ふつうの日記です。
東の空に曙光がさしこめ、この暗黒の世界を侵食する。さあ、闇に属する者どもよ、おまえたちの時間は終わった。孤独な一夜の旅を終えた俺は、未練がましく、かつみすぼらしく淡い影を残している月を見て呟いた。
「やせないとしぬ」
というわけで、今日はシフトが終わったあとちょっと時間があったので、また筋トレとか行ってきました。早朝からのバイトの女の子が来たので、さっそく話しかけました。
「やせないとしぬので、今日も筋トレに行ってこようと思います」
「はぁ」
「あの子もし僕がムキムキの気持ち悪いマッチョになって君のハートにダンクシュートを決めたらどう思うかなあ」
「……寝起きにはきついです、そのテンション」
すいませんでした。君の朝は僕の夜。秘密のつながりをそっと僕は握りしめた。
なんでこんなにノリが気持ち悪いんだ今日は。
「あ、でも私もダイエット中です」
「そうなの? どこが太ったかぜんぜんわかんないんだけど」
「私にもわかんないです。しばらく体重計に乗ってなくて、このあいだ乗ったら……やばいって……なって……」
「後学のために聞きたい。どこが太ったの?」
「そ、それは……」
「うんうん」
「おし、あの、おし……」
「おしっこ!?」
「そんなわけないじゃないですか! 店長のばか! ヘンタイ! これから店長のこと、セクハラ店長って呼んじゃいますから!」
「では尻でごわすか」
「もう、知らない!」
ああ、顔を真っ赤にしてかわいいなあ。女の子が叫ぶヘンタイの響きはいいなあなどと思いつつ目が覚めた俺の前には訴状が! どこまでが夢かわからないこと書いてないで起きたほうがいいですよMK2さん。
というわけで、トレーニングジムは9時からだったので、仕事は8時半までに終わらせて帰ろうと思った俺の前に山積みした仕事。なによりうちの奥さまが「私の発注全部やっといてね♪」といって残していったノルマが重くのしかかる。
半分寝ながら発注をやっているうちに気づいたら9時になって、バイトの女の子が上がってきました。
「これから行くんですか? 筋トレ」
「あー仕事終わったらね。そういうTさんは?」
「家に帰ったら私も運動です」
「あ、踏み台いいらしいよ。うちの奥さまそれだけで20キロ落とした化物だよ」
プラス筋トレですけど。あの人のいちばんすごいところは、文字どおり、家から一歩も出ずにダイエットしたことだと思います。いまが人生でいちばん体力あるっていってました。
「あー、それはちょっと。飽きますよね」
「うん。だからPCで動画流しっぱなしにしながらやってたらしい」
「よく、テレビ見ながらとかのながらダイエットっていいますけど、ああいうのできる人、すごいなあって思います」
「あー、それは俺も思う。やっぱ外出て歩いたり」
「帰ったら、家から出るのは一歩でもいやです」
ここにも極度のインドア派がいました。なんでうちの店、こんなにインドア派多いんだろう……。
「じゃあなんの運動すんのさ」
「なんだっていいじゃないですか」
「えー気になるなー。教えてくれないと店のおいしいデザート全部おごるよ?」
なんだろう、このチャラいセリフ。俺テンションおかしいんじゃないか。
「そ、それは……ちょっとぐらっと来ます……でも、でも絶対にダメ! 店長ひどいです!」
「じゃあ教えて」
「えっと、それは……」
「うんうん」
「歌ったり……」
「う、うん」
「踊ったり……」
「お、おう」
「それで……もう、なんだっていいじゃないですか!」
「その……なんかごめん……」
「もういいです。お先に失礼します!」
バイト帰っちゃいました。
なお、どこまでが作り話かは、ご想像にお任せします(7割くらい)(ほぼ作り話じゃねえか)(世のなかそんなに楽しいことばっかりあるわけねえだろ)(関係ないけどバレンタイン商材まだ並べてない)(世界中の手作りチョコに俺の体液を混入させるテロを計画しています)。
まあそんなこんなで結局10時過ぎまで店にいまして、それからジムへと向かいました。
ここから先はテンション下がったのでふつうの文章です。本文終わりです。
筋トレそのものはこの前とやることが一緒なので特に書くことがないです。しいていうなら、だんだん負荷のかけかたというのがわかってきました。要はギリギリ10回できる負荷をかければいいらしいです。
んで今日もなんかすごそうな人がいました。腹筋のボードで、なんかボクシングとかやってる人みたいなすごい腹筋のしかたしてた。俺より一回り上、つまり50代くらいだと思われるんですけど、逆三角形のやばい体型してた。で、気がついたんですが、つまり、器具の使いかたでも、うまい人のまねすればいいんですな。
俺は全身が不随意筋との異名を取る男で、とにかく体の使いかたが不器用です。図とかを見てそのとおりに体を動かすことができないのです。前にテレビで「言葉で指示されたポーズを頭のなかでイメージして、動作を20回くらい指示したあとに、そのポーズを実際にやってもらう」というような企画をやってたんですが、体操選手ってその能力がケタ違いに高いんですってね。つまり単に身体能力が高いのみならず、脳がイメージしたとおりに体を動かすことができる。俺はその能力が、逆に極端に低いわけです。
だいたいいついっても、筋トレの鬼みたいな人はいるみたいなので、そういう人のマネしつつ、うまいことやっていこうと思います。
しかしああいう機器を使っていて思うのは、筋肉のつきかたが実にアンバランスだっていうことですね。背筋関係と足については、たぶん相当に重たい負荷でもいけるほうだと思うんですが、腹筋関連と、あと腕。腕はほんと弱い。懸垂一回もできねー腕力のなさは伊達じゃねーなーと思いました。
ところでこのとき、俺のすぐあとを、控えめに見ても100キロ以下ってことはねーだろっておっさんが回ってました。腹とはもう、横たわってたら、ちっさい妖精さんが「わーいお山だー」といって登山できそうなくらい盛り上がってたわけです。
そんで、どうも負荷を調節する方法を知らなかったみたいで、片っ端から俺のやった負荷でそのままやろうとするわけです。
太ももあたりを鍛える器具では、ぴくりとも持ち上がらない。
「なんだこりゃぁ」
などと唸っています。背筋系でも同様で、そんだけの体重を誇っておいて、やっぱりぴくりとも動かない。ところが腕ですね。上腕二頭筋だったかな、よくわかんないんだけど、それを俺と同じ負荷でやった瞬間、がっこんってものすごい勢いで上がって、びっくりして「うわあ」って叫んでた。俺はといえば、それでも10回持ち上がらなかったわけで、どんだけアンバランスかがわかろうってもんです。
とりあえずこのあとのミッションは、Tシャツ買うことですね……替え含めて2枚は持っていかねえと……。