東愛知新聞 題字

壮大な夢の果てに
豊川工陸上部の体罰問題を考える


(6)戸惑う父母ら 現場復帰願うも複雑な感情

  今回の体罰問題で、教諭(50)は陸上部の部活指導から外された。復帰のメドは立っておらず、多くの部員、父母らは「一日も早い現場復帰を」と願い、復帰の署名活動に取り組む。だが、保護者の感情は複雑だ。
 母親の1人は保護者の気持ちを代弁して、こう明かす。「素晴らしい指導力と、子どもを思いやる気持ちがひしひしと感じられる一方で、子どもたちを苦しめる体罰があり、暴言を吐くこともある。どちらが本当の先生なのか、私たちもわからないのです」
 別の母親はこう言う。「うちの子への体罰は、ほとんどない。でも、指導に際して“おまえは、母親に似てずるいところがある”などと保護者を引き合いに出して非難する。子どもはつらい思いをすることもある」
 もう一つ保護者を戸惑わせているのは、厳しさと優しさが同居というより、表裏一体で現れる教諭の態度だ。
 「厳しく叱った次の瞬間、子どもの表情に反省や後悔がみられると、ものすごく優しくなる。叱った後に強く抱きしめる感覚。子どもたちは複雑な感情を持つみたいです」
 いま、部員たちの多くは県教委宛てに、教諭の現場復帰を願う手紙を書いているという。教諭の指導で自分たちがどれほど成長できたか、そして教諭が指導から外れている現在の不安などをつづっている。
 ある母親は電話口の向こうで、本紙の記事に対して抗議の声を放った。「なぜ1人や2人の転校者や退学者を出しただけで、おたくは大騒ぎするんですか」。だが、糾弾するはずの母親の声は動揺していた。ヒステリックな言い方の向こうに不安と戸惑いが透けていた。
 取材の中で明らかになってきたのは、教諭の中に謙虚と横暴、愛情と侮べつ、高邁(まい)な理想と現実蔑視など相反する2つが同居してしまっていることだ。
 立派な指導者の中に、巣くってしまった格好の体罰と暴言。部員も、保護者は困惑している。そして私たちも。

豊川工陸上部の体罰問題を考える メニューへ 2013年2月9日紙面より抜粋



住まい検索