2013年2月4日月曜日

竹野内真理のとある講演会のレジュメ


内部被曝のリスクと今行われていること

 

竹野内真理 メール  mariscontact@gmail.com 
ツイッター@mariscontact
 

 

***被曝問題翻訳家、ジャーナリスト、2歳児の母。99年に米科学者から原発の「電源喪失事故」のシナリオを聞いて以来、反原発活動。首相官邸、欧州議会、IAEAへの直訴、TBS報道特集の「地震と原発」番組企画など。元原子力資料情報室国際担当。母は福島県人出身。『低線量内部被曝の脅威』、『人間と環境への低レベル放射能の脅威』を肥田舜太郎氏と共訳、その他に『原発閉鎖が子供を救う』。肥田舜太郎著『内部被曝』解説執筆。

最近になって国際機関と日本政府、さらに御用学者と御用医師、御用市民活動家が一緒になって進めている「福島エートス」の話を知り、怒りを抑えられず、ツィートをしまくっている。←嫌がらせも多いが、火の粉をかぶりながら発信するほうが、情報が広がることを発見しました! (2012826日)

エートスについてはこちらを→http://besobernow-yuima.blogspot.jp/2012/07/ml-6-ml-17-13-httpyoutu.html

 

放射能問題にめざめたきっかけ

 

私が放射能問題に初めて気づかされたのは、98年にイラクの赤ちゃんの写真展を見たときでした。放射能による遺伝的影響が罪のない赤ちゃんに如実に生じている画像を見て、涙が止まりませんでした。99年に原発の危険性を知ってからは、福井の原発労働者に直接話を聞きに行ったりしました。壮絶な話に言葉を失ったのを覚えています。今回の福島原発事故の真の被害を知るには、やはりチェルノブイリの被害を学ぶ必要があると思いますが、映画チェルノブイリハートやチェルノブイリ関連のブログや本を読む必要があります。それにしても、いまだに原子力を推進している各国政府、および国際的な放射線防護機関は、100mSV以下はあまり健康被害がないように宣伝していたり、さらに私が驚くのが、「放射線による遺伝的影響は動物では証明されているが人間では証明されていない」ということになっています。これ自体が壮大なまやかしであり、非常に非現実的で非科学的なものであります。

 

東日本で放射能による健康被害が出てきている

 

20116月初頭に、被爆医師の肥田舜太郎さんからお手紙をいただき、「すでに東京で多くの人々が、低線量被ばくとみられる症状(鼻血、下痢、だるさ、紅斑や紫斑などの皮膚疾患、甲状腺の腫れなど)が出ている、竹野内さんが沖縄に行ったことは正しい選択であると」、書いてありました。

実は、私も、315日の一番放射能が濃厚であった時期に息子と共に屋外にいたため、体調を二ヶ月近く壊しました。私や息子の場合は完全に呼吸器系からの内部被曝で、風邪の重い症状が続きました。私は39度台の熱が8日間続き、息子は10回以上の発熱を繰り返しました。咳や痰も長く続き、感染症にもかかりやすくなっています。

 

肥田先生によれば、低線量被ばくと思われる症状は、関東地方や遠くは山梨、静岡でも見られるそうです。福島県では35%以上の未成年者の甲状腺エコー検査で三割の児童にのう胞やしこりなどの異常が発見されたと言います。また、東京・千葉の高汚染地域でも幼児の異型リンパ球が発見されています。


内部被曝は呼吸器系からでも、消化器系からでも今後ずっと続く健康障害を引き起こしてしまうでしょう。子どもたちの将来の命と健康のため、一刻も早い対応が望まれます。これは私たち市民のみならず、行政も、民間企業も交えてやらねばならないことだと思います。以下に内部被曝について、重要な点を5つにまとめます。

 

1. 外部被曝と内部被曝を混同し、リスクの過小評価

最近、環境中のホットスポットは注目されるようになっていますが、いぜんとして、体内のホットスポットが十分注目されていません。そのような中、先日、欧州放射線リスク委員会(ECRRと呼ばれ、原子力産業の利害に関係のない独立系の研究者が世界各国から終結した組織)、の科学事務局長クリス・バズビー氏が、内部被曝の危険性について、絶妙な比喩を使って表現しました。「内部被曝の危険性は、暖炉の前で暖まることと、その暖炉の中にある炭火を口の中に入れるのとでは、体に対する影響がまったく異なることと同じ原理である。」体内に取り込まれた飛距離の短いアルファ線、ベータ線は、特に危険です。飛距離が短い分、周辺の細胞に継続的に影響を及ぼすからです。そして、あまりマスコミで言われませんが、ガイガーカウンターやホールボディーカウンターでは内部被曝は正確に計測できないことも根本的な問題です。

 

2.日本政府がよりどころとしているICRP(国際放射線防護委員会)基準自体が問題

よくTVなどのマスコミに出てくる専門家の意見が、安全を過小評価しているのではないか、という不安を持つお母さんたちは多いと思います。そういう声に対して、体制側から必ず出てくるのが、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準に準じているので信頼できる、という回答です。まるで水戸黄門の印籠のように使われるICRP基準。果たして本当に信頼の足るものなのでしょうか。

