海上自衛隊の護衛艦が中国海軍のフリゲート艦から火器管制レーダーを照射された問題は、海洋進出に力を入れる中国と、それに対抗する日米の艦船・航空機がにらみ合う東シナ海の緊迫状況を国際社会に印象づけた。こうした軍事情報を公表した安倍政権の異例の対応には、軍事的衝突の回避を求める国際世論を味方に付け、中国側に挑発行動の自制を促す狙いがあるとみられる。日本側は不測の事態を避ける枠組み作りも呼びかけながら、中国側の出方を注視する構えだ。
◇中国が挑発、東シナ海緊張
東シナ海では、昨年9月の日本政府による尖閣諸島(沖縄県)の国有化前後から自衛隊と中国軍のにらみ合いが常態化。米軍も昨秋、二つの空母部隊を西太平洋に展開していると発表し、日米が連携して中国をけん制する対立構図になっている。1月19日(日本時間)には米国のクリントン国務長官(当時)が尖閣について「日本の施政権を侵すあらゆる一方的な行動に反対する」と発言し、その後、中国海軍による海自護衛艦・ヘリへのレーダー照射が相次いだ。
中国側から太平洋を望めば、東シナ海は海洋進出の「出口」にあたり、沖縄を含む日本列島は「ふた」となる。中国は日本列島から台湾、インドネシアを結ぶ「第1列島線」までの制海・制空権を確保し、それを伊豆諸島からグアムなどを結ぶ「第2列島線」まで押し広げることによって、太平洋の覇権を米国と争う姿勢を鮮明にしている。尖閣領有権の主張は海洋資源目当てとの見方は薄れ、安田淳・慶応大法学部教授(安全保障)は「通商上・軍事上のより大きな狙いがある」とみる。
それだけに、不測の軍事衝突を避けるため日中双方が自衛隊・海軍を尖閣に近づかせない対応をとってきた。今回のレーダー照射が起きたのも、尖閣から100キロ以上北側の海域だったとされる。ただ、「艦と艦の間の3キロという距離は、人が1・5メートルぐらいの距離で刃物を向けられたようなもの」(自衛隊幹部)であり、日本政府は中国側の意図をつかみかねている。
レーダー照射の一報が首相官邸に入った時期をめぐる政府の説明は揺れた。当初は護衛艦への照射があった1月30日とされたが、6日になって、ヘリへの照射が疑われた1月19日に修正。与党関係者によると、小野寺五典防衛相が1回目の照射段階で公表を主張したが、ヘリのレーダー感知装置は電波のデータを保存できないことから、護衛艦への照射データを1週間かけて慎重に分析したという。
政府関係者は「尖閣国有化前後にも周辺海域でレーダーの照射はあったが、当時の野田政権は公表しなかった」と語り、民主党政権との違いを強調する。
◇中国外務省「報道で知った」
オバマ米政権は5日、国務省のヌーランド報道官がレーダー照射に強い「懸念」を表明し、日本政府と足並みをそろえた。中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)副報道局長は6日の定例会見で「具体的な状況は把握しておらず、担当部門に聞いてほしい。われわれも報道で初めて知った」と述べるにとどめた。安倍政権の仕掛けた「情報戦」。中国側も国際世論を見極めつつ、対抗策を検討するとみられる。【青木純、鈴木泰広、北京・工藤哲、ワシントン白戸圭一】
2013年02月07日 01時08分