開発エピソード
-
N700A 開発エピソード
「東海道・山陽新幹線直通車両として最新・最速・最良の車両」のコンセプトをもとに誕生した、N700系。
しかし、技術者たちにとって、鉄道の安全性、安定性の追求は終わりのないものであった。平成14年度の小牧研究施設の開設に伴い、台車の故障検知システムの開発を開始。さらに平成18年度からは新たなブレーキ装置の開発にも本格的に着手した。約6年にもおよぶ長期間の開発。数々の困難。それらが結実し生まれたのが、安定した強いブレーキ力を実現する「中央締結ブレーキディスク」。台車のわずかな故障も検知する「台車振動検知システム」。列車の遅れを速やかに回復する「定速走行装置」。数々の最先端技術が形になり、新幹線の安全性、安定性を一層向上させることに貢献した。
-
中央締結ブレーキディスク 開発エピソード
装置開発のきっかけは、2004年の中越地震。
新幹線は、より安全な走行のための改良を求められた。
課題は、地震発生時の非常ブレーキの停止距離を可能な限り短縮すること。ヒントとなったのは、過去に挑戦した軽量なブレーキディスク開発のノウハウ。それを応用することから、ブレーキディスクの開発がはじまった。開発の中で、ブレーキディスクやライニングの検討にあたり、想定どおりの結果を得ることは困難だった。また実用化を見据えた車両走行試験装置や、Z0試験車を用いた試験は大変な手間と苦労を伴うものであった。しかしその繰り返しが、彼ら開発者にとって大きな自信につながっていった。
6年間にわたり、車輪単体で非常ブレーキを繰り返す耐久試験、ブレーキ性能の確認試験を実施。テストの最終段階では、Z0試験車に開発品を搭載し、通常の営業車に対して、約1000倍以上の累積負荷をかけ、性能確認を行った。
ブレーキシステムは鉄道の安全運行を維持する上での要となるものである。確認には万全を期した。現車試験ではデータを見極めながら、開発品の搭載を順次拡大する手順を踏み、中央締結ブレーキディスクを実現させた。
開発者たちは語る。「世の中に列車が出ていくまでが勝負だ」と。一度実装されると、やり直しは二度ときかない。そんな想いで開発に取り組んだ。6年間の開発が形となることは彼らにとっての至上の喜びに違いない。だがそれでも、現在の技術水準で更なる改良の余地が残されていないか、今も絶えず考えながら研究、開発を進めているという。
彼らの探究心に終わりはないのだ。 -
台車振動検知システム 開発エピソード
もしも台車に故障が発生し、進展してしまったら・・。
時速270kmで走る新幹線にとっては重大事故に繋がる恐れもある。そこで開発者たちは、高速で走行する新幹線台車の故障の前兆を早期に検出し、事故を未然に防止する状態監視システムの開発に着手した。構想5年。その後、新たな車両走行試験装置の設置に伴い、開発は加速した。平成19年から23年にかけ、故障再現試験を実施。同時にZ0試験車を用い、様々な正常時の基本データ取得を行った。開発の中で追求したのは「故障の前兆段階」で現れる特徴。それを分離、抽出するため、幾度とない試行錯誤が繰り返された。また、故障の原因となる振動を採取する必要があり、そのために不具合を忠実に再現する試験は、非常な困難を伴った。
長年の研究開発を繰り返してきた新幹線の台車は、高い信頼性を持つものである。しかし、故障を検知するシステムが、台車トータルとしていかに高い信頼性を確保するかについては腐心したという。苦労を惜しまず研究開発に取り組んだ結果、台車振動検知システムの開発に成功した。また、開発することそれ自体がゴールではない。システムを実用化に結びつけるため、車両搭載の際には、他システムとの組み合わせ、コスト低減策など、可能なかぎりの工夫を盛り込んだ。
「本開発は世界中でも殆ど例のない新たなチャレンジだった」、そう彼らは振り返る。世界で唯一無二のノウハウは、彼らがチーム一丸となって取り組んだ長年の努力が結実したものだった。
これまでの鉄道に、全台車の詳細な振動を常時把握できるインフラはなかった。今までの新幹線に本システムが実現することにより、新幹線の信頼性や快適性の向上につながると思うと、感慨深いものがあるだろう。
本システムは車両搭載後も常時監視を行うことで膨大なデータを得られる、いわば「進化するシステム」。運用開始後のこれからが、まさに開発者にとっての本番だ。一種の緊張感をも抱えながら、
彼らはN700Aの運行開始を待っている。 -
定速走行装置開発エピソード
速度信号に沿って、運行を自動制御する定速走行装置。開発が始まったのは平成21年。それ以来、実際の線路条件や気象条件などによる様々なデータを取得するため、100回以上の試験走行による検証が行われた。
現状の分析、試作品の制作、試験データの採取・・・浮き上がってくる課題を解決する度、次の試作品を作り、再び検討する。開発はこの繰り返しであったが、理論的には正しいことも実際の過程ではうまくいかないということが生じてしまう。
特に困難だったのは、どの程度先の速度を予想してアクセルを動かせば良いのか、という検証。例えば、はるか前方の速度を予測すれば、目標速度からのズレは大きくなる。逆に速度を予測するポイントが近すぎるとアクセルを頻繁に動かすことになり、制御部品の劣化は早くなる。場所によっては低い速度で走行する箇所もあり、その速度域での検証も行う必要が出てくる。最適な制御方法を見つけるために、開発者たちの試行錯誤は続いた。
結局、実用化のためには、試験で得られるデータをなるべく多く採取し、一つひとつの課題を解決していくという、地道な方法しかなかった。小牧研究施設での検証。Z0試験車の最大限の活用。長い研究期間を経て膨大なデータを採取することで、数年後、彼らは開発を成功に導いた。
-
「A(Advanced)」という名に込めた想い。
今回のN700Aでは、N700系が当初から追求してきた安全性、快適性の両面において、さらにレベルを高めた新機能が搭載されている。その意味をこめて「Advanced=進化した」の名が与えられた。ロゴマークでは、この進化を意味する「A」を東海道新幹線の伝統である青帯と一体化させ、東海道新幹線が大切にしてきた「安全性」「信頼性」「快適性」「環境性能」のさらなる進化を表現している。
-
これからの開発方針
新幹線の進化において、私たちが忘れてはならないこと。
それは、その進化が「点」ではなく「線」であるということ。
新幹線はもはや単なる車両ではない。ダイヤの進化、エコロジー性能の進化、乗り方の進化・・それらが組み合わさった、総合的なインフラシステムとでも言うべきものである。そのすべての側面で、
現状に甘んじることなく進化し続けることこそが「新幹線」の使命。
新しいN700Aは今、その進化の先頭を走っている。より確かな「安全」、「信頼」、「快適」、そして「環境性能」のために。
我々は現状に満足せず、さらなる技術開発を進めていく。