話題騒然のダークホースアニメ「琴浦さん」の原作とアニメの比較というネタをやろうと思ってずるずる引きずってたんですが、ちょっと興味深いまとめが出てきたのでネタにしてみます。
nishi_51氏の琴浦さん批評「あの世界は前提がおかしい」 Togetter
うん、予想してたけど殆ど原作ネタ出てきませんね。
なので仕方ないのでしゃしゃり出てきます。
それほど擁護するほど熱を上げてるわけではないのですし、disる気もあまりないので、事実上「今まで琴浦さん絡みのネタにしたかった」ことのダシにするだけですが。
結論から言うと、「琴浦さん」を「悪意に晒されて不幸な女の子(琴浦さん)を助ける俺(真鍋)カッケー」を強化したのは原作者えのきづ先生ではなく、アニメスタッフ(太田雅彦監督orあおしまたかし氏)だと思います。
原作にも要素にはあったものの、それを抽出して大がかりに見せようとしたのはアニメスタッフです。
その上で原作のテーマを抽出してるアニメ「琴浦さん」は良く出来てるというのが個人的な見解です。
『琴浦さん』太田雅彦監督の1クールアニメ構成法 あにめマブタ
http://yokoline.hatenablog.com/entry/2013/01/15/234718
僕がアニメ「琴浦さん」を評価するのは、原作の本筋を読み込んでそこに忠実に本質に崩れず見せているという所でして。
「鬱展開」だの「10分耐久動画」だの言われてますが、Aパートは特にオリジナル多めです。
とりあえずアニメ1話の「原作にもある描写」と「アニメにしかない描写」を比較して行ってみたいと思います。
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・和尚さん&爺さんの先行登場
サブレギュラーとして登場する和尚さん・お爺様の先行登場。
・春香と両親のやり取り
「心の声と会話の区別がつかない私は…人に知られたくないことをなんでも明るみにしてしまったの…」
「あの子の他愛のない戯言のせいで恋人にも夫にも捨てられた私のようにね」
「酷いわ春香。どこまで私達を滅茶苦茶にすれば気が済むの!?」
両親の前で浮気を暴露して恨まれる春香。
個人的にここらへんで両親を責めるコメントが某ニコで多いのは気になる所。
ただ読心能力で両親の関係を滅茶苦茶にしてしまったのは原作設定。
「こんな子産むんじゃなかった」
「あんたなんか産むんじゃなかった」
「こんな子」「あんた」のニュアンスは違えども、
爺さんが聞いていて怒り狂い、春香が絶望したその言葉は本当。
だからここで母ちゃんの唇が動いているのは演出的に正解。爺ちゃんも聞いている必要がある。
母親に捨てられてから、部屋で泣きながら謝っていた春香。
琴浦家と個人的なつながりが生まれていた和尚さんも心配するカット有り。
そして「卵焼き」のくだり。
とある状況での夢ではあるけど、家庭が壊れる前には半熟玉子焼きを娘の為に作るような母親だった事も描かれている。
ここまでの比較画像で言いたい事というのは、原作だと春香の不幸というのは「家庭環境」にかなり集約されているということ。
とはいえ原作だと回想だったものの断片を集めたのがあのアニメ1話のAパートなので、やはりどうしても「自業自得」という感想が出てくるのも止む無し。
既に「家庭環境が可哀想な女の子」ってのはえのきづ氏リスペクトなのかもしれませんが、まぁそこはともあれ。
ここらへんの実はすごく琴浦春香というキャラを真筆に見てる感ってのはすごく太田組のいいなと思う所存です。
逆に原作にはない「アニメで盛られた描写」がいじめと猫。
ここらへんは「琴浦さんいじめ」の一環で、むしろESP研でつるむまで友達が居た方が不自然な子なんですが。
ただ前述したまとめの「悪意的なモブ」論で行くと、アニメでは間違いなく昔のクラスメイトや保健所に通報したおばちゃんの存在は盛られている。
琴浦さんは評価してるつもりですが、ここらへんの「盛り方」がちょい人によっては鼻がつくのかなという気はしてます。
監督の過去作に似たような「盛り方」をされた子が居ましたし。
いや、赤座のあかりんは彼女はカップリング相手が居ない(途中で姉ちゃんが出てきたけど)というのもアレだった理由で、少しずつ扱いは落ち着いて行くんですが。
でも「ゆるゆり」の頃からあった意見で、個人的には気にならなくてもなんとなくわかる意見であったんですね。
逆に言うなら、太田監督にフェミ・ジェンダーの思想があまりないという事で。そういうのは好意的に見てます。
・ジト目の女の子か、救いの手か
