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「曜変天目」器に宇宙を見る
2月7日 11時36分

「曜変天目」器に宇宙を見る

「曜変天目」をご存じですか。
現存するのは世界で3つだけ。
そのすべてが日本にあり、いずれも国宝に指定されているという極めて貴重な茶わんです。
漆黒の器の内側に星のような斑文が散らばり、その周囲が藍や青、そして角度によっては虹色に輝いているようにも見えます。
「器の中に宇宙が見える」とも評され、ルーツは謎に包まれた曜変天目のうちの1つが、今、中国での最新の調査成果とともに、東京・世田谷区の静嘉堂文庫美術館で公開されています。

「曜変天目」とは

「曜変天目」とは

曜変天目は、漆黒の釉薬や使われている土の特徴などから、中国の南宋時代(12世紀~13世紀ごろ)、今の福建省にあった「建窯(けんよう)」という窯で焼かれたと考えられています。
現存するのは世界で僅かに3つ。
いずれも日本にあり、東京・世田谷区の静嘉堂文庫美術館、大阪市の藤田美術館、そして京都市の大徳寺塔頭(たっちゅう)龍光院が所蔵しています。
中でも最も鮮やかな斑文の輝きを持つとされるのが静嘉堂の一品です。
曜変の「曜」には「星」や「輝く」という意味があり、窯の中で生じた美しい斑文の周囲は深い藍や青、緑、さらに角度によっては虹色に光ります。
それらをじっと見つめていると、器の中央から星が放射状に広がっているようにも感じられます。
1つの器の中に宇宙が入っていると評されるゆえんです。
この曜変天目などを公開する展示会が、先月下旬から静嘉堂文庫美術館で開かれ、休日にはおよそ500人が訪れてにぎわっています。

曜変天目の由来は

曜変天目の由来は

静嘉堂の曜変天目は、どのように伝えられてきたのか。
江戸時代より前のことはよく分かっていませんが、もともと徳川家に伝わったものを3代将軍・家光が乳母の春日局に与えたものとされています。
家光が重い病気にかかったとき、薬断ちの願かけをした春日局。
家光が無事に回復したことから、その後、一切、薬を飲みませんでした。
時がたって春日局が病に伏せったとき、心配した家光が薬湯を入れて飲ませようとしたのが、この宝物=曜変天目だったというのです。
春日局は、家光の優しさに感じ入りながらも薬湯を飲んだふりをして胸のほうに流し込み、薬断ちを守り通しますが、器はそのまま春日局の家に伝わりました。
その後、う余曲折を経て昭和9年、三菱の4代目社長で文化にも造詣(ぞうけい)の深かった岩崎小彌太が購入。
空襲による戦火も免れて、小彌太の父親が設立した静嘉堂に保管されてきたのです。

曜変天目の謎

こうしたエピソードを持つ曜変天目には、大きな謎が2つ残されています。
1つめは、こうした美しい器をどのようにして作り出したのかということ。
この輝きに魅せられた陶芸家たちが次々に再現に取り組み、最近ではかなり近いものも出てきたといいます。
しかし、製法はそれぞれに異なり、曜変を作り出すためのはっきりとした決め手はいまだにありません。
2つ目の謎は、中国・南宋で焼かれたと考えられている茶わんが、なぜ、日本にしか存在しないのかという点です。
曜変天目は中国では好まれず規格外の品として扱われたため、日本にだけ伝えられたのだという説も出されるほどでした。

“世紀の発見”が南宋の都で

“世紀の発見”が南宋の都で

実は、2つ目の疑問に回答を与えるような発見が、去年、初めて公表されました。
南宋の都が置かれた中国・浙江省の杭州で、“曜変天目”によく似た茶わんが新たに見つかったのです。
茶わんは工場の跡地から発掘されました。
4分の1ほどが欠けていますが、器の内側には中央から放射状に広がる斑文が入り、青や赤紫の輝きは日本にある曜変天目とよく似ています。
さらに重要なことは、この茶わんが見つかったのが宮廷の迎賓館のような場所だと考えられること、そして、宮廷用に献上されたことをうかがわせることばが刻まれた陶磁器も一緒に見つかったということです。
専門家は、今回の発見は、曜変天目という茶わんが、中国・南宋の宮廷に献上するために用いられていたことを示す貴重な成果になると考えています。
これについて静嘉堂文庫美術館の長谷川祥子主任学芸員は、「やはり。ついに出たかという思いです。この発見によって、皇帝をはじめとする宮廷の人たちが、曜変天目の美しさや希少性を認めていた可能性を裏付けることができるのではないか」と話しています。

未来に引き継ぐために

未来に引き継ぐために

世界に「4つ」となった曜変天目。
実は、ほかにもあったという説があります。
この器は織田信長が大切にしていたもので、本能寺の変で失われてしまったというのです。
いわば、「幻の曜変天目」。
静嘉堂文庫美術館の長谷川さんに「見てみたいですか」と尋ねてみました。
答えは「少し見たい気持ちもありますけれど、それほどでもないんです。今、伝わっているかけがえのない曜変天目を守り、さらに未来へと引き継いでいくことが私たちの役割だと思いますから」。
曜変天目を購入した三菱の4代目・岩崎小彌太は、次のように語っていたといいます。
「天下の名器を自分だけのために用いるべきではない」。
静嘉堂では、このことばのとおり、曜変天目を大切に保存しながらできる範囲で公開し、なるべく多くの人たちに、そのすばらしさを知ってもらうことにしています。

▽曜変天目の公開…「曜変・油滴天目~茶道具名品展」にて
▽場所…「静嘉堂文庫美術館」(世田谷区岡本2-23-1)
▽期間…3月24日まで
▽詳細…http://www.seikado.or.jp/010100.html(NHKのサイトから離れます)

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