第1回
「シンガポールの税制と投資ダイジェスト」
概況
1.地理
シンガポール(正式国名はシンガポール共和国、The Republic of Singapore)は、赤道の北137km、マレー半島の南端に位置し、面積は約710平方キロメートル(東京23区は約621平方キロメートル)です。
2.気候
熱帯に属しモンスーン気候のため、年間を通して高温多湿な気候となっています。乾季、雨季の明瞭な区別はなく、年間を通して雨が降りますが、特に11月から2月にかけての東北モンスーンの時期には、雷を伴う激しい雨が降る日が多いです。
3.人口と言語
シンガポールの人口は484万人(2008年)で、その市民権・永住権を有する者の民族構成は中国系が75%、マレー系が14%、インド系が9%、その他2%です。日本人居住者は、現在約2万6千人。公用語は、英語、北京語、マレー語、およびタミール語の4つです。なお、母国語はマレー語ですが、行政、ビジネス、教育分野等では英語が最も広く使用されています。
4.通貨
通貨はシンガポール・ドル(略称S$. ドルとセントを使用)であり、1973年以来変動相場制を採用しています。また、シンガポールに中央銀行はなく、金融監督庁(Money Authority of Singapore)がその機能を有しています。
5.政治
シンガポールは、1965年8月9日、マレーシア連邦から独立しました。政体は立憲共和制で、大統領(6年ごとに国民投票により選任)を元首としており、議会は一院制。大統領は議会の過半数の信任を有した国会議員を首相に任命します。ちなみに選挙権は21才以上の市民が有しています。
6.経済
- (1) 発展の経緯
シンガポールは、天然資源に恵まれず、国内の市場規模も小さいことから、政府は、国内経済を発展させるため、港湾、空港、情報通信等のインフラを整備し、低減税率等の各種優遇措置を提供することで積極的に外資を誘致し、工業化の促進、輸出の拡大および国際金融市場の中心となることを目標としてきました。また、シンガポールは、政治情勢も非常に安定しており、事業に関する規制も少なく、英語を理解する良質な労働力を得やすいなど、外資が進出しやすい投資環境が揃っていると言えます。
結果として、これらの投資環境が外資の製造業(電子製品、部品、化学品、石油関連等)や金融機関によるシンガポール投資を促進させ、シンガポールにアジア、太平洋地域における事業拠点または統括拠点として今日機能する時代を迎えたと言えます。 - (2) 産業構造
現在、GDPに占める製造業、建設業の割合が全体の約3割、また卸小売業の他、良質な港湾、空港を利用した運輸業、高度に整備されたインフラを利用した通信業、金融業等のサービス業が約7割となっています。また、製造業の生産額の約6割が輸出されるなど、政府の掲げた経済政策が反映された産業構造となっているのが特徴と言えます。また、国内市場が小さく、外需依存度が非常に高いことから、米国、欧州、日本等の景気の影響を受けやすくなっています。 - (3) 今後の発展戦略
政府は、今後の経済発展の方向性として、近隣諸国との差別化を図り、シンガポールの優位性、独自性を保持するために、資本集約型、知識集約型産業のさらなる高度化、高付加価値化を目指し、企業の研究開発部門、統括本部機能、ファンドマネジメントを含めた高度な金融サービス等のシンガポールへの誘致を従来以上に積極的に行うことを表明しています。さらに、発展が期待される新規分野として、高度な先端技術を必要とする情報通信、生命科学や、教育サービス、ヘルスケアサービス等の分野を指定し、その人材育成や海外からの人材の獲得にも余念がありません。また、自由貿易の推進に積極的なシンガポールは、すでに、米国、日本、オーストラリア、中国、インド等と自由貿易協定( FTA )を締結しています。加えて、もう一つの柱として、観光業にも力を入れています。
投資形態ごとの設立と運営
1.ビジネス形態
シンガポールでビジネスを行う場合の形態としては次の4種類があります。
- 会社法(Company Act)の規定に基づき設立された法人(外国法人の支店を含みます)
- パートナーシップ
- リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ
- 個人事業
2.会社関連法律
シンガポールにおける会社に関する主要法律として、会社法( Company Act )があり、会社設立に関しては、会社法に規定されています。
3.営業許可の取得
企業活動に何ら規制がないシンガポールではありますが、製造業では危険物を取り扱う際やビールを製造する際などに所轄省庁から許可を必要とします。また金融・保険業、観光業、飲食業、製薬業、不動産業、学校運営等についても所轄省庁からのライセンス取得が必要です。
4.現地法人設立手続
1. 設立手続の実施者
会社の設立手続は、シンガポールのNRIC Holderであれば、本人自身でも実施可能ですが、通常はプロフェッショナル・ファームやセクレタリアルサービス会社と呼ばれる事務代行会社が代行していることが多いです。
2. 会社種類 会社法上、設立が可能な会社の種類は下記のとおりです。
- (1) 株式有限責任会社 (COMPANY LIMITED BY SHARES)
- (2) 保証有限責任会社 (COMPANY LIMITED BY GUARANTEE)
- (3) 無限責任会社 (UNLIMITED COMPANY)