原作だと処女作として実験的に書いてる部分も多々あって、森谷だって「最初悪役として描いたらいつの間にか仲間になってた」というポジションでしたわけで。
原作1話の琴浦春香という少女は、ツンツンしてるジト目の女の子なだけでした。
ジト目で性格悪いけど放っておけない子というのがそういうコンせプト。
原作だとここらへんは真鍋視点なので「可愛いけど変な女」という描かれ方だったのも大きいかと。
しかしアニメ版では冒頭で春香の「かわいそうな過去」をやりきっちゃっている。
となると彼女がジト目してるのも、本来的なキャラじゃないという事になる。だから分かりやすくレイプ目となる。
それでも「馬鹿だから馬鹿って言ったのよ!」まではジト目がデフォルトなわけですが。
この台詞も、多分「重たそうなセリフ」で多分書いてる時はそれほど深く設定してなかったようにも見えるんですが。
しかしアニメではAパートによって、見るからに真鍋の発言が「地雷」にしか見えないというメソッド。
まぁ実際、琴浦春香というキャラ自体がESP研に拾われていったあたりから既に調子こけるようになっていってるわけでして。
調子に乗る原作浦さん
ぶっちゃけると「琴浦さん」のテーマは、琴浦春香が愉快な仲間達とつるんでいく内に笑顔を取り戻していくというモノになると思います。
そこまでモブをどう描くのかというネックはあるものの。
「春香ちゃん、学校は楽しいかい?」
そういう意味でアニメ版5話ってのは、原作でも「第二部」に突入して森谷と和解してESP研が安定路線に入っての「日常系」の路線なので、あれが本筋なイメージはあるんですよね。
その森谷を許せるかどうかというのは面倒くさい話題になると思いますが。
ただ琴浦春香が「人の善性しか見たがらない子」であって、それが母親や森谷、あるいは第三部で「春香を殺そうとしたとある人物」への態度にもなる。
そしてなんだかんだで森谷とは親友になり、母親や第三部の某キャラとも和解しちゃうって構造。
ただアニメ版はそういった部分を上手く拾い上げてるなぁと。
そうした「人は選ぶかもしれないけど、原作の本質的な構造」は決して崩してないというのが太田監督のいい所だと思います。
基本的に琴浦春香というのは調子ぶっこきがちなアホの子お嬢様でしかなくて、ただ彼女が笑っていられる事が幸福って、まぁそんな漫画ですからね。
原作の第1話のラスト。
「俺はこの笑顔を見るために近づいた」というのはアニメではないんだけど、あくまで真鍋の下心がはっきりしてて象徴的です。
男根性というキーワードが浮かんだけど、大分それが色濃い印象。
で、アニメ版はアニメ版で第1話Aパートはどんどん空気が暗くなっていって、でも真鍋と出会っただけでそげぶされちゃう所も書いてしまっている。
そこに良くも悪くも「悲劇的な女の子を救う」という要素が、アニメではより強調されている演出にも見える。
でもさー。
好き嫌いは分かれるだろうけど、それはそれで王道パターンの一つに見えるんですけどね。
良くも悪くも「男の考えたラブコメ」っぽさはあるけど、それを上手く見せていると思うし。
多分「ゆるゆり」と「琴浦さん」の違いは、なもりとえのきづの違いだと思います。
それだけ作者の人格自体はそう違和感もないんですよね。
このアニメ、根本的に「原作と別人」が居ないってのもあると思います。
琴浦も真鍋も部長も室江も森谷もそんな「別人感」はない。
そのバランスってのは大田監督×あおしま氏の安定性ですね。
盛りながらも本質を壊してないってのが、太田監督の強みだと思うんですよ。
そういうスタンスってのは今後も応援していきたいですねってお話です。
・おまけ
「不幸な女の子を差し出せメソッド」といっても、06年冬に太田監督はそのメソッドに敗北してるんですよね。
左が6年前に太田監督が手掛けた「夜明け前より瑠璃色な」
右が「可哀想な女の子を助ける俺」メソッドに満ちた作品。
そう京都アニメーションが手掛けたその作品は「Kanon」といいます。
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まぁ今の京都は置いといても、「作画が強い京アニ」のイメージとAIR・Kanonは切っても切り離せないはずだったんですが……どこぞのマジ天使のせいっすかね。
「夜明け前より瑠璃色な」こと「キャベツ」は、そのガンダムのハロのようなキャベツっぷりを散々disられ、散々京アニの作画能力を語る際の出汁にされ、太田監督自体もトラウマになってるという。
キャベツは繰り返してはならぬ……ならぬのだ……(キャベツオチ)