国際激流と日本

探知されずに列車から長距離ミサイルを発射、
米国が懸念する中国の核戦力強化

upperline
previous page
2
nextpage

 すでに周知の事実ではあるが、中国は核拡散防止条約(NPT)で公認された核兵器保有国5カ国のうち、唯一の完全秘密体制の国家である。核ミサイルや核弾頭の数をすべて秘密にしたままなのだ。米国やロシアはその種の情報の大部分を公開している。中国はしかも5カ国のうちでただ一国、核戦力をいまも増強しているのだ。そんな中国の実態も、中国の核戦力全体が米国やロシアに比べれば小さいということで不問に付されるという状況が続いてきた。

 ところがこの数年、中国は核戦力の増強に増強を重ね、米国に脅威を与えるところまで進みそうな構えを見せてきたのだ。そうした流れの中でのICBM列車搭載という、外部の目をあざむく野心的な作戦を本格的に始めるというのだから、米国としても警戒をさらに強めざるを得ないのだろう。

 中国はこれまでも核ミサイルや核弾頭を継続的に列車に載せて、秘匿や防御を図る手法を一部で取ってきた。米国もその動きをよく知って、ときおり報告や警告を発してきた。中国のそのへんの特殊な核戦略については、私もこの連載コラムで取り上げたほか、自著の『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)でも詳述してきた。しかし今回のリグネットの報告は、中国軍が長距離核ミサイルの列車搭載プログラムをさらに体系的かつ大規模に始めるという趣旨なのである。

核ミサイルを隠蔽するのは先制攻撃のため?

 リグネットの指摘でさらに懸念されるのは、中国の「核先制不使用」という方針の空洞化の可能性である。中国は長年、戦争が起きても自国が核兵器を先に使うことはないと宣言してきた。自国が通常兵器で攻撃を受け、苦戦になっても、相手が非核である限り、自国が率先して核兵器を使用することはない、というのが「核先制不使用」宣言である。敵が実際に核攻撃をかけてきたときにしか、核兵器は使わないというのだ。

 しかしリグネットの報告によれば、中国は今回、伝えられた列車利用の核ミサイル隠蔽により、核攻撃能力を秘密にして、実際にいつでも核ミサイルが発射できる能力を温存しておくという戦略意図を明らかにした。

 報復のためだけの核戦力ならば、その存在を誇示することで抑止効果が高まるという側面が大きい。だから逆に核戦力を最大限、秘密にしようというのは、先制の攻撃をも考えているからではないか、という疑惑を強めることになるわけである。

previous page
2
nextpage
PR

underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

当社は、2010年1月に日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)より、個人情報について適切な取り扱いがおこなわれている企業に与えられる「プライバシーマーク」を取得いたしました。

プライバシーマーク