株式有限責任会社については、さらに株式を一般公開(上場ではない)するPUBLIC COMPANYと公開しないPRIVATE COMPANYがあり、外資系企業は後者を選ぶ場合が多いです。したがって、ここではこの株式非公開有限責任会社 (PRIVATE COMPANY LIMITED BY SHARES) の設立手続きを述べます。 会社定款上、会社定款 (MEMORANDUM AND ARTICLES OF ASSOCLATION) に下記の事項が記載されている場合、PRIVATE COMPANYとして設立されたものとみなされます。
- (1) 株式の譲渡が制限されている
- (2) 株主数を50名以下に制限する
- (3) 株式および社債の公募を禁止する
- (4) 利付であるか否かを問わず、期限付もしくは要求時返済借入金を一般に対し募ることを禁止する
3. 発起人および取締役の選任
2004年4月の会社法改正により、最低1名のシンガポール居住発起人のみで会社設立が可能となりました。発起人は会社法により会社の初代取締役に選任され、1株を引き受けます。居住発起人および初代取締役については、有効期限が6ヶ月以上残存しているEMPLOYMENT PASSを有する外国人でも可能です。法人が発起人となることも会社法上可能ですが、設立手続きが複雑になるため、個人が発起人となり、会社設立後に個人から法人に株式を譲渡するという方法が通常とられています。
4. 会社名の予約
会社設立にあたっては、まず会社名の予約を会計・会社規制庁(Accounting & Corporate Regulatory Authority = ACRA、旧会社登記局)に対して行います。ACRAでは予約会社名がすでに登録されている場合を除き、類似商号については当事者間で解決する問題として、社名予約時には拒否しないという姿勢をとっています。
PRIVATE COMPANYの場合、その名称中に “PRIVATE(または略号のPTE.)” の文字を含まなければならず、上記 LIMITED (LTD.) の直前に位置することが必要です。たとえば、ABC有限責任会社(PRIVATE LIMITED COMPANY)の場合、その名称としてABC PRIVATE LIMITEDまたは ABC PTE. LTD. とし、PTEとLTDの後には必ずピリオドを付けることになっています。また社名の冒頭にSingaporeと冠するのは、通常は認められないことになっています。また社名にSingaporeが入る場合は、承認に時間がかかる場合があります。
商号は電子申請後、直ちに認可され承認日から2ヶ月間有効となるため、通常はこの間に会社設立の申請を行いますが、ACRAに対して所定の申請書を提出すればさらに2ヶ月の延長が認められるので、最長4ヶ月間の予約が可能です。
5. 株式の種類および払込資本金の決定
額面株式制度の廃止により、払込資本金額カテゴリーが撤廃され、発行済み株式数のみACRA の台帳に記載されます。払込通貨については、S$.以外の通貨を利用することも可能です。また、株式については、普通株式の他、優先株式の発行も可能です。
6. 登記上の住所の決定
会社は設立の日までにシンガポール国内に登記上の住所を持つことが必要で、これにより会社に対する政府からのすべての通信、通知等は当該住所宛に行われることになります。なお、当該住所は土曜日、日曜日および祝祭日を除く平日の営業時間において3時間以上開業されていることが必要です。
通常の場合、会社の主たる事務所が登記上の住所として登録されますが、上記期間内に会社事務所を設けることが不可能な場合には事務代行会社(Secretarial Service Company など)に依頼し、一時的に当該事務代行会社の事務所を登記上の住所とすることもできます。
7. 会社定款の作成
日本における会社定款に類するものとして 「MEMORANDUM AND ARTICLES OF ASSOCIATION」があります。これは、会社の対外関係だけでなく、対内関係を明確にする、いわば内部諸規定的性格も持ちます。対外関係を規定するMEMORANDUM OF ASSOCIATION部分の必要記載事項は、次のとおりです。
- a ) 会社名、住所(本店所在地)
- b ) 株主の負うべき債務が有限である旨(LIMITED COMPANYの場合)
- c ) 発起人の氏名・住所および職業
- d ) 発起人の宣誓:発起人は MEMORANDUM OF ASSOCIATION に記載されるところに従って、会社を設立する旨および MEMORANDUM OF ASSOCIATION に記載される発起人引受株数を引受けることに同意する旨を宣誓します。
ARTICLES OF ASSOCIATION 部分の記載事項は会社により異なりますが、通常の場合、会社法に定められている標準定款を採用しています。
通常の場合、会社の主たる事務所が登記上の住所として登録されますが、上記期間内に会社事務所を設けることが不可能な場合には事務代行会社(Secretarial Service Company など)に依頼し、一時的に当該事務代行会社の事務所を登記上の住所とすることもできます。
8. 会社設立の登記
上記手続完了後、いよいよ設立登記が行われます。シンガポール国内で事業を行おうとする法人は、内外法人を問わず登記を行わなければなりません。登記は BIZ File と呼ばれるコンピュータのオンラインを使用した電子登録システムを使用して行われ、通常、登記料(S$.300)は登記を代行する セクレタリアルサービス会社などの銀行口座から自動引落しされます。
登記完了後、直ちに会社設立証明書がACRAよりEメールにて送付され、これにより会社は法人として成立したことになります。会社設立証明者オリジナル版は通常発行されませんが、別途料金(S$.50)を支払えば、設立後7日で取得可能です。
9. 電子登記(eファイリング・システム)について