2009年、ICRPの科学事務局長を20年務めたJack Valentin博士は、「内部被曝による被曝は数百倍も過小評価されている可能性があるため、ICRPモデルを原発事故に使用することはもはやできない。また、体制側にある放射線防護機関は、チェルノブイリのリスクモデルを見ておらず、誤った評価をしている」と言明したそうです。ICRPのトップが退職後にこのように暴露したこの事件は、非常に重大です。この会見は、ビデオテープに記録されています。(http://vimeo.com/15398081

 

3.100mSV以下でも健康に被害はある

 100mSV以下であれば健康に被害はない、さらには、妊婦や子供でも大丈夫、と主張する専門家が多くいらっしゃいます。ところが、低線量の被曝で、上に凸の曲線を描いて影響が高まる事象は、「ペトカウ効果」として知られていますが、今では広く認知され、「逆線量率効果」という専門用語にもなっています。海外の多くの研究でも明らかにされており、『人間と環境への低レベル放射能の脅威』で詳述されているのです。

なにもこれは、独立系の科学者たちだけが主張しているのではありません。体制側である放射線医学総合研究所編著『虎の巻 低線量放射線と健康影響-先生、放射線を浴びても大丈夫?と聞かれたら』でも、この逆線量率効果については明記されているのです。ちなみにこの本の中には、上に凸のグラフが三箇所も用いられています。「最近発達している分子生物学的な知見により、低線量でも影響が急激に高まり危険である可能性がある」、という研究は、すでに体制側にも浸透している科学的な事実なのです。是非ご覧ください。疫学的にも、2005年に15カ国の被曝労働者を対象にしたWHO国際がん研究機関で行われた調査で、10mSVでもガンのリスクが有意に検出されたと結論されたという引用もあります。

 

4.日本における高すぎる基準値

 

ドイツ放射線防護協会(www.strahlentelex.de)は以下のような提言を掲げています。

 

乳児、子ども、青少年に対しては、1kgあたり4 Bq以上のセシウム137 を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。成人は、1kg あたり8Bq 以上のセシウム137 を含む飲食物を摂取しないことが推奨される。

 

日本での飲食物の管理および測定結果の公開のためには、市民団体および基金は、独立した放射線測定所を設けることが有益である。

 

「ドイツの基準値はあまりにも厳しいのではないか」、という声も聞かれるかもしれません。そんなことはありません。ベラルーシにある民間の研究所であるベルラド研究所副所長のバベンコ博士も日本での講演で、「子どもはゼロベクレルを目指すべきだ」と明言しています。

 

ちなみに公式発表であっても1520Bq/kg体内にあると、子供にとって危険領域なのです。同様に、セシウムの残存量についても、ICRPの公式発表のグラフがあります。一日たった10ベクレルのものを取り込んでいても、30kgの子供さんですと、100日たたないうちに危険値である600ベクレル(20Bq/kg×30kg)に達してしまうのです。

 

また、一日1Bqであっても、長期に摂取すると大人でも体内に180Bq蓄積します。子供は大人よりも臓器も小さく、同じ汚染地帯で済む大人と子供を比べたところ、子供の方が影響が大きいのは、病理解剖の結果からもわかっています。
 
私はこのグラフを日本全国の医師に今すぐ見てほしいと思っています。皆さんからもどうぞ広めてください。

                        ICRP Publication 111 (2009) より

 

5.それぞれの核種の毒性が語られていない 

 もうひとつ、決定的な問題があります。個々の核種についての毒性が語られていないことです。ここではセシウムとストロンチウムについてみていきます。

 

************************************

セシウム

今話題となっているセシウム137(半減期30年)は、始めにベータ線を出してバリウム137(半減期2.5分)になり、それから安定的なバリウム137になります。ベータ線対ガンマ線の比率は、52であり、ベータ線による内部被曝を起こすのが深刻です。ちなみにホールボディーカウンターは、ガンマ線のみしか計測しません。

 

ストロンチウム

ストロンチウム90は半減期29.年で、ベータ線を放出してイットリウム-90(90Y2.67)となり、イットリウム-90もベータ崩壊してジルコニウム-90(90Zr)となります。1ヶ月後には、ストロンチウム-90とイットリウム-90の放射能強度は等しくなります。ストロンチウムからのベータ線は水中で1cmも飛び、また、摂取されると一部は排出されるものの、大部分が骨に取り込まれ、体に対するダメージは大きいです。また皮膚に付着すると、外部被曝にもなります。ベータ線のみを出すので、ホールボディーカウンターで測定できません

 

   ***********************************

 

セシウムとストロンチウムの毒性 (できましたら行政、医療保健関係者の方々にお見せください)

 

セシウムの毒性に関しては、大変重要な書物が201112月に合同出版より発行されています。元ゴメリ医大学長、ユーリ・バンダジェフスキー著『人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響』です。

食物中のセシウム摂取による内部被曝の研究がほとんどない中、バンダジェフスキー博士は、大学病院で死亡した患者を解剖し、心臓、腎臓、肝臓などに蓄積したセシウム137の量と臓器の細胞組織の変化との環境を調べ、体内のセシウム137による被曝は低線量でも危険との結論に達しました。以下に要点をまとめます。

また彼の2009年に書いた論文も以下のページにありますので広めるとよいです。http://peacephilosophy.blogspot.jp/2011/09/non-cancer-illnesses-and-conditions-in.html

