余録:「何より大きな危険は誤算だ」。世界を核戦争の…
毎日新聞 2013年02月07日 00時13分
「何より大きな危険は誤算だ」。世界を核戦争の縁に立たせたキューバ危機のさなか、ケネディ米大統領は側近にこう言って、バーバラ・タックマンの著書「八月の砲声」に記された第一次世界大戦勃発(ぼっぱつ)の経緯について語って聞かせた▲大戦の開戦当時「なぜ、こんなことに」と嘆いたのは他ならないドイツの首相だった。国家間の相互依存の進んだ欧州では二度と戦争は起こらないといわれた戦前である。だが、どの大国の指導層も望んでいなかった戦争は起こり、900万人が戦死することになる▲タックマンの著書は、政治家らの誤算の累積により各国の軍の戦争計画が連鎖的に発動した経緯を記している。ケネディがこの書を米国の軍人らに必読書として推奨したのは、誤算の連鎖反応が招く危機のエスカレーションの恐ろしさを認識させたかったからだろう▲さてこちらは誰がどんな計算の上で行った挑発なのか。東シナ海で日本の護衛艦に中国海軍の艦船が火器管制レーダーの照射を行っていたという例の事件である。事あれかしといわんばかりの行動からうかがえるのは軍事的緊張に日本を引きずり込もうという底意だ▲それが日中の相互依存関係の破壊もいとわないという上級指導部の意図なら論外だが、一部の軍人の暴走だとしてもこれまた危険極まりない軍の無統制を意味する。ここは日本が冷静に緊張のエスカレート封じに手立てを尽くすことが国際社会の共感を得る道だろう▲ケネディはキューバ危機の後にソ連との間でホットライン設置など偶発戦争防止措置を取った。歴史に多くの知恵を学ばねばならない東シナ海の風雲である。