現在ACRAでは、上述のとおりBIZ Fileシステムを採用し、すべての登記事項を e ファイリング・システムにより受付けています。同システムへのアクセスは随時可能ですが、登記を行う際には Sling Pass と呼ばれる CPF (中央積立金)の加入者Pin番号またはACRA IDが必要です。ACRA登記提出書類については、PDF等の電子ファイルにて添付することも義務付けられています。
5.会社設立後の手続
1. 第1回取締役会の開催等
会社設立の日から通常1ヶ月以内に第1回の取締役会を開催し、下記事項が決議されます。
- (1) 取締役会議長の選任
取締役会に議長を置くか否かは会社の任意ですが、議長が決定投票権(CASTING VOTE)を持つ旨を会社定款で定めている場合が多いです。 - (2) 会社取締役の選任および辞任
通常は会社定款に従い、会社発起人が会社設立後の初代取締役に任命されていますが、これ以外に必要と認められる取締役の任命を行います。取締役の内、現地業務責任者に対し「MANAGING DIRECTOR」の名称を付するのが一般的ですが、会社法ではその任命は特に要求されていません。また、会社設立のために一時的に発起人となり、取締役に就任した人は通常、この時点で取締役を辞任します。 - (3) 会社秘書役(Company Secretary)の選任(法定:設立後6ヶ月以内)
- (4) 登記住所の承認
- (5) 発起人に対し株式を発行すること、および発起人を株主として登録すること
- (6) 増資
まず最低1株で会社が設立され、第1回取締役会で必要資本の増資決議が行われます。なお、増資決議は取締役会の決議のみで可能ですが、取締役が新株を株式申込人に割当てるためには株主総会の決議によりその権限が取締役に与えられていることが必要となります。通常、第1回取締役会で臨時株主総会の招集決議をし、総会でこの権限を取締役に与えた上で、再度取締役会を聞き増資新株を本来の株主に割当てるための決議をする手続がとられます。また、上記(5)で発起人に割当てられた株式は本来の株主に譲渡されますが、これは第1回取締役会で決議してもよいし、増資新株の割当決議と同時に決議してもかまいません。なお、出資は必ずしも現金で行う必要はなく、申請により機械設備等による現物出資なども認められます。 - (7) 会社印章(COMMON SEAL)の採用
COMMON SEALは、いわゆる刻印であり、それが必要な書類は各種契約書です。その刻印を行う際には取締役会決議を必要とするため、通常同刻印はセクレタリアルサービス会社が保管しています。 - (8) 外部会計監査人の任命
シンガポールでは株主が個人のみ20名以下で、かつ年間売上高がS$5.百万以下の企業を除くすべての会社に対して公認会計士(Certified Public Accountant)の監査が要求され、会社設立後3ヶ月以内に外部会計監査人を任命することが要求されています。 - (9) 決算日の決定(決算日は随意に選択可能です)
- (10) 取引銀行口座および小切手の署名権限者等の決定
2. 第1回取締役会等に関し、ACRA等に提出する書類
第1回取締役会等で取締役、秘書役、増資等、会社の実態としての諸要件が整備されます。これらに関しても、以下のような法定書類を決議後1ヶ月以内にACRAに提出することが要求されています。
- (1) FORM45- 取締役就任同意書。
- (2) FORM45B- 会社秘書同意書。
- (3) FORM44B- 登記上の住所の変更があった場合、2週間以内に提出します。
- (4) FORM11- 株主総会で取締役が株式の割当発行する権利が与えられた旨の決議を通知します。
- (5) Share Transfer FORM- 最初の株式が発起人から本来の株主に譲渡されたことを通知するFORMでStamp Duty Office(シンガポール税務当局印紙税課)に提出されます。
3. 法定書類等の作成・保管
会社設立後、取締役は自己の責任において下記法定書類等を管理・保管する義務を負います。一般的には、セクレタリアルサービス会社が保管することが多いです。
- (1) 株主総会および取締役会議事録 (Minutes Book)
- (2) 法定登録台帳
- a ) 株式発行簿 (REGISTER OF ALLOTMENT)
- b ) 株主名簿 (REGISTER OF MEMBERS)
- c ) 株式譲渡台帳 (REGISTER OF TRANSFERS)
- d ) 取締役名簿 (REGISTER OF DIRECTORS)
- e ) 支配人名簿 (REGISTER OF MANAGERS)
- f ) 会社秘書役名簿 (REGISTER OF SECRETARIES)
- g ) 株主たる取締役名薄 (REGISTER OF DIRECTORS'SHAREHOLDINGS)
- h ) 会計監査人名簿 (REGISTER OF AUDITORS)
- i ) 主要支出台帳 (REGISTER OF CHARGES)
- (3)未発行株券
4. 第1回決算書の承認
会社設立の日より18ヶ月以内に定時株主総会を開催し、その期間内に終了する第1事業年度の決算書(外部会計監査人による監査を終了したもの)の承認を得なければなりません。
5. 登記必要事項
ACRAが定める主な登記必要事項と登記期限は、以下のとおりです。
- ・ 取締役の就任、退任(発効日から1ヶ月以内)
- ・ 取締役詳細(自宅住所、パスポート番号)変更(変更日から1ヶ月以内)
- ・ 増資(増資日から14日以内)
- ・ 会社住所変更(変更日から14日以内)