 

体全体への影響

    セシウム137の体内における慢性被曝により、細胞の発育と活力プロセスがゆがめられ、体内器官(心臓、肝臓、腎臓)の不調の原因になる。

    大抵いくつかの器官が同時に放射線の毒作用を受け、代謝機能不全を引き起こす。

    セシウムの濃度に応じて、活力機構の破壊、たんぱく質の破壊が導かれ、組織発育が阻害される。

    セシウムの影響による体の病理変化は、合併症状を示し、長寿命体内放射能症候群(SLIR)といわれる。SLIRは、セシウムが体内に入ったときに現れ、その程度は入った量と時間とに相関する。

    SLIRは、欠陥、内分泌、免疫、生殖、消化、排尿、胆汁の系における組織的機能変化で明らかになっている。

    SLIRを引き起こすセシウムの量は、年齢、性別、系の機能の状態に依存するが、体内放射能レベルが50Bq/kg以上の子供は機関や系にかなりの病理変化を持っていた。心筋における代謝不調は20Bq/kgで記録された。

    汚染地帯、非汚染地帯の双方で、わずかな量の体内セシウムであっても、心臓、肝臓、腎臓をはじめとする生命維持に必要な器官への毒性効果が見られる。

 

心臓への影響

    生命維持に必要な多くの系で乱れが生じるが、その最初は心臓血管系である。心筋のように、細胞増殖が無視できるかまったくない器官や組織は、代謝プロセスや膜細胞組織に大きな影響が生じるため、最大の損傷を受ける

    ミンスクの子供は20Bq/kg以上のセシウム137濃度を持ち、85%が心電図に病理変化を記録している。

    ミンスクの子供で、まれに体内放射能が認められない場合もあるが、その25%に心電図変化がある。このように濃度が低くても、心筋に重大な代謝変化を起こすのに十分である。

 

血管系への影響

    血管系が侵され、高血圧が幼児期からも見られることがある。

    セシウムは血管壁の抗血栓活性を減退させる。

    血管系の病理学的変化は、脳、心臓、腎臓、その他の器官の細胞の破壊を導く。

    体内のセシウム濃度の高い子供の間で、白血球の数の減少が見られた。最初に減ったのがバチルス核好中球と単球であり、同時にリンパ球の数が増大した。

    動物実験では、絶対的赤血球数と相対的核好中白血球の数の減少が起きた。

    40キュリー/km2以上の地域から汚染の少ない地域に移住した子供の骨髄球の生理状態が回復したことは注目に値する。

 

腎臓への影響

    セシウムは腎臓機能を破壊し、他の器官への毒作用や動脈高血圧をもたらす。ゴメリにおける突然死の89%が腎臓破壊を伴っている。

    腎臓もセシウムの影響を強く受けるが、放射線による腎臓の症状は特徴がある。また病気の進行が早く、悪性の動脈高血圧がしばしば急速に進む。2-3年すると、腎臓の損傷は慢性腎機能不全、脳と心臓との合併症、ハイパーニトロゲンミアを進展させる。

 

肝臓への影響

    肝臓においては、胎児肝臓病や肝硬変のような厳しい病理学的プロセスが導かれる。

    免疫系の損傷により、汚染地ではウィルス性肝炎が増大し、肝臓の機能不全と肝臓ガンの原因となっている。

 

甲状腺への影響

    セシウムは、甲状腺異常にヨウ素との相乗関係を持って寄与し、自己免疫甲状腺炎や甲状腺ガンの原因となる。

 

母体と胎児への影響

    セシウムは女性の生殖系の内分泌系機能の乱れをもたらし、不妊の重要因子となりえる。また、妊婦と胎児両方でホルモンの不調の原因となる。

    月経サイクルの不調、子宮筋腫、性器の炎症も見られる。

    母乳を通じ、母体は汚染が低くなるが、子供にセシウム汚染は移行する。多くの系がこの時期に作られるので、子供の体に悪影響を与える。

    1998年のゴメリ州での死亡率は14%に達したが、出生率は9%(発育不全と先天的障害者含む)だった。妊娠初期における胎児の死亡率がかなり高かった。

    セシウムは胎児の肝臓病を引き起こし、その場合胎児は肝臓に限らず、前進の代謝の乱れが生じる。

 

免疫系への影響

    免疫不全により、結核が増加している。

    免疫系の障害が、体内放射能に起因することは、中性白血球の食作用能力の減退で証明されている。

 

神経系への影響

    神経系は体内放射能に真っ先に反応する。脳の各部位、特に大脳半球に影響を及ぼし、さまざまな発育不良に反映される。

    生命維持に不可欠なアミンや神経に作用するアミノ酸の内部被曝による変動は外部被曝と比べ、顕著である。

    セシウム137の体内量と自律神経系の機能障害は相関する。

    動物実験で発情期のメスに神経反応の組織障害が起こる。

    ウクライナの学者は、大脳の差半球で辺縁系小胞体組織の異常があると述べている。

 

消化器系

    セシウムが体内に長期間入っている子供に、慢性胃腸病を引き起こす。

 

視覚器官

    ベトカとスベチロビッチ(1540キュリー/km2)に住んでいる子供では、子供の視覚器官の変化はそれぞれ93.4%94.6%だった。

    白内障発生率とセシウム137の量に明白な正比例関係が見られた。

 

