社説

レーダー照射/挑発の先にある不毛を知れ

 沖縄県の尖閣諸島周辺の公海上で先月、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用レーダーを照射していたことが明らかになった。
 戦時ならば、銃撃の応酬につながってもおかしくない危険な挑発だ。小野寺五典防衛相が述べた通り「極めて特異な事例」であり、「一歩間違うと大変な事態に発展する」行為と言わざるを得ない。
 安倍晋三首相は「挑発に乗ってはいけない」と、冷静な対応を続ける姿勢を表明。中国側に厳重に抗議するとともに、強く自制を求めた。当然の主張だ。
 偶発的な衝突が、取り返しのつかない事態を招くことは両国政府の共通認識のはずだ。中国外務省はきのう「報道で知った」と軍の単独行動を示唆したが、中国はこれ以上、挑発がエスカレートしないよう内部統制を徹底すべきだ。
 尖閣諸島について、日本は「領土問題は存在しない」との立場を貫いている。中国側は反発しているが、現在の日中間には全面的な戦闘状態に陥るほどの利害対立は存在していない。
 仮に中国が尖閣領有を主張するとしても、正当性を外交的に積み上げていくことが常道だ。海軍力を背景にした「実力の誇示」はそれ自体が不当であり、未来志向の互恵関係という二国間の原則を大きく逸脱する。
 たとえ偶発的であっても、衝突は日中のみならず世界的な安定を大きく損なう。
 米国が領土問題について静観を貫く一方で、「尖閣は日米安保条約の適用範囲」との立場を明確にしていることについて、中国側は不快感を示す。
 中国は南シナ海でフィリピンやベトナムと対立した際にも、米国の関与を批判しているが、国力増強によって「二国間の争いなら、無理を押し通す自信がある」といわんばかりの横暴な世界観が見え隠れする。
 自らの「核心的利益」のために、他国の権益を踏みにじることは許されない。二度にわたる世界戦争の末に、国際社会が導き出したルールだ。植民地支配を受けた歴史があるからといって、免罪されることではない。
 中国外務省が状況を把握していないというのは事実だろう。挑発が中国政府や軍の総意と決めつけることはできまい。
 党機関紙系の「環球時報」に最近、「戦争よりも富裕や富強の機会獲得を」とする論文と、「日米などの周辺連携策に対抗しよう」とする論文が相次いで掲載された。
 共に解放軍幹部の寄稿であるが、日米やアジア諸国への姿勢は百八十度異なる。習近平氏への体制移行を前に、肥大化した中国統治機構内部の権力闘争が続いている可能性は高い。
 偶発的衝突は中国側にもマイナスだ。一方であくまで力ずくで海洋権益の拡大を図る勢力の存在もまた、事実なのだろう。
 習体制は、来月の全人代で正式に発足する。政権移行期の意見対立が周辺国への危険な挑発として噴出するのならば、問われるのは中国の統治能力だ。

2013年02月07日木曜日

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