- ・ 年次報告(年次株主総会から1ヶ月以内)
6.会社の機関
1. 取締役および取締役会
人数
すべての会社は、最低1名の取締役が必要です。また、取締役のうち最低1名はシンガポールに居住する者(シンガポール国籍を有する者だけでなく、有効期限が6ヶ月以上あるEMPLOYMENT PASSを所持する外国人も含む)でなければなりません。
選任、解任
取締役会において、欠点補充または増員のために取締役を選任することができます。任期については会社法上の定めはなく、定款の定めによります(標準定款では、毎年Managing Directorを除く取締役1/3以上を改選の対象としています)。
取締役の責任、自己取引等に関する規制、および取締役会の開催、議決権等については、日本と大きく変わるところはありません。
2. 株主総会
- ・ 定時株主総会は暦年中に少なくとも1回、前回の総会開催日以降15ヶ月以内かつ決算日後6ヶ月以内に開催しなければなりません。ただし、設立第1期の株主総会は、設立日から18ヶ月以内に開催すればよいとされています。
- ・ 定時株主総会での決議事項は決算財務諸表の承認、取締役会で決議された配当の承認、取締役および外部監査人の選任および定款で株主総会の決議事項として規定されている事項です。
- ・ 臨時株主総会は、随時開催が可能で、重要な会社資産の譲渡、会社名変更、会社清算等が開催要項となっています。
3. 会社秘書役(Company Secretary)
取締役は1名以上の会社秘書役を選任することが会社法によって要求されています。会社秘書役は取締役会の下部機関であり、会社の事務に関する決議事項、諸手続等が会社法に準拠していることを確認することがその職務です。シンガポールでは、日本の監査役に相当する職務が存在しないために、この会社秘書役が一部その機能を果しています。会社秘書役は自然人かつ、シンガポールの居住者でなければなりませんが、特別な資格を有する必要はありません。
シンガポールの税制
1.租税の種類
(直接税) | (間接税) |
---|---|
1. 法人所得税 2. 個人所得税 3. 遺産税(2008年に廃止) 4. 固定資産税 5. 技能開発基金税 |
6. 印紙税 7. 自動車税(登録税、追加登録税、道路税) 8. 物品税 9. ホテルおよび飲食税 10. 財貨およびサービス税 11. 輸入税(関税) |
2.法人税および人所得税の概要
1. 所得税法(The Income Tax Act)
法人所得税および個人所得税とも「所得税法」に規定されており、この中に日本でいう国税通則法、国税徴収法、法人税法および所得税法が含まれています。日本における施行令、施行規則、基本通達、個別通達および租税特別措置法等の詳細な規定はなく、従来から判例や慣習によるThe Comptroller of Income Tax(税務当局)の判断に基づいて税務行政が執行されている面が各所に見受けられます。ただし、1993年から税務当局は「Interpretation and Practice」を公表し、また最近は様々なCircularもWeb上で公表する等、主要項目についてはその解釈をできるだけ明確化するよう努めています。
なお、税制改正については、毎年2月に行われる財務大臣の国会に対する予算演説の中で提言され、いくつかの項目については国会の承認を待たずにそのまま発効することが多いので注意が必要です。
2. 税率
法人所得税は、賦課年度2010年(2009年中に決算期末を迎える会社の課税年度)からは17%の税率となっています(税率の推移は本章Ⅲ.法人所得税 4.税率を参照ください)。なお、少額所得については一部免税が適用され、課税所得のうちS$10,000までは75%の免税(税率4.25%)、次のS$290,000に対しては50%の免税(税率8.5%)となっています。
居住者に対する個人所得税は賦課年度(2007年から、3.5%から20%までの累進税率)によって課税されます。なお、日本における都道府県民税、市町村民税および事業税のような地方税はありません。
3. 税務調査と関連者類の保存期間
日本と同様、所得税法上税務当局には立入調査権(Investigation)が認められていますが、日本のように税務調査官が各会社に実地調査にでかけることはほとんどありません。申告書等に疑義がある場合には書面による質問状が税務当局から送付され、それに各会社または税務代理人(Tax agent)である会計事務所が書面で返答し、疑問点を解決するという形態がとられています。このことは、税務当局と税務代理人との間で何回も文書のやり取りが行われるおそれを示唆しており、疑問点の解決や申告の確定に時間を要する一因となっています。
なお、所得税関連諸書類の保存期間については、2007年以前の書類については7年間、2007年1月1日以降の申告期間については5年間となっています。
4. 賦課課税制度
日本は自主申告制度ですが、シンガポールでは納税者から提出された申告書および資料等に基づいて税務当局が税額を賦課決定(Tax Assessment)するという賦課課税制度が採用されています。この賦課課税制度においては、現実の納税は賦課決定が行われた時点で行えばよいのですが、納税養務者の側で税務当局が賦課決定するためのベースとなる課税所得および納付税額の計算の上申告書の作成をしなければならないため、その手続の点からは実質的に自主申告制度と大きな違いはありません。
また、日本では納税申告を行うことにより納税額が確定します、シンガポールでは税務当局が査定を行い必要に応じて税務調査を行ったうえで最終税額を賦課決定することによって初めて税額が確定することから、その確定に時間を要します。通常の場合でも賦課決定は事業年度終了後2~3年かかり、過去の申告に疑問や問題がある場合にはさらに数年かかるケースもよくあります。