相乗作用

    セシウムの影響は、ニコチン、アルコール、ハイポダイナミアと相乗して憎悪される。

 

男女差

    セシウムは男性により多く取り込まれやすく、女性より男性により強い影響が出ており、より多くのガン、心臓血管不調、寿命の低下が見られる。

 

疫学調査

    1976年と1995年のベラルーシの比較。悪性の腎臓腫瘍が男4倍以上、女2.8倍以上。悪性膀胱腫瘍が男2倍以上、女1.9倍以上。悪性甲状線腫瘍が男3.4倍以上 女5.6倍以上。悪性結腸腫瘍は男女とも2.1倍以上。

    ゴメリ州では腎臓ガンは男5倍、女3.76倍。甲状線ガンは男5倍、女10倍となった。

 

セシウム排出製剤

    セシウムの排出に、ペクチン製剤のペクトパルは最も将来性がある製剤のひとつだが、セシウムが人体に入るのを防ぐほうが、それを排出したり乱れた代謝を正常にするより容易なことを心に留めるべきである。

 

ストロンチウムの毒性について

 

ストロンチウム90は、その昔、レイチェル・カーソンが化学物質とともに「邪悪な相棒」と称した物質で、核実験が行われていたときは、その有害性のために世界各国で研究が行われていた、大変危険な物質です。今回の福島事故では、神奈川県でもかなりの量のストロンチウムが検出されてしまっています。以下にストロンチウムの毒性を記します。

(出典:グロイブ著『人間と環境への低レベル放射能の脅威』、2006年スターングラス博士インタビューhttp://www.e22.com/atom/page08.htm、放射線医学総合研究所監修『人体内放射能の除去技術』など)


*ストロンチウムはミルクや穀物の外殻に蓄積されやすい。(両方とも基本となる食物なので始末が悪い。ちなみに1963年、ドイツでは黒パンの流通を禁止することを考慮)

*カルシウムに似た親骨性の物質であり、ベータ線を放出する。ベータ線はアルファ線より飛距離があり、骨髄により効率的に到達してしまう。ストロンチウム90は、骨髄で作られる白血球の正常な機能を阻害するため、ガンや免疫低下、免疫低下に起因する感染症、肺炎などを引き起こす。

 

1968年、オスロー大学のストッケらは、ストロンチウム90を与えた動物実験で、わずか0.01ミリグレイ(ミリシーベルト)であっても、高度な骨髄細胞への障害を観察した。また、0.1-1ミリシーベルトのストロンチウム90でも動物実験で、骨髄の減衰が見られた。

 

*あまり知られていないが、カルシウムは神経の伝達にもかかせない物質であるため、ストロンチウムは脳にも入り込み、神経にダメージを与えるため、脳の発達に支障をきたすようになる。

 

*低体重児の出生率と人体中のストロンチウム90の濃度は大きな相関関係がある。また、妊娠の何年も前から蓄積されたストロンチウム90により、流産の危険性が高まる。

*ストロンチウムの娘核種のイットリウムは脳下垂体に蓄積するが、出産前の2-3週間にこれが起こると、肺胞に必要な脂質の生成が不十分になり、胎児の肺機能の成長を阻害し、出産後に見かけはなんら異常のない赤ん坊が呼吸器系疾患で死亡するケースがある。

 

*ストロンチウムの娘核種であるイットリウムは、すい臓にも集中し、糖尿病やすい臓がんの原因になる。

 

*ストロンチウムの吸収は早く、ラットに皮下注射した実験では、6時間後には体内量の70~80%が骨に沈着する。

 

*食物中のストロンチウムは15~45%が消化管から吸収されるが、絶食させたり、ミルクまたはビタミンDと与えると吸収率は高まる。

 

*乳幼児では、骨形成が活発であるため、より多くのストロンチウムを取り込む危険性があり、授乳中のラットの実験ではほぼ完全に吸収されてしまう。

 

*ストロンチウムの代謝については1940年代から動物実験が行われ、ほぼデータがそろっているが、今後ヒトの胎児におけるモデル構築や、効率のよい排出法、被ばく低減化を図る研究が重要となってくるだろう。

 

*乳歯におけるストロンチウム含有濃度が核実験時代には、何倍から何十倍も高まり、大気圏内核実験禁止条約への一助となった。また、米国では、原発周辺に住む子供たちの乳歯のストロンチウム濃度と小児がんの発生率が相関関係を持って高まった。逆に、原発を閉鎖した地域で、乳歯のストロンチウム濃度と小児がんの発生率が下がるという逆の現象も起きている。

~ジョセフ・マンガーノ著『原発閉鎖が子どもを救う』(戸田清、竹野内真理訳)より

2013年2月2日土曜日

核実験被爆兵士の治療をした米国医師の遺作『放射線の衝撃』要旨


『放射線の衝撃』

“Radiation Impact” by Donnell W. Boardman

肥田舜太郎訳 1991年初版、20115

自費出版(問合せ先0422-51-7602)

 

本稿における要約:竹野内真理

 

