制限に拡張できる。
チャンネルフロアで流す曲はユーザーが選択するが、その選択権は同時に4人まで。ピグチャンネルではこれを「ブースを持てる」と表現する。すでに4人がDJブースに座っていると、ほかの人はその空きを待つことになる。
「この順番を最適化するロジックを組むのに少々苦労しました。同じ曲ばかり流さず、自分でマイクを独占しない。日常のカラオケのマナーとこのあたりは似ていますね。ユーザーからのリクエスト処理に遅延を期さないように、データベースをメモリベースで格納し、できるだけリアル感を持たせるようにしました。もちろん、アメーバピグの世界には譲り合いの文化があるので、たとえこうした実装がなくても、ユーザー間でもめ事が起こるなんてこと、実際はなかったのですけれどね」
ピグチャンネル」DJ機能を楽しめる「チャンネルフロア」イメージ

「当初は、ユーザーの中から楽曲を選曲してブースに立つような勇気のある人は少ないんじゃないかと思っていたのですが、意外にも初日からどんどんDJ役が出てきて、こちらのほうが驚きました」
と、小出氏。
これは冨塚氏が考えた、ユーザーインターフェイスの効果もある。ワンクリックですぐにブースに立てるようになっているのだ。さらにいえば、DJが続々と輩出されるのは、もともとのアメーバピグのコミュニティ文化がベースにあったからだろう。ゆるいつながりの中で、ギスギスしないコミュニティをつくってきた人たちには、新しいサービスにも安心感がある。さらにアバターのキャラクターを身にまとうと、人は意外と大胆になれるものだ。リアルライフではなりたくてもなれないDJに、バーチャル空間では「成りきれる」のだから、こんな愉快な体験はない。
「リアルな世界でも、DJはまさに選曲の妙で会場を湧かせるもの。ピグチャンネルにもそろそろ、選曲のセンスで名の知られたDJが出てきています。あっ、彼が今日フロアにいるよと、続々とファンが集まるような関係。僕らはこれを“YouTubeDJ”と呼んでいて、これをもっと流行らせたいなと思っています」(冨塚氏)
人気DJのファンになると、登場を知らせたり、ファン同士でコミュニケーションできる機能もすでに実装されている。iTunesなどでも、そのジャンルに詳しい有名人のプレイリストを参照しながら、自分も楽曲を選択・購入するという使い方があるが、ピグチャンネルはよりライブ感が強い。
バーチャルとリアルシーンのコラボという点でも、これからいろいろと面白いことができそうだ。すでに、5人組ダンス&ボーカルユニット「東京女子流」と組んで、ライブ会場に彼女たちが実際に登場し、同時にピグチャンネルの常連でもあり、実際のクラブシーンでも活躍する人気のDJがそのリミックスを流すというイベントも行われている。
取材前はよくある動画配信サービスの一つだと思っていたが、聞けば聞くほど意外に面白い。ピグチャンネルは、新しい仮想空間ライブやバーチャル・オーディエンス体験を私たちにもたらし、マーケットとしても大きく化ける可能性を秘めていることに気付いた。
「今後はユーザー自身でエリアテーマを決めて、ユーザー同士がファンを集めてイベントを開催できるような仕掛けをもっと盛り込みたい。ブース自体がユーザーの力で育っていくというのが私たちの最終的な狙いなのです」
と、小出氏は将来構想を語る。
「イベントとユーザーの間のコミュニケーション、ブースのDJと観客の間のコミュニケーションはもっと深めることができそうです。チャットやアバターのアクションで反応するという機能はいまもありますが、さらに+αがあるんじゃないかと思っています」
と、冨塚氏。
しかしこうした事業責任者やプロデューサーからのリクエストを実装するのは、ひとえにエンジニアの力。やりたいことの数と同時に負担も増える。ときにはムチャぶりに近い相談が来ることもある。
「新しいアイデアが出てくれば出てくるほど、それを実装するエンジニアは力がつくと思っていますから、これからもどんどん引き受けますよ」と、頼もしいひと言があった。
ピグチャンネルのフロアでは年の瀬の今夜もまたアバターたちで盛り上がっているはず。リアルなクリスマスパーティもいいが、ときにはネット越しの宵越しパーティに参加してみてはいかがだろう。
2007年新卒でサイバーエージェント入社。入社動機はインターネットのテレビ局をつくりたいというもの。広報IR室を経て、アメーバ事業本部ででテレビCMなどの宣伝業務に携わっていたところ、2011年末の新規事業提案会議「Amebaあした会議」に呼ばれ、ピグチャンネルの事業化を任される。現在は10人のメンバーを率いる。 |
大学卒業後、ITで世界に羽ばたきたいと2004年に来日。金融系のサーバサイドのシステムエンジニアを経て、2012年2月にサイバーエージェントへ転職、ピグチャンネルチームに配属される。同時接続のトラフィックをさばく技術開発を得意とする。 |
広告制作会社でFlashのキャンペーンサイトなどWeb広告を制作。よりダイレクトにユーザーの声を聞きたいと、2011年3月、サイバーエージェントに転職。アメーバ事業本部にて、アメーバピグ基盤機能の開発を経て、2011年10月からピグチャンネル・グループへ。 |
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