5. 課税年度
課税年度(賦課年度、YA:Year of Assessment )は、原則として毎年1月1日から12月31日です。たとえば、2010賦課年度は、2009年1月1日から2009年12月31日の暦年を対象とします。そのため個人所得税は暦年での課税となります。
なお、法人の事業所得についてはその事業年度をベースに課税することを認めていますので、利子所得等の事業所得以外の所得とその課税時期にずれが生じることがあります。ただし2005賦課年度からは、事案所得以外の所得についても事業年度をベースとして申告することが可能となっています。
6. キャピタル・ゲイン課税
法人、個人ともキャピタル・ゲインは原則として非課税です。ある取引から発生した所得が課税対象であるか否かは、その取引が損益取引か資本取引かによって判断され、資本取引から生じた所得は課税対象からは除かれます。つまり税務計算上益金となりません。またこれに対応して、資本取引から発生した損失であるキャピタル・ロスは、税務計算上損金算入できないことになります。
7. 交際費課税
シンガポールでは税法上の大前提として、業務に関係した費用であり、所得を得るために必要とした費用が損金算入可能な費用となります。これには、現時点では業務に直接関係がなくても潜在的な得意先等将来に取引が見込める相手先に対する支出も含まれます。すなわち、所得を獲得するためという観点からは、飲食や接待ゴルフ等の交際費についても、得意先の維持や将来の得意先開発のために要した費用と認められる限りにおいては、金額に上限がなく損金算入が認められています。
8. 罰則
所得税法に定められている罰則は次のようなものです。
- (1) 正確でない申告に対するもの
悪意のない申告上の誤りに対するもので、日本の過少申告加算税に相当します。合理的な理由があると認められるものについては追加税額の100%、合理的な理由がないと判断されたものについては追加税額の200%とS$5,000以下の罰金または3年以下の懲役もしくはその両方となります。 - (2) 故意・悪意による租税回避に対するもの
故意・悪意による租税回避に対するもので、日本の重加算税に相当します。追加税額の300%とS$10,000以下の罰金または3年以下の懲役もしくはその両方となります。さらに、重大かつ悪質とされた場合には追加税顎の400%とS$50,000以下の罰金または5年以下の懲役もしくはその両方となります。
9. 延滞税
課税通知書日付以後1ヶ月以内に納付されない場合は、5%の延滞税が課せられます。さらに督促状が発行された日から60日以内に納付されない場合には、延滞1ヶ月につき1%の延滞税が加算されます。この加算は最高12%であるため、最大で17%までの延滞税が発生する可能性があります。その後税務当局は、法的手段で未納付額を回収することになります。
10. 事前確認制度
事前確認制度は2006年から導入されています。これは、税務上の取り扱いについて税務当局に書面で事前確認の依頼をすることにより、原則として書面で回答がなされます。
3.法人所得税
1. 納税義務者
法人所得税(以下、法人税)の納税義務者は法人です。法人とは、シンガポールまたは外国で、シンガポールまたは当該外国の法律に基づいて設立された会社です。納税義務者は「管理支配地基準」により居住法人と非居住法人に区分されます。
- (1) 居住法人
シンガポールの会社法に基づいて設立されたか否かにかかわらず、取締役会がシンガポールで開催され、シンガポールで取締役が当該会社の業務執行の運営および管理(Control and Management)をしている場合、当核会社はシンガポール所得税法上、シンガポール居住法人となります。 - (2) 非居住法人
居住法人以外の法人であり、たとえばシンガポールの会社法に基づいて設立され、シンガポールで営業活動を行っていても、取締役会が外国で開催され、取締役が外国から当該会社の業務執行の運営および管理をしている場合には、当該会社はシンガポール所得税法上非居住法人となります。
法人の場合は課税所得の範囲および計算方法ならびに税率については居住・非居住法人とも同一ですが、非居住法人である場合には、経済拡大奨励法等に基づく恩典の対象企業となることができない、居住法人からの特定の支払が源泉徴収の対象となる、外国税額控除の適用がない、さらに租税条約に基づく限度税率(軽減税率)の適用対象とならないことに注意が必要です。
2. 課税対象
居住法人、非居住法人とも、原則として、
- 1 ) シンガポールから生じる所得(Accruing in)、または
- 2 ) シンガポールで稼得する所得(Derived from)、および
- 3 ) シンガポールで受領する所得(Received in)・・・(シンガポール国外源泉所得のうち、シンガポールに送金される金額)
が課税対象となります。
なお、国外源泉所得のうち特定の条件を満たすものについては後述「5.非課税所得および免税所得」のように、シンガポールに送金されても免税となっています。
3. 所得の種類
所得税法は、前述のとおり法人・個人の双方を対象にしており、特に法人の課税標準について明確な規定はありません。したがって、日本の所得税法のように所得をその種類ごとに規定し、それを合算して課税所得とする方法が採用されています。所得税法には6つの種類の所得が規定されていますが、そのうち法人に関係する所得は、次の4つです。
- 1 ) 事業所得
- 2 ) 投資所得:配当、利子または割引料
- 3 ) 資産所得:賃借料、使用料等資産から生ずる所得