肥田先生の訳したものの中でも埋もれている名著、『放射線の衝撃』の前半部分の要約です。筆者は核実験兵士の臨床を長年行っていた内科医であり外科医でもあったボードマン博士です。コロンビア大学医学部卒業、ボストン大学病院とマサチューセッツ総合病院で臨床医をしながら教鞭をとっていた方です。また、原子放射線研究センターの共同設立者であり、名誉会長でもあります。ただ、本書は出版完成前にお亡くなりになっていますが、原文(英語)は肥田医師が持っているものを数部コピーしてあります。

 

『放射線の衝撃』第三章までの概要を記します。(仕事の合間に急いで作成したため、不完全ですが、すみません)第三章までは分子生物学的な部分で読みづらいため、必要なところは原文も見ながら、わかりやすく要約しました。第三章までを読むと、医師はもちろんのこと、遺伝学者や免疫学者で、この放射能問題に取り組んでくださる方が出てくることの必要性を強く感じます。

第四章以降は、臨床そのものであったり、勧告であったり、ここの症例であるため、元の翻訳文または原文を直接にご覧になったほうがよいと思います。後半も臨床医の方には非常に参考になる文献だと思いますので、ぜひお読みください。付録Gですとか、臨床例が具体的に書かれてある付録Kなどはまさに他の本にはないものだと思っています。

 

序論より

l  被曝はガン、白血病、遺伝障害だけでなく、生命のあらゆる分野に影響を与える。

l  診断は困難で同量の線量に被曝しても同じ障害を示す者はいない。

l  (放射線の影響については)公式の記録や科学文献に接する機会が制限されている。

l  体内にある放射線のエネルギーは、人体にある約75兆個の細胞に不均一地に散らばり、どの二人の人間も、どのふたつの細胞も、同じ量の電離放射線を受けることはできない。

l  倦怠感(ぶらぶら病)、関節や筋肉の痛み、胃腸の不快感などの漠然とした兆候を示す者もいるが、それらは国際分類にある病名に適合しない。

l  医師と患者の関係はぎくしゃくすることが多く、双方とも放射線生物学に明るくないため、しばしば対立する。

l  これからの医学には、人の放射線被ばくに関して相当量の学習を取り入れなければならない。

l  放射能の分布は世界的なので、危険は大衆が常にかかわってくる。大衆は知らされていなければならない。

l  政府の計画を進行させるため、事実に対して大衆は無知に留め置かれている。

l  地球規模の災害を防止するには、より広い科学的研究と開かれた討議が必要である。

l  医療関係者たちは、人々を空気、水、大地の著しい汚染から積極的に守らなければならない。最も執拗で持続的な汚染物質は放射線である。

l  核・原子力の研究分野は、多くは知られていたが、国家の安全保障の名のもとで、広く一般には広められなかった。多くの研究が今でもまだ、管理され、意図的に制約されている。

l  1988年、米国の環境放射線量は年間3~4mSVと算定され、これは国で認めた被曝線量の4倍である。

l  放射線被ばくの人体への有害な影響は、1945年のアラモゴードの爆発以前から知られていた。

l  軍隊と工場から漏出した大量の放射能の真のリスク・ベネフィット比は、よく記録されているが、あまり知られていないし、公表されていない。

l  人工放射能は一度放出されると、決定的に制御できるよい方法はなく、汚染度を測定し、自然に散逸させるだけである。

l  人間への放射線による影響は少量であっても蓄積し、長期にわたるものであり、健康影響は修復できるかどうかも不確実である。

l  放射線の人間の健康に及ぼす影響は、物理学、高額、疫学、公衆衛生だけでなく、腫瘍学、生理学、免疫学、精神科、皮膚科、胃腸科、循環器科、内科全般にかかわる

 

第1章    低線量電離放射線の影響

 

l  感受性の高い細胞を高いものから列記すると以下の通りになる

リンパ細胞、生殖腺、骨髄増殖細胞、腸上皮細胞、表皮細胞、幹細胞、漿膜細胞、中枢神経系またはグリア細胞、骨細胞、筋肉および関節組織、CNS神経細胞

l  分子がイオン化する変化はナノ秒(10億分の1秒)で起こり、この病理生理学的な出来事はリスクを知る上で重要であるが、II章とIII章で詳述する。

l  (米退役軍人に関して)確立されている放射線被ばく合併症は以下の通り:白内障、白血病、多発性骨髄腫、甲状腺ガン、胸線ガン、骨ガン、肺ガン、胃ガン、小頭症、精神障害

l  (米退役軍人に関して)考慮されている放射線被ばく合併症は以下の通り:非悪性腫瘍、線維腫、甲状腺機能低下症、真性他血球血症、再生不良性貧血、骨髄線維症、早産、腫瘍(食道、唾液腺、尿路系、脾臓、直腸、腎臓、膀胱)、悪性リンパ腫

 

HoffmanRadfordによるスリーマイル事故後の報告より

l  放射線はあらゆるガンを発生させる

l  放射線起因のガンは自然発生ガンよりも悪性度が高い。

l  被曝者が元からもつ因子が重要な影響を及ぼす

l  乳幼児や年配者は青年期や中年期のグループよりもはるかに危険

 

独立した科学者らによる見解

l  感染症への脆弱性

l  不顕性の染色体、遺伝子、その他高分子における損傷

l  不妊

l  次世代への先天性異常や遺伝的欠陥の伝達

l  老化に起因する組織変化(筋肉、関節、神経脈管、心臓血管系など)

