いささか品を欠くが、ガンをつけるなどと言う。ガンとは眼のこと。人の目を凝視するしぐさは、言いがかりの端緒ともなる。路地裏ならいざ知らず、公海上でガンをつけられるとは驚いた▼日中がにらみ合う東シナ海。中国の軍艦が海上自衛隊の護衛艦やヘリコプターに、射撃用レーダーを照射したという。照射はミサイルなどを撃つ準備で、いわば殴る前の腕まくり。反撃されても文句の言えない愚挙だ▼尖閣近海では、わが領海を中国の公船が再々脅かし、海上保安庁や海自に気の抜けない任務を強いている。攻撃の前触れである「ガンつけ」は数分に及んだそうだ。艦上のストレス、いかばかりか▼安倍政権は、中国の横暴に忍の一字で応じてきた。それが面白くないのか、ちょっかいを無視された酔客よろしく、あちらはすごみの度を増している。総参謀部は「全軍、戦争の準備を」と煽(あお)りもした▼にわかに膨らんだ中国海軍は、どうやら公海での作法に疎いらしい。北京の意を受けた挑発なら深刻、現場の暴走とすればなお怖い。高をくくっての嫌がらせは腹立たしいが、「なめんなよ」とにらみ返しては術中に陥る。先方の火遊びを世界に知らしめ、国際世論を味方につけたい▼大抵の戦争は言い争いの末、一発の銃声で始まる。一線に憂さ晴らしの底意があれば、偶発を装うこともできよう。権力の移行期にある中国政府はどこまで承知なのか。一触即発の海に、ゆがんだ英雄主義の蜃気楼(しんきろう)が揺れる。これを悪夢と呼ぶ。