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「司令塔」役割不十分 「調整役」に腐心 復興庁発足1年
「首相直結のスーパー官庁」をうたい、復興庁が発足して1年。復興の加速を阻む縦割り行政の打破に被災地の期待は高まったが、「司令塔」と「調整役」のはざまで存在感を十分発揮できずにいる。生活再建、産業再生など被災地の課題は山積みで、同庁に対する評価もさまざまだ。復興を先導するリーダーシップを発揮できるかどうか、真価が問われている。
<初の事業連携> 再生を目指す被災地の企業と、復興支援に意欲的な企業をつなぐ「結(ゆい)の場」。現場主義を掲げる宮城復興局が企画した事業だ。同局企業連携推進室は「企業同士をつなぐところまでサポートする必要がある。息の長い事業にしたい」と力を込める。 石巻市で昨年11月にあった第1回会合には市内の水産加工業13社と大手企業など33社が参加し、両者の対話が実現。今月中に初の事業連携が実現する見通しになった。 調整機能は被災者の住宅再建でも生かされた。 懸案だった被災した土地の抵当権解除をめぐり、同庁は住宅金融支援機構や各県と連携。金融機関と被災市町村に働き掛け、昨年11月、被災者が自力で資金調達できなくても抵当権が解除できる仕組みを構築した。
<被災地の怒り> 「現場主義」を押し出す背景には、昨年3月の復興交付金第1次配分の苦い経験がある。 配分額が県全体の申請額の57%にとどまった宮城県の村井嘉浩知事は「復興庁は査定庁だ」と真っ向から批判した。被災自治体も一斉に反発。被災地の怒りは復興庁の立場を危うくさせた。 第2次申請以降、同庁は事前の意見交換を繰り返し「必要性をきちんと説明すれば理解してくれるようになった」(宮城県幹部)との評価を得るようになった。 復興庁の1年の活動を振り返り、村井知事は「当初は(国の組織が増え)屋上屋を架す心配もあったが、最近は被災地に寄り添っていると肌で感じる」と捉える。
<「権限強化を」> 「司令塔」としての役割には不満も漏れる。「権限を強化し既存制度や法律を変えて、要望にスピーディーに応えてほしい」と話すのは野田武則釜石市長。菅原茂気仙沼市長は「単に市町村の復興を支援するだけではなく、強いリーダーシップで課題解決に当たってほしい」と注文を付けた。 昨年12月の政権交代後、安倍政権は復興庁の機能強化、予算枠の拡大を矢継ぎ早に打ち出した。達増拓也岩手県知事は「民主党政権以上に踏み込んだ対応、強力な体制が期待できる。国家プロジェクトとして推進してほしい」と要望する。
◎根本氏「加速」を強調/平野氏「土台」を自負
昨年12月に発足した安倍政権は「復興庁のあり方を根本的に見直す」として、同庁の機能強化を前面に出した。根本匠復興相は「ロケットスタートができた」と政権交代の効果を強調する。初代復興相を務めた平野達男民主党参院議員は「支援制度を一から積み上げた。達成感はないが土台は築けた」と振り返った。 政権復帰後、自民、公明両党は「現場主義」を掲げ、9日に就任後3度目の被災地入りをした安倍首相をはじめ閣僚が相次いで岩手、宮城、福島各県を訪問した。 復興庁発足1年の節目に当たり、根本氏は8日の閣議後記者会見で、「大事なのは予算執行の中で、具体的な現場の課題に取り組むことだ。復興を加速するために頑張りたい」と述べた。 安倍首相は復興関連の人事で、復興加速を印象づけた。福島県選出の根本氏に加え、宮城担当の副大臣に阪神大震災時に兵庫県職員だった谷公一氏、岩手担当の政務官に新潟県中越地震で被災した山古志村(現長岡市)村長だった長島忠美政務官を起用した。 谷氏は河北新報の取材に対し、「責任を持ち、的確に判断し、物事を決めるのが司令塔。職員は頑張っているが、十分ではない」と復興庁の現状を厳しく分析した。 同庁2年目の課題として住まい、なりわい、インフラの復興を挙げ、「制度や運用の見直しをためらってはいけない。復興交付金の配分は市町村の目安となる線引きをし、オープンにしたい」との考えを示した。 政権交代で復興相を退いた平野氏は取材に対し、根本氏に福島第1原発事故の後遺症に苦しむ福島への対応強化を助言したことを明かし、「権限強化は自分のイメージのはるかに上を行った」と評価した。 平野氏は震災直後に震災対応の副大臣に就き、1年9カ月にわたり復興の陣頭指揮を執った。在任期間を振り返り、「生活再建のめどが立っていない。テーマを設けて被災地に入り、先頭に立ってきたつもりだが、特効薬を作るまでに至らなかった」と省みた。 新政権に対しては「津波被災地は計画の実施段階に入る。土地の権利関係や人材、資材不足の対応に力を入れるべきだ」と注文を付けた。
2013年02月10日日曜日
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