 

臨床的症候群

l  低線量被曝者の中に、あらゆる治療にもかかわらず、死亡した者がいる。

l  被曝による分子変化や生物学的構成物への障害を修正することは不可能である。

l  複数の核種への混合被曝により、被曝による臨床的症候群を断定することはさらにあいまいなものとなっている。

l  ただし、大量被ばくに関しては見解が一致している。すなわち、

50シーベルト以上で即死

10~20シーベルトで数日中に死亡

6シーベルト以上はほとんど致命的。(ところが、7.5シーベルトの瞬間被曝でも特に後遺症のなかったケースがある。)

 

l  少数ではあるが、5シーベルト以下で明らかな影響のない被曝者がいる。一方、その10分の1でもぶらぶら病などの後遺症が出るものがいる。

l  放射線障害として、ガンや遺伝的な変異のほかに、免疫、アレルギーなどの異常、心臓脈管系、末梢脈関係、神経脈関係、神経筋肉系の異常、間質、結合線型の異常が記録されている。

l  肥田舜太郎医師は「原爆ぶらぶら病」を報告したが、UNSCEARの報告には残らなかった。しかし海外の科学者には認められており、しばしば原因不明の貧血や脳波の異常である「間脳症候群」が伴っていると報告されたりしている。

l  「原爆ぶらぶら病」では、非特異的な無気力状態の持続が進行し、他の症候群を合併するが、客観的な所見の記録は少ない。唯一つの客観的所見は、全血液成分の一時的な減少である。

l  ぶらぶら病の特徴の一つは、老化の加速であり、これは組織別に広がった分子破壊(細胞レベルの早期の障害や死)の個体レベルの臨床的、晩発的な発現である。

l  ぶらぶら病は、名前をつけられたり、文書になることはなかったが(この著が出版されたのは1991年)、被曝者の間ではよく知られていた。

 

第二章 遺伝的障害の可能性

 

遺伝的影響には二つのタイプあり:

生殖細胞型遺伝:精子と卵子の結合により次世代の個体の特性を決める

体細胞型遺伝:腫瘍やがんなど、細胞レベルでの娘細胞への遺伝。細胞周期を通じて、DNA

RNAの生理学的反応に影響。細胞核のみならず、細胞構成物質のすべてが低線量放射線に影響されやすく、核以外への影響は、ガンのプロモーションや代謝や構造的な変化に寄与する可能性あり。

 

 注:ロシアでは、ウラルの核事故地域周辺、チェルノブイリ周辺、リトアニアのイグナリア原発周辺で、乳幼児に遺伝的影響が顕著に見られている(Medvedevz, 1990

 

低線量被ばくした人体における最初の劇的変化は、白血球、胃腸粘膜の上皮細胞、胎児や乳児、体内に沈着した放射性物質に近い組織細胞(甲状腺や骨髄)に見られる。次に発見されやすいのは、5年から10年の寿命を持つ細胞で構成されている組織で、繊維質、脈管、分泌系、神経支持細胞がある。

個体の遺伝的変化は、二世より、さらに将来の世代に多く現れる(BEIR V 1990Bertell1984

 

診断の困難さ:

 

電離放射線は、因子の一つに過ぎないため、疾病の原因として特定するのは科学的に不可能であり、これが医師にとってジレンマとなっている。同じ二つの被ばくは永遠にないし、結果を繰り返すことも特定することもできない。公の政府と企業、機関はいかなる病気も放射線起因とは認めたがらない。

 

死亡原因についても、高線量からの死亡は認められても、「被ばくの原因が加わった死」は無視され、体制側から認められない。

 

問題の重要性:

 

米国では1945年以来、過剰に被ばくした市民と軍人の数は二百万人を超える。米国の40歳以上の市民の4%がヒバクシャで、50mSV以上の被ばくをしている。

 

米国における放射線源として、原子炉、再処理工場、廃棄物場、核実験場、核兵器製造工場、国立放射線研究所、治療用放射線源、食料や器具の照射工場、鉱山、屋内ラドンなどがある。

 

線量限度の変遷:

720mSV 1928)→ 300mSV 1940)→ 150mSV 1945)→ 5mSV (一般)、50mSV (労働者)、(1960

 

米国では年間延べ七億人以上がX線検査を受け、七千二百万人が放射線医療を受けている。医療用放射線は人工放射線の7割を占めている。

 

第三章 放射線生物学

 

放射線のイオン化は百万分の1秒以下で起こり、影響は不可逆的である。

 

「生命の単位は細胞である」と言われているが、放射線にとってそれは分子であって細胞ではなく、分子が標的の単位である。分子を基準とすれば、細胞核でさえ巨大である。

 

放射線のエネルギーは物理的に測定や推定は可能である場、エネルギーの散布は均質でなく、影響も予測できない。

 

たった一個の分子のイオン化が、ガンや白血病の致命的な一歩になったり、奇形の子供の誕生の原因となることが知られているので、不必要な危険は避けることが賢明である。

 

低線量放射線のガンへの影響:

 

放射線は長い分裂時間(M期)を持つ再生能力の高い細胞ほど影響が大きく、高度に分化した細胞ほど影響は少ない。(ベルゴニーとトリボンデュの法則)

 