- 4 ) その他所得の性質を有する利得または利益
4. 税率
賦課年度2010年から、課税所得に対して17%の税率が適用されています。現在までの法人税率の推移は以下のとおりです。
賦課年度 | 法人税率 |
---|---|
2010年 | 17% |
2008年から2009年 | 18% |
2005年から2007年 | 20% |
2003年から2004年 | 22% |
2002年 | 24.5% |
2001年 | 25.5% |
1997年から2000年 | 26% |
1994年から1996年 | 27% |
なお、賦課年度2008年以降においては、課税所得のうちS$10,000までは75%の免税、次のS$290,000に対しては50%の免税となっています。また、賦課年度2005年以降、新規設立会社で株主が個人のみで20名以下のシンガポール居住法人については、設立後3年間は課税所得のうち最初のS$100,000は免税とされています。これはさらに賦課年度2008年からは、さらに課税所得の次のS$200,000についても50%の免税が認められています。加えて、賦課年度2009年からは、「株主が個人のみ」の規定が緩和され、「株主の少なくとも1名が個人であり、かつ少なくとも10%の普通株式を有している」との条件に変更されています。
5. 非課税所得及び免税所得
次の項目は非課税または免税です。
- (1) キャピタル・ゲイン(ロス)
資本的取引から発生するキャピタル・ゲインは課税所得計詳からは除外されます。また、同様にキャピタル・ロスも除外されることになります。 - (2) 国外源泉所得のうち、以下のすべての条件を満たすもの
a) 2003年6月1日以降に国内で受け取られるもの
b) 所得の種類が以下に該当すること
1) 国外法人からの配当収入
2) 国外支店の営業取引からの所得
3) 国外サービス収入
c) 源泉地国における表面税率が15%以上であり、かつ対象となる国外所得がその源泉地国で課税されていること - (3) 国内法人からの受取配当(ワンティアシステム移行後)
ただし2010年1月21日まで一時的に、上記(3)の条件が凍結され、また2009年1月21日以前に稼得された国外源泉所得についても、2010年1月21日までの間にシンガポールに送金され受領された場合、課税が免除されています。
6. 優遇税制
優遇税制については、主に所得税法および経済拡大奨励法において定められており、一定の条件のもと特定の所得が非課税扱いとなり、各種軽減税率が適用されます。
7. 事業年度
会社は自由に決算日を選定することができます。たとえば、親会社に合わせて3月31日を決算日としたり、12月31日を決算日としたりすることが可能です。シンガポール税法は暦年基準を採用しており、事業所得以外の所得については暦年での申告が要求されているため、12月31日以外の決算日を採用した場合には従来課税所得の計算上調整手続が必要でした。
ただし前述のとおり、2005年賦課年度からは事業所得以外の所得についても課税年度をベースとして申告することが可能となり、2009年賦課年度からはすべての所得の申告が課税年度ベースに強制的に一本化されています。
8. 賦課課税
シンガポールでは、日本のような自主納税申告制度ではなく、納税者から提出された資料に基づいてThe Comptroller of Income Taxが賦課決定するという賦課課税制度が採用されています。この賦課課税は、暦年(1月1日から12月31日まで)を基準として行われます。これを具体的に説明すると次のようになります。
- (1) 事業年度が2009年1月1日から2009年12月31日までの会社の場合
この会社は12月31日が決算期であるため、税務上の暦年基準と一致しています。この2009年12月31日に終了する事業年度に対して、2010年に法人税の課税が行われます。2009年12月31日期は税務上基準年度(Basis Year)、2010年は賦課年度(Year of Assessment)と呼ばれます。 - (2) 事業年度が2009年4月1日から2010年3月31日までの会社の場合
この会社の基準年度は2010年3月31日期であり、賦課年度は上記1)の会社と異なり2011年となります。納税義務者の各賦課年度の課税対象となる所得は、基準年度に稼得した所得の金額です。
9. 申告期限
毎年3月から4月に、税務当局から法人税申告書(Form C)が送付されます。このForm Cの提出期限は、賦課年度2009年以降、11月30日となっています。基本的に延長は認められません。Form Cには、課税所得金額および納付税額の計算明細書(Tax Computation)および監査済財務諸表等を添付することになっています。
Form Cが4月30日までに送付されなかった場合には、税務当局のWeb siteよりダウンロードして利用するか、税務当局に申告書の送付を求めなければなりません(書面申告を行う場合)。もし会社が休眠中である場合、所定の申請書を税務当局に提出することにより申告書の作成と提出が免除されます。
4. 個人所得税
1. 納税義務者と課税の対象になる所得の範囲
- (1) 納税義務者の区分
納税義務者は、シンガポールにおける「居住」状況により、下記の範疇に区分され、それぞれ課税の対象となる所得の範囲および通用される税率も異なります。 - (2) その他特殊なスキーム
1 ) 地域駐在員(Area Representative)スキーム
駐在員事務所の駐在員がシンガポールをハブとして周辺国も同時にカバーする任務を負っている場合、シンガポール滞在日数に応じて、日数按分で課税される一種の税軽減措置が講じられています。
