先週1/29(土)に、写真家・古川 裕也さんの写真展「ランドスケープ・イリュージョン」のギャラリートークに行ってきました。
「ランドスケープ・イリュージョン」とは?
「ランドスケープ・イマージョン」という術語は、もっぱらアメリカで磨き上げられてきた動物園の展示技法を指します。
それぞれの動物展示施設で、その動物種に相応しい景観を再現することで来園者に、まるでその動物の野生の生息地に入り込んだような感覚を抱かせようというものです。
直訳としては「風景に浸しこむ(イマージョンはエマルジョンと同じです)」ということになります。
結果として、それぞれの動物にもその特性にあった飼育環境を提供できる可能性を孕んでいます。本来に近い環境の中での本来に近い生態・行動の展示という意味で「生態的展示」という概念とも結びつきます。
ではあらためて、古川さんの言う「ランドスケープ・イリュージョン」とは?
詳しくは、御本人のブログでの記事を御参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/yutaka_tokyo_usb/20110124/1295884738
以下は、古川さんのギャラリートークを聞きながら、わたしが解釈したものです。文責はわたしということで、宜しくお願いいたします。
古川さんは、パリの自然史博物館のジャルダン・デ・プラント(植物園)を訪れた折、その中に組み込まれた動物園も御覧になったそうです。そして、たまたま動物の姿が見えない時、整備された植栽の放飼場が、ふと不思議な世界に迷い込んだ感覚を呼び起こされた、とか。
その感覚はアメリカの動物園が意図的に練り上げた「ランドスケープ・イマージョン」の発想の源でもあるでしょう。
日本でも植物園での動物展示の例はあります。
神戸市立森林植物園のニホンカモシカ(籍は神戸市立王子動物園にあるとのことです)。園内の一角の渓谷にあります。
こちらは埼玉県こども動物自然公園。分類としては「動物園」でしょうが、やはり園内の一角に渓谷があり、そこに御覧のような橋のかたちの遊歩道があります。「カモシカ生息地」と書かれていますね。
歩いている親子さんはまったく気づいていませんが、橋の下に注目(゜_゜)
「見~た~な~……」
在来の森の一部を囲い込み、そこを整備しながらカモシカを飼育・展示しているということのようです。ニホンカモシカは日本産動物ですし、このように文字通りの自然に近い森を利用した飼育・展示も興味深いと思います。
しかし、フランスでの体験から日本でも動物園の放飼場そのものの姿に注目してみるようになった古川さんは、もっと意図的な構成の要素の強い施設に惹かれていったようです。まず、彼の目についたのは大阪・天王寺動物園のサバンナやアジアゾウの施設、これはこのブログでも紹介させていただいた「生息環境展示」の理念によってつくられています。実例は、拙いながら該当記事を御覧ください。
http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=226
http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=251
天王寺動物園の生息環境展示は、大阪芸術大学の若生謙二さんの制作にかかっており、この展示理念と技法自体は、若生さんの最新の制作でもある長野市茶臼山動物園の「レッサーパンダの森」で、「レッサーパンダの本来の生息地とも通じる信州の高冷地の風土を活かし、擬岩・擬木を一切使わない施設を構築する」というかたちで、さらに発展しています。
これも最近、レポートさせていただきました。
http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=1406
http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=1447
http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=1505
さて、それはともあれ、古川さん自身は天王寺動物園の施設に深く魅せられながらも、国内にはそういうタイプの施設は少ないということもあり、あらためて動物園の放飼場を「野生という戯曲が演じられる舞台」と捉えて、人工性がくっきりしているもの(たとえば、白いコンクリートでつくったホッキョクグマの放飼場)も含めて、こつこつと写真を撮り貯めました。
これらの撮影のひとまずの成果が今回の写真展でした。「舞台への注目」という発想もあって、動物の映っていない写真がほとんどです。
わたしの感想としては、まず「腕と発想のある人が撮る写真はちがうなぁ(´∀`)=3」と。わたしたちの肉眼での視野も意識しながら、巧みに切り取られた景観は、結果として「生息環境展示」や「生態的展示」を意識した施設では、ナマの観覧以上にその意図を浮かび上がらせています。また、人工性の強い施設も、普段、わたしたちが動物の背景として、むしろ無意識化しているものをあらためて呈示していると感じます。おしなべて、まがりなりにも動物園をテーマに活動している者としても「舞台」という発想と着目は新鮮であり、学びや気づきのきっかけになり得ると考えています。
勿論、純粋に写真表現として鑑賞しても大いに楽しめるものです。奇を衒っているところはまったくないにも関わらず、写し出される放飼場はわたし自身の同じ場所の記憶とはどこか異質でエキゾティックさが漂います。「動物のいない放飼場」という呈示の仕方自体にも、そういう感覚を喚起する面があるのかもしれません。
東京での展示は終わってしまいましたが、次は5/5(木)-11(水)に、大阪のニコン・サロンでの開催が予定されています。
僭越ながら、お勧めです(^_^)b
古川さんのプロフィールや仕事の全体像に御興味のある方は、下記を御覧ください☆
タグ: ニホンカモシカ, 写真展, 古川裕也, 埼玉県こども動物自然公園, 神戸市立森林植物園