細胞核や核膜のほか、核の外側にある細胞の構造物であるリボゾーム、ミトコンドリア、原形質なども、放射線の影響を受けやすい。

 

変異はイニシエーションと発現のステージに分かれており、(追加的な放射線被曝を含む)物理的化学的な外部的なプローモーション要素が、その生体の持つ遺伝的な要素や健康状態に合わさり、何世代分の細胞周期を経て、変異を確定している。

 

マクロプロテイン、核酸、体液、フリーラジカル、酵素、内分泌、細胞膜、伝達システムへの放射線の影響については、多くの文献がある。ところが、このような分子生物学的な学問は、遺伝学者や生物学者、免疫学者の間では急速に発展しているにもかかわらず、臨床をつかさどる医学者の間で主要な学問となっていない。

 

放射線被曝の分子生物学:

 

生体蛋白は一万種以上あり、免疫系の抗体蛋白は1000万種あると考えられている。

 

高分子タンパク質は、メッセンジャーRNAの助けを受けながら、代謝の必要がある際に、自身の鋳型を再生する能力を持つ。この過程には、ホメオスタシーや免疫、その他のシステムの相互作用における生体全体としてのニーズにあった、酵素やホルモンによる修飾作業が伴うが、これらの過程は、放射線による電離作用に脆弱である。

 

それでも多くの放射線の電離作用による傷は、数分から数時間のうちに修復される。ただし、中には傷として受け継がれていく分子が残ってしまう。残った傷は、気付かれずに終わるような傷になる場合もあれば、その時には必要でなくとも、何10年後に必要となる機能に打撃をもたらすこともある。また世代を経て打撃となることもある。そのような傷は不完全な修復作用の中で、微妙にバランスを欠いた生体防護システムや神経・内分泌系酵素の相互作用の変異などをもたらす可能性があるが、原因となった放射線起因の傷は後からわかるものではない。

 

フリーラジカル:

 

水の放射線分解は1900年代にP.Curieによって概念化された。生体内の水やその他の生体分子における、自然放射線以下の線量でも生じるフリーラジカルの発生の重要性は、近年増しつつあるが、医学界では十分知られていないし、議論されていない。

 

80年代になってようやく生体内におけるフリーラジカルの作用が注目されるようになったものの、医学における分子生物学や分子遺伝学の中に、低線量電離放射線の影響についてはほとんど記載されていないため、ガン以外の症状について重大な考察をする貴重な機会が失われてしまっている。

 

1971年、ぺトカウは細胞膜におけるフリーラジカルの連鎖反応は、高線量よりも低線量でより強く持続的に行われるという発見をした。フリーラジカルは脂質とタンパク質の構造や機能を阻害し、老化の原因ともなり、フリーラジカル反応自体が複雑な反応である。

 

また、水溶液中の分子に比べ、乾燥した分子のほうが放射線に対する耐性があることは40年以上前に知られていた。(すなわち1950年以前)

 

さらにぺトカウによって、80年代、放射線被曝した体液のフリーラジカルは低線量でより活性化していると報告されている。

 

水は化学的に13種あり、フリーラジカルも5種類存在する。これらのフリーラジカルの毒性は低線量のときにより効率的に発揮される。

 

また、水や酸素、その他の化合物におけるフリーラジカルの働きは、放射線による直接の反応に比べ、ずっとゆっくりと反応が起こる。体の75%は水分であるため、フリーラジカルによる生体反応の影響は大きい。

 

酸素分子はそれ自身がフリーラジカルであり、酸素の増加は老人にも乳幼児にも有害である。(酸素療法を伴った乳幼児の水晶体広報繊維細胞形成、老人の肺線維症、肺気腫、実験動物のけいれん、甲状腺や副腎、延髄機能の亢進など)

 

PuckWaldrenは、低線量域における突然変異率は、それまで知られていたよりも200倍も高いことを確認した。

 

酸素が存在するところでの電離放射線は、DNAを含む高分子に対し、酸化ストレスによる損傷を与え、突然変異を起こし、染色体異常や発がんの原因となりえ、さらには細胞毒性を引き起こす。そのような細胞レベルでの退化が、痛みや倦怠感、不快感や老化の加速といった臨床における症状として表れている可能性がある。

 

細胞レベルの退化も、ガンの発生を独自にプロモートする。良性の腫瘍からガンへと刺激を与えてしまうのである。

 

BEIR Vにも、DNAの障害以外の生物学的な障害が重要である可能性がある、と記述されている。「DNAは致死に至る最も重要な障害のターゲットであるようにも思われるが、核膜やDNA複合膜なども、同様に重要な標的である。」

 

OER (酸素増感比)→この部分は、翻訳で抜けています!