この地域駐在員に対するスキームは具体的には駐在員事務所(市場調査や情報収集等、営業活動を目的としない業務を行うために設置された事務所)の従業員、もしくは拠点を持たない非居住法人の従業員のみを対象とし、支店、現地法人の駐在員が頻繁に国外出張をしたとしても上記の取り扱いは適用されません。
地域駐在員としての特典を受けるためには、まず地域駐在員としての計算に基づいた申告書を提出し、後日、税務当局から地域駐在員としての仕事の内容等について詳細な説明を求められ、税務当局から了承が得られた場合にのみ特典が与えられます。なお、税務当局が説明に満足しない場合には、地域駐在員としての特典は認められず通常の課税がなされます。
税金の予納について
地域駐在員はシンガポール税法上の非居住法人に雇用されているため、税務当局は税金確保のため、翌年度の所得税額を見積計算し、銀行またはシンガポール現地法人から当該金額の納付に関する保証書(Letter of Guarantee)の提出を要求します。保証書の提出が不可能な場合には、翌年度の所得税相当額を当年度に予定納付するという予定納税方式(Advance Payment)をとることも可能です。
2 ) 非通常居住者(Not Ordinarily Resident = NOR)スキーム
地域を統括して活動する人の多くは上記地域駐在員の条件を満たすものではないことから、シンガポール政府は当地をアジアにおける経済活動の管理統括センターとして推進するため、賦課年度2003年からNORという納税スキームを以下の認定条件で導入しています。
- 1 ) NOR制度を利用できる資格を得る初年度の直前3賦課年度において、シンガポールの税務上居住者ではないこと
- 2 ) NOR制度を利用できる資格を得ようとする賦課年度においてシンガポールの税務上居住者であること
NORと認定された場合、その認定の初年度から5賦課年度の間、以下を含めた課税優遇措置が条件を満たした年度ごとに認められます。
- 1 ) NOR認定された者が、業務のために暦年で90日間以上シンガポール国外に滞在する場合、シンガポールにおける課税給与所得をシンガポールに滞在した日数で按分計算することができます。ただし、当該個人の税負担額が給与所得総額の最低10%という条件があります。
- 2 ) シンガポール国籍あるいは永住権保有者で無い場合に、海外の任意企業年金の雇用者拠出分に対する課税が免除されます。ただし、免除額はCPFへの雇用者法定拠出分を上限とします。
なお、賦課年度2009年からは、次のとおりNOR認定条件の一部改正が提案されています。
- 1 ) 按分計算の対象となる所得(以下、認定所得)を、給与所得以外の現物支給、有給手当まで拡大します。また、最低10%という税負担率基準を撤廃し、認定所得の最低額をS$160,000とします。
- 2 ) 海外の任意企業年金の雇用者拠出分の免税については、従来の条件に加え、認定所得が最低S$160,000であり、かつ雇用者がその雇用者拠出分をシンガポールで損金に算入しないことを条件とします。
3 ) 居住・非居住の判定基準と複数年にまたがって滞在する場合の取り扱い
納税義務の有無と、その課税対象所得の範囲を決定するための居住・非居住の判定は、前述のとおり質的基準または量的基準によって行われ、いずれかの基準に該当すれば税務上は「居住者」として取り扱われます。ここで質的基準とは居住の実態、すなわちシンガポールに定住しているか、「住所(Place of Residence)」がシンガポールにあるかにより判定するものであり、所得税法上は当然のことながら出生地、本籍、国籍または居所は考慮されません。
量的基準は賦課年度の前暦年度中におけるシンガポールでの滞在就労日数ですが、この日数基準は形式的に適用されるわけではありません。以下で、複数年にまたがってシンガホールに滞在する場合の日数基準の具体的な適用について説明します。
これらの方法は、現在税務当局が実務上採用している課税方法であり、質的基準および量的基準の双方を総合的に勘案して税務上の居住・非居住が判定されています。したがって、量的基準のみから居住者、非居住者(さらに準居住者としての課税)の判断がなされるわけではないので留意する必要があります。
以上が通常の実務ではありますが、税務当局は実態を判断して居住、非居住の認定を行いますので、その点留意をしておく必要があります。
4 ) 短期滞在者免税規定
日本とシンガポールとの租税協定第15条により
- 1 ) 継続するいかなる12ヶ月の期間においてもシンガポールの滞在期間が183日を超えないこと
- 2 ) その給与等の支払者が日本の居住者または日本法人であること
- 3 ) その給与等が日本の居住者または日本法人がシンガポールに有する恒久的施設によって負担されていないこと
の3つの条件をすべて充足する場合には、日本の居住者がシンガポールに183日以内の滞在をしても、シンガポールでの課税を免除されます。
この免税措置を受けるためには居住証明書(IR585)に日本の税務署から証明を受け、シンガポールの税務当局に提出することが必要です。
2. シンガポール国内源泉所得とシンガポール国外源泉所得と課税関係
賦課年度2005年(暦年2004年)からシンガポール居住者の課税対象となる所得は、
- シンガポールで生ずる所得 (Accruing in)
- シンガポールで稼得する所得 (Derived from)
のみとなり、従来課税対象であったシンガポールで受領する所得(国外源泉所得のうち、シンガポールへ送金された金額)については免税となりました。