酸素濃度が低いところでは、電離放射線の影響は阻害される。これが低酸素の腫瘍部への放射線療法でも足かせとなっている。酸素によって放射線への脆弱性が増す比率のことをOERと呼ぶ。

 

酸素フリーラジカル:

酸素フリーラジカルは、DNA、タンパク質、および脂質を酸化によって障害し、組織を傷つける。この現象が、虚血性心疾患、気腫、脳血管疾患、ガンの原因となる。

 

スーパーオキシドは、通常では虚血、感染、異物の侵入から生体を防御するもので、白血球中の好中球などでもつくられる。

 

スーパーオキシドは高線量被ばくによる、臨床的な不快感や倦怠感にもかなり寄与していると思われる。

 

スーパーオキシドの影響を軽減する、フリーラジカルのスカベンジャーとして最も効果があるとして研究されたのが、SODである。

 

細胞膜と伝達システム:

「細胞膜はそれ自体が、すべての生体構造の基本的な要素を備えている。また細胞構成ずつのうちの秩序正しい組織のためのマトリックスを提供している。すなわち、酵素、非触媒性の物質、脂質、タンパク質、そしてエネルギー伝達、遺伝情報、動き、排泄、神経伝達などのフレームワークも提供している。」代謝や伝達が多い膜はタンパク質を多く含む(ミトコンドリアの内膜など)一方、神経軸索のミエリン鞘の80%は脂肪で、こちらは絶縁体の機能くらいしかない(?)。膜構造への低線量放射線への脆弱性は、包括的に見直されている。(Petkau, 1986

 

免疫システム:

人は、酵素、ホルモン、細胞表面蛋白など一万種類ものタンパク質を製造する。また、1000万種類以上の抗体と呼ばれるタンパク質分子を利用することができる。

 

抗体自体が体細胞変異における標的である。

 

参考文献

Anderson R.EWarner, N.L

“Ionizing Radiation and the Immune Response” (1976

(放射線分子生物学にリンパ球、抗体、感染、細胞免疫反応、高感受性、移植、ガン、自己抗体疾患などの要素を入れたテキスト)

 

Maruyama, YFeola, J.M.1987)も参考になる。

 

その他の放射線起因のファクター:

 

有害な影響の増大

ある分子における放射能による阻害が、副次的に、継続的に他の分子の不安定性を引き起こす現象。

例:甲状腺における放射性ヨウ素のカスケード影響。放射性ヨウ素が採りヨードチロニンに入り、この内分泌物が体内に拡散し、遠隔の組織で放射性ヨウ素が沈着し、影響を及ぼす。

 

放射性物質からのエネルギーによる、生体内分子の原子核や構成している中性子や電子の阻害は劇的な結果をもたらすが、これと細胞自体のガン化への変異は、別物である。

 

高分子タンパク質は、酵素や代謝のプロセスに関与し、放射線によって分子的に障害を受けると、プロセスの全体の機能が微妙に損なわれ、正常な機能から逸脱したり、完全に機能が損なわれる可能性がある。

 

このような分子生物学的な影響を鑑みると、低線量放射線への被曝で臨床的に、識別できる症状が特定されないという事は驚くに値しない。

 

放射線への被曝が、二つ目の細胞においても、いわんや二人目の被験者においても再現不可能であるからである。

 

晩発性の細胞死:

 

被ばくした細胞死については、いまだ適切な研究がなされていない。ここでいう細胞死とは、複製の失敗を意味し、臨床的な意味ではまったく不十分である。このような基準の不十分さには以下の理由があげられる。

 

a. 中長期の細胞周期を持つ細胞は、被爆の後もしばらくの間は生きている細胞のように機能する。

 

b. 細胞内の小器官が放射能で阻害されても、第二の化学物質その他による補強がなければ、機能不全が顕著に現れない。

 

c. タンパク質の鋳型が放射線によって変異し、新たなタンパク質の形成に影響を与える。

 

d. 被ばくした細胞集団の死は、さまざまな程度で遅れて現れ、その間、臨床的に確定できない。ただし、その間、特定できない不快感や衰弱として、何年にもわたり現れる可能性がある。

 

このような中間期における死は、より直近の死であり、壊変の表れ(組織的に顕在する核濃縮、ネクローシス、萎縮)であり、これらはリンパ球に、最も顕著に表れる。

 

細胞のタイプによって特定の細胞周期や複製率がある。

 

a.     細胞周期が早いものほど、ガンを含む、放射線被曝後の異常再生のイニシエーションやプロモーションに脆弱である。これが個体においては、より若い年齢の者、胎児や胎芽のより頻繁で早期のガン化へのつながり、細胞レベルでは血液や腸管、骨髄細胞のより高いガンの発生へとつながっている。

b.     一般的に、細胞の機能が特異的なものであればあるほど、その再生が阻害される。具体例としては中枢神経システムのニューロンが挙げられる。

c.      細胞の特異的な機能が放射線により減衰した場合、その細胞は、急速に再生するようになり、より原始的な状態に退行する傾向がある。

d.     このような考察は、放射線によるガンの発生は、ある意味非特異的な病理生理学的な生物反応であり、放射線に特化しているものだとか、被ばくしたDNAのかく乱に特化したものでもない。

e.      重要なのは、細胞は、その他の物理的、化学的、生物的要因に脆弱であり、生体内では生体外よりも要因が多岐にわたるため、様々な種類の反応と、同時に細胞内小器官の様々な異変が、複合的に起こりうる。

 

細胞周期の長い、皮膚、神経筋、心臓血管、肝臓、内分泌腺、肺、筋肉線維組織などの細胞は、被ばくした後、長期を経てから臨床的な症状が現れ、それまでは一見機能しているように見える。細胞の異変は、後発的に、拡散的に、時間的にも長期化して現れる。(ぶらぶら病やチェルノブイリ症候群など)