日本の親会社からシンガポール子会社への出向日本人従業員(居住者)を例にとって課税対象所得を説明すると次のようになります。
所得の内訳 | 所得の受領地 | 所得の源泉地 | シンガポールにおける 納税義務 |
---|---|---|---|
本給 | シンガポール | シンガポール | あり |
〃 | 日本 | シンガポール | あり |
留守宅手当等 | 日本 | シンガポール | あり |
賞与 | シンガポール | シンガポール | あり |
〃 | 日本 | シンガポール | あり |
投資所得 (預金利息、受取配当等) |
日本 | 日本 | なし |
不動産所得(家賃収入) | 日本 | 日本 | なし |
上の表からも分かるように、シンガポールでの就労に基づく所得は、その名目、支払地、シンガポールへの送金の有無にかかわらず、すべてシンガポールにおいて納税義務が生じます。一方、日本での投資所得や不動産所得については、現在はシンガポールへの送金の有無にかかわらず、シンガポールでの納税義務はありません(シンガポール内のパートナーシップを通じて得ているものを除きます)。
日本に住所を有していた者が、「国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する」という前提で出国した場合、その者は日本国内に住所を有しないものと推定され、出国時点で日本の非居住者となります。その結果、留守宅手当等および賞与は日本の国外源泉所得となり日本では非課税となるため、当該留守宅手当等に対しては、日本において源泉徴収は行われません(取締役報酬は除きます)。
3. 課税所得金額の計算
(1) 居住者が給与所得者の場合、納付すべき税額は次のようにして計算されます。
(2) 非居住者の場合、居住者と同様に計算された税額と、総所得金額に一定の税率(15%)を乗じて計算された税額とのいずれか大きい金額が納付すべき税額となります。
(3)総所得金額に含まれる主な項目
- 1 ) 給料・賞与等(厚生年金自己負担額および各種社会保険、社員持株会会費等控除前のグロス額)合計金額
- 2 ) 個人所得税の会社負担分、住宅手当、通勤手当、海外勤務手当等各種手当
- 3 ) シンガポール法人が負担する日本での強制加入型年金(厚生年金保険)、任意加入方年金基金(厚生年金基金、確定拠出型年金等の企業年金基金)、その他の各種社会保険の雇用者拠出分
- 4 ) 日本法人が負担する任意加入年金(厚生年金基金、確定拠出型年金等の企業年金)の雇用者拠出分
4. 非課税所得
以下の項目は非課税です。
- 1 ) 死亡による退職金、解雇補償金
- 2 ) 死亡もしくは障害に対する見舞金
- 3 ) 中央積立金 (Central Provident Fund) の脱退時に受取る掛金の払戻金(利息を含みます)
- 4 ) シンガポール滞在日数が60日未満である非居住者(シンガポールの会社の常勤取締役、芸能人、音楽家および職業運動家等を除く)の給与所得
- 5 ) シンガポール船籍乗組員の給与・賃金
- 6 ) キャピタル・ゲイン
- 7 ) 受取配当金、金融商品からの投資所得(下記参照)
5. 金融商品からの投資所得の免税
従来、シンガポール居住者は、配当金、利子、割引収益等の投資所得について課税されていましたが、2005年1月1日からすべての金融機関からの利子所得が非課税となりました。また2004年1月1日からは、金融機関からの投資収入 社債券からの利息および割引債券収益、年金・投資型生命保険収入、ユニットトラストおよび不動産トラスト配当、借入手数料、ローンリベート、証券貸付および買戻し取引収入)すべてが非課税となっています。
6. 所得税の申告・納付
(1) 申告書の入手
現在は、E-filing による申告が一般的となっています。
(2) 申告者の作成・提出
個人の申告期限は4月15日(申告書による申告)又は4月18日(E-filingによる申告)で、申告期限までに申請することにより申告期限の延長が可能です。
TAX AGENT
日本人駐在員(または出張者)の場合、住宅、車輌の現物支給分および日本払い給与分等、申告内容が複雑であるため、通常は会計事務所内の税務部門が税務代理人(Tax Agent)となり、申告書の作成・提出等の作業を代行しています。
(3) 所得税の納付
4月15日の申告書提出後、その時期は各個人により異なりますが、通常は6月から9月頃までに納税通知書 (Notice of Assessment) が送付されてきます。同通知書日付から1ヶ月以内に記載された税額を納付しなければなりません。なお、納付すべき税額は必ずしもTax Agent が算出した税額と同額ではなく、税務当局により何らかの修正が行われる場合もあります。
通知された課税額に異議がある場合には、通知を受けた日から30日以内に税務当局に対して異議申立書を提出し、再審査、更正を申し立てることができます。ただし、納税は異議の有無にかかわらず、課税通知書日付から1ヶ月以内に行うことが必要です。
更正により税額が減額された場合、差額は後日小切手によって還付、または翌年度の納付税額に充当されます。
(4) 分割納税制度
上述したとおり、個人所得税の納付は原則として課税通知書日付から1ヶ月以内に行うことが必要ですが、GIRO(銀行口座自動引落)による最高12回までの分割納付も認められています。
(5) 延滞税
課税通知書日付以後1ヶ月以内に納付されない場合、5%の延滞税が課せられます。さらに、督促状が発行された日から60日以内に納付されない場合は延滞1カ月につき1%の延滞税が加算されます。この加算は最高12%までであり、したがって17%までの延滞税を覚悟すれば最高15ヶ月間納付を遅らせることができます。